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一目ぼれ
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「ベンネル王子は、幼いころからの婚約者であるメーレ様を愛していました。この間は王都に遊びに行っただとか、学園に入ったらずっと一緒にいたいんだ、とか様々な話を昔聞いたことがあります。そんなベンネル王子がアカリ様に出会ったとたん彼女しか目に入らなくなりました。話しかけようとするメーレ様のことを振り向きもせずに・・・」
私はここで初めて、ブレイグ様がベンネル第一王子の側近のような立場であることを知りました。そろって皆さんアカリ様の取り巻きとしての繋がりだと思っていたので。そして昔メーレ様が言っていたことを思い出します。ベンネル第一王子は昔はメーレ様以外の女性とは適切な距離感をもって接する人だったと、あんなふうに女性に接する人ではなかったと。
「そしてアカリ様もベンネル王子に一目ぼれをしたようです。異世界の彼女が住んでいた場所は王政ではなかったようで、身分の差、立場の差などは気にせず、アカリ様はベンネル王子の恋人となりました」
でも、それだけでは終わらなかったのです。
「どうしてそうなったのかは彼女にしかわかりません。アカリ様はベンネル王子の周囲の人間にも声をかけるようになりました。私含め、レーブ公爵令息やカル辺境伯令息など。ミアも見ていたでしょう。私たちが彼女の取り巻きとしてそばにいるのを。あの時私たちには王命が下されていました。彼女の望むままにするようにと。アカリ様の聖女としての力は封じられてもなおアイリス様をはるか凌ぎ、これまでの聖女の数倍の力を誇っていたようです。彼女がこの国のために力を振るうように、彼女の力が万が一にも暴走することのないように。・・・これを知っていたのはアカリ様の取り巻きとなった男とその家族です。婚約者には伝えないようにと言われました」
「・・・なぜ、そのように。もし王命であると、あなた方の意思ではないのだと、言ってくれたなら」
少なくともシャガート様やブラーナ様は救われたはずです。
ブレイグ様は疲れたようにうなだれて首を横に振ります。
「まず、第一に彼女の強大な力が王国よりも外に知られないようにすること。そのために彼女の能力の規模を知る人間を最小限に抑えたかったと。彼女の能力はあなた方が思っていたよりもずっと強力でした。本当の能力の規模を知られたときに起こる国の混乱や、周辺国に聖女を狙われないようにすることが王家の狙いであるとされています。
・・・でも、私が思うに、それは全く正しいということでもないと思うのです。婚約者たちに隠された理由は、おそらくですが、それをアカリ様が喜ばれたからだと思うのです」
「・・・自分の婚約者が聖女の取り巻きをしていることに令嬢たちが傷つくことを、喜んだと?」
「・・・一番初めにベンネル王子とアカリ様が寄り添っているのをメーレ様が見られた時に、メーレ様は落ち着いてお二人に対し注意をされたといいます。でもその激情が隠しきれてはいなかったと。目は揺れ手を握りしめた、メーレ様の嫉妬を隠し切れない表情に、アカリ様は笑ったと。その場に居合わせたものが証言しています」
「学園でも同じです。アカリ様のそばにいる婚約者を見た時にこらえきれないように俯いたり、怒りを抑えきれないように自分のことを見つめる令嬢たちを見て、アカリ様は喜んでいたと、隠し切れないように笑みがこぼれていたと何人かから聞きました」
そして、だからこそミアはアカリ様の親しい人間として選ばれたのだと。
「え?」
「ミアは私がアカリ様とどれだけ親密な様子を見せても、全く嫉妬をしなかったでしょう?自分は家とのつながりがあればいいと、アカリ様とブレイグ様の恋を応援すると言ったと、昔アカリ様から聞きました。自分に嫉妬をする、抑えきれない激情を好んでいたようなアカリ様にとってミアのその感情は気に入らないものだったのだと思います。ある時からアカリ様はベンネル王子よりも、私と親密にふるまうようになっていました。まるでミアに見せつけようとするかのように。ミアにもなんとなくわかるのではないですか?」
確かに、ある時からブレイグ様とアカリ様は親密な様子を見せていたと思います。確かに、その様子を私は何度も目撃していました。アカリ様は私にブレイグ様とのことを嫉妬させたかったのでしょうか。私に、激情を燃やし、彼女を睨みつけてほしかったのでしょうか。
「まぁ、彼女の思惑通りにミアが嫉妬をする、ということはなかったのですが」
少しだけおどけるようにブレイグ様が笑いまた表情を真剣なものに戻します。
「ベンネル王子はその間ずっとアカリ様の関心を自分に戻そうと何度も努力されていました。私に対抗の視線を向けてきたことも何度もあります。でも、それ自体、ベンネル王子のアカリ様への恋心も私はおかしなことだと思うのです」
一目ぼれというものはあるでしょう。でもそれは長年の婚約者への、愛していた人への関心をことごとく拭い去ってしまうものでしょうか。
「聖女というものは、空を晴らし、地を満たし、そして人を癒すものです。アカリ様の力は、その能力の半分を封印された今でさえ、傷ついた人の心にさえ干渉し癒すことが出来たのです。ベンネル王子とアカリ様が出会ったのは、アカリ様の能力が封印される、その少し前です。人の心に干渉できる聖女の能力がアカリ様の一目ぼれによって暴走し、ベンネル王子の心さえも変えてしまったとしてもおかしくはないのではないかと、私は思います」
まぁ、全て私の推測に過ぎないのですが、とベンネル様はゆるゆると首を振り続けます。
私はここで初めて、ブレイグ様がベンネル第一王子の側近のような立場であることを知りました。そろって皆さんアカリ様の取り巻きとしての繋がりだと思っていたので。そして昔メーレ様が言っていたことを思い出します。ベンネル第一王子は昔はメーレ様以外の女性とは適切な距離感をもって接する人だったと、あんなふうに女性に接する人ではなかったと。
「そしてアカリ様もベンネル王子に一目ぼれをしたようです。異世界の彼女が住んでいた場所は王政ではなかったようで、身分の差、立場の差などは気にせず、アカリ様はベンネル王子の恋人となりました」
でも、それだけでは終わらなかったのです。
「どうしてそうなったのかは彼女にしかわかりません。アカリ様はベンネル王子の周囲の人間にも声をかけるようになりました。私含め、レーブ公爵令息やカル辺境伯令息など。ミアも見ていたでしょう。私たちが彼女の取り巻きとしてそばにいるのを。あの時私たちには王命が下されていました。彼女の望むままにするようにと。アカリ様の聖女としての力は封じられてもなおアイリス様をはるか凌ぎ、これまでの聖女の数倍の力を誇っていたようです。彼女がこの国のために力を振るうように、彼女の力が万が一にも暴走することのないように。・・・これを知っていたのはアカリ様の取り巻きとなった男とその家族です。婚約者には伝えないようにと言われました」
「・・・なぜ、そのように。もし王命であると、あなた方の意思ではないのだと、言ってくれたなら」
少なくともシャガート様やブラーナ様は救われたはずです。
ブレイグ様は疲れたようにうなだれて首を横に振ります。
「まず、第一に彼女の強大な力が王国よりも外に知られないようにすること。そのために彼女の能力の規模を知る人間を最小限に抑えたかったと。彼女の能力はあなた方が思っていたよりもずっと強力でした。本当の能力の規模を知られたときに起こる国の混乱や、周辺国に聖女を狙われないようにすることが王家の狙いであるとされています。
・・・でも、私が思うに、それは全く正しいということでもないと思うのです。婚約者たちに隠された理由は、おそらくですが、それをアカリ様が喜ばれたからだと思うのです」
「・・・自分の婚約者が聖女の取り巻きをしていることに令嬢たちが傷つくことを、喜んだと?」
「・・・一番初めにベンネル王子とアカリ様が寄り添っているのをメーレ様が見られた時に、メーレ様は落ち着いてお二人に対し注意をされたといいます。でもその激情が隠しきれてはいなかったと。目は揺れ手を握りしめた、メーレ様の嫉妬を隠し切れない表情に、アカリ様は笑ったと。その場に居合わせたものが証言しています」
「学園でも同じです。アカリ様のそばにいる婚約者を見た時にこらえきれないように俯いたり、怒りを抑えきれないように自分のことを見つめる令嬢たちを見て、アカリ様は喜んでいたと、隠し切れないように笑みがこぼれていたと何人かから聞きました」
そして、だからこそミアはアカリ様の親しい人間として選ばれたのだと。
「え?」
「ミアは私がアカリ様とどれだけ親密な様子を見せても、全く嫉妬をしなかったでしょう?自分は家とのつながりがあればいいと、アカリ様とブレイグ様の恋を応援すると言ったと、昔アカリ様から聞きました。自分に嫉妬をする、抑えきれない激情を好んでいたようなアカリ様にとってミアのその感情は気に入らないものだったのだと思います。ある時からアカリ様はベンネル王子よりも、私と親密にふるまうようになっていました。まるでミアに見せつけようとするかのように。ミアにもなんとなくわかるのではないですか?」
確かに、ある時からブレイグ様とアカリ様は親密な様子を見せていたと思います。確かに、その様子を私は何度も目撃していました。アカリ様は私にブレイグ様とのことを嫉妬させたかったのでしょうか。私に、激情を燃やし、彼女を睨みつけてほしかったのでしょうか。
「まぁ、彼女の思惑通りにミアが嫉妬をする、ということはなかったのですが」
少しだけおどけるようにブレイグ様が笑いまた表情を真剣なものに戻します。
「ベンネル王子はその間ずっとアカリ様の関心を自分に戻そうと何度も努力されていました。私に対抗の視線を向けてきたことも何度もあります。でも、それ自体、ベンネル王子のアカリ様への恋心も私はおかしなことだと思うのです」
一目ぼれというものはあるでしょう。でもそれは長年の婚約者への、愛していた人への関心をことごとく拭い去ってしまうものでしょうか。
「聖女というものは、空を晴らし、地を満たし、そして人を癒すものです。アカリ様の力は、その能力の半分を封印された今でさえ、傷ついた人の心にさえ干渉し癒すことが出来たのです。ベンネル王子とアカリ様が出会ったのは、アカリ様の能力が封印される、その少し前です。人の心に干渉できる聖女の能力がアカリ様の一目ぼれによって暴走し、ベンネル王子の心さえも変えてしまったとしてもおかしくはないのではないかと、私は思います」
まぁ、全て私の推測に過ぎないのですが、とベンネル様はゆるゆると首を振り続けます。
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