聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。

しぎ

文字の大きさ
上 下
21 / 53

卒業

しおりを挟む
学園の鐘ががらんがらんと鳴り、私たちの門出を祝福します。
聖女のお茶会から数年がたち、私たちの学園卒業の日がやってきました。
卒業式が始まるまでの間、友人たちと卒業を喜び、別れを惜しみながら私は横目でアカリ様たちを眺めていました。
あのお茶会の日以来、アカリ様が私に近寄ってくることはなく、それに従って彼女の取り巻きの方たちや、ブレイグ様との交流も全くありませんでした。私の誕生日のたびに毛糸玉とカードが贈られてきたので、お礼の手紙などを送ったぐらいです。
学園卒業後、一番早く結婚するのはメーレ様です。その次に、私、シャガート様、ブラーナ様の順で行われる予定です。三人は王都で結婚式を行うのですが、辺境伯領に嫁ぐブラーナ様は辺境伯領で結婚式を行うので、その時には辺境伯領に伺う予定です。全員結婚のための準備で忙しくなるので、次に会うのはメーレ様の結婚式になります。三人もアカリ様たちの方を見ては、将来が不安なのかため息をついていますが、とにかく今日は卒業というめでたい日なのです。卒業式が終わったら昼食は4人でとる予定にしています。
「ミア、あそこにすごい人が来てるわ」
そっとシャガート様が私をつついて教えてくれます。シャガート様が顔を向けたほうを見ると、少し離れたところに30代ほどの上品な夫人が立っています。
「先代の聖女様よ。名前はアイリス様。もう能力は失われたらしいけど、聖女の研究に協力されているんですって」
ピンクブロンドに赤い瞳をしたアイリス様は、微笑みながら卒業生たちを見守っています。その瞳が不意にアカリ様を映しました。私たちの婚約者と、ほかにも数人の男性に囲まれたアカリ様は今日も楽しげに笑っています。
す、とアイリス様がアカリ様の方に歩きだしました。自然とアイリス様の通る道が開けられていきます。
「今代の聖女様、ご卒業おめでとうございます。これからもお力を発揮していただけるよう、先代聖女として祈っております」
深々と頭を下げたアイリス様におろおろと慌てたアカリ様はこちらも頭を下げてからにっこりと微笑みました。
「先代の聖女様、ありがとうございます。私、これからも頑張ります!たくさんの人を助けます!」
アイリス様はアカリ様に微笑み返し、ポケットから何か小箱を取り出しました。
「聖女様への贈り物です。どうか受け取ってほしいわ」
中身は無色透明な宝石のついたネックレスでした。複雑なカットをされた石のついたそれはとても高価に見えました。アカリ様は嬉しそうにアイリス様からの贈り物を受け取ります。そしてそれをアカリ様はベンネル第一王子に手渡しました。
「ベンネルに付けてほしいな」
アカリ様に微笑み返しベンネル第一王子がアカリ様の後ろに回ります。王子と聖女の微笑みあう光景になんとなく周囲が見つめてしまいます。
留め具を外したネックレスがアカリ様の首に回され、留められたネックレスを見下ろしたアカリ様がベンネル第一王子の顔を見て微笑みます。
「きれいなネックレスだね」
笑顔だったアカリ様の顔が急に歪みました。
「な、なにこれ、このネックレス・・・力が・・・」
ネックレスの石をつかんだアカリ様が崩れ落ちます。アカリ様の名前を必死に呼びながらベンネル第一王子がアカリ様の体をゆすります。その傍らでほかの男性たちが数歩進み、アイリス様に向け頭を下げました。顔をあげた彼らは少し悲しげな顔をしています。アイリス様はアカリ様のことを見つめ、学園の教員に保健室に連れていくように言いました。
私たちは起こった出来事をただ見ていることしかできませんでした。周囲の生徒たちも何が起こったのかとただ呆然としていることしかできません。アカリ様はどうしたのでしょう。教員に抱えられ保健室に向かうアカリ様にベンネル第一王子がしがみつき。その後ろをアイリス様が凛と背筋を伸ばしてついていきます。そのさらに後ろをアカリ様の取り巻きの方々がついていきます。
「レーブ様」
思わず口に出たというようにシャガート様が呼びます。ふいにこちらを見つめたレーブ侯爵令息が足を止め、シャガート様を真剣な瞳で見つめます。
「どうか少しだけ待っていてほしい。もう少しで君に全部話せるんだ」
そして視線を前に向けたレーブ侯爵令息はアカリ様たちの後を追っていきました。
その時、私は確かに見たのです。保健室に運ばれるアカリ様の、首から下げられたネックレス。運ばれる最中に手から外れぶらりと揺れたそれが、無色透明だったはずの石が、確かにピンク色に光っているのを見たのです。
「これから卒業式をはじめます。聖女様が出席できないことは残念ですが、今ここで話せることは私たちにはありません。卒業生の方々は速やかに講堂に向かってください」
冷静な学園長の声が響き、一つも、何も納得が出来ないまま、卒業式が始まったのでした。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

姉妹同然に育った幼馴染に裏切られて悪役令嬢にされた私、地方領主の嫁からやり直します

しろいるか
恋愛
第一王子との婚約が決まり、王室で暮らしていた私。でも、幼馴染で姉妹同然に育ってきた使用人に裏切られ、私は王子から婚約解消を叩きつけられ、王室からも追い出されてしまった。 失意のうち、私は遠い縁戚の地方領主に引き取られる。 そこで知らされたのは、裏切った使用人についての真実だった……! 悪役令嬢にされた少女が挑む、やり直しストーリー。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

処理中です...