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卒業
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学園の鐘ががらんがらんと鳴り、私たちの門出を祝福します。
聖女のお茶会から数年がたち、私たちの学園卒業の日がやってきました。
卒業式が始まるまでの間、友人たちと卒業を喜び、別れを惜しみながら私は横目でアカリ様たちを眺めていました。
あのお茶会の日以来、アカリ様が私に近寄ってくることはなく、それに従って彼女の取り巻きの方たちや、ブレイグ様との交流も全くありませんでした。私の誕生日のたびに毛糸玉とカードが贈られてきたので、お礼の手紙などを送ったぐらいです。
学園卒業後、一番早く結婚するのはメーレ様です。その次に、私、シャガート様、ブラーナ様の順で行われる予定です。三人は王都で結婚式を行うのですが、辺境伯領に嫁ぐブラーナ様は辺境伯領で結婚式を行うので、その時には辺境伯領に伺う予定です。全員結婚のための準備で忙しくなるので、次に会うのはメーレ様の結婚式になります。三人もアカリ様たちの方を見ては、将来が不安なのかため息をついていますが、とにかく今日は卒業というめでたい日なのです。卒業式が終わったら昼食は4人でとる予定にしています。
「ミア、あそこにすごい人が来てるわ」
そっとシャガート様が私をつついて教えてくれます。シャガート様が顔を向けたほうを見ると、少し離れたところに30代ほどの上品な夫人が立っています。
「先代の聖女様よ。名前はアイリス様。もう能力は失われたらしいけど、聖女の研究に協力されているんですって」
ピンクブロンドに赤い瞳をしたアイリス様は、微笑みながら卒業生たちを見守っています。その瞳が不意にアカリ様を映しました。私たちの婚約者と、ほかにも数人の男性に囲まれたアカリ様は今日も楽しげに笑っています。
す、とアイリス様がアカリ様の方に歩きだしました。自然とアイリス様の通る道が開けられていきます。
「今代の聖女様、ご卒業おめでとうございます。これからもお力を発揮していただけるよう、先代聖女として祈っております」
深々と頭を下げたアイリス様におろおろと慌てたアカリ様はこちらも頭を下げてからにっこりと微笑みました。
「先代の聖女様、ありがとうございます。私、これからも頑張ります!たくさんの人を助けます!」
アイリス様はアカリ様に微笑み返し、ポケットから何か小箱を取り出しました。
「聖女様への贈り物です。どうか受け取ってほしいわ」
中身は無色透明な宝石のついたネックレスでした。複雑なカットをされた石のついたそれはとても高価に見えました。アカリ様は嬉しそうにアイリス様からの贈り物を受け取ります。そしてそれをアカリ様はベンネル第一王子に手渡しました。
「ベンネルに付けてほしいな」
アカリ様に微笑み返しベンネル第一王子がアカリ様の後ろに回ります。王子と聖女の微笑みあう光景になんとなく周囲が見つめてしまいます。
留め具を外したネックレスがアカリ様の首に回され、留められたネックレスを見下ろしたアカリ様がベンネル第一王子の顔を見て微笑みます。
「きれいなネックレスだね」
笑顔だったアカリ様の顔が急に歪みました。
「な、なにこれ、このネックレス・・・力が・・・」
ネックレスの石をつかんだアカリ様が崩れ落ちます。アカリ様の名前を必死に呼びながらベンネル第一王子がアカリ様の体をゆすります。その傍らでほかの男性たちが数歩進み、アイリス様に向け頭を下げました。顔をあげた彼らは少し悲しげな顔をしています。アイリス様はアカリ様のことを見つめ、学園の教員に保健室に連れていくように言いました。
私たちは起こった出来事をただ見ていることしかできませんでした。周囲の生徒たちも何が起こったのかとただ呆然としていることしかできません。アカリ様はどうしたのでしょう。教員に抱えられ保健室に向かうアカリ様にベンネル第一王子がしがみつき。その後ろをアイリス様が凛と背筋を伸ばしてついていきます。そのさらに後ろをアカリ様の取り巻きの方々がついていきます。
「レーブ様」
思わず口に出たというようにシャガート様が呼びます。ふいにこちらを見つめたレーブ侯爵令息が足を止め、シャガート様を真剣な瞳で見つめます。
「どうか少しだけ待っていてほしい。もう少しで君に全部話せるんだ」
そして視線を前に向けたレーブ侯爵令息はアカリ様たちの後を追っていきました。
その時、私は確かに見たのです。保健室に運ばれるアカリ様の、首から下げられたネックレス。運ばれる最中に手から外れぶらりと揺れたそれが、無色透明だったはずの石が、確かにピンク色に光っているのを見たのです。
「これから卒業式をはじめます。聖女様が出席できないことは残念ですが、今ここで話せることは私たちにはありません。卒業生の方々は速やかに講堂に向かってください」
冷静な学園長の声が響き、一つも、何も納得が出来ないまま、卒業式が始まったのでした。
聖女のお茶会から数年がたち、私たちの学園卒業の日がやってきました。
卒業式が始まるまでの間、友人たちと卒業を喜び、別れを惜しみながら私は横目でアカリ様たちを眺めていました。
あのお茶会の日以来、アカリ様が私に近寄ってくることはなく、それに従って彼女の取り巻きの方たちや、ブレイグ様との交流も全くありませんでした。私の誕生日のたびに毛糸玉とカードが贈られてきたので、お礼の手紙などを送ったぐらいです。
学園卒業後、一番早く結婚するのはメーレ様です。その次に、私、シャガート様、ブラーナ様の順で行われる予定です。三人は王都で結婚式を行うのですが、辺境伯領に嫁ぐブラーナ様は辺境伯領で結婚式を行うので、その時には辺境伯領に伺う予定です。全員結婚のための準備で忙しくなるので、次に会うのはメーレ様の結婚式になります。三人もアカリ様たちの方を見ては、将来が不安なのかため息をついていますが、とにかく今日は卒業というめでたい日なのです。卒業式が終わったら昼食は4人でとる予定にしています。
「ミア、あそこにすごい人が来てるわ」
そっとシャガート様が私をつついて教えてくれます。シャガート様が顔を向けたほうを見ると、少し離れたところに30代ほどの上品な夫人が立っています。
「先代の聖女様よ。名前はアイリス様。もう能力は失われたらしいけど、聖女の研究に協力されているんですって」
ピンクブロンドに赤い瞳をしたアイリス様は、微笑みながら卒業生たちを見守っています。その瞳が不意にアカリ様を映しました。私たちの婚約者と、ほかにも数人の男性に囲まれたアカリ様は今日も楽しげに笑っています。
す、とアイリス様がアカリ様の方に歩きだしました。自然とアイリス様の通る道が開けられていきます。
「今代の聖女様、ご卒業おめでとうございます。これからもお力を発揮していただけるよう、先代聖女として祈っております」
深々と頭を下げたアイリス様におろおろと慌てたアカリ様はこちらも頭を下げてからにっこりと微笑みました。
「先代の聖女様、ありがとうございます。私、これからも頑張ります!たくさんの人を助けます!」
アイリス様はアカリ様に微笑み返し、ポケットから何か小箱を取り出しました。
「聖女様への贈り物です。どうか受け取ってほしいわ」
中身は無色透明な宝石のついたネックレスでした。複雑なカットをされた石のついたそれはとても高価に見えました。アカリ様は嬉しそうにアイリス様からの贈り物を受け取ります。そしてそれをアカリ様はベンネル第一王子に手渡しました。
「ベンネルに付けてほしいな」
アカリ様に微笑み返しベンネル第一王子がアカリ様の後ろに回ります。王子と聖女の微笑みあう光景になんとなく周囲が見つめてしまいます。
留め具を外したネックレスがアカリ様の首に回され、留められたネックレスを見下ろしたアカリ様がベンネル第一王子の顔を見て微笑みます。
「きれいなネックレスだね」
笑顔だったアカリ様の顔が急に歪みました。
「な、なにこれ、このネックレス・・・力が・・・」
ネックレスの石をつかんだアカリ様が崩れ落ちます。アカリ様の名前を必死に呼びながらベンネル第一王子がアカリ様の体をゆすります。その傍らでほかの男性たちが数歩進み、アイリス様に向け頭を下げました。顔をあげた彼らは少し悲しげな顔をしています。アイリス様はアカリ様のことを見つめ、学園の教員に保健室に連れていくように言いました。
私たちは起こった出来事をただ見ていることしかできませんでした。周囲の生徒たちも何が起こったのかとただ呆然としていることしかできません。アカリ様はどうしたのでしょう。教員に抱えられ保健室に向かうアカリ様にベンネル第一王子がしがみつき。その後ろをアイリス様が凛と背筋を伸ばしてついていきます。そのさらに後ろをアカリ様の取り巻きの方々がついていきます。
「レーブ様」
思わず口に出たというようにシャガート様が呼びます。ふいにこちらを見つめたレーブ侯爵令息が足を止め、シャガート様を真剣な瞳で見つめます。
「どうか少しだけ待っていてほしい。もう少しで君に全部話せるんだ」
そして視線を前に向けたレーブ侯爵令息はアカリ様たちの後を追っていきました。
その時、私は確かに見たのです。保健室に運ばれるアカリ様の、首から下げられたネックレス。運ばれる最中に手から外れぶらりと揺れたそれが、無色透明だったはずの石が、確かにピンク色に光っているのを見たのです。
「これから卒業式をはじめます。聖女様が出席できないことは残念ですが、今ここで話せることは私たちにはありません。卒業生の方々は速やかに講堂に向かってください」
冷静な学園長の声が響き、一つも、何も納得が出来ないまま、卒業式が始まったのでした。
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