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落とし物
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「キャア!」
離れたテーブルで突然叫び声が上がりました。子供たちが座っている方のテーブルです。何事かとそちらの方を見ると、少女が一人テーブルから離れうずくまっていました。母親であろう女性が急いで駆け寄ります。
「どうして走ったりするのです!お行儀良くしないと・・・」
「ご、ごめんなさいお母さま。猫がいたの。近くで見たくて・・・」
「もう、足に怪我をしてしまっているじゃないの。すぐに帰らなくちゃ」
「はぁい」
半泣きでうなだれる少女をそっとお母さんが立たせパーティ会場から出て行こうとします。
そのそばにアカリ様が駆け寄りました。
「大丈夫!私が助けてあげる。もっとパーティ楽しんでほしいもん!」
少女のそばにひざまずいたアカリ様は怪我をした方の膝にそっと手を当てます。
「いたいのいたいの、とんでいけー!」
痛みに顔をしかめていた少女の顔がみるみる明るくなります。
「すごい!怪我が治った!お母さま!聖女様ってすごいね!」
ニコニコとうれし気な少女をよそに母親が大慌てでアカリ様に頭を下げます。
「本当に、こちらの不注意で、こんなことに聖女様のお力を使わせてしまい・・・申し訳ありません・・・」
「いいよいいよ、パーティ楽しんでいってね?こっちのお菓子もおいしかったよ?私とってきてあげる!」
慌てる母親と喜ぶ少女を背にアカリ様は他のテーブルに走っていきました。
「アカリは優しいんだ」
後ろからレーブ侯爵令息の声がします。
「だからこそ、なんであんな風に、力が彼女に・・・」
カル辺境伯令息の声もします。
思わず心から漏れたような声を、私は聞いては駄目だったような気がして、そちらを振り向くことが出来ませんでした。
がたりと椅子が動く音がしてアカリ様が戻って来たのかと思いそちらを見ると、そこにいたのはブレイグ様でした。なぜか真っ青な顔をして誰も座っていない椅子を動かし、テーブルの下を覗き込んでいます。まるで何かを探しているような動作に私は気づきポケットに手を入れました。
「ブレイグ様、もしかしてこちらをお探しでしょうか?」
私の手には組みひもと鈴が載っています。これに見覚えがある気がしたのは、初めての顔合わせのときブレイグ様の腕にこれがついていたのを覚えていたからですね。つけているのが見えるほど私が彼のそばに近づいたことがないだけで、もしかしたらずっとつけているものなのかもしれません。
私の手の上の鈴に気づき、ブレイグ様の顔色が戻ります。慎重に私の手の上から摘み上げ鈴を確認し、私の方に頭を下げました。
「・・・ありがとうございます。ミア嬢」
「いいえ、大事なものなら良かったです」
組みひもを再び腕に巻きつけながらブレイグ様は不意に私の顔をじっと見つめます。
「・・・何かありましたか?」
「・・・ミア嬢。あなたは・・・」
「あ、ブレイグもどって来てる!ミアと話してるの?何話してるの?」
ブレイグ様の言葉をアカリ様の元気な声が遮りました。
「・・・いいえ、いいえ何も話してはいませんよ、アカリ様。何をなさっていたのですか?」
「さっきあそこの子供が転んじゃって、助けてあげてきたの。聖女の義務だよね、みんなのことを助けてあげるのって!」
ブレイグ様の袖をつかみながらアカリ様が楽し気に話しかけます。一瞬ブレイグ様が困ったように私を見た気がします。一応婚約者としてアカリ様に注意すべきでしょうか?それとも恋人同士の邪魔をしないように目をそらすべきでしょうか?後者を選択すべく私がテーブルの上にある紅茶に目を落とした時、
「・・・ミアは嫉妬しないんだね、つまんない」
なぜかそんなつぶやきがアカリ様の方から聞こえた気がしました。思わずアカリ様の方を見た時、
「!いたい!」
急に心臓のあたりに衝撃が走り私は椅子から転げ落ちていました。なんでしょうこれは、毒?病気?
「ミア子爵令嬢!」
「アカリ様!」
私を助け起こそうとするレーブ侯爵令息の声と、なぜかアカリ様の名前を呼ぶブレイグ様の声が聞こえます。もしかして私と同じようにアカリ様も倒れてしまっているのでしょうか。そんなことを思いながら私の意識は闇に溶けていきました。
ふと目が覚めた時、私は教会内の医務室にいました。そばには心配そうな顔をした父が座っていました。
「クロシェット侯爵令息君が連絡をくれてね。ミアが突然倒れたと。さっきまでここにいたんだが、ミアが起きそうになるとどこかに行ってしまって・・・」
お医者様が言うには特に異常はなく、貧血のようなものではないかということでした。貧血のようには感じなかったのですが。
「・・・アカリ様は大丈夫ですか?私と一緒に倒れられたようですが」
「聖女様が?聖女様は何事もなかったようだぞ。ミアを心配していたようだが、確かに聖女様も顔色が悪かったからな。パーティを閉会にして今は自室で休まれているそうだ」
あの時倒れたのは私一人だったようです。それならブレイグ様はなぜアカリ様の名前を叫ばれたのでしょう。顔色が悪かったから?地面に倒れた仮にも婚約者を差し置いて?
「もう大丈夫ですお父様。帰りましょう」
ただでさえ低かったブレイグ様への好感度がさらに低くなっていくのを感じながら、私はお父様に微笑みかけました。
離れたテーブルで突然叫び声が上がりました。子供たちが座っている方のテーブルです。何事かとそちらの方を見ると、少女が一人テーブルから離れうずくまっていました。母親であろう女性が急いで駆け寄ります。
「どうして走ったりするのです!お行儀良くしないと・・・」
「ご、ごめんなさいお母さま。猫がいたの。近くで見たくて・・・」
「もう、足に怪我をしてしまっているじゃないの。すぐに帰らなくちゃ」
「はぁい」
半泣きでうなだれる少女をそっとお母さんが立たせパーティ会場から出て行こうとします。
そのそばにアカリ様が駆け寄りました。
「大丈夫!私が助けてあげる。もっとパーティ楽しんでほしいもん!」
少女のそばにひざまずいたアカリ様は怪我をした方の膝にそっと手を当てます。
「いたいのいたいの、とんでいけー!」
痛みに顔をしかめていた少女の顔がみるみる明るくなります。
「すごい!怪我が治った!お母さま!聖女様ってすごいね!」
ニコニコとうれし気な少女をよそに母親が大慌てでアカリ様に頭を下げます。
「本当に、こちらの不注意で、こんなことに聖女様のお力を使わせてしまい・・・申し訳ありません・・・」
「いいよいいよ、パーティ楽しんでいってね?こっちのお菓子もおいしかったよ?私とってきてあげる!」
慌てる母親と喜ぶ少女を背にアカリ様は他のテーブルに走っていきました。
「アカリは優しいんだ」
後ろからレーブ侯爵令息の声がします。
「だからこそ、なんであんな風に、力が彼女に・・・」
カル辺境伯令息の声もします。
思わず心から漏れたような声を、私は聞いては駄目だったような気がして、そちらを振り向くことが出来ませんでした。
がたりと椅子が動く音がしてアカリ様が戻って来たのかと思いそちらを見ると、そこにいたのはブレイグ様でした。なぜか真っ青な顔をして誰も座っていない椅子を動かし、テーブルの下を覗き込んでいます。まるで何かを探しているような動作に私は気づきポケットに手を入れました。
「ブレイグ様、もしかしてこちらをお探しでしょうか?」
私の手には組みひもと鈴が載っています。これに見覚えがある気がしたのは、初めての顔合わせのときブレイグ様の腕にこれがついていたのを覚えていたからですね。つけているのが見えるほど私が彼のそばに近づいたことがないだけで、もしかしたらずっとつけているものなのかもしれません。
私の手の上の鈴に気づき、ブレイグ様の顔色が戻ります。慎重に私の手の上から摘み上げ鈴を確認し、私の方に頭を下げました。
「・・・ありがとうございます。ミア嬢」
「いいえ、大事なものなら良かったです」
組みひもを再び腕に巻きつけながらブレイグ様は不意に私の顔をじっと見つめます。
「・・・何かありましたか?」
「・・・ミア嬢。あなたは・・・」
「あ、ブレイグもどって来てる!ミアと話してるの?何話してるの?」
ブレイグ様の言葉をアカリ様の元気な声が遮りました。
「・・・いいえ、いいえ何も話してはいませんよ、アカリ様。何をなさっていたのですか?」
「さっきあそこの子供が転んじゃって、助けてあげてきたの。聖女の義務だよね、みんなのことを助けてあげるのって!」
ブレイグ様の袖をつかみながらアカリ様が楽し気に話しかけます。一瞬ブレイグ様が困ったように私を見た気がします。一応婚約者としてアカリ様に注意すべきでしょうか?それとも恋人同士の邪魔をしないように目をそらすべきでしょうか?後者を選択すべく私がテーブルの上にある紅茶に目を落とした時、
「・・・ミアは嫉妬しないんだね、つまんない」
なぜかそんなつぶやきがアカリ様の方から聞こえた気がしました。思わずアカリ様の方を見た時、
「!いたい!」
急に心臓のあたりに衝撃が走り私は椅子から転げ落ちていました。なんでしょうこれは、毒?病気?
「ミア子爵令嬢!」
「アカリ様!」
私を助け起こそうとするレーブ侯爵令息の声と、なぜかアカリ様の名前を呼ぶブレイグ様の声が聞こえます。もしかして私と同じようにアカリ様も倒れてしまっているのでしょうか。そんなことを思いながら私の意識は闇に溶けていきました。
ふと目が覚めた時、私は教会内の医務室にいました。そばには心配そうな顔をした父が座っていました。
「クロシェット侯爵令息君が連絡をくれてね。ミアが突然倒れたと。さっきまでここにいたんだが、ミアが起きそうになるとどこかに行ってしまって・・・」
お医者様が言うには特に異常はなく、貧血のようなものではないかということでした。貧血のようには感じなかったのですが。
「・・・アカリ様は大丈夫ですか?私と一緒に倒れられたようですが」
「聖女様が?聖女様は何事もなかったようだぞ。ミアを心配していたようだが、確かに聖女様も顔色が悪かったからな。パーティを閉会にして今は自室で休まれているそうだ」
あの時倒れたのは私一人だったようです。それならブレイグ様はなぜアカリ様の名前を叫ばれたのでしょう。顔色が悪かったから?地面に倒れた仮にも婚約者を差し置いて?
「もう大丈夫ですお父様。帰りましょう」
ただでさえ低かったブレイグ様への好感度がさらに低くなっていくのを感じながら、私はお父様に微笑みかけました。
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