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授業

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「ねぇ、隣座ってもいい?」
そう言って私の返事も待たずに腰を下ろしたのは件の聖女様でした。
本日は所用によりシャガート様たちと離れ、私1人で授業を受けていました。いつもなら隣にシャガート様たちの誰かが座る席に聖女様が座り、並んで授業を受けることとなります。
教科書を見つめていた私に聖女様がこそこそと話しかけてきます。
「ミアとさ、一緒にいる皆さ、私の事怒ってない?」
こてんと首を傾げる姿は眩暈がするほど可愛らしいですが、私は彼女に名前を教えた覚えがないのです。初対面で名前を呼び捨てにされたのは初めてです。これが異世界の聖女というものなのでしょうか。
「聖女様、怒っていないかとは、何の話でしょうか」
授業中なので挨拶は省略し、小声で返します。
「アカリでいいよぉ!いやさぁ、私さ、周りに男の子多いじゃん、ベンネルとか、カルとかさ、あとブレイグもね。皆さ、婚約者いるって聞いちゃって。政略とかでもさ、婚約者が他の女の子とべたべたしてるとか気分悪いかなーって」
どう?と問いかけられます。どうなのかと言えば。
「私は特に。ブレイグ様とは婚約者とはいえあまり関わりもないですし。他の皆様は気にされているようですが」
私の返事に少しだけアカリ様はむっとした表情をされたような気がしました。
「ほんとに?ほんとにミアは何にも気になんない?」
「えぇ、本当に。私とブレイグ様は婚約期間も短いですし、お会いした機会も少ないものですから。もし、我が家の領地への支援をクロシェット侯爵家が続けてくださるのなら、私は喜んでアカリ様とブレイグ様の事を応援しま…」
私の言葉は突然起こった雷によって止まりました。ピカリと光った雷はそう間も置かずに大きな音を立てました。続いてザーザーと大雨が降り出しました。
授業を受けていた令嬢方が小さく悲鳴を上げます。さっきまで外は晴天だったはずですが、通り雨でしょうか。
「アカリ、大丈夫?」
少し離れた席からレーブ公爵子息が駆け寄ってきました。何故か私に軽く目配せをしてアカリ様を立ち上がらせ、2人は教室を出て行きました。
…まだ授業は終わってなかったのですが。
もしやアカリ様は雷が苦手なのでしょうか。突然の雷の光や音にも平然とした顔をしていたようですが。
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