聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。『本編完結』

顔合わせ

婚約の話を了承してからは本当にあっという間でした。ウチの領地の利益となる契約が雨あられと舞い込んだと思えば、家庭教師が送り込まれ最低限の上級貴族に嫁ぐ上でのマナーを叩き込まれました。婚約者と顔を合わせることもなく瞬く間に時が過ぎていき、顔合わせの日にちが決まったのは婚約が決まってから半年後のことでした。

顔合わせはクロシェット侯爵領で行われました。この日のために早朝からクロシェット侯爵家から贈られたドレスを着て、これまた侯爵家から送られてきたメイド達に支度を手伝ってもらい準備をします。ドレスの色は薄い茶色、小物は黒で統一されています。私の髪の色は茶色、目が黒色なので婚約者の方が私と全く同じカラーリングをしていない限り全て私の色をイメージしたようですね。そうです。私はこの顔合わせまで婚約者であるブレイグ様の見た目さえ知りませんでした。私が社交の場に出たのはデビュタントの一度きりで、上級貴族とは離れていましたから見た目のイメージすら出来ません。ろくにお茶会に参加出来ていないのでそもそも親しい貴族も少ないのです。婚約者に贈るドレスは自分の色を入れる事が多いです。相手に自分の色を身に纏って欲しいということのようですね。もし彼が全く違う色の見た目をしていたら、私が儚くも夢見ていた仲の良い夫婦というのは諦めた方がいいでしょう。

そもそもこのドレス、ブレイグ様が贈ってきたものでも無いのです。送り先はクロシェット侯爵家からとなっていましたから。仮にも婚約者となったものに自分から贈り物さえできないと言うのは、他に愛するものがいる、なんて理由かもしれません。私からは刺繍をしたハンカチと手編みのブランケットを忙しい勉強の合間を縫ってお贈りしたと言うのに。

「ミア様、お時間です」
呼ばれました。これから婚約者様との初めての顔合わせです。少しでも今までの悪い印象を払拭出来るような方だととても嬉しいのですけれど。