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顔合わせ
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「…シルヴェーヌ」
「何も言わないでお父様。私が自分で1番よく分かっています」
父親の困惑した声に頭痛を堪えながら返す。
パーティはあの後なし崩し的にお開きとなり、後日両親を交えた話し合いをする約束をベルトランとし、そのまま別れた。
王家主催のパーティで行われた狼藉。エルヴェ様との婚約破棄はすぐに行われた。アレオン公爵家の方々は私が恐縮するぐらい謝ってくれて、慰謝料もすぐに払ってくれた。相手の有責での婚約破棄、しかもすでに新しい婚約者もいる。何も問題はない。
…何も問題ないはずがない。
私は家に帰ってすぐ父と話をして、隣国の侯爵子息、ベルトラン・ヴァルターについて調べた。問題のある人物ならすぐにどうにかして縁を切るために。けれど結果は真っ白。
かなり大きな侯爵家の一人っ子。現在は当主になるための勉強中。周囲からはかなり慕われている。勉学も優秀。
恐ろしいほどに完璧だった。エルヴェ様とは正反対な好人物。
「…隣国に行くつもりかね?侯爵家を継いでも良いのだぞ?」
「従兄弟のアレクが泣きますよ。うちを継げるって大喜びしていたんですから…。…婚約しましたからね。学園も卒業しましたし。話し合いの後少ししてから嫁ぐことになるでしょう。隣国についての勉強をもっとしなくては」
別にベルトランに悪印象があるわけではない。笑顔がほやほやとしていたし。ただ人生の半分を占める最悪な婚約者の思い出がなかなか消えないだけだ。悪い人物ではないと分かった。悪い人にも見えなかった。多少の不安は残るけれど、ベルトランと結婚しても問題ないと思っている。
「…シルヴェーヌが良いのなら、それでいいのだが…」
お父様は少し悲しげに呟いた。
「やぁ、久しぶり、シルヴェーヌ」
「お久しぶりです。ベルトラン様」
「呼び捨てでいいよ?君が良ければだけど」
「…しばらくは、ベルトラン様、と」
にこにこと笑うベルトランに無表情で返す私。お父様がはらはらしているのが伝わってくる。
「ウィールライト侯爵、侯爵夫人。初めまして。ベルトラン・ヴァルターといいます。あなた方のシルヴェーヌ嬢に求婚した者です。彼女がいいと言ってくれるのならシルヴェーヌと結婚したいと思っています。認めてもらえないでしょうか」
人好きのする笑顔で、ベルトランは両親と話している。お父様はまだ厳しい顔をしているけど、お母様は優しげなベルトランに早くも絆されかけているようで、笑顔を見せている。
「…あー、ヴァルター侯爵子息。いや、ベルトラン君と呼ばせてもらう。うちのシルヴェーヌはこの国の公爵家に嫁ぐ予定だったものでね。隣国に嫁がせるような心の準備は私達もシルヴェーヌもできていないのだよ。ベルトラン君。君はすぐにでもシルヴェーヌを隣国に連れて行くつもりかね?反対するわけではない。しかし、娘と離れがたい親心も分かっておくれ」
お父様が厳しい口調で言う。お母様がそっとお父様の腕に寄り添う。私はベルトランの顔を見た。変わらずに微笑んでいる。
「あなた方の気持ちはよく分かります。突然隣国に娘を出すなんてこと、考えられませんよね。実は僕は暫くの間、この国で働くことが決まっていましてね。この国に少しばかり滞在することとなります。あまり短い時間というわけでもないので、あなた方が別れを惜しむ時間はたくさん用意できると思います」
お父様は私のことを見る。少しだけ頷いてみせる。
「…少しばかり変わった子だが、シルヴェーヌは良い子だ。娘を頼むよ、ベルトラン君」
「えぇ。もちろん」
「何も言わないでお父様。私が自分で1番よく分かっています」
父親の困惑した声に頭痛を堪えながら返す。
パーティはあの後なし崩し的にお開きとなり、後日両親を交えた話し合いをする約束をベルトランとし、そのまま別れた。
王家主催のパーティで行われた狼藉。エルヴェ様との婚約破棄はすぐに行われた。アレオン公爵家の方々は私が恐縮するぐらい謝ってくれて、慰謝料もすぐに払ってくれた。相手の有責での婚約破棄、しかもすでに新しい婚約者もいる。何も問題はない。
…何も問題ないはずがない。
私は家に帰ってすぐ父と話をして、隣国の侯爵子息、ベルトラン・ヴァルターについて調べた。問題のある人物ならすぐにどうにかして縁を切るために。けれど結果は真っ白。
かなり大きな侯爵家の一人っ子。現在は当主になるための勉強中。周囲からはかなり慕われている。勉学も優秀。
恐ろしいほどに完璧だった。エルヴェ様とは正反対な好人物。
「…隣国に行くつもりかね?侯爵家を継いでも良いのだぞ?」
「従兄弟のアレクが泣きますよ。うちを継げるって大喜びしていたんですから…。…婚約しましたからね。学園も卒業しましたし。話し合いの後少ししてから嫁ぐことになるでしょう。隣国についての勉強をもっとしなくては」
別にベルトランに悪印象があるわけではない。笑顔がほやほやとしていたし。ただ人生の半分を占める最悪な婚約者の思い出がなかなか消えないだけだ。悪い人物ではないと分かった。悪い人にも見えなかった。多少の不安は残るけれど、ベルトランと結婚しても問題ないと思っている。
「…シルヴェーヌが良いのなら、それでいいのだが…」
お父様は少し悲しげに呟いた。
「やぁ、久しぶり、シルヴェーヌ」
「お久しぶりです。ベルトラン様」
「呼び捨てでいいよ?君が良ければだけど」
「…しばらくは、ベルトラン様、と」
にこにこと笑うベルトランに無表情で返す私。お父様がはらはらしているのが伝わってくる。
「ウィールライト侯爵、侯爵夫人。初めまして。ベルトラン・ヴァルターといいます。あなた方のシルヴェーヌ嬢に求婚した者です。彼女がいいと言ってくれるのならシルヴェーヌと結婚したいと思っています。認めてもらえないでしょうか」
人好きのする笑顔で、ベルトランは両親と話している。お父様はまだ厳しい顔をしているけど、お母様は優しげなベルトランに早くも絆されかけているようで、笑顔を見せている。
「…あー、ヴァルター侯爵子息。いや、ベルトラン君と呼ばせてもらう。うちのシルヴェーヌはこの国の公爵家に嫁ぐ予定だったものでね。隣国に嫁がせるような心の準備は私達もシルヴェーヌもできていないのだよ。ベルトラン君。君はすぐにでもシルヴェーヌを隣国に連れて行くつもりかね?反対するわけではない。しかし、娘と離れがたい親心も分かっておくれ」
お父様が厳しい口調で言う。お母様がそっとお父様の腕に寄り添う。私はベルトランの顔を見た。変わらずに微笑んでいる。
「あなた方の気持ちはよく分かります。突然隣国に娘を出すなんてこと、考えられませんよね。実は僕は暫くの間、この国で働くことが決まっていましてね。この国に少しばかり滞在することとなります。あまり短い時間というわけでもないので、あなた方が別れを惜しむ時間はたくさん用意できると思います」
お父様は私のことを見る。少しだけ頷いてみせる。
「…少しばかり変わった子だが、シルヴェーヌは良い子だ。娘を頼むよ、ベルトラン君」
「えぇ。もちろん」
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