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婚約破棄

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「どこにいる、シルヴェーヌ!隠れていないでさっさと出てこい!」
婚約者の粗野な声が会場中に響いて、私は顔を上げた。話していた友人がゆっくりと顔を顰める。隠れているわけではなく、ただ自分が見つけられないだけだろうに、あんなに大声を出すことができるなんて、いっそ奇跡のような人だ。今いるのは王家主催のパーティであんまり粗相をしたら公爵家といえどただでは済まないだろうに。
「…ここにおります。どうされました。エルヴェ様」
私の婚約者、エルヴェ・アレオン公爵子息は私の姿を見つけると目を吊り上げ歯を剥き出しにした。青い髪に真っ赤な瞳、普通にしていれば整った顔立ちなのに私を見るときはいつも顔を歪ませているから不思議な顔にしか見えない。
「やっと現れたかこの溝鼠!俺の時間を無駄にしようとするな!」
「…婚約者のことを溝鼠などと呼ぶものではありませんエルヴェ様。何か用があるのならどうぞ。…あぁ、そちらの令嬢のことでしょうか」
いくら私がどこか動物のような硬い灰がかった茶色の髪、暗い紫の瞳をしているからと言ってドブネズミは酷すぎる。エルヴェ様の顔から少し目を背けると、エルヴェ様の隣にはしがみつくようにして少女が立っていた。私が視線を向けたことに気づくと怯えたように顔を背け体を縮こませる。綺麗な碧目にふわふわとした金髪の小柄な可愛らしい少女。学園にいた間中、エルヴェ様の恋人として有名な少女だった。
「お前はまたそうやってミリーを睨みつけて!お前がそうやってミリーを虐めるからこんなに怯えてしまっているんだぞ!」
少女をきつく抱き寄せてエルヴェ様が私を睨みつける。睨んだつもりはないけれど彼らには睨んだように見えたのかもしれない。生まれつきの吊り目と動かない表情筋は私にはどうしようもない。大人しく黙っている私に気を良くしたのかエルヴェ様がにやりと口元に笑みを浮かべる。
「シルヴェーヌ・ウィールライト侯爵令嬢。お前は俺の愛を勝ち取れなかったために、嫉妬から俺の恋人であるミリーを虐めたな。8年の婚約期間からお前にも多少の情はあったが、ミリーを怪我させたとなると話は別だ。俺はお前と婚約破棄する!せいぜい地に伏して謝罪の言葉を述べてみろ」
どこか気持ち良さげに自分に酔うエルヴェ様を見つめ、口を開く。
「あなたはそんな理由で婚約破棄するのですか?」
純粋な疑問だった。何を言われたのか分からないというような顔をしたエルヴェ様が徐々に顔を怒りで赤く染めていく。彼が怒鳴りだす前に私も意見を言うことにした。
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