23 / 30
退出
しおりを挟む
「揉め事を起こしたのは私ではないですね。私は揉め事が起こっている間に入って2つ3つ質問をしただけですから。原因は他の方では」
黙っていなかったのはシルヴァン様だった。ただ疑問に思って相手のことを訂正しているのは私には分かるけれど、どう考えても煽りにしかなっていない。顔を赤黒く染めて、一人の男がかちゃりと剣を鳴らす。制したのは彼らの中央に立つ男だった。恐らく婚約破棄の主犯格。華奢な少女を腕に絡み付かせている。
「ウィレット子爵。その話はこの際どうでもいい。ミナを虐めた悪女を裁く場を邪魔してくれたのも今はいい。とにかくお前はこの場にふさわしくない。今日はフェネオン国の皇女殿下がおいでになる。お前のようなものが口を出せば外交問題にもなりかねない。隣の夫人には申し訳ないが、すぐに出て行ってくれ。…全く、誰がこんな奴を呼んだのだか…」
酷い話だ。呼んでおいて早々に追い返すなんて。でも、子爵家の立場では言い返すことは本来なら難しい。尚も言い返そうとするシルヴァン様の手を引いて口を閉じさせる。できるだけ優雅に、勉強した通りの礼をして見せる。
「それでは、夫共々退出させていただきますわ。楽しいパーティでした。またのご招待を楽しみに待っています」
たくさん皮肉を滲ませて、男達に背を向ける。シルヴァン様は少し何か言いたげだったけど、黙って着いてきてくれた。
会場の入り口を一歩出た所で立ち止まる。ばくばくと心臓が今更ながら煩い。上位貴族に言い返した緊張と、追い出された怒り。静かに深呼吸して息を静める。馬車は待ってもらっているからすぐに帰れる。カレル達は早い帰宅に驚くだろうけど、言い訳もない。子爵家に今すぐにでも帰りたかった。
「…ベルティーヌ」
ずっと黙っていたシルヴァン様が口を開く。珍しくどこか頼りなげな表情をしていた。シルヴァン様の感情が分かりやすく表情に出るのはなかなかない。
「…どうされました?」
「…ベルティーヌ。すまない。君はあまりパーティに出たことがないと言うからできれば、最後まで居たかったんだが…」
思わぬ謝罪に驚いた。出てきたのはあの貴族の方々が悪いし、何なら喧嘩を買ったのはどちらかというと私の方だし。シルヴァン様は不意に私の手をぎゅっと握る。強い力に心臓が軽く跳ねる。
「…絶対に埋め合わせはする。君が主役のパーティを俺が主催してみせる。たくさん客を招待してカレルとシャールカも客として呼ぶ。…だから、まだ俺といてくれないか」
そんな夢物語を真剣な顔で語るシルヴァン様。私は口元が綻ぶのが分かる。ありえない未来。でも、笑顔でパーティを楽しむ私たちの姿が見えるような気がして悪い気分ではなかった。
「…えぇ。きっとですよ。シルヴァン様」
手を握り返す。温かな気持ちで家まで帰れそうだった。
「…あ!」
そして、私達は、一人の少女の声で、その未来へと確かに進む事となる。
黙っていなかったのはシルヴァン様だった。ただ疑問に思って相手のことを訂正しているのは私には分かるけれど、どう考えても煽りにしかなっていない。顔を赤黒く染めて、一人の男がかちゃりと剣を鳴らす。制したのは彼らの中央に立つ男だった。恐らく婚約破棄の主犯格。華奢な少女を腕に絡み付かせている。
「ウィレット子爵。その話はこの際どうでもいい。ミナを虐めた悪女を裁く場を邪魔してくれたのも今はいい。とにかくお前はこの場にふさわしくない。今日はフェネオン国の皇女殿下がおいでになる。お前のようなものが口を出せば外交問題にもなりかねない。隣の夫人には申し訳ないが、すぐに出て行ってくれ。…全く、誰がこんな奴を呼んだのだか…」
酷い話だ。呼んでおいて早々に追い返すなんて。でも、子爵家の立場では言い返すことは本来なら難しい。尚も言い返そうとするシルヴァン様の手を引いて口を閉じさせる。できるだけ優雅に、勉強した通りの礼をして見せる。
「それでは、夫共々退出させていただきますわ。楽しいパーティでした。またのご招待を楽しみに待っています」
たくさん皮肉を滲ませて、男達に背を向ける。シルヴァン様は少し何か言いたげだったけど、黙って着いてきてくれた。
会場の入り口を一歩出た所で立ち止まる。ばくばくと心臓が今更ながら煩い。上位貴族に言い返した緊張と、追い出された怒り。静かに深呼吸して息を静める。馬車は待ってもらっているからすぐに帰れる。カレル達は早い帰宅に驚くだろうけど、言い訳もない。子爵家に今すぐにでも帰りたかった。
「…ベルティーヌ」
ずっと黙っていたシルヴァン様が口を開く。珍しくどこか頼りなげな表情をしていた。シルヴァン様の感情が分かりやすく表情に出るのはなかなかない。
「…どうされました?」
「…ベルティーヌ。すまない。君はあまりパーティに出たことがないと言うからできれば、最後まで居たかったんだが…」
思わぬ謝罪に驚いた。出てきたのはあの貴族の方々が悪いし、何なら喧嘩を買ったのはどちらかというと私の方だし。シルヴァン様は不意に私の手をぎゅっと握る。強い力に心臓が軽く跳ねる。
「…絶対に埋め合わせはする。君が主役のパーティを俺が主催してみせる。たくさん客を招待してカレルとシャールカも客として呼ぶ。…だから、まだ俺といてくれないか」
そんな夢物語を真剣な顔で語るシルヴァン様。私は口元が綻ぶのが分かる。ありえない未来。でも、笑顔でパーティを楽しむ私たちの姿が見えるような気がして悪い気分ではなかった。
「…えぇ。きっとですよ。シルヴァン様」
手を握り返す。温かな気持ちで家まで帰れそうだった。
「…あ!」
そして、私達は、一人の少女の声で、その未来へと確かに進む事となる。
6
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。
亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。
しかし皆は知らないのだ
ティファが、ロードサファルの王女だとは。
そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

みんなが嫌がる公爵と婚約させられましたが、結果イケメンに溺愛されています
中津田あこら
恋愛
家族にいじめられているサリーンは、勝手に婚約者を決められる。相手は動物実験をおこなっているだとか、冷徹で殺されそうになった人もいるとウワサのファウスト公爵だった。しかしファウストは人間よりも動物が好きな人で、同じく動物好きのサリーンを慕うようになる。動物から好かれるサリーンはファウスト公爵から信用も得て溺愛されるようになるのだった。

俺の婚約者が可愛すぎる件について ~第三王子は今日も、愚かな自分を殴りたい~
salt
恋愛
ぐらりと視界が揺れて、トラヴィス・リオブライド・ランフォールドは頭を抱えた。
刹那、脳髄が弾けるような感覚が全身を襲い、何かを思い出したようなそんな錯覚に陥ったトラヴィスの目の前にいたのは婚約したばかりの婚約者、フェリコット=ルルーシェ・フォルケイン公爵令嬢だった。
「トラ……ヴィス、でんか…っ…」
と、名前を呼んでくれた直後、狂ったように泣きだしたフェリコットはどうやら時戻りの記憶があるようで……?
ライバルは婚約者を傷つけまくった時戻り前の俺(八つ裂きにしたい)という話。
或いは性根がダメな奴は何度繰り返してもダメという真理。
元サヤに見せかけた何か。
*ヒロインターンは鬱展開ですので注意。
*pixiv・なろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる