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退出
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「揉め事を起こしたのは私ではないですね。私は揉め事が起こっている間に入って2つ3つ質問をしただけですから。原因は他の方では」
黙っていなかったのはシルヴァン様だった。ただ疑問に思って相手のことを訂正しているのは私には分かるけれど、どう考えても煽りにしかなっていない。顔を赤黒く染めて、一人の男がかちゃりと剣を鳴らす。制したのは彼らの中央に立つ男だった。恐らく婚約破棄の主犯格。華奢な少女を腕に絡み付かせている。
「ウィレット子爵。その話はこの際どうでもいい。ミナを虐めた悪女を裁く場を邪魔してくれたのも今はいい。とにかくお前はこの場にふさわしくない。今日はフェネオン国の皇女殿下がおいでになる。お前のようなものが口を出せば外交問題にもなりかねない。隣の夫人には申し訳ないが、すぐに出て行ってくれ。…全く、誰がこんな奴を呼んだのだか…」
酷い話だ。呼んでおいて早々に追い返すなんて。でも、子爵家の立場では言い返すことは本来なら難しい。尚も言い返そうとするシルヴァン様の手を引いて口を閉じさせる。できるだけ優雅に、勉強した通りの礼をして見せる。
「それでは、夫共々退出させていただきますわ。楽しいパーティでした。またのご招待を楽しみに待っています」
たくさん皮肉を滲ませて、男達に背を向ける。シルヴァン様は少し何か言いたげだったけど、黙って着いてきてくれた。
会場の入り口を一歩出た所で立ち止まる。ばくばくと心臓が今更ながら煩い。上位貴族に言い返した緊張と、追い出された怒り。静かに深呼吸して息を静める。馬車は待ってもらっているからすぐに帰れる。カレル達は早い帰宅に驚くだろうけど、言い訳もない。子爵家に今すぐにでも帰りたかった。
「…ベルティーヌ」
ずっと黙っていたシルヴァン様が口を開く。珍しくどこか頼りなげな表情をしていた。シルヴァン様の感情が分かりやすく表情に出るのはなかなかない。
「…どうされました?」
「…ベルティーヌ。すまない。君はあまりパーティに出たことがないと言うからできれば、最後まで居たかったんだが…」
思わぬ謝罪に驚いた。出てきたのはあの貴族の方々が悪いし、何なら喧嘩を買ったのはどちらかというと私の方だし。シルヴァン様は不意に私の手をぎゅっと握る。強い力に心臓が軽く跳ねる。
「…絶対に埋め合わせはする。君が主役のパーティを俺が主催してみせる。たくさん客を招待してカレルとシャールカも客として呼ぶ。…だから、まだ俺といてくれないか」
そんな夢物語を真剣な顔で語るシルヴァン様。私は口元が綻ぶのが分かる。ありえない未来。でも、笑顔でパーティを楽しむ私たちの姿が見えるような気がして悪い気分ではなかった。
「…えぇ。きっとですよ。シルヴァン様」
手を握り返す。温かな気持ちで家まで帰れそうだった。
「…あ!」
そして、私達は、一人の少女の声で、その未来へと確かに進む事となる。
黙っていなかったのはシルヴァン様だった。ただ疑問に思って相手のことを訂正しているのは私には分かるけれど、どう考えても煽りにしかなっていない。顔を赤黒く染めて、一人の男がかちゃりと剣を鳴らす。制したのは彼らの中央に立つ男だった。恐らく婚約破棄の主犯格。華奢な少女を腕に絡み付かせている。
「ウィレット子爵。その話はこの際どうでもいい。ミナを虐めた悪女を裁く場を邪魔してくれたのも今はいい。とにかくお前はこの場にふさわしくない。今日はフェネオン国の皇女殿下がおいでになる。お前のようなものが口を出せば外交問題にもなりかねない。隣の夫人には申し訳ないが、すぐに出て行ってくれ。…全く、誰がこんな奴を呼んだのだか…」
酷い話だ。呼んでおいて早々に追い返すなんて。でも、子爵家の立場では言い返すことは本来なら難しい。尚も言い返そうとするシルヴァン様の手を引いて口を閉じさせる。できるだけ優雅に、勉強した通りの礼をして見せる。
「それでは、夫共々退出させていただきますわ。楽しいパーティでした。またのご招待を楽しみに待っています」
たくさん皮肉を滲ませて、男達に背を向ける。シルヴァン様は少し何か言いたげだったけど、黙って着いてきてくれた。
会場の入り口を一歩出た所で立ち止まる。ばくばくと心臓が今更ながら煩い。上位貴族に言い返した緊張と、追い出された怒り。静かに深呼吸して息を静める。馬車は待ってもらっているからすぐに帰れる。カレル達は早い帰宅に驚くだろうけど、言い訳もない。子爵家に今すぐにでも帰りたかった。
「…ベルティーヌ」
ずっと黙っていたシルヴァン様が口を開く。珍しくどこか頼りなげな表情をしていた。シルヴァン様の感情が分かりやすく表情に出るのはなかなかない。
「…どうされました?」
「…ベルティーヌ。すまない。君はあまりパーティに出たことがないと言うからできれば、最後まで居たかったんだが…」
思わぬ謝罪に驚いた。出てきたのはあの貴族の方々が悪いし、何なら喧嘩を買ったのはどちらかというと私の方だし。シルヴァン様は不意に私の手をぎゅっと握る。強い力に心臓が軽く跳ねる。
「…絶対に埋め合わせはする。君が主役のパーティを俺が主催してみせる。たくさん客を招待してカレルとシャールカも客として呼ぶ。…だから、まだ俺といてくれないか」
そんな夢物語を真剣な顔で語るシルヴァン様。私は口元が綻ぶのが分かる。ありえない未来。でも、笑顔でパーティを楽しむ私たちの姿が見えるような気がして悪い気分ではなかった。
「…えぇ。きっとですよ。シルヴァン様」
手を握り返す。温かな気持ちで家まで帰れそうだった。
「…あ!」
そして、私達は、一人の少女の声で、その未来へと確かに進む事となる。
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