のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

しぎ

文字の大きさ
上 下
22 / 30

道理

しおりを挟む
ぽかんと口を開けそうになって咄嗟に口に力を入れる。私の事を嫌っている義母が私を家に戻そうとするなんて。どういう風の吹き回しだろうか。
「無理やり自分の豪華なドレスを作らせるなんて妻としてなっていないわ。ベインズ伯爵家の教育不足だと思われてしまうじゃない。あなたに嫁入りはまだ早かったのよ。家に戻りなさい。準備は自分でしなさいね」
言うだけ言って義母は口を噤む。私の返事待ちだろうか。珍しい。義母が私の言葉を待つなんて。
「…どうしてお母様!ベルティーヌを戻そうとするなんて!この子なんてうちに必要ないでしょう?」
ヒステリックに喚いたのはアビー。キャロルは他のことに興味がいったのかいつの間にか姿を消していた。
「大丈夫よ、アビー。当主はあなたで変わりないわ。この子をただ家に戻すだけ。あなたの邪魔なんてさせないわ」
アビーに向けて優しい口調で言う義母。
「…うちに何があったのですか?」
私を家に戻すことで彼女達に良いことが起こる、もしくは不都合がなくなる。それは何だろうか。
「あなたは聞かなくていいわ。黙ってうちに戻りなさい。…あぁ、子爵が来るわね。ベルティーヌ、彼にも話しておいて」
それだけ言って義母はアビーを連れて離れて行った。何か言いたげなアビーも義母に手を引かれるようにして渋々離れて行った。
「…誰かと話していたか?」
両手にたくさんの料理が乗った皿を持ったシルヴァン様が戻ってきた。何を話そうか迷う。
「…実家の人達と、少し」
「…そうか」
シルヴァン様は少しだけ顔を顰めた。
「俺も話した方が良かったか?手紙のやり取りしかしてないんだ」
「あぁ、そうなんですね。…いえ、話さなくても良いと思います」
義母の話はしないことにした。もうあの家に戻るつもりはない。何か強行手段を取られるようなことがあったら話そう。
「…大丈夫か?顔色が悪そうだ」
シルヴァン様が私の顔に触れようとして、メイクに気づいて手を止めた。久しぶりに会った実家の人間達は思っていたよりも、私にとって刺激が強かったらしい。シルヴァン様が持ってきた料理を少しずつ摘んでいたらちょっと落ち着いてきた。これなら、パーティの最後までいられるだろう。シルヴァン様の隣からは離れられないけれど。
…シルヴァン様の隣は息がしやすい。息が詰まりそうな実家を出てから思っていたことだった。それが好きってことなのかもしれない。まだ、よく分からないけれど。

「…まさかとは思うが、お前はウィレット子爵じゃないだろうな?」

声が聞こえて伏せていた目を上げる。私たちの前にいたのは、高級そうな礼服を着た5人の男女だった。おそらく伯爵家以上の。シルヴァン様を横目で伺う。すんとした表情のシルヴァン様。
…まさか、誰か分からないとは言いませんよね。どう見ても知り合いのようですが。

「何故、お前がここにいる?誰が招待した?」
「ミナ、離れていて、危ないよ」
「子爵がいるなら、私、言いたいことが…」
「今日は大国の皇女様まで招待されているんだぞ!誰か早く追い出せ!」
「何故揉め事を起こした人間が来ている?」

口々に喚く人々。話す内容から少しずつ理解する。どうやら彼らは前のパーティで令嬢を婚約破棄し、シルヴァン様に仲裁された人達らしい。憎々しげな目でシルヴァン様を睨む人達。彼らがシルヴァン様を睨む道理は無いと思うけれど。人前で女性を辱めるような真似をする人たちの考えることは分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。

木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。 不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。 当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。 多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。 しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。 その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。 私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。 それは、先祖が密かに残していた遺産である。 驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。 そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。 それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。 彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。 しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。 「今更、掌を返しても遅い」 それが、私の素直な気持ちだった。 ※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...