のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

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パーティ会場に入り、挨拶を済ませたらそのまま壁の端に立つ。人の多い場所は慣れなくて息が詰まりそうだ。

「…ウィレット子爵だ…」
「何であいつがいる?誰が呼んだ?」
「また面倒なことを起こすんじゃないだろうな…」
「隣の夫人はお金で買われたんだそうよ、可哀想にね…」

形だけひそひそと聞こえるように交わされる噂話。歪みそうになる顔を堪えてすまし顔を作る。隣にいるシルヴァン様は当たり前の顔をしているし、ここで私がさらに話題を提供する必要もない。…誰が買われた妻だ。こっちが金を払った側だ。
「…何か食べなくてもいいか。とってくるが」
私の返事を待たずにシルヴァン様は食事を並べてあるスペースにすたすたと歩いていった。確かにお腹は空いているけど、ドレスを汚しそうで食べられないし、どうせなら隣にいて欲しかった。呼び止めるほどではないから何も言わなかったけれど。

「あらぁ?誰かと思ったらベルティーヌじゃなぁい?こんな隅っこで何してるの?」
「あ、ほんとだベルだ。久しぶりー」
急に声をかけられて顔を上げる。目の前にいたのはアビーとキャロル。2人の義姉だった。
「…久しぶりね。2人とも。そうよね、ベインズ伯爵家も招待されているわよね…」
「当たり前じゃない。しかも私は次期当主なのよ?招待されるに決まってるじゃない!」
「うわ、ベルのドレスすごいね。子爵家ってお金ないんじゃないの?」
交互に全く違う話をされて少し混乱する。2人が揃うと大体こんな風だったのを思い出した。
私が返事をしても大体聞いていないか怒られるだけだからただ2人の話を聞き流す。
2人のドレスは豪華だったけど、どう見ても私が着ているものの方が高級なものだった。伯爵家が王家のパーティで着る物よりも豪華なドレスって、どこのものだろう。侯爵家?まさか公爵家か王家?…まさかね。

「…あら、ベルティーヌ」
…そうだ。義姉達がいるならそりゃいるだろう。
「…お久しぶりです。お義母様」
私の全身をじろじろと眺め下ろした義母はあからさまに不機嫌そうな顔をした。貧乏な偏屈子爵に嫁がせた義子が自分達よりも豪華なドレスを着てパーティにいるのだ。機嫌が良くなるはずがない。
「わざわざそんな豪華なドレスを作らせるなんて…。あなたは嫁いだ家を潰すつもりなのかしら」
ふんと鼻を鳴らした義母は何故かにっこりと笑顔を作る。
「…ちょうどいいから話しておきましょう。ベルティーヌ。あなたはベインズ伯爵家に戻りなさい」
…何故?
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