のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

しぎ

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緊張

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パーティの日までに私はマナーを猛勉強し直した。まともに社交の勉強をしてきてないから、ほとんど1からだ。子爵夫人ならそれほど厳格なマナーは求められないとは思うけど、貴族の端くれとして、シルヴァン様の妻としてみっともない姿は見せられない。何故かマナーに詳しいカレルと共にパーティの前日まで私はひたすらに練習を繰り返した。

流石にあの高級なドレスで歩いてはいけないので、馬車を借りた。2人乗りの馬車の中緊張で固まる私をよそにシルヴァン様は窓の外を眺めていた。
「…大丈夫、大丈夫…」
ひたすらに繰り返し呟いてネックレスを掴む。母の形見の赤い宝石のネックレス。お守り代わりのつもりで付けてきた。ドレスはちゃんと着せてもらったし、猛勉強したらしいシャールカに化粧も施してもらった。後は王家に挨拶をしたら隅っこにいれば良いだけだ。
「ベルティーヌ」
「…はい、なんでしょう」
気づくとシルヴァン様が私の顔を見つめていた。
「…君は綺麗だ」
「…はい!?」
「髪型がいつもと違うな。似合っている。化粧も綺麗だ。ドレスによく合っている。シャールカには特別報酬が必要だろうか。
ベルティーヌ。とても綺麗だ」
いつも通りの真顔で。シルヴァン様はひたすらに私のことを褒めた。どんどん顔が熱くなっていくのが分かる。化粧をしていなかったら顔を手で覆いたい気分だ。
「…ど、どうされたのですか、シルヴァン様…」
「いや、緊張が解けるかと思って。大丈夫そうだな」
それだけ言うとシルヴァン様はまた窓の方を見る。
ずるい。
どうにか仕返ししたくてシルヴァン様をじっと見つめる。
新しく仕立てた礼服は赤茶の生地を使っていて、灰色の髪のシルヴァン様と意外と合っていた。胸元にさした青色のハンカチが僅かに覗いている。外を見るシルヴァン様は物憂げに見える。多分ただ本を読みたいと考えているだけなのに。
…じわじわとさらに顔に熱が昇ってくるのを感じる。無意識に「あー」と声が漏れた。
「…どうした?」
「…シルヴァン様も、とても格好良いです」
絞り出した声には「そうか」と僅かに笑みを含んだ声だけが返された。
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