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贈り物
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玄関に立っていたのは、ワインドさんだった。何故か滝のように汗をかいている。
「…ど、どうされました?」
「…あ、ウィレット子爵夫人。ご無沙汰しております。先日のドレスはいかがでしたか?…いえいえいえ、今日はそんな話ではないのです。子爵。子爵夫人。もしや貴方方、パーティに行かれるのでは?」
驚きながら頷いた私にふー、と長く息を吐いたワインドさんは大きな包みを持ってきた。受け取ったカレルが目を見開く。
「この重さ…、まさか…」
「…あのー、その、どなたからかはちょっと、言えないんですが…。夫人にドレスの贈り物です…」
それだけ言うと踵を返しさっさとワインドさんは帰ってしまった。呼び止める暇もなかった。
急いで部屋に戻り包みを開ける。丁寧に包装を開くカレルの手が震えているのが見えた。中から出てきたのは。
「…わあっ…」
小さくシャールカが叫んだのが聞こえる。私は息をするのも忘れながらそれを見つめた。
灰色の生地のドレス。所々に紫のレースやリボンがあしらわれたドレス。生地の光沢がものすごい。ワインドさんの店にあった物とも、実家の姉たちが着ていたドレスとも違う。
「…たっっかいやつだこれ…」
素の口調で呆然と呟くカレル。シャールカは何度か触れようとして手を引っ込めている。分かる。私も汚しそうでこれには触れない。流石に読書をやめたシルヴァン様がこちらに近寄ってきてドレスを見る。うん、とひとつ頷いてこっちを見た。
「ドレスはこれで解決したな」
…それで片付けて良いのだろうか。
あの後、手を尽くして調べてみてもドレスの贈り主が誰なのかは分からなかった。ワインドさんに聞いても知らないの一点張り。恐る恐る体に合わせてみるとサイズがピッタリだった。ものすごく怖いけど、私はこのドレスを着てパーティに行くことに決まった。シルヴァン様は自分は古いやつを着ていけば良いと言って聞かなかったけど、流石に新しい物を仕立ててもらった。夫人が新しい豪華なドレス、子爵が去年の礼服をそのままなんて、私が恐妻だと噂される。夫婦共々悪い噂が流れるのはまずい。
「…ど、どうされました?」
「…あ、ウィレット子爵夫人。ご無沙汰しております。先日のドレスはいかがでしたか?…いえいえいえ、今日はそんな話ではないのです。子爵。子爵夫人。もしや貴方方、パーティに行かれるのでは?」
驚きながら頷いた私にふー、と長く息を吐いたワインドさんは大きな包みを持ってきた。受け取ったカレルが目を見開く。
「この重さ…、まさか…」
「…あのー、その、どなたからかはちょっと、言えないんですが…。夫人にドレスの贈り物です…」
それだけ言うと踵を返しさっさとワインドさんは帰ってしまった。呼び止める暇もなかった。
急いで部屋に戻り包みを開ける。丁寧に包装を開くカレルの手が震えているのが見えた。中から出てきたのは。
「…わあっ…」
小さくシャールカが叫んだのが聞こえる。私は息をするのも忘れながらそれを見つめた。
灰色の生地のドレス。所々に紫のレースやリボンがあしらわれたドレス。生地の光沢がものすごい。ワインドさんの店にあった物とも、実家の姉たちが着ていたドレスとも違う。
「…たっっかいやつだこれ…」
素の口調で呆然と呟くカレル。シャールカは何度か触れようとして手を引っ込めている。分かる。私も汚しそうでこれには触れない。流石に読書をやめたシルヴァン様がこちらに近寄ってきてドレスを見る。うん、とひとつ頷いてこっちを見た。
「ドレスはこれで解決したな」
…それで片付けて良いのだろうか。
あの後、手を尽くして調べてみてもドレスの贈り主が誰なのかは分からなかった。ワインドさんに聞いても知らないの一点張り。恐る恐る体に合わせてみるとサイズがピッタリだった。ものすごく怖いけど、私はこのドレスを着てパーティに行くことに決まった。シルヴァン様は自分は古いやつを着ていけば良いと言って聞かなかったけど、流石に新しい物を仕立ててもらった。夫人が新しい豪華なドレス、子爵が去年の礼服をそのままなんて、私が恐妻だと噂される。夫婦共々悪い噂が流れるのはまずい。
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