のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

しぎ

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「…つ、疲れました…」
「…確かに、時間はかかったな…」
普段着とちょっとした社交用。生地とデザインまで考えて店を出た時にはすでに空が暗くなっていた。
晩御飯の前には家に帰りたくて少しだけ急ぎ足になる。
「…今日は、ありがとうございました」
「…値段のことなら、気にする必要はない。大半は君の持参金から出しているものだ」
「それもありますけど、もう一つ。私に選ばせてくれて、ありがとうございました」
自分で生地から決めた服。きっと一生手放せないような大事な物になるだろう。
「…自分で着る物なら自分で選ぶべきだ。俺が選んだり決めたりする物ではない」
照れたようにふいと、視線を背けたシルヴァン様の顔がふと上を向いた。つられて私も上を見る。
「…あ」
暗い空にはもう星が見え始めていた。ここから見ても綺麗だけど、きっとあの丘からならもっと綺麗に見えるだろう。視線を感じて顔を戻すとシルヴァン様が私の顔をじっと見ていた。
「…なにか?」
「…いや…」
その後は特に会話も無く2人で肩を並べて家まで歩いた。

「はい、ベル様、これ暖かい上着と敷物です。紅茶は熱いのを食堂にカレルが用意してますよ!」
晩御飯も食べてそろそろ寝る用意をしようと思っていた時に、シャールカに言葉と共にコートと薄い布を差し出された。
「…え?どうして?」
「ん?あれ、シルヴァン様から何も聞いてません?」
困った様に首を傾げるシャールカに連れられて食堂に行く。
そこには中に何か入ったバスケットを机に置くカレルと、少し古びたコートを羽織ったシルヴァン様がいた。
「…シルヴァン?ベル様に何か説明した?」
「…あ」
「…ちゃんと話はしておけよ…」
ため息を吐くシャールカとカレル。話に置いて行かれて戸惑う私にシルヴァン様が向き合った。
「…星を見に行こう」
「…え?」

帰り道、夜空を見てシルヴァン様は私と初めて会った夜のことを思い出したらしい。そして私の顔を見てまた勝手に部屋を出ていくのではないかと思い、星を見る準備をしたと。
「…もう、勝手に行かないって言いました」
「窓からは出ないと言ったが、1人で行かないと君がちゃんと言ったか思い出せなかった。だから先に2人で行く準備をした」
ふん、と何故か得意げな顔をするシルヴァン様に思わず笑いそうになる。
別に今日丘に行こうとあの時思ったわけではないけど、シルヴァン様が私を気遣ってくれたことが嬉しい。それに外に出る準備をシャールカとカレルがしてくれたことも。
「…2人は来ないの?星、とっても綺麗よ」
シャールカとカレルに言うと揃って首を横に振られる。
「折角ですから2人で行ってきてください」
「夜もデートですよ!」
笑顔のカレルと拳を握るシャールカ。そしてそのまま近づいてきたカレルにぽんと肩に手を置かれる。
「でも、その前に1人で夜中に外に出たと言う件について詳しく聞いてもよろしいですか?」
「…あ」
そろりとシルヴァン様に目線を流すと、彼はあさっての方を向いていた。
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