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挨拶
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「持参金、ありましたよ」
「…そうなの?」
朝食を用意しながらカレルに当たり前のように言われて驚いた。私は殆ど着の身着のまま自分の体だけで来たつもりだった。
「婚約の話が来た時に、ベインズ伯爵からいくらかいただきました。娘をよろしく頼むと」
「…そう。お父様が…」
お父様。お母様が死んで、最悪な義母達を残して家に帰らなくなった人。まだ、娘に対する情なんてあの人にあったのね。まあ、形だけのつもりだろうけれど。
とにかく、それで来たばかりの時から2人が優しい理由が分かった。お金は大事だ。
「そのお金のおかげで家計に余裕ができたんです。ベル様。新しい洋服を仕立てましょう。流石に前の奥様の服を着せてばかりいられません」
真面目な顔でシャールカが言う。私は自分の洋服を見下ろす。今着ている服も寝巻きも大半この家にあった物を着せてもらっている。自分の持ってきた服はいつのまにかシャールカが処分していたようだった。
「…そうね、お願いしようかしら」
万が一でも社交があれば新しい服が必要になる。
あ、と不意にカレルが何か思い出したような声を出す。
「旦那様の仕事がやっと一区切りつきそうで…。落ち着いたらお二人で町に降りてみてはいかがですか。夫婦で洋服を仕立てに行く、というのは良くないですか?」
「いいですね!ベル様、新婚なのに夫に会えないなんて不義理をしてしまってすみませんでした。多分もう少ししたらゆっくりできるはずなので!」
2人が楽しげに言うのでつられて私も微笑んでしまう。
「そうね、楽しそう」
数日後、シャールカに呼ばれて食堂に行くと、そこにはシルヴァン様が立っていた。明るいところで見ると紫の瞳が光って見える。一瞬ぼうっとして、はっと気づいた。
私はあの日、夜中に家を抜け出して星を見に行った事をシャールカにもカレルにも言っていない。特に何も言われなかったから2人は知らないはずだ。でも、もしここでシルヴァン様が私に向かってあの日のことを言ったら、2人はどうするだろうか。2人が知らないと言うことはシルヴァン様も言っていないということだから、何も言わないかもしれないけれど、私の顔を見て急に言わなきゃいけないと思うかもしれない。もしそうなったら。
…流石に怒られるかもしれない。2人には多少、好かれているとは思っている。夜中に1人で外に出た事を咎められるぐらいには。
「…初めまして、旦那様。私はベルティーヌと申します」
シルヴァン様が何か言う前に私は初対面のふりをして淑女の礼をした。沈黙が少しあって、シルヴァン様が貴族の礼を返す。
「シルヴァン・ウィレットだ。長い間顔を合わせられず申し訳なかった、ベルティーヌ嬢。今後はよろしく頼む」
…よ、よかった。初対面のふりをしてくれた。その後ぎこちないながらも会話を始めた私たちを使用人2人が傍で見守ってくれていた。
「…ねぇカレル、何でベル様初対面なのにすぐシルヴァンって分かったんだろ」
「……さあね」
「…そうなの?」
朝食を用意しながらカレルに当たり前のように言われて驚いた。私は殆ど着の身着のまま自分の体だけで来たつもりだった。
「婚約の話が来た時に、ベインズ伯爵からいくらかいただきました。娘をよろしく頼むと」
「…そう。お父様が…」
お父様。お母様が死んで、最悪な義母達を残して家に帰らなくなった人。まだ、娘に対する情なんてあの人にあったのね。まあ、形だけのつもりだろうけれど。
とにかく、それで来たばかりの時から2人が優しい理由が分かった。お金は大事だ。
「そのお金のおかげで家計に余裕ができたんです。ベル様。新しい洋服を仕立てましょう。流石に前の奥様の服を着せてばかりいられません」
真面目な顔でシャールカが言う。私は自分の洋服を見下ろす。今着ている服も寝巻きも大半この家にあった物を着せてもらっている。自分の持ってきた服はいつのまにかシャールカが処分していたようだった。
「…そうね、お願いしようかしら」
万が一でも社交があれば新しい服が必要になる。
あ、と不意にカレルが何か思い出したような声を出す。
「旦那様の仕事がやっと一区切りつきそうで…。落ち着いたらお二人で町に降りてみてはいかがですか。夫婦で洋服を仕立てに行く、というのは良くないですか?」
「いいですね!ベル様、新婚なのに夫に会えないなんて不義理をしてしまってすみませんでした。多分もう少ししたらゆっくりできるはずなので!」
2人が楽しげに言うのでつられて私も微笑んでしまう。
「そうね、楽しそう」
数日後、シャールカに呼ばれて食堂に行くと、そこにはシルヴァン様が立っていた。明るいところで見ると紫の瞳が光って見える。一瞬ぼうっとして、はっと気づいた。
私はあの日、夜中に家を抜け出して星を見に行った事をシャールカにもカレルにも言っていない。特に何も言われなかったから2人は知らないはずだ。でも、もしここでシルヴァン様が私に向かってあの日のことを言ったら、2人はどうするだろうか。2人が知らないと言うことはシルヴァン様も言っていないということだから、何も言わないかもしれないけれど、私の顔を見て急に言わなきゃいけないと思うかもしれない。もしそうなったら。
…流石に怒られるかもしれない。2人には多少、好かれているとは思っている。夜中に1人で外に出た事を咎められるぐらいには。
「…初めまして、旦那様。私はベルティーヌと申します」
シルヴァン様が何か言う前に私は初対面のふりをして淑女の礼をした。沈黙が少しあって、シルヴァン様が貴族の礼を返す。
「シルヴァン・ウィレットだ。長い間顔を合わせられず申し訳なかった、ベルティーヌ嬢。今後はよろしく頼む」
…よ、よかった。初対面のふりをしてくれた。その後ぎこちないながらも会話を始めた私たちを使用人2人が傍で見守ってくれていた。
「…ねぇカレル、何でベル様初対面なのにすぐシルヴァンって分かったんだろ」
「……さあね」
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