のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

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噂と真実

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…あ、そういえば。
「シルヴァン様、何故私がベルティーヌだと分かったんですか?お会いするのは初めてですよね」
黙々と歩いていた彼は私の質問にちらりとこちらを見てから前に顔を戻す。
「…会ったことはないが、カレルやシャールカから話は聞いていた。どんな見た目なのか、どんな性格なのか。それに、2階の俺の部屋から、誰かが窓から出ていくのが見えたからな。俺の家から出てくる見知らぬ人物ならベルティーヌ嬢の可能性が高いと思った」
納得すると同時に顔がかっと熱くなる。口元を手で覆って下を向く。見られた。窓から抜け出す所を。子供みたいにお転婆した所を。は、恥ずかしい。返事をしない私を訝ったのかシルヴァン様が後ろを振り返った気配がするけど恥ずかしさで私は顔を上げられなかった。

「…着いた」
2人とも無言のまま歩き続け、シルヴァン様の声で顔を上げる。目の前にはウィレット子爵家の玄関。
「窓からじゃなくてここから出入りしてくれ」
「わ、わかってます…」
そろそろ顔から火が出そうだ。涙目になっている気がする。
部屋の前まで送ってもらい、おやすみを言い合った。
「それじゃ、ゆっくり休んでくれ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい、シルヴァン様」

「シルヴァン様ってどんな人?」
私に聞かれたシャールカは豆鉄砲を喰らったような顔をした。
あれから少しだけ眠って、次の日の朝、シャールカに着替えを手伝ってもらいながら聞いてみる。ここ数週間、シルヴァン様の事を何か聞いたりなんてしなかったから驚かせるのも当然だろう。
「何かありました?あ、何かされました!?」
「え、いいえ、何でもないのよ?気になっただけだから」
私の髪を結びながらずいと顔を近づけるシャールカにちょっと気圧されながら首を振る。納得はしていなさそうだが体を戻したシャールカが何か考える顔をする。
「シルヴァン…旦那様ですか…。あー、そう、ですね…」
ものすごく言いづらそうだ。
「ここに来るまでに噂は聞いたのよ。あんまり良いものではなかったけど」
「あ、はい。大半事実だと思います」
けろりとした顔で首を縦に振られる。
「…堅物で不器用で融通が利かない、とか」
「そうですね。自分の理論で生きてるので、理屈立ってないことは大体拒否します」
「上位貴族に楯突いて肩身が狭い、とか」
「何か知らないですけど、パーティで喧嘩売ったらしくてただでさえなかった収入がガクンと下がりまして」
「貴族なのにお金が全くない、とか」
「給料も払えないので大体の使用人が逃げました」
「…わー」
何とも言えなくなった私にシャールカが焦った顔をする。
「わ、悪い男では、悪い男ではないんです…!だから見捨てないでやってください…!ただでさえ婚期過ぎかけてる金無し男、ベル様の次はもうないんです…!」
私を拝まんばかりにするシャールカを押し留めながら思案する。私がここにいる意味は本当にあるのだろうか。お金が無いのなら、対して持参金を持ってきたわけでも無い、仕事もしない夫人なんて必要だったのだろうか。私には戻れる家もないし、いらないと言われても居座るしかないけれど。
…家の金のことならきっと、カレルの方が詳しい。後で聞いてみよう。
…あ。
「婚期を過ぎかけって、シルヴァン様っていくつなの?」
「今年27ですね。カレルと同い年です」
「…わあ」
8個も年上だった。
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