のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

しぎ

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出会い

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暗い灰がかった茶髪に、タンザナイトのような紫の瞳が星明りに光っていた。走って来たのか少し息を乱して、厳しい顔をしたその男の人が私のことをじっと睨んでいた。突然誰もいなかった場所で、知らない人に声をかけられて思わずぽかんとした私に、男の人はもどかしげな顔をして、言葉を足す。
「こんな夜中に、外に出てはいけない。何がいるかわからない。何か用事があったとしても一人で行ってはいけない。誰かに声をかけていくべきだ」
まるで幼子に言うかのように噛んで含めるように叱られた。男の人の言っていることが正しくて、私はあわてて頭を下げた。
「・・・ご、ごめんなさい。星が見たくて。ここからならきっと家からよりもよく見えると思って来てしまったんです」
「・・・星が見たいというならなおさら人に言うべきだ。明かりも持たず、体を温めるものも持たずでは危ないし風邪をひく。ストールだけでは足りない。何か用意をしてもらうべきだ」
淡々とした言葉は私を心配するもので、私は嬉しく感じてしまう。初めて会う人なのに、私を気遣ってくれて優しい人だ。
「ごめんなさい。そうですね。本当に何か言ってから出るべきでした。もう帰ります」
「あぁ」
一声返して男の人は背を向ける。ゆっくりと歩く男の人を見送っていると急に男の人が振り返った。
「何をしている?」
「・・・?見送りを」
「・・・帰らないのか?」
「大丈夫です。もう帰ります」
男の人は一瞬難しい顔をして、それからあっと何かに気づいた顔をした。少し離れていた私のところに戻り、不意に貴族の礼をした。
「シルヴァン・ウィレットだ。挨拶が遅れて申し訳ない、ベルティーヌ嬢。俺はあなたの夫だ。あなたと同じ所に住んでいる。今俺はあなたを部屋まで送っていこうとしている。だから見送りはいらない。ここにいるのではなく一緒に家に戻ってほしい」
「・・・え?」
男の人・・・シルヴァンに差し出された手を見つめ、私はただぽかんと口を開けていた。

帰り道、シルヴァンは黙ったまま私の前を歩いていて、私も何も言わずに彼についていった。後ろから気づかれないように観察する。長い間をおいて、初めて会った旦那様は私よりもいくらか年上に見えた。カレルと同じぐらいだろうか。きちんと背を伸ばしてまっすぐに丘を下っている背中。偏屈だと言われている子爵は私の目には良い人のように見えた。夜中に家を抜け出した会ったこともない妻を心配して追いかけてくれるような人だ。きっと良い人だ。
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