6 / 30
歩み寄り
しおりを挟む
「おはようございます。朝早くに起きて掃除をされていたと聞きました。何か気になることがありましたか?」
「いいえ、そうじゃないの。今までの癖で起きちゃって、起きちゃったから掃除をしてただけなの。シャールカの仕事を取ってしまってごめんなさい」
「いえ、何もなければそれでいいのです。掃除は、この家ではメイドの仕事ですから、ベルティーヌ様は朝はゆっくりお過ごしください」
「分かったわ、ありがとう」
ほっとした顔のカレルが用意してくれた朝食はやっぱり温かくて美味しかった。一息吐いて、ふと思い立つ。
「カレル、子爵の仕事が立て込んでいるなら私に手伝わせてくれないかしら?家では書類仕事をしていたから、問題無く手伝えると思うわ」
家に来たばかりの新参者に手伝わせたくないなら無理かなとは思う。案の定カレルは困った顔をした。
「ベルティーヌ様のお手を煩わせるほどでは…。あれはシルヴァン…旦那様の責任なので」
「そう…分かったわ」
私の顔がよほど情けなく見えたのか、カレルとシャールカがまた困った顔をする。2人は顔を見合わせぼそぼそと何やら話し合いを始めた。小さな声だから私には聞こえないけれど、顔を寄せ合って話す2人は仲が良さそうで少し微笑ましい。話がまとまったのか、シャールカが私の方を見る。
「ベルティーヌ様は今はゆっくりお休みしているべきだと思います。でも、何もない、というのも暇で困りますよね。ベルティーヌ様は本が好きだったりしますか?うち、娯楽になりそうな物があまり無いのですが、古い本なら多少あるので、書斎を案内しようかと思うのですが」
ずいとシャールカが私の方に寄ってくる。少しだけ身を引いて私は微笑んだ。
「そうね。本は好き。お願いしようかしら」
「分かりました!ちょっと書斎を片付けてくるので少しお待ちください!」
飛び上がるようにしてシャールカが食堂を飛び出していく。
シャールカを目で追っていたカレルが呆れたようにくすりと笑った。
「…すみません。シャールカは・・・私もですが、あまり貴族の方に対する礼儀がなっていません。というより、貴族として知っているのが主人のシルヴァンぐらいなのです。付き合いが長いものですから、・・・幼馴染のようなものでして。正しく礼を尽くすことがあまりうまくできなくて・・・。お気を悪くされたら、本当にすみません」
困ったように微笑むカレルに微笑み返す。
「そうだったのね。大丈夫よ。それに、そういうことなら私にも無理に敬語を使ったり気を遣おうとしなくてもいいのよ。すぐには無理かもしれないけど。・・・きっと長い付き合いになるんだから」
すぐに返答はなくても、微笑む顔だけで好意は伝わる。忙し気なシャールカが食堂に飛び込んでくるまで、私とカレルはただ静かに微笑みあっていた。
「いいえ、そうじゃないの。今までの癖で起きちゃって、起きちゃったから掃除をしてただけなの。シャールカの仕事を取ってしまってごめんなさい」
「いえ、何もなければそれでいいのです。掃除は、この家ではメイドの仕事ですから、ベルティーヌ様は朝はゆっくりお過ごしください」
「分かったわ、ありがとう」
ほっとした顔のカレルが用意してくれた朝食はやっぱり温かくて美味しかった。一息吐いて、ふと思い立つ。
「カレル、子爵の仕事が立て込んでいるなら私に手伝わせてくれないかしら?家では書類仕事をしていたから、問題無く手伝えると思うわ」
家に来たばかりの新参者に手伝わせたくないなら無理かなとは思う。案の定カレルは困った顔をした。
「ベルティーヌ様のお手を煩わせるほどでは…。あれはシルヴァン…旦那様の責任なので」
「そう…分かったわ」
私の顔がよほど情けなく見えたのか、カレルとシャールカがまた困った顔をする。2人は顔を見合わせぼそぼそと何やら話し合いを始めた。小さな声だから私には聞こえないけれど、顔を寄せ合って話す2人は仲が良さそうで少し微笑ましい。話がまとまったのか、シャールカが私の方を見る。
「ベルティーヌ様は今はゆっくりお休みしているべきだと思います。でも、何もない、というのも暇で困りますよね。ベルティーヌ様は本が好きだったりしますか?うち、娯楽になりそうな物があまり無いのですが、古い本なら多少あるので、書斎を案内しようかと思うのですが」
ずいとシャールカが私の方に寄ってくる。少しだけ身を引いて私は微笑んだ。
「そうね。本は好き。お願いしようかしら」
「分かりました!ちょっと書斎を片付けてくるので少しお待ちください!」
飛び上がるようにしてシャールカが食堂を飛び出していく。
シャールカを目で追っていたカレルが呆れたようにくすりと笑った。
「…すみません。シャールカは・・・私もですが、あまり貴族の方に対する礼儀がなっていません。というより、貴族として知っているのが主人のシルヴァンぐらいなのです。付き合いが長いものですから、・・・幼馴染のようなものでして。正しく礼を尽くすことがあまりうまくできなくて・・・。お気を悪くされたら、本当にすみません」
困ったように微笑むカレルに微笑み返す。
「そうだったのね。大丈夫よ。それに、そういうことなら私にも無理に敬語を使ったり気を遣おうとしなくてもいいのよ。すぐには無理かもしれないけど。・・・きっと長い付き合いになるんだから」
すぐに返答はなくても、微笑む顔だけで好意は伝わる。忙し気なシャールカが食堂に飛び込んでくるまで、私とカレルはただ静かに微笑みあっていた。
5
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。
木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。
不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。
当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。
多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。
しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。
その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。
私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。
それは、先祖が密かに残していた遺産である。
驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。
そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。
それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。
彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。
しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。
「今更、掌を返しても遅い」
それが、私の素直な気持ちだった。
※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
【完結】結婚初夜。離縁されたらおしまいなのに、夫が来る前に寝落ちしてしまいました
Kei.S
恋愛
結婚で王宮から逃げ出すことに成功した第五王女のシーラ。もし離縁されたら腹違いのお姉様たちに虐げられる生活に逆戻り……な状況で、夫が来る前にうっかり寝落ちしてしまった結婚初夜のお話
新しい聖女が見付かったそうなので、天啓に従います!
月白ヤトヒコ
ファンタジー
空腹で眠くて怠い中、王室からの呼び出しを受ける聖女アルム。
そして告げられたのは、新しい聖女の出現。そして、暇を出すから還俗せよとの解雇通告。
新しい聖女は公爵令嬢。そんなお嬢様に、聖女が務まるのかと思った瞬間、アルムは眩い閃光に包まれ――――
自身が使い潰された挙げ句、処刑される未来を視た。
天啓です! と、アルムは――――
表紙と挿し絵はキャラメーカーで作成。


冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる