のんびり灰かぶりは貧乏子爵様に嫁入りしました。『理屈屋と感覚派』

しぎ

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急な話

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「…えーと、こっちは、領地の治水に関する書類、あっちは王家に提出する書類、…なんでここにお茶会の招待状があるのかしら?本人が返事する物じゃないの?お願いだから書類にまとめないで…私が返事書かなくちゃいけなくなる…」
あぁ。
「書類が、終わらない…」
気が遠くなりそうだった私の部屋のドアが不意にノックも無しに開かれた。
「…家だからってそんなにみっともない格好をして…、恥ずかしいとは思わないの?」
開口一番に眉を顰めて私を罵倒した義母に私は適当に謝罪を口にする。みっともないって言ったってつぎはぎのない服を着れているだけ今日はマシな方だ。
「お義母様、ノックをしてください。…すみません、お義母様。何故かこの家の書類が全て伯爵でも、夫人でもない私に集まるので身なりに気を使う余裕がないのです」
顔をぐしゃっと顰めた義母は次いでにやりと口元を歪ませた。
「ベルティーヌ、あなたに良い話があるのよ」

「…私がウィレット子爵に嫁入り…ですか?」
あんまりにも不可解な言葉に首を傾げる私にお義母様は更に口の端を捻じ曲げて笑った。
「そうよ、ベルティーユ。あなたはあのウィレット子爵家に嫁に行くのです。安心しなさい?この家はあなたの義姉が継ぎますからね。何も気にせず行きなさいな」
書類を全部片付けて、5日後までに荷物を纏めなさい、と最後に言ってお義母様はくるりと背を向けて私の部屋を出て行った。
…荷物を纏めるも何も、この部屋にあるのは書類ばっかりで私の物なんて何にも無いのに。ちょっとだけ、溜息が漏れた。あのウィレット子爵って言われても、知らないし。

小さい頃は本当に幸せだった。お父様がいて、お母様がいる。大事な娘として可愛がられて、大好きな家族といるのは幸せだった。その日々が終わったのは私が10歳の時。流行病でお母様が亡くなってしまって、茫然自失のお父様が再婚したのは最悪の人だった。
義母はこれまた最悪な2人の義姉を連れてきて、私の持っていた物を全て奪って行った。母の遺した物は私の元にはもう何にも残ってない。代わりに家中の仕事が全部私の物になって、書類や家事をこなす日々。頼りになるはずの父は、母の死後から腑抜けてしまって領地に籠り、家には碌に帰ってこなくなってしまった。

「あらぁ?ベルティーユ、しょぼくれた顔してるじゃない?まるで爵位が継げなくてがっかりしたみたいな顔ね?」
ドアをノックもせずに義姉がズカズカと入ってきてにやにやと私を馬鹿にする。
「…アビー、部屋に勝手に入らないでって、」
「いいじゃなぁい、あんたはもう出て行くんだから。この部屋も私のものになるのよ、そう!だって私がこの家を継ぐから!私はアビー・ベインズ伯爵になるのよ!」
にやにや笑いすぎて口角がそろそろ限界を迎えそうな義姉が楽しげに言う。
「…お義母様もそう言っていたけど、どういうこと?あなた達は養子にあたるから、私を無視して伯爵家を継ぐなんて」
ありえない、と続けようとした私の言葉をアビーの高笑いが遮る。
「お父様が許してくださったのよ、あんたじゃなくて私がこの家を継いでもいいって!残念だったわね?」
…説明になってない。父が許したからと言ってベインズ伯爵家の血を引く私を差し置いてアビーを後継者として親族が認めるとは思えない。そもそもベインズ伯爵家は母の実家で、入婿の父に後継を決める権利は本当は無いはずなのに。義姉達は父の実子でも無いし。
…そう言いたかったけど、馬鹿馬鹿しくなってしまった。私が何を言おうとアビーは高笑いで馬鹿にするだろう。
「…そうね、残念だわ。部屋を片付けるから出て行ってくれないかしら」
「ええ、そうね、ベルティーヌ、でもあなたこの何にもない部屋の何を片付ける気なの?」
最後まで高笑いを響かせながらアビーは出て行った。
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