手元にある本で三題噺

しぎ

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私 君 四人

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① 私
② 君
③ 四人

 私には四人恋人がいた。全て過去の話である。私の性質から、全て男ではあったが。
一人目は、桜のような男であった。二月の初めに出会い、その次の年の四月に別れた。彼の死が原因であった。病死である。儚い男であった。病からくる熱い手でよく私の手を握り、冷たくて気持ちがいいと笑った。寒いから冬が好きなのだとよく話す男だった。
二人目は、向日葵のような男であった。八月に出会い、その月の間に別れた。大輪の花のようによく笑う男だった。避暑地で起こった短い恋だった。ほんのひと時私たちは愛を重ね、住所も告げずに別れた。彼がある時、左手に指輪を付けているのを私は見てしまった。君の手はよく冷えていると、私の手には触れたがらない男だった。春が待ち遠しいと目を細める男だった。
三人目とは、割合長く付き合った。彼岸花のような男だった。私が結婚したことで別れた。四年は一緒に居たはずだ。よくふらふらと外にばかり居て、徘徊しているような男だったから、長年共にいたはずなのに、大した思い出もない。赤い着物を着て、河原の土手をおぼつかない足取りでゆらゆらと歩く後ろ姿を覚えているばかりである。彼の手とは体温が近かった。どちらの手にも温かさが移らないような熱さだった。夏の空の青さに焦がれる男だった。
四人目は、妻と死に別れてから出会った。つい半年ほど前のことである。牡丹のような男だった。艶然と笑う姿についふらりと魅せられてしまった。美しい男だった。色の白い手は私よりもずっと冷たくて、体温を移してしまうのが何故か恐ろしく感じて手に触れられなかった。彼といると自分がぐにゃぐにゃと駄目になってしまうような気がして恐ろしくて別れを告げた。いつも通りの艶やかな笑い方を一つして、振り返りもせずに去って行った。秋の果物が好きな男だった。

彼らにはよく、私は梅雨のような男だと言われた。しとしとと降るほんの短い期間のような男だと。それは、出会いの場で、部屋の中で、カフェの中で、こっそりと耳元で囁かれるように私に与えられた言葉だった。この先、私に再びこの言葉を贈る男が現れるのかはまだ分からない。四季が巡らないことを祈るばかりである。
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