ぴょんちゃんのクリスマス

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ぴょんちゃんのクリスマス

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 森の草原では、ちらちらと雪が舞っています。
 ナキウサギのぴょんちゃんが、一面の雪景色に溶け込んでいます。
 ぴょんちゃんは、自分の姿を探してほしいかのように、たったかたったか走り回ります。

 ぴょんちゃんは、目がちかちかしました。
 目をぱちぱちしています。
「ぴょんちゃん、目をぱちぱちしてどうしたの?」
 リスのりんちゃんが、ぴょんちゃんに声をかけました。
「おめめに何か入ったみたいぴょん」
 ぴょんちゃんは、相変わらず目を開いたり閉じたりしています。
 りんちゃんは、くわえたどんぐりをぴょんちゃんに見せました。
「ぴょんちゃん、どんぐりはいくつに見える?」
    りんちゃんがしっぽをピンと立てて聞きました。
「1個しかないぴょん」
  ぴょんちゃんは、目を見開きました。
  りんちゃんは、にっこり微笑みます。
「だいじょうぶ。何も入っていないよ」
 リスは耳をピンとたてると言いました。
 その時、雪に反射して光るものがありました。
「まぶしいぴょん」
 キツネのこんばあさんが木の下に立っていました。
 手には、光るものを持っています。
 こんばあさんが持っているものが雪に反射して光っているようです。
「あっこんばあさん」
 ぴょんちゃんは、こんばあさんの近くまで走り寄ります。
 リスのりんちゃんは、あわてて逃げようとしました。
「りんちゃん! 逃げなくても大丈夫ぴょん」
 ぴょんちゃんが、振り向きます。
「でも、キツネだよ?」
「大丈夫、大丈夫。この間、こんばあさんとはひな祭りを一緒にした仲なんだぴょん」
 ぴょんちゃんは、こんばあさんを紹介しました。
「かわいいリスだねえ。名前はりん、っていうのかい」
 りんちゃんは、まだ心臓がドキドキしていました。
「そ、そうです」
 キツネのこんばあさんが、ゆっくりとりんちゃんの頭の匂いを嗅ぎました。
「わ、私を食べるんですか?」
 りんちゃんの体が小刻みに揺れています。
「はっはっは。ぴょん助と同じことを聞くんだねえ」
 こんばあさんは、あッはッはと笑いました。
「ほーら見てごらん」
 こんばあさんは、リスにボロボロになった歯をい~っと歯を見せました。
「お前さんを食べたくても、この歯では食べられやしないよ」
 リスのりんちゃんは、ほっとしたようにぴょんちゃんを見ました。
「こんばあさんは、いいキツネさんぴょん」
 ぴょんちゃんは、ねーっとこんばあさんに体を寄せました。
「わたしゃ、こんな年寄りだろう。エサも自分でとれやしない。もう走るのもきついんだよ。だから、鷹のタカオにエサを持ってきてもらって何とか生き延びているのさ」
「たか?」
  りんちゃんは、ぶるぶるっと身震いしてぴょんちゃんの顔を見つめました。
「鷹のタカオさんも一緒にひな祭りしたぴょん」
  ぴょんちゃんは楽しそうに笑います。
「ぴょんちゃん、鷹さんとキツネさんとお友達なんてすごいんだねえ」
 リスのりんちゃんは、うっとりとした顔でぴょんちゃんを見つめました。
「ぴょんは、こう見えてもすごいんだぴょん」
 エッヘンと胸を張っていると……
 頭の上から雪が落ちてきました。
「びっくりしたぴょん」
「タカオかね」
 こんばあさんが声をかけると、しゅうっとタカオが降りてきました。
「こんばあさん、出かけるときは声かけてくださいよ。探してしまいましたよ」
 タカオがぴゅうっと鳴きました。
「悪かったね。ぴょん助からクリスマスパーティーをしようと前に言われただろ。それを思い出したんだよ」
「それで下に降りてきたんですね」
 こんばあさんが、咳ばらいを一つしました。
「ほら、これを見てごらん」
 こんばあさんが、手に持っているものを見せます。
「これは何ぴょん」
 こんばあさんの手の中には茶色っぽい石みたいな星形のものが乗っていました。
「この間流れ星がたくさん流れた夜があっただろう」
 リスのりんちゃんもナキウサギのぴょんちゃんもきょとんとしています。
「寝てたかも……」
 小さい二匹は顔を見合わせました。
「お子様はおねむだったかなあ。大人のロマンがわからないんだな」
 鷹が少し馬鹿にしたように笑いました。
「お子様だってロマン、わかるぴょん。ねえ、りんちゃん」
 ぴょんちゃんがムスッとしてりんちゃんに同意を求めました。
「ロマンって何?」
 りんちゃんは、鷹を見上げて聞きました。
「おお、ロマンっていうのはな。夢や冒険にあこがれるっていうことだよ。よく男のロマンっていうだろ」
 タカオがうっとりしたように空を見上げました。
「冬の夜空なんてロマンチックなんだぜ。お子様も時には夜空を眺めるといいぜ」
「ぴょんは、あんまり遅くまで外に出ているとフクロウさんにつかまるからって叱られるぴょん」
 ぴょんちゃんは、フクロウにつかまったことを思い出して身震いしました。
 こんばあさんが、話を続けます。
「流れ星の話に戻るよ。私が、木に寄りかかって星を眺めていたらね。地面に落ちる前に消えたように見えたんだよ」
 こんばあさんは、驚くように前足を持ち上げました。
「星が消えたぴょん」
「そう、森の手前で夜空に吸い込まれるようにふっと消えてなくなったように感じたんだ。今までそんなことはなかった」
 こんばあさんは、ふうっと息を吐きました。
「今まではどうだったんですか」
 黙っていたりんちゃんが口を開きました。
「今までは、流星が夜空をすうっと流れては消え流れては消え目で追うのが精いっぱいだっただよ」
 りんちゃんが、くすり、と笑いました。
「今までも消えていたんですよね」
 こんばあさんは、ひげをピクリとさせました。
「今までとは違うから話しているんだよ」
「すみません」
 りんちゃんが、うつむきます。
「森の中にきちんと流れて落ちていたのが、森の手前で消えるようになくなったのは初めてなんだよ」
 こんばあさんが、ピクリとしたのはそれっきりでした。
「それで、タカオにわけを探りに行ってもらったら……」
 こんばあさんが言うと……
「その茶色い石みたいなものが見つかったんですね」
 りんちゃんが、ふさふさしたしっぽを揺らしながらおばあさんの手の中をのぞき込みました。
「小さいぴょん」
 ぴょんちゃんもちょっとだけのぞき込みました。
 その時です。石みたいなものがぴょんと飛び跳ねました。
「飛び跳ねたぴょん」
 ぴょんちゃんが、ぴょんと飛び跳ねました。
「飛び跳ねたのはぴょん助だろ」
 目の悪いこんばあさんは、近くのものが見えにくいようです。目をしょぼしょぼさせています。
「違うぴょん。石だぴょん!」
 ぴょんちゃんが、もう一度石を見ると石はじっとしていました。
「今日は目がおかしいぴょん」
 ぴょんちゃんは、後ろ足で立ち上がりました。
〈おかしくないよ。僕、飛び跳ねたよ〉
 小さな声が聞こえたように思えてぴょんちゃんはあたりを見回しました。
「りんちゃん、今僕っていったぴょん?」
「私、女の子だし、私っていうよ」
 リスのりんちゃんは、どんぐりのような目をキラキラさせて顔を傾けました。
〈リスじゃないよ。僕だよ、僕〉
 石がふるふると揺れました。
「石がしゃべったぴょん」
 ぴょんちゃんは、大声で叫びました。
〈しっ。ぴょんちゃんにだけ聞こえるように話しているんだから黙って〉
「石に怒られたぴょん」
 ぴょんちゃんは、びっくりして手をバタバタさせています。
〈僕は、流星のりゅうっていうんだよ。流れ星の仕事をしているときについよそ見をして木の枝に引っ掛かってしまったんだ。どうしようと思っていたところを鷹に見つけられてここに連れてこられたんだよ」
 石はぴょんちゃんだけに聞こえる声で話しました。
「そうなのぴょん」
 ぴょんちゃんが、石に向かってぼそぼそつぶやくように話しかけているので、みんなは気味悪そうにぴょんちゃんの事を見ました。
「石さんは、どうしたいのぴょん」
〈僕はみんなのところに戻りたいんだよ。流星っていうのは、流れたら夜の後ろを通って空へ戻らなければいけないんだ。みんなが待っているんだよ〉
 石は、ぴょんちゃんだけに見えるようにフルフルっと震えました。
〈ぴょんちゃん、僕を夜になったら森に連れて行ってくれないかな〉
「それは無理だぴょん。ぴょんは、お母さんにお日様が沈んだら帰らなければいけないぴょん」
 石は悲しそうに揺れました。
〈じゃあ、せめてクリスマスツリーの一番上に乗っけておくれよ。そうしたら、空のみんなに見つけてもらえるかもしれないし〉
 石はぴょんちゃんだけに見えるように、手を出してぴょんちゃんに向かって手を合わせました。
「手が出たぴょん!」
 ぴょんちゃんは、ぎょっとしました。
 みんなは、相変わらず独り言をぶつぶつ言っているぴょんちゃんを気味悪そうに見ていたので気づきませんでした。
「わかったぴょん」
 ぴょんちゃんは、うなずくとみんなを見回しました。
「みんな、この石さんは流星だぴょん」
「どうしてわかったんだい」
 こんばあさんは、ぴょんちゃんの顔をのぞき込みます。
「石さんが話したぴょん」
 ぴょんちゃんが説明しましたが、みんなはふーんといったきり信じられないというふうに石を見るのでした。
「でも、本当だとしたら戻してあげないとかわいそうだよね」
 リスのりんちゃんは、ぴょんちゃんに言いました。
「本当なんだぴょん。流星のりゅうくんは木の枝に作ってあったリスの巣が気になったみたいなんだぴょん」
「えっ」
 りんちゃんが、急に身を乗り出しました。
「巣の中に置いてあったドングリが気になったらしいぴょん」
 ぴょんちゃんが説明すると、りんちゃんは「星がドングリを気にするなんて……」といってくすっと笑いました。
「わかった。ちょっと待っていて」
 りんちゃんは、たたっと森の中へかけていきました。
「お待たせ」
 しばらくしてりんちゃんは頬袋をふくらませて帰ってきました。
「ぴょんちゃん、石さんにドングリをどうぞって言って」
 りんちゃんが頬袋からドングリを出すと、ぴょんちゃんは石に渡しました。
〈わあ、これこれ。これが気になってよそ見しちゃったんだよ〉
 相変わらずぴょんちゃんにだけ聞こえる声でささやいてぴょんと飛び跳ねました。
 今度はみんなも石が跳ねるのが見えました。
〈これをもって空に帰りたいな〉
 流星のりゅうくんが言ったのでぴょんちゃんはみんなに伝えました。
「それじゃあ、クリスマスツリーを飾るぴょん」
 キツネのこんばあさんが、手ごろな木を指さしました。
「あの木を飾り付けようじゃないか」
「いいですね」
 タカオがうなずきました。
「私、どんぐりをたくさん持ってきたの」
 リスのりんちゃんが残りのドングリを頬袋からたくさん出しました。
「わあ、どんぐりツリーだぴょん」
 みんなは、木の枝に雪を乗せて、その上にドングリをちょこんと置きました。
 ぴょんちゃんも秋の間に取りためた木の実や葉っぱを乗せました。
 みんなはいろいろ飾り付けると、タカオに流星をそっとくわえさせました。
 タカオは、木のてっぺんに流星のりゅうくんを置きました。
「さあ、みんなのもとへ帰れるよ」
 タカオが石に声をかけました。
〈皆さん、ありがとう、ありがとう〉
 石はみんなに聞こえるように言いました。
 流星のりゅうくんは、木のてっぺんでキラキラと輝き始めました。
〈皆さん、さようなら、さようなら〉
 そういうと、どんぐりを抱えてしゅっと夜の闇に消えていきました。
「メリークリスマス!」
 みんなは、夜空に向かって手を振りました。
 夜空には星が夜空一面広がっていました。
 






 
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