2 / 6
毎日忙しいなあ
しおりを挟む
カスガは次の朝早くから働いていました。
家の掃除をしたり、栄養たっぷりのサラダを作ったりご飯を用意して、奥さんが起きるまでこまごまと家事をするのが日課となっていました。
「カスガはほんとに働き者だね」
奥さんは、感心して言いました。
「私も少し動かないとおなかの赤ちゃんのためにもよくないから少し仕事残しておいてよ」
「どうせ僕今自宅にいるんだし、出来ることはするよ。マミはこの間お医者さんからあまり無理しないで、おなかの赤ちゃんのためにもゆっくりのんびりするようにって言われたでしょ」
カスガが言うとマミは「そうだけど、何もしないのも申し訳ない」とぷうっと頬をふくらませました。
「じゃあ、マミはテーブルふきよろしく」
カスガはマミに台ふきを手渡しました。
カスガの庭にはモンキチョウやシジミチョウが飛び、花の蜜を吸っていました。シジュウカラなどの野鳥もやってくるのでした。自然豊かなこの庭では鳥たちは餌にも困りません。
町では気味の悪い伝染病が流行っていて、むやみに外出することは禁じられていました。
毎日何千人も感染者が出たとニュースで報じられていて、町に住む人々は恐怖におびえながら生活しているのです。それでも、我が家には鳥も虫もいて、ほっとできる場所ではありました。
「ねえ、カスガ。昨日はどこに行っていたの? 用もないのに出かけたらだめだよ。怒られちゃうよ」
マミがテーブルをきれいに拭きながらカスガの顔を見つめます。
「ちょっとお散歩に行ってたんだよ。政府もお散歩はしていいって言っているし、だれにも怒られないよ」
カスガは目を細めてマミに説明しました。
「そっか。お散歩はいいんだっけ。ごめん。それにしても、目が覚めたらかごが置いてあって驚いたよ。しかも中からおいしそうなブルーベリーパイが出てきてまたまたびっくり!」
奥さんはまるい目をさらに見開いてカスガの顔をじっと見つめました。
「ちょっとつまんだらおいしくて、気が付いたら半分食べてた」
「まだ残っている?」
「もちろん、あんなにたくさんのお菓子を全部食べたら体重が一気に増えてお医者さんに怒られちゃう」
奥さんはくすくす笑いながら消毒液を台ふきにスプレーすると、テーブルを丁寧に拭きました。
「じゃあ、今から食べよう。森の中にタヌキのおばちゃんとおじちゃんがやっている食堂があってね、偶然見つけたんだ。そうしたら帰り際に、タヌキさんがお土産にってかごに入ったお菓子を持たせてくれたんだよ」
「タヌキ? タヌキのブルーベリーパイなんて食べたらタヌキになっちゃわない? あ、でももうタヌキみたいなおなかか」
奥さんはおなかをポコポコたたく真似をしました。
「ああ、だめだよそんなにポコポコたたいたら。子カスガがびっくりしちゃう」
カスガが慌てて奥さんのおなかにやさしく手を当てました。
「ごめんね、子カスガ、ママは本当におっちょこちょいですねえ」
「そんなことないですよ、ママはしっかり者ですよー。安心しなさい」
二人はマミのおなかに向かって一生懸命に話しかけます。
奥さんはふぅと背中を伸ばして腰に手を当てました。
「それにしても、いいところだったよ。現実を忘れてしまいそうになった」
カスガが言うと、マミがうらやましそうにカスガのほっぺたをつつきました。
「いつの間にそんな楽しいことをして」
「へへ、実はトガリネズミのトンガとも友達になった」
カスガが白状すると、「トガリネズミのトンガですって! トガリネズミの友達がいるなんてなかなかいないわよ」
二人は笑ってタヌキのおばちゃんからもらったブルーベリーパイを電子レンジで温めて、サラダやスープと一緒に食べました。
「ツツッピーツツッピー」と庭からにぎやかなシジュウカラの鳴き声が聞こえてきます。
家の掃除をしたり、栄養たっぷりのサラダを作ったりご飯を用意して、奥さんが起きるまでこまごまと家事をするのが日課となっていました。
「カスガはほんとに働き者だね」
奥さんは、感心して言いました。
「私も少し動かないとおなかの赤ちゃんのためにもよくないから少し仕事残しておいてよ」
「どうせ僕今自宅にいるんだし、出来ることはするよ。マミはこの間お医者さんからあまり無理しないで、おなかの赤ちゃんのためにもゆっくりのんびりするようにって言われたでしょ」
カスガが言うとマミは「そうだけど、何もしないのも申し訳ない」とぷうっと頬をふくらませました。
「じゃあ、マミはテーブルふきよろしく」
カスガはマミに台ふきを手渡しました。
カスガの庭にはモンキチョウやシジミチョウが飛び、花の蜜を吸っていました。シジュウカラなどの野鳥もやってくるのでした。自然豊かなこの庭では鳥たちは餌にも困りません。
町では気味の悪い伝染病が流行っていて、むやみに外出することは禁じられていました。
毎日何千人も感染者が出たとニュースで報じられていて、町に住む人々は恐怖におびえながら生活しているのです。それでも、我が家には鳥も虫もいて、ほっとできる場所ではありました。
「ねえ、カスガ。昨日はどこに行っていたの? 用もないのに出かけたらだめだよ。怒られちゃうよ」
マミがテーブルをきれいに拭きながらカスガの顔を見つめます。
「ちょっとお散歩に行ってたんだよ。政府もお散歩はしていいって言っているし、だれにも怒られないよ」
カスガは目を細めてマミに説明しました。
「そっか。お散歩はいいんだっけ。ごめん。それにしても、目が覚めたらかごが置いてあって驚いたよ。しかも中からおいしそうなブルーベリーパイが出てきてまたまたびっくり!」
奥さんはまるい目をさらに見開いてカスガの顔をじっと見つめました。
「ちょっとつまんだらおいしくて、気が付いたら半分食べてた」
「まだ残っている?」
「もちろん、あんなにたくさんのお菓子を全部食べたら体重が一気に増えてお医者さんに怒られちゃう」
奥さんはくすくす笑いながら消毒液を台ふきにスプレーすると、テーブルを丁寧に拭きました。
「じゃあ、今から食べよう。森の中にタヌキのおばちゃんとおじちゃんがやっている食堂があってね、偶然見つけたんだ。そうしたら帰り際に、タヌキさんがお土産にってかごに入ったお菓子を持たせてくれたんだよ」
「タヌキ? タヌキのブルーベリーパイなんて食べたらタヌキになっちゃわない? あ、でももうタヌキみたいなおなかか」
奥さんはおなかをポコポコたたく真似をしました。
「ああ、だめだよそんなにポコポコたたいたら。子カスガがびっくりしちゃう」
カスガが慌てて奥さんのおなかにやさしく手を当てました。
「ごめんね、子カスガ、ママは本当におっちょこちょいですねえ」
「そんなことないですよ、ママはしっかり者ですよー。安心しなさい」
二人はマミのおなかに向かって一生懸命に話しかけます。
奥さんはふぅと背中を伸ばして腰に手を当てました。
「それにしても、いいところだったよ。現実を忘れてしまいそうになった」
カスガが言うと、マミがうらやましそうにカスガのほっぺたをつつきました。
「いつの間にそんな楽しいことをして」
「へへ、実はトガリネズミのトンガとも友達になった」
カスガが白状すると、「トガリネズミのトンガですって! トガリネズミの友達がいるなんてなかなかいないわよ」
二人は笑ってタヌキのおばちゃんからもらったブルーベリーパイを電子レンジで温めて、サラダやスープと一緒に食べました。
「ツツッピーツツッピー」と庭からにぎやかなシジュウカラの鳴き声が聞こえてきます。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる