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オライオン、逃げ出す
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オライオンは、夜になると、毎晩うなされました。
羊を数えても寝られやしません。
診察 にも影響が出てきました。
「オライオン、また来たわよ」
ぐりちゃんが、にっこりと微笑みながら椅子によじ登ります。
ほっぺたにつめたペレットをぽろりと椅子に落とします。
「ドッグランには、いつ連れて行ってくれるの?」
ぐりちゃんは、ペレットをかりこりと両手に持って一生懸命食べます。
「私は、園長さんではありませんからそんなことわかりませんよ」
ぐりちゃんは、ペレットを食べ終わり毛づくろいを始めました。
「だけど、この間遠足に連れて行ってくれるようにしてくれたのはオライオンだわ」
ぐりちゃんは、顔をあげてオライオンの顔を見つめます。
「ですから……」
オライオンは頭が痛くなってきました。
「約束よ。ドッグランへ連れて行ってちょうだい」
ぐりちゃんは、オライオンの肩によじ登りささやきました。
「お、おれ様は……ただみんなに言われて……自分も行きたかったし……」
オライオンはおうおう泣き出しました。
「オライオン、また来たブ」
ぶた太は相変わらずどすどすと診察室に入ってきます。
「ああ、ぶた太さん。お久しぶりですね」
オライオンのたてがみはぼさぼさのままです。
「お久しぶりって、昨日一緒に話したブ」
ぶた太はぶひっと鼻を鳴らしました。
「そうだったでしょうか。昨日の事は覚えていません」。
「大丈夫かブ? しっかりしろブ」
ぶた太は、オライオンの体にぶうっぶうっと体当たりしました。
「私は、大丈夫です」
オライオンは、よろけそうになりながら乱れた白衣を直しました。
「オライオン、湧水よもう一度だブ」
「もう一度…… ですね」
「連れて行っておくれよ。約束だブ」
オライオンは、めまいがしました。
天井が揺れています。
ぶた太はいうだけ言うと横になったオライオンを置いて出ていきました。
「オライオン、最近元気がないね~。大丈夫?」
アルダブラ君は、ゆっくりとオライオンの前まで歩いていくとオライオンの体に寄り添いました。
「みんなにもう一度遠くへ連れて行ってくれ、と一方的に押し付けられてしまって……」
オライオンの目から大きな涙がこぼれました。
涙がアルダブラ君のこうらの上に落ちます。
「私はただのカウンセラーなのに」
オライオンが、しくしくと泣き始めました。
「オライオンのことを、みんな頼りにしてるんだよ~」
アルダブラ君は、そういうと甲羅に挟んでいたカタバミの黄色い花をオライオンの前に置きました。
「もう一頭カウンセラーがいればいいのにねえ」
アルダブラ君が、ふがふが言いながら黄色いカタバミを口にくわえて差し出します。
「は~い。これあげる」
「なんですか」
オライオンは、ゆっくりと顔をあげます。
「くじけそうになった時は、花でも見てね~。何か手伝えることがあったら言ってね~」
アルダブラ君は、からだのわりにちっちゃなしっぽを振りながら出て行きました。
《本日の診療は終わりました。午後の診察は臨時休診とさせていただきます》
オライオンは、床にごろりと横になりました。
アルダブラ君が持ってきた黄色い花を眺めます。
(クローバーに似ているな)
むくり、と起き上がりました。
オライオンはポニーと羊たちのいる場所まで走っていきました。
「おい、こらポニー」
オライオンはエサを食べて一休みしているポニーに声をかけます。
「あら、オライオン」
ポニーちゃんは、たったっとオライオンに駆け寄りました。
「まだ眠れないか?」
オライオンが、ぼそっとポニーちゃんに尋ねました。
「そのことで、午後予約を入れたんだけど……」
ポニーちゃんも、そっと答えます。
「今日は疲れたから午後は臨時休診にしたんだ」
「そうなの?」
ポニーちゃんが、目を丸くします。
「今、誰もいないな」
オライオンは声をひそめました。
「アルパカさんたちはお昼寝中よ」ポニーちゃんは答えました。
「実は今度海に行こうと思うんだが、ポニーちゃんも行くか?」
ポニーちゃんの耳元でささやきます。
「えっ、オライオンと一ふたりで?」
ポニーちゃんは、驚いて目を丸くしました。
「ゴルちゃんも一緒だ」
「ゴルちゃんもなのね」
それを聞いて、ポニーちゃんは不思議そうにオライオンを見ました。
「ゴルちゃんは、海で大事なサングラスをなくしてしまって困っているようなんだよ」
オライオンが、簡単に説明しました。
「今日よし子さんに連れて行ってもらえないか頼んでみようと思うんだ」
「よし子さん?」
ポニーちゃんは目をぱちくりさせました。
「よし子さんならおれたちの困った気持ちをわかってくれるだろう」
オライオンは、よし子さんの笑顔を思い出して言いました。
「そうね、よし子さんは、いい人よ」
ポニーちゃんも、大きくうなずきます。
「とりあえず、よし子さんのところへ行ってくるよ」
オライオンは、ハムスターたちの小屋まで来ました。
「よし子さんよ」
オライオンは、トラックから降りてくるよし子さんに声をかけました。
「あら、オライオン。どうしたの?」
オライオンに、よし子さんは聞きました。
「何か私に用かしら」
よし子さんは、髪の毛についたわらを落とします。
オライオンは、トラックの陰によし子さんを連れて行きました。
「それは……」
「そこを何とか……」
オライオンが、必死に海の件をお願いします。
オライオンは、一生懸命自分もみんなに一方的にまた遠くに行きたいといわれ困っていること、眠れないこと、ゴルちゃんも大切なサングラスをなくして眠れないことを説明しました。
「うーん」
「二、三時間くらいで帰ってくるから」
「それ以上かかると、私もかばいきれないわ。とりあえず、ポニーちゃんとゴルちゃんだけ連れて行くのね」
「そうだ」
「どうしてポニーちゃんなの?」
よし子さんが聞きましたが、オライオンは「走れるやつで眠れないと言っているのは、ポニーちゃんだけだったからな」とだけ言いました。
よし子さんは、腕組みをしてしばらく考えていました。
「ちょっと時間をちょうだい」
しばらくしてから、よし子さんはオライオンに言いました。
「二、三日経ったらまた来てちょうだい」
「ゴルちゃんには、そっと伝えておいてくれ」
オライオンが言いましたが、よし子さんは横に首を振りました。
「ゴルちゃんには、行くことが決まってからにしましょう」
よし子さんは、トラックの荷台に上りました。
オライオンは二日後再びハムスターたちの小屋の前に立っていました。
「よし子さん」
オライオンのたてがみが乱れています。
「ああ、オライオン。いい知らせよ」
よし子さんは、右手を軽く上げました。
「平気なのか」
「園長さんがオッケーを出してくれたわ。その代わり、みんなに内緒だからわからないようにいくのは大変よ」
よし子さんは、眉にしわを寄せて言いました。
「おれ様、考えたんだが…… とりあえず、みんな眠れないから町のお医者さんに連れて行くってことにしたらどうかと思うんだよ」
オライオンは、首を軽く横に倒しました。
「眠れないということにするのね」
よし子さんは、なるほどと手を打ちました。
「実際、おれ様とポニーが眠れないのは本当だ。ゴルちゃんも、お姉さんからもらった大事なサングラスをなくしたらしいから思いつめた顔をしていたし、急がないといけねえ」
オライオンはゴルちゃんの目からこぼれたコメ粒ほどの涙を思い出しました。
「そうなのね」
「もう海に流されてしまっているかもしれないがな。生き別れになったお姉さんからのプレゼントだ。探してあげたいじゃないか」
よし子さんは、そっとオライオンの背中に手をあてました。
「じゃあ、明日トラックを出しましょう」
「ありがとう。あと、もう一つお願いがあるんだが…… ゴルちゃんのサングラスを探したら、少しでいいからドッグランに寄ってくれないかな」
「わかったわ」
よし子さんは、思いつめたオライオンの顔を見てオッケーと小さく言います。
「よし子さんは神様だよ」
次の日は、秋晴れでした。
トンボや蝶が園内をふわりふわりと飛んでいます。
「では、園長さん皆さん。今日はよろしくお願いします。表向き通院とみんなに伝えてありますが、本当のことは特にぐりちゃんには気づかれないようにお願いします」
よし子さんはスタッフの休憩室に集まったみんなに出発のあいさつをします。
「はい、わかりました」
園長さんが、子どものように返事します。
「ぐりちゃんは、勘が鋭いから病院へ行くって言ってどこかへ連れて行ったんじゃないか、ゴルちゃんのサングラスを探しに行ったんじゃないかって疑いかねないんです」
よし子さんはぶるっと身震いします。
「ぐりちゃんとぶた太の事は私たちに任せて。よし子さんは、オライオンたちに細心の注意を払って、特に周りに人がいないかよく確認してから、動物たちを放してください。ゴルちゃんも見失わないようにしてくださいね」
園長さんが、よし子さんの肩に手をあてました。
「ゴルちゃんは、海ではキャリーケースに入れようと思うんです」
よし子さんは、ピンクのキャリーケースを見せました。
「それがいいですね」
園長さんは、うなずきました。
「ではお願いしますよ」
園長さんは両手でよし子さんの手を固く握り締めます。
「園長さん、握りすぎ!」
ちかこさんが、セクハラセクハラ、と手を離させました。
「心配なだけですよ」
園長さんは、こほん、と窓の外を見ました。
マナさんがこちらを向いていたので、園長さんは静かにカーテンを閉めました。
「さあ、早くオライオンたちのところへ行ってあげてください。待ちくたびれてもよくないですからね」
ちらっとカーテンの隙間からマナさんをのぞきました。
マナさんは、眠くなったのかじっと動かなくなっていました。
「気を付けて。何かあったら電話して」
りょうさんが、言いました。
「町内会には回覧板で回してもらうよう頼んでおいたから。多分、みんな海やドッグランでは気を付けるわよ」
事務員のちかこさんも言いました。
「よし子さん、僕も行きましょうか?」
ライオン係のイオン君が声をかけました。
「平気よ。オライオンもほかの動物たちに迷惑かけるといけないし、今回はゴルちゃんもいるからって私に頼んだみたいだし」
「僕、そんなに頼りないっすかね」
イオン君は寂しそうにうつむきました。
「そんなことないわよ」
よし子さんは、ぽんぽんとイオン君の背中をたたきました。
「じゃあ、行ってきますね!」
みんなに手を振って、動物たちも見ていないことを確かめるとそろーりそろーりとトラックまで小走りでかけていきました。
羊を数えても寝られやしません。
診察 にも影響が出てきました。
「オライオン、また来たわよ」
ぐりちゃんが、にっこりと微笑みながら椅子によじ登ります。
ほっぺたにつめたペレットをぽろりと椅子に落とします。
「ドッグランには、いつ連れて行ってくれるの?」
ぐりちゃんは、ペレットをかりこりと両手に持って一生懸命食べます。
「私は、園長さんではありませんからそんなことわかりませんよ」
ぐりちゃんは、ペレットを食べ終わり毛づくろいを始めました。
「だけど、この間遠足に連れて行ってくれるようにしてくれたのはオライオンだわ」
ぐりちゃんは、顔をあげてオライオンの顔を見つめます。
「ですから……」
オライオンは頭が痛くなってきました。
「約束よ。ドッグランへ連れて行ってちょうだい」
ぐりちゃんは、オライオンの肩によじ登りささやきました。
「お、おれ様は……ただみんなに言われて……自分も行きたかったし……」
オライオンはおうおう泣き出しました。
「オライオン、また来たブ」
ぶた太は相変わらずどすどすと診察室に入ってきます。
「ああ、ぶた太さん。お久しぶりですね」
オライオンのたてがみはぼさぼさのままです。
「お久しぶりって、昨日一緒に話したブ」
ぶた太はぶひっと鼻を鳴らしました。
「そうだったでしょうか。昨日の事は覚えていません」。
「大丈夫かブ? しっかりしろブ」
ぶた太は、オライオンの体にぶうっぶうっと体当たりしました。
「私は、大丈夫です」
オライオンは、よろけそうになりながら乱れた白衣を直しました。
「オライオン、湧水よもう一度だブ」
「もう一度…… ですね」
「連れて行っておくれよ。約束だブ」
オライオンは、めまいがしました。
天井が揺れています。
ぶた太はいうだけ言うと横になったオライオンを置いて出ていきました。
「オライオン、最近元気がないね~。大丈夫?」
アルダブラ君は、ゆっくりとオライオンの前まで歩いていくとオライオンの体に寄り添いました。
「みんなにもう一度遠くへ連れて行ってくれ、と一方的に押し付けられてしまって……」
オライオンの目から大きな涙がこぼれました。
涙がアルダブラ君のこうらの上に落ちます。
「私はただのカウンセラーなのに」
オライオンが、しくしくと泣き始めました。
「オライオンのことを、みんな頼りにしてるんだよ~」
アルダブラ君は、そういうと甲羅に挟んでいたカタバミの黄色い花をオライオンの前に置きました。
「もう一頭カウンセラーがいればいいのにねえ」
アルダブラ君が、ふがふが言いながら黄色いカタバミを口にくわえて差し出します。
「は~い。これあげる」
「なんですか」
オライオンは、ゆっくりと顔をあげます。
「くじけそうになった時は、花でも見てね~。何か手伝えることがあったら言ってね~」
アルダブラ君は、からだのわりにちっちゃなしっぽを振りながら出て行きました。
《本日の診療は終わりました。午後の診察は臨時休診とさせていただきます》
オライオンは、床にごろりと横になりました。
アルダブラ君が持ってきた黄色い花を眺めます。
(クローバーに似ているな)
むくり、と起き上がりました。
オライオンはポニーと羊たちのいる場所まで走っていきました。
「おい、こらポニー」
オライオンはエサを食べて一休みしているポニーに声をかけます。
「あら、オライオン」
ポニーちゃんは、たったっとオライオンに駆け寄りました。
「まだ眠れないか?」
オライオンが、ぼそっとポニーちゃんに尋ねました。
「そのことで、午後予約を入れたんだけど……」
ポニーちゃんも、そっと答えます。
「今日は疲れたから午後は臨時休診にしたんだ」
「そうなの?」
ポニーちゃんが、目を丸くします。
「今、誰もいないな」
オライオンは声をひそめました。
「アルパカさんたちはお昼寝中よ」ポニーちゃんは答えました。
「実は今度海に行こうと思うんだが、ポニーちゃんも行くか?」
ポニーちゃんの耳元でささやきます。
「えっ、オライオンと一ふたりで?」
ポニーちゃんは、驚いて目を丸くしました。
「ゴルちゃんも一緒だ」
「ゴルちゃんもなのね」
それを聞いて、ポニーちゃんは不思議そうにオライオンを見ました。
「ゴルちゃんは、海で大事なサングラスをなくしてしまって困っているようなんだよ」
オライオンが、簡単に説明しました。
「今日よし子さんに連れて行ってもらえないか頼んでみようと思うんだ」
「よし子さん?」
ポニーちゃんは目をぱちくりさせました。
「よし子さんならおれたちの困った気持ちをわかってくれるだろう」
オライオンは、よし子さんの笑顔を思い出して言いました。
「そうね、よし子さんは、いい人よ」
ポニーちゃんも、大きくうなずきます。
「とりあえず、よし子さんのところへ行ってくるよ」
オライオンは、ハムスターたちの小屋まで来ました。
「よし子さんよ」
オライオンは、トラックから降りてくるよし子さんに声をかけました。
「あら、オライオン。どうしたの?」
オライオンに、よし子さんは聞きました。
「何か私に用かしら」
よし子さんは、髪の毛についたわらを落とします。
オライオンは、トラックの陰によし子さんを連れて行きました。
「それは……」
「そこを何とか……」
オライオンが、必死に海の件をお願いします。
オライオンは、一生懸命自分もみんなに一方的にまた遠くに行きたいといわれ困っていること、眠れないこと、ゴルちゃんも大切なサングラスをなくして眠れないことを説明しました。
「うーん」
「二、三時間くらいで帰ってくるから」
「それ以上かかると、私もかばいきれないわ。とりあえず、ポニーちゃんとゴルちゃんだけ連れて行くのね」
「そうだ」
「どうしてポニーちゃんなの?」
よし子さんが聞きましたが、オライオンは「走れるやつで眠れないと言っているのは、ポニーちゃんだけだったからな」とだけ言いました。
よし子さんは、腕組みをしてしばらく考えていました。
「ちょっと時間をちょうだい」
しばらくしてから、よし子さんはオライオンに言いました。
「二、三日経ったらまた来てちょうだい」
「ゴルちゃんには、そっと伝えておいてくれ」
オライオンが言いましたが、よし子さんは横に首を振りました。
「ゴルちゃんには、行くことが決まってからにしましょう」
よし子さんは、トラックの荷台に上りました。
オライオンは二日後再びハムスターたちの小屋の前に立っていました。
「よし子さん」
オライオンのたてがみが乱れています。
「ああ、オライオン。いい知らせよ」
よし子さんは、右手を軽く上げました。
「平気なのか」
「園長さんがオッケーを出してくれたわ。その代わり、みんなに内緒だからわからないようにいくのは大変よ」
よし子さんは、眉にしわを寄せて言いました。
「おれ様、考えたんだが…… とりあえず、みんな眠れないから町のお医者さんに連れて行くってことにしたらどうかと思うんだよ」
オライオンは、首を軽く横に倒しました。
「眠れないということにするのね」
よし子さんは、なるほどと手を打ちました。
「実際、おれ様とポニーが眠れないのは本当だ。ゴルちゃんも、お姉さんからもらった大事なサングラスをなくしたらしいから思いつめた顔をしていたし、急がないといけねえ」
オライオンはゴルちゃんの目からこぼれたコメ粒ほどの涙を思い出しました。
「そうなのね」
「もう海に流されてしまっているかもしれないがな。生き別れになったお姉さんからのプレゼントだ。探してあげたいじゃないか」
よし子さんは、そっとオライオンの背中に手をあてました。
「じゃあ、明日トラックを出しましょう」
「ありがとう。あと、もう一つお願いがあるんだが…… ゴルちゃんのサングラスを探したら、少しでいいからドッグランに寄ってくれないかな」
「わかったわ」
よし子さんは、思いつめたオライオンの顔を見てオッケーと小さく言います。
「よし子さんは神様だよ」
次の日は、秋晴れでした。
トンボや蝶が園内をふわりふわりと飛んでいます。
「では、園長さん皆さん。今日はよろしくお願いします。表向き通院とみんなに伝えてありますが、本当のことは特にぐりちゃんには気づかれないようにお願いします」
よし子さんはスタッフの休憩室に集まったみんなに出発のあいさつをします。
「はい、わかりました」
園長さんが、子どものように返事します。
「ぐりちゃんは、勘が鋭いから病院へ行くって言ってどこかへ連れて行ったんじゃないか、ゴルちゃんのサングラスを探しに行ったんじゃないかって疑いかねないんです」
よし子さんはぶるっと身震いします。
「ぐりちゃんとぶた太の事は私たちに任せて。よし子さんは、オライオンたちに細心の注意を払って、特に周りに人がいないかよく確認してから、動物たちを放してください。ゴルちゃんも見失わないようにしてくださいね」
園長さんが、よし子さんの肩に手をあてました。
「ゴルちゃんは、海ではキャリーケースに入れようと思うんです」
よし子さんは、ピンクのキャリーケースを見せました。
「それがいいですね」
園長さんは、うなずきました。
「ではお願いしますよ」
園長さんは両手でよし子さんの手を固く握り締めます。
「園長さん、握りすぎ!」
ちかこさんが、セクハラセクハラ、と手を離させました。
「心配なだけですよ」
園長さんは、こほん、と窓の外を見ました。
マナさんがこちらを向いていたので、園長さんは静かにカーテンを閉めました。
「さあ、早くオライオンたちのところへ行ってあげてください。待ちくたびれてもよくないですからね」
ちらっとカーテンの隙間からマナさんをのぞきました。
マナさんは、眠くなったのかじっと動かなくなっていました。
「気を付けて。何かあったら電話して」
りょうさんが、言いました。
「町内会には回覧板で回してもらうよう頼んでおいたから。多分、みんな海やドッグランでは気を付けるわよ」
事務員のちかこさんも言いました。
「よし子さん、僕も行きましょうか?」
ライオン係のイオン君が声をかけました。
「平気よ。オライオンもほかの動物たちに迷惑かけるといけないし、今回はゴルちゃんもいるからって私に頼んだみたいだし」
「僕、そんなに頼りないっすかね」
イオン君は寂しそうにうつむきました。
「そんなことないわよ」
よし子さんは、ぽんぽんとイオン君の背中をたたきました。
「じゃあ、行ってきますね!」
みんなに手を振って、動物たちも見ていないことを確かめるとそろーりそろーりとトラックまで小走りでかけていきました。
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