アルダブラ君、逃げ出す

んが

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楽しいか~い?

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 行先は決まりました。
 オライオンはさっそく園長さんのところへ走っていきました。

 園長さんはまったりと椅子に座り、よし子さん以外のスタッフたちはまだ残って自分の仕事をしていました。
 オライオンは園長さんの前に立ちます。
「園長さんよ。みんなの意見を聞いてきたよ」
 園長さんはコーヒーが熱いのでフーフー冷ましています。
「お疲れ様。みんなは何て言っていたかい?」
 オライオンは園長さんをまっすぐに見つめています。
「みんなの行きたいところをまとめると、《海》ということになるんだが」
 オライオンはたてがみの乱れを直しました。
「《海》だって! 考えもしなかったよ」
 園長さんは飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになります。
「みんなの意見はこうだ。 ぐりちゃんたちは、安全で広いところに行って外の草を食べてみたい。 ポニーたちも広いところに行って駆け回りたい。草を食べたい。 実はひょうもん君とマナさんは以前から《海》にあこがれていた。 ひょうもん君は昔園長先生から聞いたことのあるたウミガメの話がずっと頭に残っていたそうだよ。さらにひょうもん君の話によると、海には広くて駆け回れる《砂浜》というところがあるようじゃないか。それならみんなで一緒に《海》へ行ってみたら楽しいんじゃないか、ってことになったわけよ」
 オライオンは一気に説明したので、えへん、とむせました。
「さあ、園長さん。教えてくれよ。ここらへんで動物園から一番近い海はどこだい?」
 園長さんはオライオンに水をあげました。
 オライオンはお椀の水をぺろぺろ舐めました。
「それは簡単だよ。君がこの間走り回っていたおすまし村のドッグランの先に大きな森があっただろ。その森を抜けた先が《楽しい海(たのしいかい)》だよ」
「そうなのか。じゃあ結構遠いんだな。カメやナマケモノたちが歩いていったら、何日かかるかわからないな」
 アルダブラ君は大きなお椀に入った水を飲み干しました。
「僕たちはそんなに遠くまでは歩けないよ~」
 やっと追いついたアルダブラ君とぶた太は、はあはあ息を切らしています。
 園長さんはアルダブラ君たちにもお水を出してあげました。
「ぐりちゃんたちは、安全なところで走り回りたいと話していました。海が遠いなら、トラックにのせてあげてもらえませんか?」よし子さんが手を合わせます。
「おいらもトラックがいいブ」
「僕だって~」
 ぶた太とアルダブラ君は、口をそろえて言いました。
「ぶた太は、おれ様の背中にのせてやるよ」
 オライオンが自分の背中を指さしました。
「それでもいいけど、おいら重いぞブ」
 ぶた太が、オライオンの体にしがみつきました。
「ぶた太なんて軽いものさ。なんたって、おれ様は百獣の王だからな」
 オライオンはぶた太をくわえると、えいっと背中に持ち上げました。
「どうだー」
 オライオンはガオっと大きな声で吠えます。
「きもちいいブ!」
 ぶた太はうれしそうに鼻を鳴らしました。
「いいなあ、ぶた太は。僕は無理だよねえ?」
「ああ、悪いな。獲物は倒せても、さすがに二百キロはおれ様も持ち上げられねえ」
 オライオンは、ぺこりと頭を下げました。
「いいんだよ~ ちょっと言ってみただけだから~」
 アルダブラ君はてへへっと笑いました。
「アルダブラ君は、マナさんやぐりちゃんたちと一緒にトラックにのせてあげるよ」
 園長さんがぽんぽんとアルダブラ君のこうらをたたきました。
「途中でカタツムリ君たちものせてあげてねえ~」
 アルダブラ君は、園長さんの顔を見上げました。
「もちろんだよ」
 園長さんはしっかりとアルダブラ君の目を見て答えます。
「じゃあ決まったな。おれ達走れる組は走って、ぶた太はおれ様の上、と。カメたちやマナさんとちっちゃい者たち+アルダブラ君のお友達は、トラックで海まで連れて行ってもらう。決行は来週の休園日だ」
 オライオンが、きっぱりと決めました。
「ようし、ではまずは町内会に回覧板を回そう。後は園内にポスターを貼る。トラックの点検だ」
 園長さんがみんなに言いましたが、りょうさんはコホンと咳払いしました。
「もうトラックなら、アルダブラ君を見つけに行った後に点検しましたよ。園長」
 ちかこさんもえへんと胸を張って続けます。
「私も、この間の会議のあとさっそく回覧板用のポスターなどは作っておきました。」
 ライオン担当のイオン君も髪の毛を撫でつけながら言いました。
「あとは、動物たちの体調を整えて当日に備えるだけです」
「さすが、うちのスタッフたちは優秀だね」
 園長さんは、遠くのマナさんを眺めました。
 マナさんやひょうもん君が、海に行きたいと思っていたなんて知りませんでした。
「海に行けるのねえ~~~」
 マナさんは、アルダブラ君の報告を聞いて、木から落ちそうなほど喜びました。
「来週行けるのね~~~ 風邪ひかないようにしないと~~~」
 アルダブラ君は、ついマナさんも風邪ひくの?と聞いてしまいました。
「失礼ねえ~~~ 私だって風邪ぐらい引くわよ~~~」
 マナさんは、いつもの顔のまま怒りました。

 リクガメたちもその場で足踏みして喜びました。
「おれ達、ここに来てからトラックに乗るの初めてだよな」
 いつもクールなひょうもん君も陽気な声でガラパゴス君に言いました。
「そうだね、ひょうもん君」
 ガラパゴス君も嬉しそうにはあはあ息を吐きました。
「アルダブラ、ありがとうよ。俺の行きたかったところに連れて行ってくれるなんて、うれしいよ。ありがとうな」
 珍しくひょうもん君にお礼を言われて、アルダブラ君は、戸惑いました。
「僕も《海》って見たことないし~」
 とりあえずそれだけ言いました。
「待ってろよ、ウミガメー」
 ひょうもん君は、大きな声で叫びました。

「うわあ、嬉しいわ。ぶた太さん」
「嬉しい! ぶた太大好き!」
 アルパカとポニーが勢いよくぶた太に抱きついたものですから、ぶた太の体は転げました。
「でも、私羊だからそんなに早く走れないわよ。長い距離も走れるかめえ~」
 羊が不安そうに言いました。
「そういえば、海までは遠いの?」
 とアルパカも言い出しました。
「海まではおすまし村にあるドッグランの先の森を抜けたところらしいブ」
 ぶた太はわかりやすく説明します。
「ふーん。遠そうね。おすまし村って知らないもの……。私達も、トラックにのせてもらえないかしらねえ」
 羊とアルパカはぶた太をじーっと見つめました。

 ぐりちゃんたちは、よし子さんの周りをくるくると回っています。
「やったわやったわ」
「初めて外に行けるのよ」
「《海》には砂浜もあるっていうし、砂堀りし放題よ!」
「砂の中で眠ることもできるかしら?」
「でも、ぐりちゃん、ねている間に波が来たら、流されてしまうわよ」
「きゃあ~ それは大変!」
 ハムスターたちは、妄想しすぎてパニックになりかけていました。
 ただ一匹冷静なゴルちゃんだけは、「まったく、女どもははしゃぎすぎだぜ」と言いながら、海へ行く準備をはじめていました。
「みんなは、アルダブラ君やそのお友達たちと一緒にトラックで行くのよ」
 よし子さんは、ハムスターたちに教えてあげました。
「楽しみ~」
 ハムスターとモルモットたちは
「きゃぁあああああ~~~」と小屋の中を全速力で駆け回っています。

 海へ行くのは次の月曜日です。

 準備は整いました。
 動物園のスタッフで話し合った結果、こうなりました。
[アルパカさんとポニーは走れるだろう。羊さんは途中でくじけてしまうかもしれない。 《楽しい海》につくまでにばててしまったらかわいそうだ。アルパカさんとポニーも途中でバテそうになったら、ちょっときついがトラックに乗せてあげよう]

 当日は、良いお天気でした。
 風には少し秋の空気が混じっています。
 赤とんぼがブーンと飛んでいきました。
 
 トラックには、カメたちや羊さん、ナマケモノのマナさん、ちっちゃい者たちががやがやとのっています。
「ああ、そこはカタツムリ君たちのスペースだから、エサ乗せちゃだめだよー」
 アルダブラ君がよし子さんに注意しています。
「ああ、ごめんなさい」
 よし子さんは慌ててハムスターたちのえさを別のところに置きました。
「海に入ったら、たくさん泳ぐわよ~~~。水の中なら私、早いんだから~~~」
 ナマケモノのマナさんのことは、わからないことばかりだ、とマナさん担当の真奈美さん以外のみんなが思いました。
「さすがにこれだけたくさんのると、結構重いなあ。アルパカさん、ポニーちゃん頑張って往復走ってくれよ」
 りょうさんはハンドルを握ると、帽子をかぶりました。
「私、帰り走れるか少し自信ないわ。その時はのせてね~。走るのなんて久しぶりだし、魚の目ができるかも」
 アルパカさんが不安そうに顔を運転席に寄せました。
「了解です!」
 りょうさんが、アルパカさんの頭をなでます。
「りょうさんが、了解っていうとしゃれみたいだブ」
 ぶた太が、オライオンの上でどすどすと飛び跳ねました。
「ぶた太、おとなしくしてくれ。重いぞ」
 オライオンはいったんぶた太をおろしてごろりと横になりました。
「出発まで体力温存だ」
「じゃあ、そろそろ行きますよー。職員のみんなは、動物たちの見守りお願いしまーす。海岸は貸し切り状態になっているので、安全なはずでーす。楽しい一日を過ごしましょう」

「サングラスは海辺には欠かせないアイテムだな」
 ハムスターのゴルちゃんが、ちゃっとサングラスをかけました。
 日焼け止めもちゃっかり入れています。
「待ってろよー、ウミガメ」
 ひょうもん君がつぶやきましたが、《楽しい海》にウミガメがいるかどうかは誰も知りませんでした。

 さあ、どんな一日になるのでしょう。
「みんな、楽しいか~い?」
 りょうさんが、声をかけました。
「楽しいよ~~~」
「では、しゅっぱーつ!」
 ぶるるんとトラックのエンジンの音が響きました。
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