アルダブラ君、逃げ出す

んが

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かっこいいオライオン

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 話し合いは、順調に進みました。
 まずは、大きな動物、中くらいの動物、小さな動物。その中でも動きの速さに分けると少なくとも六つにはわかれるようです。
 一グループにつき一日という計画を立てます。
 しかも、決まった場所まで連れて行ってもらえたら、なるべく離れてみていてほしい。
 動物たちにも、危険な行動はしないことを約束させる。
 町の人たちが驚かないよう、動物園から前もってお知らせを出す事にする。
「どこに連れて行ってもらうかは、グループごとに話し合って希望を出すことにする。それから園長さんに報告するっていうのはどうだい」
 オライオンが園長先生の席に座ってぐるりと全員の顔を見ました。
「いいね! いいと思うよー」
 みんなは、手をたたきました。
 オライオンの前にアルカリイオン水の入ったお皿が置かれました。傍らには肉もおかれています。
 ぶた太とアルダブラ君には浄水器の水が置かれました。
「じゃあ、さっそくみんなに話して来ようよ~」
 アルダブラ君が首を持ち上げました。
 オライオンは、外に出ようとするアルダブラ君を引き留めます。
「アルダブラが全部回るのは大変だから…… アルダブラはほかのリクガメやナマケモノのマナさんたちにどこに行って何をしたいか、聞いてきてくれ」
「そうなの~」
 少し不満でしたが、言うとおりにしました。
「ぶた太は、中くらいのなかまたちに聞いてきてくれ。羊やポニーやアルパカたち担当だな」
 ぶた太は、オライオンに『担当』を与えられて、嬉しそうに小さな尻尾を振りながら部屋を出ていきました。
「ちっちゃい動物たちはどうするの?」
 よし子さんが聞きました。
「それはやっぱり親代わりのよし子さんしかいないだろう」
 オライオンは、よし子さんを見つめます。
「ああ、でも私、ぐりちゃんたちの顔をまともに見られるかしら」
 よし子さんが、鉛筆をいじり始めました。
「大丈夫さ。よし子さんはぐりちゃんたちの母親みたいなものだからな」
 オライオンが微笑みました。
「わかったわ」
 よし子さんはためらいがちに顔を上げました。
 オライオンはにっこり微笑みました。
「オライオンは、かっこよすぎるなあ」
 りょうさんがオライオンの肩をつつきました。
「それほどでもないさ」
 オライオンは、ゆっくり大股で部屋を出ていきました。
 後に残ったスタッフたちも、飲み物をそれぞれ入れなおしました。
 外では、マナさんがゆっくりと二枚目の葉っぱにとりかかろうと腕をのばしています。
 
 アルダブラ君は、リクガメの部屋に向かいました。隣ではぶた太が文句を言っています。
「どう思うブ。いくらオライオン君がしっかりしていて、 『カウン何たら』 をしているからってかっこよすぎだブ」
「ひがんでもしょうがないよ~。だって、僕たちはあんなにみんなのこと考えられないし~」
 アルダブラ君はゆっくりゆっくり歩きながら大きく口を開けました。
「ひがんでなんかいないブ」
「さっきぶた太君が 『カウン何たら』 っていていたけど、あれ、カウンターじゃない?」
「カウンターっていうのは確かきれいなお姉さんが座っているところだぞブ」
 ぶた太がブヒっと鼻を鳴らしました。
「じゃあ、かんぱんかなあ」
 アルダブラ君が言うと、「かんぱんは地震の時に食べるパンだろブ。オライオンは食べられないブ」とすかさずぶた太が言い返してきたので、アルダブラ君はぶた太は意外と物知りなんだなあと感心しました。

 ぶた太とアルダブラ君は、リクガメの部屋までやってきました。
「やあ~。ひょうもん君とガラパゴス君~」
「やあ、アルダブラ君。今日も相変わらずのんびりしてるね」と、ひょうもん君。
「やあやあ、本当にアルダブラ君は、見ているこっちもゆったりするよー。こんなにゆったりしているのに、この間は思い切ったことをしたよねえー」
 ガラパゴス君は水を飲みながら、アルダブラ君を見つめました。
「本当だよな」
 ひょうもん君もアルダブラ君をじっと見ました。
 二匹からじっと見つめられて、アルダブラ君はドギマギしました。
「あのっ 実はね~ そのことで~」
 しどろもどろになりながらアルダブラ君が口を開くと……。
「なになに? いい話?」
 ガラパゴス君がぬっとアルダブラ君の顔に近づきました。
「うん。さっき、オライオンが園長さんやりょうさんたちと話していたんだけどね~。僕たちが脱走してから、ほかのなかまたちも外に行きたがっているらしいんだよ。だから、グループに分かれて外に連れて行ってくれることになったんだ~」
 アルダブラ君は少し得意げに首を持ち上げます。
「おお! それは、ナイスアイデアですな」
 二匹は微笑みました。
「で、どこに連れて行ってくれるの?」
 ガラパゴス君がきくと、ひょうもん君があきれたように顔をあげました。
「どこって、外に決まっているだろう」
 ひょうもん君がムスッとした顔で口をとがらせます。
「外って言っても、いろいろあるんだよう。例えば、お散歩するとか~ 広いところで思いっきり走り回りたいとか~ 泥浴びしたいとか~」
「走り回るって言っても、俺たちなあ」
 二匹が顔を見合わせました。
「走り回るほど、足速くないしなあ。泥浴びもいいけどなあ」
 ひょうもん君が、ガラパゴス君の黒い瞳を見つめました。
「こうら汚れちゃうしね。せっかくの僕のきれいなこうらが、台無しになっちゃう。それで、アルダブラ君はこの間は何をしてたの?」
 きれい好きのガラパゴス君がアルダブラ君に聞きました。
「僕はね。カタツムリ君たちを背中にのせてお散歩に連れて行ってあげるところで、りょうさんに見つかっちゃったんだよ~」
「お散歩してたんだな」
 ひょうもん君がつまらなそうにつぶやきます。
「アルダブラ君は、のんびりお散歩が楽しかったんだね」
 ガラパゴス君が言うと、アルダブラ君は小さくうなずきました。
「そうなんだよ~。カタツムリ君たちも、これから遠くへ行けるっていうところで帰ることになっちゃったから、残念そうなんだよ。毎日のようにまた行きたいってお手紙が届くんだよ」
 アルダブラ君は甲羅にしまってある手紙をひょうもん君とガラパゴス君に見せてあげます。
「アルダブラ君も意外と大変なんだね」
 二匹は、感心したようにうなずきました。
「それはそうと、おれはお散歩もいいけど、実はずっと《海》っていうものを見てみたいと思ってたんだよ」
 ひょうもん君がぼそりとつぶやきました。
「《海》って聞いたことはあるけど、ここから近いのかなあ」
 ガラパゴス君が、遠くを見るように目を細めました。
「《海》にもカメがいるって、昔園長さんから聞いたことがあってな。それ以来、《海》に住んでいるカメっていうのはどんな奴なんだろう、って時々考えていたんだ」
 ひょうもん君は、少し恥ずかしそうにうつむきました。
「ひょうもん君がそんなことを考えていたなんて、全然気が付かなかったよ~」
 ひょうもん君は、何も言わずに葉っぱをもぐもぐ飲み込みました。
「ひょうもん君が《海》に行きたいと言っていたと、オライオンに伝えておくよ~ ガラパゴス君も、《海》でいいんだねえ」
「そうだね。ひょうもん君の話を聞いていたら、僕も《海》に住んでいるというカメに会ってみたくなってきたよ」
 ガラパゴス君が、前足をわずかに上げました。
「りょうかい~。じゃあ、また決まったら伝えに来るねえ。ぼく、マナさんにも聞いてこないといけないから。またあとでねえ」
「おう、またあとでな」
「オライオンによろしくね」
 二匹は、再び水を飲み始めました。

 マナさんは、二枚目の葉っぱをもうすぐ食べ終わるところでした。
 アルダブラ君は、あわてて用件を伝えました。
 希望を聞くとアルダブラ君は驚いて思わず口を開けてしまいました。
 なんと、マナさんも 《海》 に行ってみたかったというのです。
 木のてっぺんから《海》と思われる大きな水たまりのようなものを毎日見ていて、ずっと気になっていたようなのです。
「《海》だと思うのよ~~~ 昔お母さんから聞いたことがあるの。世の中には大きくて青い水たまりがあるって~~~。海にはサカナや亀もいるって聞いたことがあるわ~~~。でも行きたくても一人では行けないし~~~。このまま行けないで動物園でおばあちゃんになってしまうのかしらってちょっと思っていたのよう」
 マナさんは、かなり嬉しそうによくしゃべりました。
「わかったよー」
 アルダブラ君は、大きくうなずきました。
 
 ぶた太は、羊やアルパカのいる小屋までやってきていました。
 用件を簡単に説明すると、やはりぶた太がこの間何をしていたのか聞かれました。
「おいらはみんなと一緒に歩いていたけど、暑くてふらふらになっていたから、途中で湧水のところで泥浴びしながらみんなの帰りを待っていたブ」と答えました。
「みんなも聞いて驚くブ。なんとみんなも外に連れて行ってもらえることになったブ。どこに行きたいブ」
「どこって言われても…… わからないめえ~」
 羊さんが言うと、アルパカもポニーも草をむしゃむしゃ食べながら顔をあげました。
「そうねえ、広いところに行ってお散歩してみたい気もするわねえ」
 ぶた太が、オライオンがドッグランで駆け回ったことを伝えると、三匹は食べていた草をはきだしました。
「ドッグラン、行きたいわ!」
 三匹は大きな声で叫びました。
「じゃあ、三匹はドッグランでいいんだブ?」
「オッケーよ~。ぶた太さん、オライオンさんによろしくねえ~」
 三匹は再び草を食べだしました。

 よし子さんは、ハムスターたちの小屋の窓からそっと様子をうかがっていました。
 ハムスターたちは落ち着いた様子で、わらにもぐったり小さなおうちに入ったりしてゆっくりしているようでした。
(ぐりちゃんたち、落ち着いたかしら。まだ、『小さなお子様嫌です運動』は続けているのかしら)
 後ろに気配を感じて振り返ると、オライオンが立っていたので驚きました。
「どうだい、ぐりちゃんたちは意外と落ち着いているだろう」
 よし子さんは、腰についた泥を払いました。
「おれ様が聞いてきてやろうか」
 オライオンが、心配そうによし子さんを見ます。
「大丈夫よ。私、行けるわ」
 よし子さんは深呼吸をすると、小屋の入り口からそっと入っていきました。
「みんな、おなかすいていない? おやつを持ってきたわよ」
 小さく切った果物を餌箱に置くと、みんなはわらわらとよし子さんの近くに集まってきました。
「よし子さん。この間は、私たちすっかりよし子さんを困らせてしまってごめんなさいね。ちょっと前の日にちびっ子たちに触りまくられて、疲れていたの」
 ハムスターのぐりちゃんがよし子さんの膝によじ登ってきました。
 よし子さんは、手のひらにのせてあげます。
 モルモットのモルちゃんたちも、膝の上に登ってきます。
 よし子さんはうれしくて涙が出そうになりました。
「いいのよ、いいのよ。そういう時もあるわよ。」
 くすんと鼻をすすりました。
 ひとしきりみんなと戯れると、オライオンから頼まれていたことを思い出しました。
「そういえばね、今度みんなで外に行くことになったのよ。どこか行きたいところはあるかしら?」
 よし子さんが告げると、ぐりちゃんと膝の上のハムスターたちは驚いてぴょんと飛び跳ねました。
「ええ~! そうなの?」
「うれしい! それはめっちゃ楽しみ!」
「私、外の草を食べてみたい」
「猫とかに食べられない?」
「みんな多分行きたいところが違うわよ。いったいどうやってみんなを連れて行くのかしら」
 ハムスターたちは、一斉に騒ぎ出します。
 よし子さんは危なく手の上のぐりちゃんを危うく落としそうになりました。
「みんな、落ち着いて。園長さんは、グループごとに連れて行くつもりよ。ぐりちゃんたちは、ちっちゃい者たちだけで連れて行くから、安心して。もちろん、私もついていくし」
「よし子さんがついてきてくれるのなら、安心だわ」
ぐりちゃんがみんなを見回します。
「そういえば、この間アルダブラ君たちはどこへ行ったのかしらね」
 ぐりちゃんは、よし子さんに尋ねました。
「アルダブラ君は、カタツムリ君たちとお散歩。ぶた太は泥浴び。オライオンは、ドッグランで楽しんでいたところをりょうさんに見つかってしまったのよ」
 ぐりちゃんたちは口々につぶやきます。
「お散歩…… ドッグラン…… 楽しそう……」
 しばらくの間、ちっちゃい者たちのつぶやきは続きました。
 みんなはいろいろと意見を出し合いましたが、まとめるとこういうふうになりました。
《どこでもよいが、広くて安全なところで走り回ってみたい。おいしいかどうかわからないけど、外の草がどんなものが食べてみたい》

 よし子さんとぶた太とアルダブラ君は、オライオンのところに行きました。
「ふーむ。そうかそうか。みんな行きたいところがあるんだな。アルパカたちはドッグラン。カメたちは海。ぐりちゃんたちは、どこか広いところ、と。なんだかみんなで行けそうな気がしてこないか、よし子さんよ」
 オライオンが言いました。
「私もそう思っていたのよ」
「僕たちもだよ」
 よし子さんと三匹は顔をして見合わせて言いました。
「海よ」
「海だな」
「海だよねー」
「海だブ」
 行先は、《海》に決まりました。


















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