アルダブラ君、逃げ出す

んが

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ポニーちゃんの宝物

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 数年後の事です。
 ポライオンは、大きくなっていました。
 普通の子ライオン、仔馬に比べて身体が小さめでしたが、よく食べて大きくなりました。
「ポニーちゃん、ポライオンはどう?」
 金髪のイオン君は、茶髪になっていました。
「元気よ。おなかを壊してぐったりしていたのがウソみたい」
 ポニーちゃんは、にっこり微笑みました。
「よかった。お肉がちょっと固かったかなあ。気を付けるね」
 イオン君はそういうと、ポライオンの頭をなでました。
「あたし、もうおなか痛くないわ。たくさんお肉とお野菜持ってきてちょうだい」
 ポライオンが、尻尾をぷらんぷらんと振りました。
「この子は、本当にもう……昨日お腹痛いって言っていたのに、しょうがない子ね。イオン君、少し柔らかめの肉と野菜を持ってきてあげてちょうだい」
 イオン君は、はいはいといって出ていきます。

 動物園の外では、ポライオンを一目見ようとお客さんが集まってきていました。
「ポライオンってかわいいよね」
「ライオンとポニーの子供なんて、珍しいよね。ねえ、お母さん」
「お母さんも早く見たいわ」
 夏休みを目前に家族連れも大勢きていました。
 みんな手に整理券を握りしめています。
「あ、最後尾はこちらになります。この後ろに並んでください」
 事務員のちかこさんは大忙しでした。
 二匹の同意を得てポライオンを公開してから、一年たちました。
 その間テレビや新聞に大きく報道されました。
 取材の人もたくさん来ました。
 ポライオンの写真集も出されて一躍人気者になりました。
 その分、批判的な声も聞こえてきました。
「ライオンとポニーの子供なんて、薄気味悪い」
「どうせ長生きしないに決まってるのに、動物園はどうして二匹を一緒にさせたんだ」
 飼育員たちの耳にもそんな声が聞こえてきました。
 脅迫の電話もかかってきました。
「おい、お前たちの動物園はどうなっているんだ。公共のお金を使って経営してるんだろう? それなのにこんなわけのわからんライオンとポニーの子供を産ませて、莫大な資金が必要だろう。そのお金はどこから出ているんだ」
 男の人でしょうか。
 怖い声で怒鳴りつけてきます。
「私共は公営の動物園ですので、国からお金をいただております」
 事務員のちかこさんが、応対します。
「国のお金を使ってライオンとポニーに子供を産ませたのか? けしからん、おれ達の税金でそんな変な経営をするとはけしからん。園長をだせ!」
 そんな苦情の電話が月に何回かかかってきました。
「ポライオンのおかげでお客様は増えておりますが…… ご心配いただきありがとうございます」 
 そのたびに園長さんとちかこさんは、根気強く説明しました。
 今回の事については大学の先生と一緒に研究を続けていること、研究の結果も学会で発表していることを説明しました。ポライオンが生まれたことで入場者も増え、経営も安定していること。補助金は正当なものであることなども丁寧に説明しました。
 電話をかけてくる人たちは、ただいちゃもんをつけたいだけですから、難しい話になると面倒くさくなり、大抵その時点でガチャンと電話を切るのでした。
「まったく、人が丁寧に説明してるっていうのに…… まったく失礼な人だ」
 園長さんは、怒りながらも平然としていました。
「園長さんは、平気なんですか」
 ちかこさんが、不思議そうに聞きました。
「こちらの話をきちんと聞こうとしない人に怒っても仕方ないさ。お互いに意見を交換してこそ大人だと思うんだけどな。まあ、昔からそういう人はいるから」
 園長さんは、にこっと笑いました。
「それはそうですが…… それでも、こういう電話は嫌な気分です」
 ちかこさんは、しょぼんとしました。
「本当だよね。なんだか悲しくなるな。自分の不満をこんな罪のない動物にぶつけるなんて。でもそこで怒ったら相手の思うつぼだよ」
 園長さんは、ちかこさんの肩をポンポンとたたきました。
 ちかこさんは、小さな声で「そうですね」と言いました。
「ポライオンがかわいそう……」
 ちかこさんの目に涙がうかびました。
「あんまりきつかったら、話を聞かないですぐに私に代わってくれたらいいよ。電話も取らなくていいよ」
 ちかこさんは、小さくうなずきました。
「みんなでポライオンを守ろうじゃないか」
 園長さんは、園庭に出ていきました。

「ポライオン、今日もあなたを見にお客さんがたくさんやってくるわ」
「お母ちゃん、あたしって人気者なのかな」
 ポライオンが、ポニーちゃんを見つめました。
「そうよ。あなたはとてもすてきだもの。お父ちゃんとお母ちゃんの体が混じっているのよ。誇らしいわ」
 ポニーちゃんは、ゆっくりうなずきました。
「でも、時々あたしを見てお客さんが言っているの。なんだか不気味って。ぶきみってなに?」
 ポニーちゃんは、ポライオンの瞳を見つめます。
「不気味っていうのは、自分には理解できないことを頑張って考えようとしないで、考えることをやめたときに出てくる言葉よ。知らなくていいわ」
「でも、なんだかそれを聞いた時に嫌な気持ちがしたの。じろじろ見るんだもの」
 ポライオンは、しょんぼりとうなだれました。
「そんな人間はほっておきなさい。世の中そんな人ばかりでないわ。園長さんたちは味方よ」
 ポニーちゃんは、ポライオンの顔をなめました。
 ポライオンはくすぐったくて身をよじりました。
「世の中は広いのよ。悪い人ばかりでないわ。園長さんだって最初あった時は、なんて変な人って思ったわ。その時は海の家でたこ焼き焼いていたけど……」
 ポライオンは、きょとんとしています。
「たこ焼き? 海? あの園長さんが海でたこ焼きを焼いていたの?」
 ポライオンがびっくりして目を丸くしています。
「そうよ。Tシャツに鉢巻き姿だったわ。園長さんと最初にあったのは『楽しい(たのしい)海(かい)』だったのよ。オライオンとゴルちゃんと一緒だったわ。その時、オライオンと園長さんが言い争いみたいになってね」
 ポニーちゃんは、懐かしく思い出しました。
「へえー。ゴルちゃんてハムスターのおじいちゃんだったよね」
「そうそう。まだポライオンが生まれる前の事よ」
 ポニーちゃんは、ゴルちゃんを懐かしく思い出しました。
「りょうさんが私たちを探しに森まで来て、その時に今の園長さんが昔うちで働いていたって聞いたのよ」
「驚いた?」
「そりゃそうよ。だって、海の家でたこ焼きを焼いている人が動物園の飼育員だったなんて誰が想像できる?」
 ポニーちゃんは、くすくすと笑います。
「ちょっとわからない。というか、あたしには海の家がどういうところか見たことないからわからないんだけど」
 ポニーちゃんは、海の家とは海にある休憩所でたこ焼きとか焼きそばとかジュースを売っているところだと説明してあげました。
「園長さんは、自分で自分の事を昔はカリスマ飼育員だっていたのよ。お父ちゃんなんかはじめ信用していなくて、よく言い合いになっていたわ。だけど、自分で言うだけあってカリスマ飼育員だったわ。前の園長さんよりもしっかりしているものね。人は見かけで判断してはだめね」
「あたしも、園長さん大好き」
 ポライオンも笑いながら言いました。
「ポライオンは、世界に一頭しかいない私たちの子供よ。お父ちゃんとお母ちゃんが好きで好きでたまらなくて、一緒になりたくて産まれてきた子よ。産まれてきたときも動物園のみんなが祝福してくれた。その子が不気味だなんて言われる筋合いはないわ」
 ポニーちゃんは、やさしくポライオンを抱きしめました。
「お母ちゃん、あたし少し怖かったの」
「お父ちゃんとお母ちゃんがついてるから、大丈夫」
 オライオンは遠くから二頭の様子を心配そうに見ています。
 鳩のポーさんも小屋の窓にとまって心配そうに鳴きました。




 
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