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たこ焼きたこ焼き、楽しく生きよ!
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翌年の秋の事です。
動物園では赤とんぼが群れをなして飛んでいました。
よく晴れた日、ポニーちゃんは飼育係のイオン君が見守る中メスの赤ちゃんを産み落としました。
赤ちゃんは、羊水の膜に包まれていました。
小屋の窓から漏れてくる光の中で、赤ちゃんは横たわっています。
ポニーちゃんは、赤ちゃんの体を一生懸命なめています。
小屋の入り口にはスタッフや動物たちがぞろぞろと集まってきました。
みんなは、ポニーちゃんとオライオンの赤ちゃんを一目見ようと、遠くから背伸びしたりジャンプしたり、にぎやかにのぞき込んでいます。
「小さいなブ」
ぶた太が言いました。
「ちっちゃいね~」
アルダブラ君もぶた太の後ろからのぞき込んでいます。
「小さいって言っても二匹とそんなに変わらないんじゃないか?」
園長さんが、二匹の体とポニーの赤ちゃんを見比べました。
「そうかな~。でも僕よりは小さいと思うけど~」
アルダブラ君は、不満そうに園長さんを見上げました。
「ポニーちゃん、無事赤ちゃんを産んでよかったわ。最初はポニーちゃんが妊娠したって聞いてどうなることかと心配したけど」
事務員のちかこさんがよし子さんに言いました。
「本当にね。でも、見て。赤ちゃんは、首から上がポニーちゃんで首から下はオライオンよ」
よし子さんは、ちかこさんの肩に手をあてました。
「まるでギリシャ神話だわ。現代のケンタウロスよ」
よし子さんは両手を胸にあてました。
「ケンタウロスは上半身が人間だけどね」
ちかこさんが、笑います。
「イオン君、赤ちゃんが無事に産まれてよかったね!」
よし子さんが大きな声でイオン君に呼びかけました。
「ポニーちゃんもよく頑張ったね!」
ちかこさんも、ポニーちゃんに声をかけました。
みんな口々にお祝いの言葉を、投げかけます。
「今、赤ちゃんの体をきれいにしています。ポニーちゃんもすっかりきれいになったら、合図します。そうしたらみんな近くに来てください」
イオン君が、片手をあげてみんなに答えました。
園長さんが、よっしゃーとみんなを見回しました。
「赤ちゃんが生まれたお祝いをしなくてはな。今度の休園日にたこ焼きパーティをしようじゃないか。ポニーちゃんとオライオンの出産祝いだ」
園長さんは、シャツの袖をまくってたこ焼きを焼く真似をしました。
「たこ焼きか、うれしいなブ」
ぶた太がブヒブヒと喜んでいます。
「たこ焼きはおいしかったねえ、オライオン」
ゴルちゃんも、よし子さんの下げたかごから顔を出しました。
「ああ、あの時は楽しかったな」
オライオンは、ゴルちゃんを見ました。
「ぼく、あの時から二匹はお似合いだと思っていたんだ。おめでとう」
ゴルちゃんが、小さな手を伸ばしました。
「ありがとうよ。まさか、ポニーちゃんと結婚できると思っていなかったからな」
ゴルちゃんとオライオンはハイタッチをして喜びを分かち合いました。
「私たちも、たこ焼きを早く食べたいわね! オライオン、おめでとう」
ハムスターのぐりちゃんも、ちっちゃい者たちが入ったかごから出てきました。
他のハムスターやモルモットたちもかごから出てきては、みんなオライオンの体によじ登ってお祝いのキスをしました。
「みんな、うれしいよ。園長さんもありがとう!」
おおーん。おおーん。
オライオンはまた涙を流しています。
「園長さんが変わる前は、たこ焼き屋が動物園でたこ焼き屋くのか、なんて言っていたのにブ」
ぶた太が茶茶を入れました。
オライオンが、ぶた太の頭を軽く小突きました。
「茶茶を入れるんじゃねえ」
泣きながら、オライオンは笑っています。
「なんだ、オライオンはお父さんになっても泣き虫オライオンだな」
園長さんは、オライオンを肘でつつきました。
「これはうれし涙だよ。園長さんのたこ焼きはおいしいんだぜ。たこがたくさん入っているんだ。ポニーちゃん、立派な子供をありがとう。うおおーん」
オライオンは泣いたり笑ったり大忙しでした。
「みんな来ていいですよ。でもいっぺんに大勢だと赤ちゃんがびっくりするので、少しずつにしてくださいね」
イオン君の言葉にみんなはゆっくりと小屋の中に足を踏み入れました。
狭い小屋の中は、人間と動物たちであふれかえっていました。
ちっちゃい者たちは、よし子さんと一緒に入ろうと外で待っています。
ナマケモノのマナさんも、ようやくナマケモノ担当の真奈美さんに抱っこされてやってきました。
リクガメたちも後からついてきています。
ポニーちゃんは、ゆっくりとオライオンの方に顔を向けました。
「オライオン。このかわいらしい私たちの子供の名前は何がいいかしら?」
ポニーちゃんは、涙でぐちゃぐちゃになっているオライオンの顔をやさしく見つめました。
「実は、もう考えてあるんだ。ポニーちゃんのポとオライオンのラを取ってポライオンはどうかな?」
オライオンはポニーちゃんを優しいまなざしで見つめました。
「ポライオン……」
ポニーちゃんが、赤ちゃんの姿をじっと見つめました。
「とてもいいと思うわ」
にっこり笑って言いました。
「あなたの名前はポライオンよ」
ポニーちゃんが言うと、ポライオンはポニーちゃんのおっぱいを探ってポニーちゃんの体に頭を寄せました。
「いい名前だな」
園長さんは、大きくうなずきました。
「単純だけど、いい名前だブ」
ぶた太も、うなずきました。
「単純とは失礼だな」
オライオンが少しむっとしました。
「前においらがアルダブラ探検隊の名前を言ったとき、オライオンもそう言ったんだぞ。覚えてないかブ」
ぶた太が言い返しました。
「そんな遠い昔の事、覚えてないよ」
オライオンはふんとそっぽを向きました。
「おいらは覚えてるブ。あの時は、おいらも単純って言われて少し傷ついたんだブ。だからお返しだブ」
二匹はしばらくにらみ合っていましたが、アルダブラ君が近づいてきたので少し離れました。
アルダブラ君は、花をくわえています。
「喧嘩はやめて~ 僕たちオラアルブ探検隊でしょ」
アルダブラ君が、オライオンとぶた太の間に花を置きました。
「はーい。僕からお祝いの花~」
「これはコスモスか」
オライオンが、表情を緩めました。
「コスモスの花ことばは、乙女の愛情とか、純潔とかだよね。ポライオンにピッタリの花だね」
りょうさんも、言いました。
アルダブラ君は、オライオンのつぶらな瞳を見つめました。
コスモスの匂いをかぐと、オライオンがぶた太のほうを向きました。
「ぶたた、ポライオンが大きくなったら、オラアルブ探検隊に入れてやってもいいか?」
ぶた太は、にっと笑いました。
「もちろんだブ。オライオン一家も入れてやるブ」
その時、ポライオンがゆっくり立ち上がりました。
「ポライオン?」
ポライオンが、オライオンに向かって歩いていきます。
ポニーちゃんは、とことこと園長さんに近寄り軽く体を寄せます。
「おやおや、ポニーちゃん」
オライオンたちのほうを見ていた園長さんは、驚いて横を向きました。
「園長さん。私たちを結婚させてくれてありがとう」
ポニーちゃんは、ぺこりと頭を下げました。
「いやいや、結婚させるも何も、好き同士が一緒になっただけだろう」
園長さんは、薄くなった頭に手を乗せました。
「ポライオンも生まれて私、とても幸せです」
ポニーちゃんは園長さんの目をじっと見つめました。
「でも、心配なことがあるんです。ポライオンが実際に生まれたら、急に不安になったの。園長さん、教えてちょうだい。ライオンとポニーの子供は、無事に生きていけるのかしら。それに違う種同士が結婚して子供が生まれても、長生きできないかもって前に聞いたことがあるの」
ポニーちゃんが、園長さんの顔をまっすぐ見て言います。
「どうしてそんなことを言うの?」
園長さんも、ポニーちゃんの目をのぞき込みます。
「オライオンが昔本で読んだことがあるらしいの。オライオンは、もうそんなことを心配したって仕方がない。力を合わせて育てていこうっていうんだけど、実際に生まれてみると心配で心配で」
ポニーちゃんは、ぽろぽろと涙をこぼしてながら泣いています。
「育児が不安なの?」
園長さんは、ポニーちゃんに聞き返しました。
オライオンが泣いているポニーちゃんの代わりに説明します。
「実は、前の園長さんの時の話だが、見学の人たちに話していたのを偶然聞いてしまったんだ」
「どんな話?」
ひげをさわりながら園長さんは聞きました。
「動物園の動物はただ飼っているんじゃないこと。子孫を増やすことが大事だって。動物に赤ちゃんを産んでもらって育てて、その種を増やすことが動物園の役割の一つだと話していた」
オライオンは、ポニーちゃんの横にそっと寄り添います。
「それを聞いていたから、おれ達はお互いに好きだとわかっていたが、一緒になってもいいのかどうか悩んでいたんだよ。お互い草食動物と肉食動物だしな。子供は産まれてもその代で終わりかもしれないと思うと、今一歩踏み切れなかったんだ」
オライオンのしっぽはだらんと垂れ下がっています。
「まあ、もちろんそれはそうだ。動物の種を増やすことは我々の使命ではある。だけど、動物だからといって好きなものと結婚できない理由などない、と私は思うよ」
園長さんは、つづけました。
「だって、わからないじゃないか。パンダだって子供を産ませようと外国から借りてきて付き合わせたって、赤ちゃんはそう簡単にはできない。自然とはそういうものだよ」
みんなは、最近よその動物園で何年ぶりかで生まれたパンダの赤ちゃんを思い出して顔を見合わせました。
「ライオンがポニーと結婚して何が悪い。こんなにお互いを理解して好きあっている二頭に一緒になってはだめなんて、誰が言える?しかも、その子供の事まで人間が口だすことなんてできないよ」
園長さんは、ポニーちゃんとオライオンの顔を交互に見つめました。
「お互い一緒に生きていきたいと思ったから、子孫など関係ないと割り切ったんだろう」
園長さんがまじめな顔で続けます。
「子孫の話だが、ポニーちゃんが気にしているからあまり話したくないが…… ポニーとライオンの間に生まれた子供がこれからどうやって生きていくかは、実は私にもわからない。草食動物と肉食動物の子供を育てるのは、私も初めての経験だからね」
園長さんは、正直に話しました。
「園長さんも初めてなのね。余計不安だわ。ポライオンは、ちゃんと生きていけるかしら。食べ物は? 結婚は? 子供は産める?」
ポニーちゃんの目にはまた涙がじわじわとにじんでいました。ポライオンが心配そうに見ています。
「ほら、ポニーちゃん。そんなに泣かないで。ポライオンが心配そうに見ているよ」
園長さんは、かがんでポライオンの頭をなでました。
「イオン君は、ポニーちゃんの妊娠の間も一生懸命異種間の生殖、出産について勉強していただろう。図書館から本を借りたり、インターネットで異種間の生殖を担当した経験者を探して質問したり。なあ、イオン君」
イオン君は、急に自分の事を言われて頭をぽりぽりかきました。
「ポニーちゃん、オライオン。私の勝手な推測だが、自然の中でポライオンを育てるより動物園の中で育てる方が安心なのは間違いないと思うよ」
園長さんは、ポニーちゃんを慰めます。
「どうしてそう思うの?」
ポニーちゃんが、疑わしそうに園長さんに聞きました。
「自然の中で生きていけるのは、野生のたくましさを持った動物だけだ。草食動物と肉食動物の子供にどんな天敵が現れるかわからない。見当もつかない。もしかしてポライオンは最強で天敵など現れないかもしれないが、もしかしてその反対かもしれない。私たちも想像でしか話せないが……」
園長さんは腕を組んで続けます。
「とりあえず、動物園の中なら天敵は現れないと思うし、穏やかに暮らせるんじゃないかな。今後のために私たちもじっくり研究させてもらうよ。他の動物園でも起こりうることだからね。ポライオンが大きくなるころには世の中の研究ももう少し進んでいることを期待しようじゃないか」
園長さんは、にっこり笑いました。
「おれ様も勉強したいよ」
オライオンが言いました。
「オライオンは、勉強家だしね。もちろん、勉強してもらって構わないよ。ただ、かなり専門用語が出てくると思うから、難しいかもしれないよ。難しいところは私たちに任せてもらってもいいよ。またストレスになってしまうといけないからね」
園長さんは、オライオン一家をやさしく励ましました。
「そうです!」
イオン君が、ぼさぼさの髪を結びなおすと力強く続けました。
「まかせてください。一応学校でも勉強しましたし、これからも色々調べてポライオンを立派に育て上げます! 困ったときは先輩たちも応援と協力お願いします!」
イオン君がぺこぺこと頭を下げます。
「もちろんよ。みんなで力を合わせてポライオンを立派に育てましょう」
よし子さんも力強く言いました。
小屋のなかに大きな拍手が響き渡りました。
「ほら、こんな素敵なスタッフたちがいるんだ。みんなで力を合わせて仲良く生きて行こうじゃないか」
スズメや鳩がみんなの周りに集まってきました。
オライオンたちを祝福するかのようにちゅんちゅんポッポーと鳴きはじめます。
園長さんは鳥たちの鳴き声に合わせて手をたたき始めました。大きく手を広げます。
「さあ、みんな歌おう!」
園長さんが歌いだします。
「はい! 楽しい仲間、楽しい仲間。仲良く生きよう。楽しくね!」と歌いだしました。
リズムに乗って、楽しく仲良く、と身体を揺らしています。
みんなも園長さんの手拍子に合わせて歌い出しました。
みんなも身体を揺らしながら踊ります。
「来週はたこ焼きパーティーだぞ、イエィ!」
園長さんが伝説のスターのように拳を突き上げました。
「たこ焼き、たこ焼き!」
みんなも声を合わせて叫びました。
踊るナマケモノ係の真奈美さんの足元では、ナマケモノのマナさんが転がっていました。
「私も、赤ちゃんほしいわ~~~ 赤ちゃん、赤ちゃん」
マナさんもリズムに乗りながら、つぶやきます。
真奈美さんもリズムをとりながら、返します。
「そうだよね、マナさんもお年頃ったらお年頃」
マナさんは、ゆっくり顔を上げると園長さんに手を振りました。
「園長さ~ん。私も旦那さんと赤ちゃんほしいの~~~ どうにかして~~~」
マナさんが叫ぶと、園長さんは投げキッスを返しました。
「たこ焼きたこ焼き! 楽しく生きよ!」
園長さんのヒップホップとみんなの声が、園内に響き渡っています。
「楽しく生きよ!」
みんなの声がこだまします。
「きっとマナさんの素敵な相手見つけるよ!」
園長さんが、マナさんに向かって手を振りました。
羊やアルパカさんたちもやいやい言い出しました。
「私も私も」
「これからこれから考えよ、楽しく生きよ、たこ焼き食べて考えよ」
園長さんの陽気な声がみんなを包み込みます。
動物園では赤とんぼが群れをなして飛んでいました。
よく晴れた日、ポニーちゃんは飼育係のイオン君が見守る中メスの赤ちゃんを産み落としました。
赤ちゃんは、羊水の膜に包まれていました。
小屋の窓から漏れてくる光の中で、赤ちゃんは横たわっています。
ポニーちゃんは、赤ちゃんの体を一生懸命なめています。
小屋の入り口にはスタッフや動物たちがぞろぞろと集まってきました。
みんなは、ポニーちゃんとオライオンの赤ちゃんを一目見ようと、遠くから背伸びしたりジャンプしたり、にぎやかにのぞき込んでいます。
「小さいなブ」
ぶた太が言いました。
「ちっちゃいね~」
アルダブラ君もぶた太の後ろからのぞき込んでいます。
「小さいって言っても二匹とそんなに変わらないんじゃないか?」
園長さんが、二匹の体とポニーの赤ちゃんを見比べました。
「そうかな~。でも僕よりは小さいと思うけど~」
アルダブラ君は、不満そうに園長さんを見上げました。
「ポニーちゃん、無事赤ちゃんを産んでよかったわ。最初はポニーちゃんが妊娠したって聞いてどうなることかと心配したけど」
事務員のちかこさんがよし子さんに言いました。
「本当にね。でも、見て。赤ちゃんは、首から上がポニーちゃんで首から下はオライオンよ」
よし子さんは、ちかこさんの肩に手をあてました。
「まるでギリシャ神話だわ。現代のケンタウロスよ」
よし子さんは両手を胸にあてました。
「ケンタウロスは上半身が人間だけどね」
ちかこさんが、笑います。
「イオン君、赤ちゃんが無事に産まれてよかったね!」
よし子さんが大きな声でイオン君に呼びかけました。
「ポニーちゃんもよく頑張ったね!」
ちかこさんも、ポニーちゃんに声をかけました。
みんな口々にお祝いの言葉を、投げかけます。
「今、赤ちゃんの体をきれいにしています。ポニーちゃんもすっかりきれいになったら、合図します。そうしたらみんな近くに来てください」
イオン君が、片手をあげてみんなに答えました。
園長さんが、よっしゃーとみんなを見回しました。
「赤ちゃんが生まれたお祝いをしなくてはな。今度の休園日にたこ焼きパーティをしようじゃないか。ポニーちゃんとオライオンの出産祝いだ」
園長さんは、シャツの袖をまくってたこ焼きを焼く真似をしました。
「たこ焼きか、うれしいなブ」
ぶた太がブヒブヒと喜んでいます。
「たこ焼きはおいしかったねえ、オライオン」
ゴルちゃんも、よし子さんの下げたかごから顔を出しました。
「ああ、あの時は楽しかったな」
オライオンは、ゴルちゃんを見ました。
「ぼく、あの時から二匹はお似合いだと思っていたんだ。おめでとう」
ゴルちゃんが、小さな手を伸ばしました。
「ありがとうよ。まさか、ポニーちゃんと結婚できると思っていなかったからな」
ゴルちゃんとオライオンはハイタッチをして喜びを分かち合いました。
「私たちも、たこ焼きを早く食べたいわね! オライオン、おめでとう」
ハムスターのぐりちゃんも、ちっちゃい者たちが入ったかごから出てきました。
他のハムスターやモルモットたちもかごから出てきては、みんなオライオンの体によじ登ってお祝いのキスをしました。
「みんな、うれしいよ。園長さんもありがとう!」
おおーん。おおーん。
オライオンはまた涙を流しています。
「園長さんが変わる前は、たこ焼き屋が動物園でたこ焼き屋くのか、なんて言っていたのにブ」
ぶた太が茶茶を入れました。
オライオンが、ぶた太の頭を軽く小突きました。
「茶茶を入れるんじゃねえ」
泣きながら、オライオンは笑っています。
「なんだ、オライオンはお父さんになっても泣き虫オライオンだな」
園長さんは、オライオンを肘でつつきました。
「これはうれし涙だよ。園長さんのたこ焼きはおいしいんだぜ。たこがたくさん入っているんだ。ポニーちゃん、立派な子供をありがとう。うおおーん」
オライオンは泣いたり笑ったり大忙しでした。
「みんな来ていいですよ。でもいっぺんに大勢だと赤ちゃんがびっくりするので、少しずつにしてくださいね」
イオン君の言葉にみんなはゆっくりと小屋の中に足を踏み入れました。
狭い小屋の中は、人間と動物たちであふれかえっていました。
ちっちゃい者たちは、よし子さんと一緒に入ろうと外で待っています。
ナマケモノのマナさんも、ようやくナマケモノ担当の真奈美さんに抱っこされてやってきました。
リクガメたちも後からついてきています。
ポニーちゃんは、ゆっくりとオライオンの方に顔を向けました。
「オライオン。このかわいらしい私たちの子供の名前は何がいいかしら?」
ポニーちゃんは、涙でぐちゃぐちゃになっているオライオンの顔をやさしく見つめました。
「実は、もう考えてあるんだ。ポニーちゃんのポとオライオンのラを取ってポライオンはどうかな?」
オライオンはポニーちゃんを優しいまなざしで見つめました。
「ポライオン……」
ポニーちゃんが、赤ちゃんの姿をじっと見つめました。
「とてもいいと思うわ」
にっこり笑って言いました。
「あなたの名前はポライオンよ」
ポニーちゃんが言うと、ポライオンはポニーちゃんのおっぱいを探ってポニーちゃんの体に頭を寄せました。
「いい名前だな」
園長さんは、大きくうなずきました。
「単純だけど、いい名前だブ」
ぶた太も、うなずきました。
「単純とは失礼だな」
オライオンが少しむっとしました。
「前においらがアルダブラ探検隊の名前を言ったとき、オライオンもそう言ったんだぞ。覚えてないかブ」
ぶた太が言い返しました。
「そんな遠い昔の事、覚えてないよ」
オライオンはふんとそっぽを向きました。
「おいらは覚えてるブ。あの時は、おいらも単純って言われて少し傷ついたんだブ。だからお返しだブ」
二匹はしばらくにらみ合っていましたが、アルダブラ君が近づいてきたので少し離れました。
アルダブラ君は、花をくわえています。
「喧嘩はやめて~ 僕たちオラアルブ探検隊でしょ」
アルダブラ君が、オライオンとぶた太の間に花を置きました。
「はーい。僕からお祝いの花~」
「これはコスモスか」
オライオンが、表情を緩めました。
「コスモスの花ことばは、乙女の愛情とか、純潔とかだよね。ポライオンにピッタリの花だね」
りょうさんも、言いました。
アルダブラ君は、オライオンのつぶらな瞳を見つめました。
コスモスの匂いをかぐと、オライオンがぶた太のほうを向きました。
「ぶたた、ポライオンが大きくなったら、オラアルブ探検隊に入れてやってもいいか?」
ぶた太は、にっと笑いました。
「もちろんだブ。オライオン一家も入れてやるブ」
その時、ポライオンがゆっくり立ち上がりました。
「ポライオン?」
ポライオンが、オライオンに向かって歩いていきます。
ポニーちゃんは、とことこと園長さんに近寄り軽く体を寄せます。
「おやおや、ポニーちゃん」
オライオンたちのほうを見ていた園長さんは、驚いて横を向きました。
「園長さん。私たちを結婚させてくれてありがとう」
ポニーちゃんは、ぺこりと頭を下げました。
「いやいや、結婚させるも何も、好き同士が一緒になっただけだろう」
園長さんは、薄くなった頭に手を乗せました。
「ポライオンも生まれて私、とても幸せです」
ポニーちゃんは園長さんの目をじっと見つめました。
「でも、心配なことがあるんです。ポライオンが実際に生まれたら、急に不安になったの。園長さん、教えてちょうだい。ライオンとポニーの子供は、無事に生きていけるのかしら。それに違う種同士が結婚して子供が生まれても、長生きできないかもって前に聞いたことがあるの」
ポニーちゃんが、園長さんの顔をまっすぐ見て言います。
「どうしてそんなことを言うの?」
園長さんも、ポニーちゃんの目をのぞき込みます。
「オライオンが昔本で読んだことがあるらしいの。オライオンは、もうそんなことを心配したって仕方がない。力を合わせて育てていこうっていうんだけど、実際に生まれてみると心配で心配で」
ポニーちゃんは、ぽろぽろと涙をこぼしてながら泣いています。
「育児が不安なの?」
園長さんは、ポニーちゃんに聞き返しました。
オライオンが泣いているポニーちゃんの代わりに説明します。
「実は、前の園長さんの時の話だが、見学の人たちに話していたのを偶然聞いてしまったんだ」
「どんな話?」
ひげをさわりながら園長さんは聞きました。
「動物園の動物はただ飼っているんじゃないこと。子孫を増やすことが大事だって。動物に赤ちゃんを産んでもらって育てて、その種を増やすことが動物園の役割の一つだと話していた」
オライオンは、ポニーちゃんの横にそっと寄り添います。
「それを聞いていたから、おれ達はお互いに好きだとわかっていたが、一緒になってもいいのかどうか悩んでいたんだよ。お互い草食動物と肉食動物だしな。子供は産まれてもその代で終わりかもしれないと思うと、今一歩踏み切れなかったんだ」
オライオンのしっぽはだらんと垂れ下がっています。
「まあ、もちろんそれはそうだ。動物の種を増やすことは我々の使命ではある。だけど、動物だからといって好きなものと結婚できない理由などない、と私は思うよ」
園長さんは、つづけました。
「だって、わからないじゃないか。パンダだって子供を産ませようと外国から借りてきて付き合わせたって、赤ちゃんはそう簡単にはできない。自然とはそういうものだよ」
みんなは、最近よその動物園で何年ぶりかで生まれたパンダの赤ちゃんを思い出して顔を見合わせました。
「ライオンがポニーと結婚して何が悪い。こんなにお互いを理解して好きあっている二頭に一緒になってはだめなんて、誰が言える?しかも、その子供の事まで人間が口だすことなんてできないよ」
園長さんは、ポニーちゃんとオライオンの顔を交互に見つめました。
「お互い一緒に生きていきたいと思ったから、子孫など関係ないと割り切ったんだろう」
園長さんがまじめな顔で続けます。
「子孫の話だが、ポニーちゃんが気にしているからあまり話したくないが…… ポニーとライオンの間に生まれた子供がこれからどうやって生きていくかは、実は私にもわからない。草食動物と肉食動物の子供を育てるのは、私も初めての経験だからね」
園長さんは、正直に話しました。
「園長さんも初めてなのね。余計不安だわ。ポライオンは、ちゃんと生きていけるかしら。食べ物は? 結婚は? 子供は産める?」
ポニーちゃんの目にはまた涙がじわじわとにじんでいました。ポライオンが心配そうに見ています。
「ほら、ポニーちゃん。そんなに泣かないで。ポライオンが心配そうに見ているよ」
園長さんは、かがんでポライオンの頭をなでました。
「イオン君は、ポニーちゃんの妊娠の間も一生懸命異種間の生殖、出産について勉強していただろう。図書館から本を借りたり、インターネットで異種間の生殖を担当した経験者を探して質問したり。なあ、イオン君」
イオン君は、急に自分の事を言われて頭をぽりぽりかきました。
「ポニーちゃん、オライオン。私の勝手な推測だが、自然の中でポライオンを育てるより動物園の中で育てる方が安心なのは間違いないと思うよ」
園長さんは、ポニーちゃんを慰めます。
「どうしてそう思うの?」
ポニーちゃんが、疑わしそうに園長さんに聞きました。
「自然の中で生きていけるのは、野生のたくましさを持った動物だけだ。草食動物と肉食動物の子供にどんな天敵が現れるかわからない。見当もつかない。もしかしてポライオンは最強で天敵など現れないかもしれないが、もしかしてその反対かもしれない。私たちも想像でしか話せないが……」
園長さんは腕を組んで続けます。
「とりあえず、動物園の中なら天敵は現れないと思うし、穏やかに暮らせるんじゃないかな。今後のために私たちもじっくり研究させてもらうよ。他の動物園でも起こりうることだからね。ポライオンが大きくなるころには世の中の研究ももう少し進んでいることを期待しようじゃないか」
園長さんは、にっこり笑いました。
「おれ様も勉強したいよ」
オライオンが言いました。
「オライオンは、勉強家だしね。もちろん、勉強してもらって構わないよ。ただ、かなり専門用語が出てくると思うから、難しいかもしれないよ。難しいところは私たちに任せてもらってもいいよ。またストレスになってしまうといけないからね」
園長さんは、オライオン一家をやさしく励ましました。
「そうです!」
イオン君が、ぼさぼさの髪を結びなおすと力強く続けました。
「まかせてください。一応学校でも勉強しましたし、これからも色々調べてポライオンを立派に育て上げます! 困ったときは先輩たちも応援と協力お願いします!」
イオン君がぺこぺこと頭を下げます。
「もちろんよ。みんなで力を合わせてポライオンを立派に育てましょう」
よし子さんも力強く言いました。
小屋のなかに大きな拍手が響き渡りました。
「ほら、こんな素敵なスタッフたちがいるんだ。みんなで力を合わせて仲良く生きて行こうじゃないか」
スズメや鳩がみんなの周りに集まってきました。
オライオンたちを祝福するかのようにちゅんちゅんポッポーと鳴きはじめます。
園長さんは鳥たちの鳴き声に合わせて手をたたき始めました。大きく手を広げます。
「さあ、みんな歌おう!」
園長さんが歌いだします。
「はい! 楽しい仲間、楽しい仲間。仲良く生きよう。楽しくね!」と歌いだしました。
リズムに乗って、楽しく仲良く、と身体を揺らしています。
みんなも園長さんの手拍子に合わせて歌い出しました。
みんなも身体を揺らしながら踊ります。
「来週はたこ焼きパーティーだぞ、イエィ!」
園長さんが伝説のスターのように拳を突き上げました。
「たこ焼き、たこ焼き!」
みんなも声を合わせて叫びました。
踊るナマケモノ係の真奈美さんの足元では、ナマケモノのマナさんが転がっていました。
「私も、赤ちゃんほしいわ~~~ 赤ちゃん、赤ちゃん」
マナさんもリズムに乗りながら、つぶやきます。
真奈美さんもリズムをとりながら、返します。
「そうだよね、マナさんもお年頃ったらお年頃」
マナさんは、ゆっくり顔を上げると園長さんに手を振りました。
「園長さ~ん。私も旦那さんと赤ちゃんほしいの~~~ どうにかして~~~」
マナさんが叫ぶと、園長さんは投げキッスを返しました。
「たこ焼きたこ焼き! 楽しく生きよ!」
園長さんのヒップホップとみんなの声が、園内に響き渡っています。
「楽しく生きよ!」
みんなの声がこだまします。
「きっとマナさんの素敵な相手見つけるよ!」
園長さんが、マナさんに向かって手を振りました。
羊やアルパカさんたちもやいやい言い出しました。
「私も私も」
「これからこれから考えよ、楽しく生きよ、たこ焼き食べて考えよ」
園長さんの陽気な声がみんなを包み込みます。
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ママと中学生の僕
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大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
人をふにゃふにゃにするスイッチ
まさかミケ猫
児童書・童話
――人に向かってこのスイッチを押すと、その人はふにゃふにゃになるんじゃよ。
小学六年生のケンゴは、近所に住んでいる発明家のフジ博士から珍妙な発明品をもらいました。その名も“人をふにゃふにゃにするスイッチ”。消しゴムくらいのサイズの黒い小箱で、そこには押しボタンが三つ。つまり、三回まで人をふにゃふにゃにできるらしいのです。
「精神的にふにゃふにゃになるだけじゃ」
博士の説明を聞いたケンゴは、お父さんとお母さんに一回ずつ使いたいなと思っていました。とうのも、二人は年中ケンカばかりしているのです。
いきなり両親に使用するのが怖かったケンゴは、まずは学校にいる誰かで一回分だけ試してみようと思いました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
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