61 / 90
第61話 8-2日目 最短でのBランク昇格!?指名依頼!?
しおりを挟む腕の中でぐったりと力の抜けた身体を支える。
聞こえてくる呼吸は大分安定しているけど、表情が見えないからなんとも言えない。
パニックを起こすよりは意識を失っていた方が楽だろう。だけど次に目を覚ました時にまだこの状態だったら、また同じことになるかもしれない。
こいつが目を覚ます前にどうにかここを出たいところだけど、と考えたところで扉の向こうに人の気配がした。足音と話し声が近付いてくる。
誰かがこの状況に気づいて探しに来たのかもしれない。
重い扉が開いて眩しい光が入り込む。
「瀬尾!大丈夫!?…ってあれ?」
「清春いるか!?って相楽?」
揃いも揃って似たような反応で入ってきたのはアホ会長と知らない金髪の男だった。
腕の中の存在を起こさないように抱き上げて、扉へと向かう。
「色々あって気失ってるから、静かに」
それを見てまた騒ぎ出しそうな二人に向かって事前に釘を打つ。アホ会長が心配そうな顔をして「清春は大丈夫なのか?」と聞いてくる。
「今は大丈夫だと思うけど。嫌がらせで閉じ込められて、俺は巻き添えくらった感じ」
「そうか、とりあえず部屋に連れて行こう。ああ、そっちの金髪の奴は清春の同室だ」
「あ、どうも羽宮です。すみません、瀬尾のこと助けてくれてありがとうございます。後はオレが連れて行くんで」
そう言って伸ばされた腕に荷物を引き渡そうとして、俺の服を掴む手が離れない事に気づく。
「…クソが。いいや、一応保健室連れて行くから。あんたは後でそっちに迎え行って」
「あ、はい」
「じゃ。会長は犯人捜ししといてください」
二人に背を向けて言葉通り保健室に向かって歩き出す。腕の中の存在はちっとも重くないのに煩わしくてたまらない。どうして俺がこんな奴のために少しの揺れもないように慎重に歩いてやらないといけないんだろう。
『瀬尾のこと助けてくれてありがとうございます』
どうしてあんな一言が引っかかるんだろう。まるで自分のものかのような言い方が気に入らない、なんて笑える。
どうして服を掴んでいるだけの手を離せなかったんだろう。力を入れれば簡単に振り落とせそうなこの手を、どうして。
「…ヨダレ出てるし」
保健室のベッドに寝かせてようやく確認した表情は、呆れるくらいのアホ面だった。
こういうところだけはなにも変わってない。
馬鹿で間抜けなお前。
このままずっと、眠っていればいいのに。
そうしたらまた、あと一度だけ、俺はお前のことを大切にしてやれそうな気もした。
昔みたいに、なにもなかったように笑ってくれれば。
「なんてな」
ありえない、そんなの。
もうお前に裏切られるのなんて懲り懲りだ。
俺のきよはもうこの世界のどこにもいない。
だからあいつに似た顔で、声で、俺に近付くなよ。
同じようなことを言うなよ。
「…目障り」
早く消えてほしい、俺の目の前から。
そうしてもう二度と現れないでほしい。
このままお前が死んでくれれば、俺はきっと楽になれるのに。
思考が行き過ぎたところで、不意に眠っていたはずのその目が薄く開かれた。
朧げな瞳が俺の姿を捉えて瞬く。
「めえ…?」
幼い子どもが親に寄せるような全幅の信頼と、甘えを滲ませた舌足らずな声が俺を呼んだ。
懐かしいその響きに思わず息を呑む。
うたた寝の合間に目を覚ますと、きよは決まって視界に入った俺のことをそんな声で呼んだ。
夢現な瞳が真っ直ぐに俺を見つめて笑う。
真っ黒に見える虹彩は、近くで覗くと青みがかっているのがよくわかるのだ。
光の差し込む角度で様子を変えるその瞳から目が離せないのは今に限った話じゃない、昔からずっとそうだ。
きよは事あるごとに俺の目が綺麗だと言って褒めたけれど、俺からしたらきよの目の方がよっぽど綺麗だった。
どんな宝石よりも、なんて陳腐な言葉が浮かぶほどに。
「めい、だいすきだよ」
そんな傍迷惑な一言を残して、目の前の男は糸が切れたように再び眠りについた。
『……おれはおれだよ』
静かな寝顔を見ていたら、そう言って寂しそうに笑った顔を思い出した。
「俺は大っ嫌いだよ、お前のこと」
お前はきよじゃない。
そうじゃないとダメなんだ。
だって俺、きよのことは嫌いになれないんだから。
聞こえてくる呼吸は大分安定しているけど、表情が見えないからなんとも言えない。
パニックを起こすよりは意識を失っていた方が楽だろう。だけど次に目を覚ました時にまだこの状態だったら、また同じことになるかもしれない。
こいつが目を覚ます前にどうにかここを出たいところだけど、と考えたところで扉の向こうに人の気配がした。足音と話し声が近付いてくる。
誰かがこの状況に気づいて探しに来たのかもしれない。
重い扉が開いて眩しい光が入り込む。
「瀬尾!大丈夫!?…ってあれ?」
「清春いるか!?って相楽?」
揃いも揃って似たような反応で入ってきたのはアホ会長と知らない金髪の男だった。
腕の中の存在を起こさないように抱き上げて、扉へと向かう。
「色々あって気失ってるから、静かに」
それを見てまた騒ぎ出しそうな二人に向かって事前に釘を打つ。アホ会長が心配そうな顔をして「清春は大丈夫なのか?」と聞いてくる。
「今は大丈夫だと思うけど。嫌がらせで閉じ込められて、俺は巻き添えくらった感じ」
「そうか、とりあえず部屋に連れて行こう。ああ、そっちの金髪の奴は清春の同室だ」
「あ、どうも羽宮です。すみません、瀬尾のこと助けてくれてありがとうございます。後はオレが連れて行くんで」
そう言って伸ばされた腕に荷物を引き渡そうとして、俺の服を掴む手が離れない事に気づく。
「…クソが。いいや、一応保健室連れて行くから。あんたは後でそっちに迎え行って」
「あ、はい」
「じゃ。会長は犯人捜ししといてください」
二人に背を向けて言葉通り保健室に向かって歩き出す。腕の中の存在はちっとも重くないのに煩わしくてたまらない。どうして俺がこんな奴のために少しの揺れもないように慎重に歩いてやらないといけないんだろう。
『瀬尾のこと助けてくれてありがとうございます』
どうしてあんな一言が引っかかるんだろう。まるで自分のものかのような言い方が気に入らない、なんて笑える。
どうして服を掴んでいるだけの手を離せなかったんだろう。力を入れれば簡単に振り落とせそうなこの手を、どうして。
「…ヨダレ出てるし」
保健室のベッドに寝かせてようやく確認した表情は、呆れるくらいのアホ面だった。
こういうところだけはなにも変わってない。
馬鹿で間抜けなお前。
このままずっと、眠っていればいいのに。
そうしたらまた、あと一度だけ、俺はお前のことを大切にしてやれそうな気もした。
昔みたいに、なにもなかったように笑ってくれれば。
「なんてな」
ありえない、そんなの。
もうお前に裏切られるのなんて懲り懲りだ。
俺のきよはもうこの世界のどこにもいない。
だからあいつに似た顔で、声で、俺に近付くなよ。
同じようなことを言うなよ。
「…目障り」
早く消えてほしい、俺の目の前から。
そうしてもう二度と現れないでほしい。
このままお前が死んでくれれば、俺はきっと楽になれるのに。
思考が行き過ぎたところで、不意に眠っていたはずのその目が薄く開かれた。
朧げな瞳が俺の姿を捉えて瞬く。
「めえ…?」
幼い子どもが親に寄せるような全幅の信頼と、甘えを滲ませた舌足らずな声が俺を呼んだ。
懐かしいその響きに思わず息を呑む。
うたた寝の合間に目を覚ますと、きよは決まって視界に入った俺のことをそんな声で呼んだ。
夢現な瞳が真っ直ぐに俺を見つめて笑う。
真っ黒に見える虹彩は、近くで覗くと青みがかっているのがよくわかるのだ。
光の差し込む角度で様子を変えるその瞳から目が離せないのは今に限った話じゃない、昔からずっとそうだ。
きよは事あるごとに俺の目が綺麗だと言って褒めたけれど、俺からしたらきよの目の方がよっぽど綺麗だった。
どんな宝石よりも、なんて陳腐な言葉が浮かぶほどに。
「めい、だいすきだよ」
そんな傍迷惑な一言を残して、目の前の男は糸が切れたように再び眠りについた。
『……おれはおれだよ』
静かな寝顔を見ていたら、そう言って寂しそうに笑った顔を思い出した。
「俺は大っ嫌いだよ、お前のこと」
お前はきよじゃない。
そうじゃないとダメなんだ。
だって俺、きよのことは嫌いになれないんだから。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。
モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。
日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。
今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。
そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。
特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる