上 下
6 / 50

6.保護するための結婚て何?

しおりを挟む
「このカーメレン公爵家は私が継ぎますし、私には婚約者がおりますので、貴方は兄上と結婚してもらいたい」
「ああ、頂点にいらっしゃる大聖女様ですね」

 オーガストのツッコミどころ満載な言葉を一旦スルーして、エレノアは聖女とカーメレン公爵家の関係を確認する。

「……何を言っているんです? 私の婚約者は第二王女のサンドラ様だ」

 エレノアの問に、思わず砕けた言葉遣いになるオーガスト。

(……何か凄い情報出てきた)

「兄上、まだ噂されているのですか?」

 驚くエレノアを横目に、オーガストがイザークに呆れた視線を流す。

「俺には関係無い」
「……そうやって放置なさるから、周囲から固めようとしてくるのですよ。まあ、カーメレン公爵家相手に無駄な努力ですがね」
「ええと?」

 兄弟で訳の分からない話をしだしたので、エレノアは首を傾げる。

 イザークが見たことのない不機嫌な顔をしている。

「その噂は兄上のものですが、お相手が兄上にご執心で蒔いた下世話な噂ですので、気にしないでください」
「はあ……」

 オーガストがにっこりとエレノアに説明をしてくれた物の、イザークは不機嫌なまま。

(あれだけイケメンなんだから、まあモテモテなんでしょうね。飴屋でも多くの女性に囲まれていたし)

 騎士様も大変なんだな、そんなことを考えていると、イザークが突然こちらを向いて、エレノアの手を取った。 

「エレノア殿、私はその女性のことは何とも思っていない」
「は、はあ……」

 先程まで不機嫌だった表情はどこかに飛んでいったイザークは、縋るような目でエレノアを見ていた。

「だから安心して私と結婚して欲しい」
「ええと?」
 
 だから、何故そこで結婚になるのだろう?そんな疑問を持ちつつ、エレノアはやんわりと遠回しに断りに持っていこうとする。

「大聖女様は侯爵家のご令嬢だと伺っています。そんな方を差し置いて、孤児である私と結婚なんて……」
「カーメレン公爵家は弟のオーガストが継ぐ。だから私には家同士の結婚なんて関係無い。でも騎士団で団長を務めさせてもらっているから、生活には困らせない」
「ええと?」

(騎士様は何故こんなにも一生懸命に私を説得しているのだろう?)

 言葉に力を増しながら、イザークの距離がどんどん近くなっている。

(だから、近いです!!)

「エレノア殿、貴方は教会に戻りたくないんですよね?」

 至近距離のイザークにエレノアが顔を赤くしていると、オーガストがくすくすと笑いながら、言葉を挟んだ。

「はい! それは、もう!」

 エレノアは力強く頷きながら返事をする。

「こちらも、貴方を教会側に渡したくない。兄上との結婚は、貴方を守るために一番良い方法なんですよ?」
「というと?」
「兄上は騎士団の騎士団長。しかも、カーメレン公爵家の後ろ盾がある。そんな人物の妻に手出ししようなんて、そうそう思わないでしょう」
「なるほど……」

 オーガストの説明にエレノアは思わず納得させられた。

「ええと、でも騎士様はそれで良いのでしょうか?」

 ちらりとエレノアがイザークを見ると、彼は身体をびくりとさせ、悲しげにエレノアを見つめた。

(騎士様?)

「……兄上は、バーンズ侯爵家のご令嬢に家ごと迫られて困っていました。この話は兄上にとっても良いものでしょう」
「ああ、虫除け・・・ですね」

 オーガストの言葉に、エレノアはようやく腑に落ちた。

「では、教会の悪事が暴かれるまで、バーンズ侯爵家のご令嬢のほとぼりが冷めるまで、仮の結婚ということですね!」
「いや、あの……」
「ああ、そういうことで良いよ。ただ、君を守るために、結婚は本当にしてもらうよ?」
「教会に戻らなくて済むなら、何でも良いです!」
「じゃあ、交渉は成立、ってことで」

 イザークはまだ何か言いたげだったが、悲しそうな表情のまま、黙ってしまった。

(この結婚は、王家も絡んだ教会糾弾のためのもの。真面目な騎士様は、私に申し訳無いとか思ってそうだなあ)

 エレノアがそんなことを考えているうちに、オーガストがどんどん話を進めていって、結婚に必要な書類もその場で書かされた。

「はい、では後はこれを部署に提出すれば、二人は夫婦です」

 オーガストの言葉に、次期当主ではないとはいえ、公爵家の方といやにあっさりと手続き出来たなあ、とエレノアは関心する。

「はい、では明日からエレノア殿にはこの公爵家の離れで暮らしてもらいます。もちろん、兄上も一緒にね?」
「はあ?!」

 感心していたのも束の間、オーガストからとんでもない言葉が出てきて、エレノアは思わず声をあげた。

「結婚したのに別居はないでしょう。それに、兄上は今は騎士団の寮にいるので、新しい家を探すより、ここに戻ってくる方が早いでしょう。警備も人員を割かなくて済みますし。あ、もちろん部屋は別々です」
「離婚するのに新しい家はいらないですしねえ」
「え」
「騎士様?」

 オーガストの言葉に、それもそうか、とエレノアは思い、部屋が別なことに安堵する。その流れで思わず溢した言葉に、イザークが横で固まった。

「離婚?」
「いや、仮の結婚ならそのうちしますよね?」
「……俺は……」
「騎士様?」

 何故か驚いて目を見開いたイザークにエレノアがそう言えば、彼はフリーズしてしまった。

「エレノア殿、先のことはまだ考えなくても良いのでは? 今はとにかく自身の安全を考えていただいて……」
「それもそうですね」

 黙ってしまったイザークの代わにオーガストがそう言ってくれたので、エレノアも笑顔で答えた。

(うん、色々ツッコミどころや疑問もあるけど、教会に連れ戻される恐怖を考えたら、好条件の提案だ。ここは乗っからせてもらおう)

 納得をしたエレノアは、ふと大切なことに気付く。

「あ、そうだ。飴屋は続けても良いですか?」 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

侯爵令嬢セリーナ・マクギリウスは冷徹な鬼公爵に溺愛される。 わたくしが古の大聖女の生まれ変わり? そんなの聞いてません!!

友坂 悠
恋愛
「セリーナ・マクギリウス。貴女の魔法省への入省を許可します」 婚約破棄され修道院に入れられかけたあたしがなんとか採用されたのは国家の魔法を一手に司る魔法省。 そこであたしの前に現れたのは冷徹公爵と噂のオルファリド・グラキエスト様でした。 「君はバカか?」 あたしの話を聞いてくれた彼は開口一番そうのたまって。 ってちょっと待って。 いくらなんでもそれは言い過ぎじゃないですか!!? ⭐︎⭐︎⭐︎ 「セリーナ嬢、君のこれまでの悪行、これ以上は見過ごすことはできない!」 貴族院の卒業記念パーティの会場で、茶番は起きました。 あたしの婚約者であったコーネリアス殿下。会場の真ん中をスタスタと進みあたしの前に立つと、彼はそう言い放ったのです。 「レミリア・マーベル男爵令嬢に対する数々の陰湿ないじめ。とても君は国母となるに相応しいとは思えない!」 「私、コーネリアス・ライネックの名においてここに宣言する! セリーナ・マクギリウス侯爵令嬢との婚約を破棄することを!!」 と、声を張り上げたのです。 「殿下! 待ってください! わたくしには何がなんだか。身に覚えがありません!」 周囲を見渡してみると、今まで仲良くしてくれていたはずのお友達たちも、良くしてくれていたコーネリアス殿下のお付きの人たちも、仲が良かった従兄弟のマクリアンまでもが殿下の横に立ち、あたしに非難めいた視線を送ってきているのに気がついて。 「言い逃れなど見苦しい! 証拠があるのだ。そして、ここにいる皆がそう証言をしているのだぞ!」 え? どういうこと? 二人っきりの時に嫌味を言っただの、お茶会の場で彼女のドレスに飲み物をわざとかけただの。 彼女の私物を隠しただの、人を使って階段の踊り場から彼女を突き落とそうとしただの。 とそんな濡れ衣を着せられたあたし。 漂う黒い陰湿な気配。 そんな黒いもやが見え。 ふんわり歩いてきて殿下の横に縋り付くようにくっついて、そしてこちらを見て笑うレミリア。 「私は真実の愛を見つけた。これからはこのレミリア嬢と添い遂げてゆこうと思う」 あたしのことなんかもう忘れたかのようにレミリアに微笑むコーネリアス殿下。 背中にじっとりとつめたいものが走り、尋常でない様子に気分が悪くなったあたし。 ほんと、この先どうなっちゃうの?

婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~

白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」 ……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。 しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。 何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。 少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。 つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!! しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。 これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。 運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。 これは……使える! だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で…… ・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。 ・お気に入り登録、ありがとうございます! ・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします! ・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!! ・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!! ・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます! ・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!! ・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

処理中です...