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番外編〜アオイの恋〜

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「ねえステラ、何でマシューって彼女いないの?」

 アオイとの訓練終わり。中庭で二人、並んでお茶をしていると、アオイの口からそんな話が出てきた。

「いや、あ、あれよ? あんなモテてるくせに、あえて作らないとか言ってやがったから何でかなって! 興味よ? 興味!」

 まだ何も言っていないのに、言い訳じみた発言をするアオイが可愛い。

 昨日カーティスに話を聞いていなかったら、確かに普通に見逃していたかもしれない。

 ……いつの間に……。

 気付けなかった自分にショックを受けつつも、可愛いアオイにほのぼのとしてしまう。

 可愛いアオイに、にんまりと笑顔で問に答える。

「マシューはねえ、騎士団に命を懸けちゃってんのよねえ。それで、いつか死ぬかもしれない自分には大切な人は必要ない、って思ってるみたいなんだよね」
「何それ、カッコつけちゃって」
「ほんとだよねえ」

 私の説明に、アオイは悪態を付きながらも、傷付いたような表情をしている。

「マシューは、侯爵家、貴族の息子なんだけど、三男なの。だから、自分の居場所を騎士団に見出して頑張って来たんだよね」
「え…」

 私の話に、アオイの黒い目が揺れた。

 シェーベリン家を出て一人、騎士団でのし上がって来たマシュー。

 何か、家族と距離があって寂しい想いを抱えている所、アオイと被るのよね。

 だからかな。二人なら、って思ったのは。

「アオイならマシューと上手くやっていけると思わない?」
「は?!」
「好きなんでしょ? マシューのこと」
「!」

 眉をつり上げ、固まってしまったアオイの顔は、赤い。

「……だから、いつもストレート過ぎるって言ってるじゃない……」

 顔を赤くしたまま、アオイは観念したかのように言葉を吐き出す。

 恋するアオイの表情は可愛くて、ついニマニマしてしまう。

「もう! でも余計なことはしなくて良いからね?!」

 ニマニマする私に、アオイは念を押すように言う。

「え? 何で?」

 いつもの勢いなら、協力しろー!って言うかと思ったのに。

 意外なアオイの言葉に首を傾げると、アオイの表情は憂いを帯びていた。

「だって……、私、アイツに嫌われてるでしょ?」

 か、可愛い!!

 真剣に悩んでるアオイには申し訳ないけど、この恋する女の子に、たまらなく悶絶してしまう。

「そんなことはないよ」

 悶絶しながらも、すかさずフォローを入れたけど、アオイがジト目でこちらを見てきた。

「そんなことあるでしょ」
「ええ?」
「だって、アイツ、私のこと仕事出来ない聖女だと思ってるし、恋愛体質だと思ってるし、会えば言い合いになるし!!」

 止まらないアオイに、またまた可愛いなあ、とほのぼのしつつ、私も引かない。

「だから、嫌ってないって!」
「何でそんなことわかるのよ?!」
「マシューは認めた人しか第一部隊に置かないから!」

 何故かアオイと言い合いになりかけながら、私は言い聞かせるように彼女に言った。

「第一部隊は魔物討伐をする、国の重要な要。だから、聖女だろうが何だろうが、置いとけない、て思ったら、他の隊に回すのよ、マシューは」
「聖女だろうがって、言い方………」

 私の説明にアオイは呆れながらも、聞いてくれているようだった。

「だから、アオイは聖女として認められてるんだよ?」
「そっか……」

 ようやく納得してくれたアオイは、そう言って、頷いた。

「聖女としては認めてもらえてるんだ……」

 複雑そうな、でも嬉しそうに微笑んだアオイは、本当に綺麗で。

 頑張り屋で、この国のために召喚された彼女には幸せになって欲しい。そう願わずにはいられなかった。

「でもやっぱり、余計なことはしないでね」
「え、何で……」
「そういう対象に見られてないからよ」
「ええ~……」

 釘を差してくるアオイに、協力したい気持ちを出すも、アオイは断った。

 そして、自分に対してやっぱり否定的だ。

 そんなことないのに。あのカーティスが言うくらいだから、マシューだってアオイのことを意識しているのだろう。

「私、ステラみたいにど直球で生きてないから」
「あ、酷い!」

 アシュリー様に好き好き攻撃で生きてきた私にとっては、相手に気持ちを伝えるのって大切だと思ってきたけど。

 カーティスの言う通り、このままだとアオイとマシューの気持ちは交わらないかもしれない。

 でも、本人が望んでないことを手出しするのも違うよねえ?

 アオイとマシュー。

 幸せになって欲しい二人に、私が出来ることは何だろう?

 猪突猛進、真っ直ぐな私には難しい問題だった。
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