上 下
14 / 19
番外編〜アオイの恋〜

7(アオイ視点)

しおりを挟む
 この世界に来て、ステラと出会って、私は一生懸命に訓練を積んできた。

 私にこんな特別な力があったなんて、未だに信じられない。それをこの国の人たちは求めてくれている。

 力を制御出来るようになって、ステラはいっぱい褒めてくれた。

 ステラはこんな私を認めて、許してくれる存在。ここにいても良いんだと思える、初めての親友で、居場所。

 ステラは裏表が無くて、何でも言えるし、彼女の言うことは信用出来た。

 そんなステラとアシュリー様は、本当にお似合いだと思う。アシュリー様がステラを見ている時の表情は優しくて、愛おしそう。

 そんな二人が羨ましい。いつか私にもそんな人が現れるだろうか?

 聖女として、この国の役に立っていれば必要とされる。でも、愛してくれる人となると話は別だ。

「あーあ、ステラが男だったら良かったのに」

 そんなことを呟けば、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。

 そんな彼女に喜んで欲しくて、こっそり自主訓練もしていた。

 でも、私が一人でいると、神官がどこで聞きつけたか、わらわらと湧き出してくる。

 チヤホヤされるのは嫌いじゃなかった。でも今は、そんなことより唯一の人が欲しい。

 とりあえず神官たちには笑顔で聖女らしく振舞っていれば、あの男に嫌味を言われてしまった。

 マシュー・シェーベリン。私の七歳歳上のガタイの良い長身イケメン。ただし、性格は悪い。

 自主訓練をしていただけなのに、何であんなこと言われなきゃいけないんだろう。

 ステラのお兄さん的存在だって行ってたけど、恋人もいないようだし、本当はステラのことが好きだったんじゃないの?

 お城のメイドたちが、きゃあきゃあと、あの男を見ていたけど、興味なさそうな顔をしている。

 ふん、すましちゃってさ。

 今度、私はステラたちと魔物討伐に行く。絶対にあの男を見返して、ギャフンと言わせてやる!!


「アオイ、防御魔法をーー!!」

 安全な後ろにいたはずの私は、急に後ろから襲って来た魔物に取り囲まれる。

 ステラの声が聞こえた気がしたけど、動けない。

「聖女様っっ!」

 私の護衛をしてくれていた騎士たちが必死に私を庇ってくれている。

 切り取られる魔物。

「ひっ!」

 ギョロりとした眼が私を見る。

 怖い、怖い、怖い。

 あんなに訓練したのに。動けない。

 だって、日本にはこんなのいなかった!

 動け、動け、動け!!

 そう思うのに、手に力が入らない。

「聖女様!!」

 騎士の叫び声に気付くと、私の目の前には生きて動く魔物。気付いた所で、もう遅い。

 ダメだーーーー

 思わずギュッと目をつぶれば、ふわりと私の身体が浮いた。

 ザンっ、と一瞬の音がして、恐る恐る目を開ければ、魔物は動かなくなっていた。

 私、何で浮いてるの?

 ようやく追いついた頭で、自分が抱き寄せられていることに気付く。

「げっ!!」
「大丈夫か?」

 気付けば、私はマシューに抱えられていた。

 片方の手で私を抱き寄せ、片方の手には大きな剣。

 器用にも片手で魔物を倒したみたいで。

 この人、本当に強いんだ……。

 周りを見れば、魔物は一掃されていた。

「おい?」

 そんなことをぼんやり思えば、マシューに顔を覗き込まれてしまう。

「あ、ありがと! 助けてくれて!」

 プイ、と顔を背けてお礼を言えば、マシューはふわりと笑った。

「何だ、素直な所もあるんだな」
「し、失礼ね!!」

 初めて見せる笑顔にドキリとしてしまい、つい悪態をついてしまう。

 そんな私にワシャワシャと頭を撫でるマシュー。

「ちょ、犬じゃないんだから!」

 彼の手をどけようとして、動かした私の手が、今更ながらに震えてくる。

 じっと見てきたマシューに馬鹿にされたくなくて、つい可愛くないことを言ってしまう。

「肝心な時に動けなくて、ば、馬鹿にしてるんでしょ!! 悪かったわね! どうせ仕事出来ないわよ!」

 言われる前に、とつらつらとそんな言葉を発してしまう。

 言っていて、自分が惨めに思えてきた。

 でも、彼が発したのは、意外に優しい言葉だった。

「馬鹿になんてしてない。お前がどんなに訓練してきたか俺は知ってるさ。ステラを見てきたからつい忘れてしまうが、普通の女は魔物を前にして動けなくて当たり前だ」

 ポン、と頭に手を置いて優しく笑うマシュー。彼はこんな人だっただろうか?

 会うと言い合いになり、いけ好かない男。

 それが、何で、こんな非常事態の時には優しいのよ。

「ちょっと、それどーゆう意味?!」

 先頭の魔物を片付けたステラが、いつの間にかこちらに駆けつけていたようで、マシューに頬を膨らませながら迫っていた。

「ステラ!」

 マシューの腕の中にいた私は、慌ててステラに飛びついた。

 安心したのと、恥ずかしいのと、ドキドキを紛らわせたいのと、もう感情がごちゃまぜだ。

「アオイ、怖い思いさせてごめんね。頑張ったね」

 私を抱きしめ返してくれたステラに、ホッとする。

 それから落ち着きを取り戻した私は、初めての浄化作業をこなすことに成功した。

「これでこの地は安心ね!」

 初めての魔物討伐は怖かったけど、ステラの笑顔を見て、成功したんだと安心した。

 ムカつくあの男、マシューも優しく笑ってこちらを見ていたので、私の心は落ち着かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

待つわけないでしょ。新しい婚約者と幸せになります!

風見ゆうみ
恋愛
「1番愛しているのは君だ。だから、今から何が起こっても僕を信じて、僕が迎えに行くのを待っていてくれ」彼は、辺境伯の長女である私、リアラにそうお願いしたあと、パーティー会場に戻るなり「僕、タントス・ミゲルはここにいる、リアラ・フセラブルとの婚約を破棄し、公爵令嬢であるビアンカ・エッジホールとの婚約を宣言する」と叫んだ。 婚約破棄した上に公爵令嬢と婚約? 憤慨した私が婚約破棄を受けて、新しい婚約者を探していると、婚約者を奪った公爵令嬢の元婚約者であるルーザー・クレミナルが私の元へ訪ねてくる。 アグリタ国の第5王子である彼は整った顔立ちだけれど、戦好きで女性嫌い、直属の傭兵部隊を持ち、冷酷な人間だと貴族の中では有名な人物。そんな彼が私との婚約を持ちかけてくる。話してみると、そう悪い人でもなさそうだし、白い結婚を前提に婚約する事にしたのだけど、違うところから待ったがかかり…。 ※暴力表現が多いです。喧嘩が強い令嬢です。 ※史実とは関係ない異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法も存在します。 格闘シーンがお好きでない方、浮気男に過剰に反応される方は読む事をお控え下さい。感想をいただけるのは大変嬉しいのですが、感想欄での感情的な批判、暴言などはご遠慮願います。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

【完結】離縁の理由は愛されたいと思ったからです

さこの
恋愛
①私のプライバシー、プライベートに侵害する事は許さない ②白い結婚とする ③アグネスを虐めてはならない ④侯爵家の夫人として務めよ ⑤私の金の使い道に異論は唱えない ⑥王家主催のパーティー以外出席はしない  私に愛されたいと思うなよ? 結婚前の契約でした。  私は十六歳。相手は二十四歳の年の差婚でした。  結婚式に憧れていたのに…… ホットランキング入りありがとうございます 2022/03/27

前世と今世の幸せ

夕香里
恋愛
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。 しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。 皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。 そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。 この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。 「今世は幸せになりたい」と ※小説家になろう様にも投稿しています

初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。

豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」 「はあ?」 初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた? 脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ? なろう様でも公開中です。

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

処理中です...