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番外編〜アオイの恋〜
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「いいか、足だけは引っ張るなよ」
「はあー? 何であなたにそんなこと言われなきゃいけないわけ?」
「俺はこの隊の責任者だ!」
「はいはい」
「何だ、その返事!!」
魔物討伐の日の朝。
騎士団に集合した私と第一部隊の騎士たちはあ然と二人を眺めていた。
アオイとマシューは、お互い顔を合わせるなり、悪態をつきはじめ、言い合いになっている。
この国の聖女様と部隊長。誰も止められるはずもなく、隊員たちの何とかしてくれ、という目線が私に一身に注がれる。
うう、まさに犬と猿、 猫と鼠?
これから魔物討伐に行くというのに、険悪だ。
仲間を重んじるマシューがこんな喧嘩をするなんて珍しい。
あの日からこの討伐の日まで、アオイは増々訓練を頑張っていた。
マシューを見返してやる!と息巻いていたけど、あれからまた何かあったのかしら……?
「だからあんたモテないのよ!!」
「俺はモテなく無い!」
「じゃあ何で決まった相手がいないのよ。モテないからでしょ!」
「モテないんじゃない! あえて特定の相手を作らないだけだ!」
「どうだか」
私が二人のことを考えている間に、言い合いがおかしなことに発展している。
そう言えば、マシューは侯爵家の息子ながら、三男だからお気楽だ、と言ってたっけ。
騎士団に人生を捧げることを決めていて、その信念から大切な人は作らない、と聞いたことがあった。
大切な人、アシュリー様のためだからこそ頑張れる私には、そういうものかと理解できずにいた。
だって、自分は命をかけて死んでいく身だから大切な人を作らない、と言っているようで。
だからこそお兄様のような存在のマシューにも、いつか大切な人が出来れば良い、そう願っていた。
「ステラ、そろそろ止めろよ」
二人の言い合いが脱線してきたのを見かねて、副隊長のカーティスが声をかける。
カーティスとはマシューが隊長になってからの付き合いだけど、魔物討伐を共にしてきた信頼おける仲間。もちろん、第一部隊皆、大切な仲間だ。
アオイももちろん、大切な仲間になるわけで。
「二人とも、討伐前だよ?」
「ステラ……っ!」
二人に割って入ると、アオイは私の後ろにササッと隠れる。
「……聖女は浄化のみ。前には出るなよ」
「頼まれなくても!」
マシューがそう言うと、アオイはアッカンベーで答える。
何か言いたげだったマシューは、堪えて隊の指示に向かった。……はあ。
「アオイ、何でこんなにマシューとの仲が悪化してるの?」
「アイツ、この前私が自主訓練してる時に通りかかって、嫌味言いやがったのよ!」
「嫌味?」
「男を侍らせて良いご身分だな、って!」
「男を侍らす????」
どうしてそんなことになっているのか疑問に思い、アオイに説明を求めると、彼女は続けて教えてくれた。
「何か、練習してると神官たちがタオルとか飲み物とかせっせと持って来てくれるのよ」
「ああ、それで……」
「あの失敗した合コンで知り合った神官たちなんだけど……」
珍しく複雑な顔をするアオイにどうしたのかと問いかければ、彼女らしい答えが返ってきた。
「私を何とも思ってない男たちが群がると、出会のチャンスを逃しちゃうじゃない」
なるほど。
「おい、出発するぞ!」
奥で話していた私たちにマシューから声がかかったので、とりあえず話を切り上げる。
「良い? アオイ。あなたは私たちが守るけど、完全とはいかない。防御、これ一点に集中してね。戦いが終わればあなたの浄化の出番だから」
「まっかせといて!」
頼もしいアオイの返事を聞いて安心しつつ、私たちは魔物討伐に出掛けた。
王都から離れた森まで移動すると、臨戦態勢に入る。
「今日はグレムリンの群れだ! 行くぞ、ステラ」
「うん! アオイ、隊員から離れないでね!」
「えっ?! ステラ?!」
マシューの掛け声に、私はアオイを隊員に任せて前に出る。
先陣の隊員たちと合図を取ると、私は一気に魔法でグレムリンを散らす。
マシュー、先陣の隊員たちが続いて残ったグレムリンを切り捨てて行く。
私も剣で薙ぎ払いながら、魔法で片付けていく。
今回も何とか早く片付きそう。
そう思った時だった。
「うわあああ!」
後ろの方から隊員の叫び声が聞こえて来た。
「挟まれたぞ!」
目をやると、他のグレムリンの群れがいつの間にか後ろにもいた。
急な襲撃に、隊員が応戦するも、陣形が崩れている。
後ろにはアオイがいる!
「アオイ、防御魔法をーー!」
アオイの方を見れば、混沌とする戦場の中、彼女は固まってその場に立ち尽くしていた。
「アオイ!! 防御魔法を!!」
焦る私の声は、アオイには届いていないようだった。
「ステラ、俺を飛ばせ!」
マシューの叫びに、反射的に私は魔法を使った。
「マシュー、お願い!」
私の魔法で、マシューは後方の戦場へと飛んで行った。
「はあー? 何であなたにそんなこと言われなきゃいけないわけ?」
「俺はこの隊の責任者だ!」
「はいはい」
「何だ、その返事!!」
魔物討伐の日の朝。
騎士団に集合した私と第一部隊の騎士たちはあ然と二人を眺めていた。
アオイとマシューは、お互い顔を合わせるなり、悪態をつきはじめ、言い合いになっている。
この国の聖女様と部隊長。誰も止められるはずもなく、隊員たちの何とかしてくれ、という目線が私に一身に注がれる。
うう、まさに犬と猿、 猫と鼠?
これから魔物討伐に行くというのに、険悪だ。
仲間を重んじるマシューがこんな喧嘩をするなんて珍しい。
あの日からこの討伐の日まで、アオイは増々訓練を頑張っていた。
マシューを見返してやる!と息巻いていたけど、あれからまた何かあったのかしら……?
「だからあんたモテないのよ!!」
「俺はモテなく無い!」
「じゃあ何で決まった相手がいないのよ。モテないからでしょ!」
「モテないんじゃない! あえて特定の相手を作らないだけだ!」
「どうだか」
私が二人のことを考えている間に、言い合いがおかしなことに発展している。
そう言えば、マシューは侯爵家の息子ながら、三男だからお気楽だ、と言ってたっけ。
騎士団に人生を捧げることを決めていて、その信念から大切な人は作らない、と聞いたことがあった。
大切な人、アシュリー様のためだからこそ頑張れる私には、そういうものかと理解できずにいた。
だって、自分は命をかけて死んでいく身だから大切な人を作らない、と言っているようで。
だからこそお兄様のような存在のマシューにも、いつか大切な人が出来れば良い、そう願っていた。
「ステラ、そろそろ止めろよ」
二人の言い合いが脱線してきたのを見かねて、副隊長のカーティスが声をかける。
カーティスとはマシューが隊長になってからの付き合いだけど、魔物討伐を共にしてきた信頼おける仲間。もちろん、第一部隊皆、大切な仲間だ。
アオイももちろん、大切な仲間になるわけで。
「二人とも、討伐前だよ?」
「ステラ……っ!」
二人に割って入ると、アオイは私の後ろにササッと隠れる。
「……聖女は浄化のみ。前には出るなよ」
「頼まれなくても!」
マシューがそう言うと、アオイはアッカンベーで答える。
何か言いたげだったマシューは、堪えて隊の指示に向かった。……はあ。
「アオイ、何でこんなにマシューとの仲が悪化してるの?」
「アイツ、この前私が自主訓練してる時に通りかかって、嫌味言いやがったのよ!」
「嫌味?」
「男を侍らせて良いご身分だな、って!」
「男を侍らす????」
どうしてそんなことになっているのか疑問に思い、アオイに説明を求めると、彼女は続けて教えてくれた。
「何か、練習してると神官たちがタオルとか飲み物とかせっせと持って来てくれるのよ」
「ああ、それで……」
「あの失敗した合コンで知り合った神官たちなんだけど……」
珍しく複雑な顔をするアオイにどうしたのかと問いかければ、彼女らしい答えが返ってきた。
「私を何とも思ってない男たちが群がると、出会のチャンスを逃しちゃうじゃない」
なるほど。
「おい、出発するぞ!」
奥で話していた私たちにマシューから声がかかったので、とりあえず話を切り上げる。
「良い? アオイ。あなたは私たちが守るけど、完全とはいかない。防御、これ一点に集中してね。戦いが終わればあなたの浄化の出番だから」
「まっかせといて!」
頼もしいアオイの返事を聞いて安心しつつ、私たちは魔物討伐に出掛けた。
王都から離れた森まで移動すると、臨戦態勢に入る。
「今日はグレムリンの群れだ! 行くぞ、ステラ」
「うん! アオイ、隊員から離れないでね!」
「えっ?! ステラ?!」
マシューの掛け声に、私はアオイを隊員に任せて前に出る。
先陣の隊員たちと合図を取ると、私は一気に魔法でグレムリンを散らす。
マシュー、先陣の隊員たちが続いて残ったグレムリンを切り捨てて行く。
私も剣で薙ぎ払いながら、魔法で片付けていく。
今回も何とか早く片付きそう。
そう思った時だった。
「うわあああ!」
後ろの方から隊員の叫び声が聞こえて来た。
「挟まれたぞ!」
目をやると、他のグレムリンの群れがいつの間にか後ろにもいた。
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後ろにはアオイがいる!
「アオイ、防御魔法をーー!」
アオイの方を見れば、混沌とする戦場の中、彼女は固まってその場に立ち尽くしていた。
「アオイ!! 防御魔法を!!」
焦る私の声は、アオイには届いていないようだった。
「ステラ、俺を飛ばせ!」
マシューの叫びに、反射的に私は魔法を使った。
「マシュー、お願い!」
私の魔法で、マシューは後方の戦場へと飛んで行った。
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