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24.これからのこと
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「ふう、疲れたね」
フレディとアリアは魔法省の下にある小さな庭園までやって来た。
無造作に色とりどりの薔薇が咲き誇るいつもの庭園。フレディと何度も来ているこの場所はアリアにとっても好きな場所になっていた。
アップルグリーンの薔薇を見つけ、ふふふ、とアリアが近寄って微笑む。
そんなアリアを見ていた背後のフレディの口元も緩む。
「俺にとってここは大切な場所だから、アリアも気に入ってくれたなら嬉しい」
「はい。綺麗な場所で、好きです。それに――」
フレディとの思い出がいっぱいある。一緒によく昼食を食べ、薔薇を眺め、そしてキスを――
そこまで考えてアリアの顔が赤くなる。
(わ、私ったら何を……)
「アリア」
ドレス姿のアリアをいとも簡単に横抱きにしたフレディはそのままベンチへと腰掛ける。
「フ、フレディ様?」
赤いままのアリアが愛おしくなり、フレディはそのまま顔を近付け唇を重ねた。
唇を離すと、アリアは赤い顔のまま固まっていた。
「いい加減、慣れてよ」
その顔を見たフレディがふはっ、と笑う。
「なななな、慣れ……」
とてもじゃないけど慣れない、と抗議するアリアの表情に、フレディは増々顔を崩す。
「アリア、可愛い……」
「ふえっ?!」
フレディの甘い言葉にアリアは飛び上がりそうになるが、がっちりと彼に抱きかかえられているため、落ちることはない。
「あ、あの……さっきの……ライアン様が後ろ盾してくださるというのは……はったりですよね?」
恥ずかしすぎるのでアリアは話題を変える。
「え、本当のことだよ?」
アリアを横抱きにしたまま、フレディはしれっと答えた。
「え、あの……?」
困惑するアリアの頭を撫でながらフレディは説明を続ける。
「俺はローレン公爵家なんてどうでも良いんだけど、王家が煩くてね。もちろん結婚相手はどこかの貴族令嬢じゃなくちゃいけなくて……実際、クラヴェル伯爵はそこを見込んでローレン公爵家の資産をあてにしてたみたいだけど」
「お父様がすみません……契約結婚なのに……」
申し訳なさそうなアリアの頭を撫で続けながらフレディが微笑む。
「アリアは悪くないよ。こういう事態は予測していたんだ。そのために義兄上にアリアの後ろ盾になってもらえるよう頼んでおいた。義兄上も快く引き受けてくれたよ」
「でも……離婚する時にライアン様にご迷惑がかかるのでは……」
「アーリア」
俯いたアリアにフレディの顔が覗き込む。
「俺は離婚する気は無いって言ったよね?」
言われて考え込む。確かに最初の頃、サーラにそんなことを言っていた気がする。しかしそれさえフレディの演技だと思っていたアリア。
「ええと、公爵夫人になれるなんて思うなよ、とも言われました」
悪役令嬢として顔合わせで言われた言葉。あの時はフレディのノリノリの演技だと思っていたが、後から本気で言っていたと知った。
それならば何故離婚する気は無いとフレディは言うのか。アリアは首を傾げて考え込む。
「あー……もうさ、君を仕事で縛り付けるのはやめようと思う」
「ク、クビですか?!」
溜息と共に吐き出したフレディの言葉にアリアは反射的に泣きそうになる。
「そうじゃなくて……」
いつもは優しく微笑み、仕事だと言ってくれるフレディの表情は真剣で。深いラピスラズリの色の瞳に引き込まれそうになる。
「俺は、仕事でも何でも君が側にいてくれるなら、それで良いと思っていた。仕事だと縛り付けて、一生離さなければ良いとさえ……」
熱のこもった瞳に捉えられ、アリアは視線を逸らせない。
「俺は、君が好きだ」
ざあっと風が吹き、庭園の薔薇を揺らす。その甘い香りにアリアはくらりと酔いそうになる。
「初めて出会った時から、俺が触れられる女の子は君だけなんだアリア。俺は、君を愛している。本当の妻としてずっと側にいて欲しい」
真剣なフレディの告白に、流石に演技ではないとアリアも理解する。
「私……私は――」
突然のフレディの告白に頭が動かない。
嬉しいはずなのに、色んな思いが邪魔をして、感情が追いつかない。
そもそも、フレディが大切にしている思い出の女の子は本当に自分なのか。別人なのではないだろうか。
頭に靄がかかったようで、そんな不安が湧き起こる。
「……返事はすぐじゃなくて良い。社交シーズン中の契約はまだ続いているしね。今はまだ仕事でも良いんだ。だけど、俺との将来を真剣に考えて欲しい。その上でシュミット領に行きたいと言うなら、俺はアリアの意志を尊重する」
頭の中がぐちゃぐちゃなアリアは、ただただフレディの真剣な瞳から視線を逸らせず、涙が頬を伝うのを感じていた。
アリアの涙を指で拭い、フレディはアリアの頬にキスを落とした。
「もう、仕事でキスもしない。アリアが俺を選んでくれたら、思う存分するからね」
「ひゃうっ?!」
フレディの甘い言葉に、アリアからいつも通りの反応が返る。その様子を見たフレディは少しだけ安堵の表情を見せた。
(私、私は――昔のことを思い出さないと前に進めない気がする)
甘い薔薇の香りを吐き出し、アリアは自分が蓋をしている物に向き合おうと、覚悟を決めた。
全てはこの庭から始まったのだ。
甘くて大切な思い出の場所になりつつあるこの小さな庭は、昔、自分の持ち場だったとフレディは言う。
思い出そうとすると、頭が痛くなり、不安に襲われ、怖い。
(でも――)
フレディへのこの気持ちが何なのか。その答えの前にある過去への不安にアリアは立ち向かうことにした。
フレディとアリアは魔法省の下にある小さな庭園までやって来た。
無造作に色とりどりの薔薇が咲き誇るいつもの庭園。フレディと何度も来ているこの場所はアリアにとっても好きな場所になっていた。
アップルグリーンの薔薇を見つけ、ふふふ、とアリアが近寄って微笑む。
そんなアリアを見ていた背後のフレディの口元も緩む。
「俺にとってここは大切な場所だから、アリアも気に入ってくれたなら嬉しい」
「はい。綺麗な場所で、好きです。それに――」
フレディとの思い出がいっぱいある。一緒によく昼食を食べ、薔薇を眺め、そしてキスを――
そこまで考えてアリアの顔が赤くなる。
(わ、私ったら何を……)
「アリア」
ドレス姿のアリアをいとも簡単に横抱きにしたフレディはそのままベンチへと腰掛ける。
「フ、フレディ様?」
赤いままのアリアが愛おしくなり、フレディはそのまま顔を近付け唇を重ねた。
唇を離すと、アリアは赤い顔のまま固まっていた。
「いい加減、慣れてよ」
その顔を見たフレディがふはっ、と笑う。
「なななな、慣れ……」
とてもじゃないけど慣れない、と抗議するアリアの表情に、フレディは増々顔を崩す。
「アリア、可愛い……」
「ふえっ?!」
フレディの甘い言葉にアリアは飛び上がりそうになるが、がっちりと彼に抱きかかえられているため、落ちることはない。
「あ、あの……さっきの……ライアン様が後ろ盾してくださるというのは……はったりですよね?」
恥ずかしすぎるのでアリアは話題を変える。
「え、本当のことだよ?」
アリアを横抱きにしたまま、フレディはしれっと答えた。
「え、あの……?」
困惑するアリアの頭を撫でながらフレディは説明を続ける。
「俺はローレン公爵家なんてどうでも良いんだけど、王家が煩くてね。もちろん結婚相手はどこかの貴族令嬢じゃなくちゃいけなくて……実際、クラヴェル伯爵はそこを見込んでローレン公爵家の資産をあてにしてたみたいだけど」
「お父様がすみません……契約結婚なのに……」
申し訳なさそうなアリアの頭を撫で続けながらフレディが微笑む。
「アリアは悪くないよ。こういう事態は予測していたんだ。そのために義兄上にアリアの後ろ盾になってもらえるよう頼んでおいた。義兄上も快く引き受けてくれたよ」
「でも……離婚する時にライアン様にご迷惑がかかるのでは……」
「アーリア」
俯いたアリアにフレディの顔が覗き込む。
「俺は離婚する気は無いって言ったよね?」
言われて考え込む。確かに最初の頃、サーラにそんなことを言っていた気がする。しかしそれさえフレディの演技だと思っていたアリア。
「ええと、公爵夫人になれるなんて思うなよ、とも言われました」
悪役令嬢として顔合わせで言われた言葉。あの時はフレディのノリノリの演技だと思っていたが、後から本気で言っていたと知った。
それならば何故離婚する気は無いとフレディは言うのか。アリアは首を傾げて考え込む。
「あー……もうさ、君を仕事で縛り付けるのはやめようと思う」
「ク、クビですか?!」
溜息と共に吐き出したフレディの言葉にアリアは反射的に泣きそうになる。
「そうじゃなくて……」
いつもは優しく微笑み、仕事だと言ってくれるフレディの表情は真剣で。深いラピスラズリの色の瞳に引き込まれそうになる。
「俺は、仕事でも何でも君が側にいてくれるなら、それで良いと思っていた。仕事だと縛り付けて、一生離さなければ良いとさえ……」
熱のこもった瞳に捉えられ、アリアは視線を逸らせない。
「俺は、君が好きだ」
ざあっと風が吹き、庭園の薔薇を揺らす。その甘い香りにアリアはくらりと酔いそうになる。
「初めて出会った時から、俺が触れられる女の子は君だけなんだアリア。俺は、君を愛している。本当の妻としてずっと側にいて欲しい」
真剣なフレディの告白に、流石に演技ではないとアリアも理解する。
「私……私は――」
突然のフレディの告白に頭が動かない。
嬉しいはずなのに、色んな思いが邪魔をして、感情が追いつかない。
そもそも、フレディが大切にしている思い出の女の子は本当に自分なのか。別人なのではないだろうか。
頭に靄がかかったようで、そんな不安が湧き起こる。
「……返事はすぐじゃなくて良い。社交シーズン中の契約はまだ続いているしね。今はまだ仕事でも良いんだ。だけど、俺との将来を真剣に考えて欲しい。その上でシュミット領に行きたいと言うなら、俺はアリアの意志を尊重する」
頭の中がぐちゃぐちゃなアリアは、ただただフレディの真剣な瞳から視線を逸らせず、涙が頬を伝うのを感じていた。
アリアの涙を指で拭い、フレディはアリアの頬にキスを落とした。
「もう、仕事でキスもしない。アリアが俺を選んでくれたら、思う存分するからね」
「ひゃうっ?!」
フレディの甘い言葉に、アリアからいつも通りの反応が返る。その様子を見たフレディは少しだけ安堵の表情を見せた。
(私、私は――昔のことを思い出さないと前に進めない気がする)
甘い薔薇の香りを吐き出し、アリアは自分が蓋をしている物に向き合おうと、覚悟を決めた。
全てはこの庭から始まったのだ。
甘くて大切な思い出の場所になりつつあるこの小さな庭は、昔、自分の持ち場だったとフレディは言う。
思い出そうとすると、頭が痛くなり、不安に襲われ、怖い。
(でも――)
フレディへのこの気持ちが何なのか。その答えの前にある過去への不安にアリアは立ち向かうことにした。
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