19 / 34
19.執務室でのお仕事
しおりを挟む
「アリア、あんな事があった以上、君も標的にされかねない。今日は一緒に帰ろう。それまでここで過ごすと良い」
「えっ、で、でもお屋敷でのお仕事は……」
抱き合っていた二人は、フレディの言葉で床から立ち上がる。
昼食を届けて屋敷に帰ると、メイドとしての雑事をする。アリアはそれがあまり悪役令嬢として活躍出来ない自分の仕事であると思いつつあった。
「アリア? 君の一番の仕事は?」
「……フレディ様の妻です……」
フレディが意地悪な表情で聞けば、アリアはうっ、となりながらも答えた。
「で、ではせめて何かお手伝いさせてください!」
「アリアはいてくれるだけで良いんだけどなあ……」
困った顔で訴えかけるアリアに、フレディはうーん、と考えながら呟く。
「まあ、アリアはそれじゃ納得しないよね。わかった、それじゃあ、この机の上の本をそこの本棚に片してくれる?」
「かしこまりました!!」
アリアは顔を輝かせると、いそいそと本を片付け始める。
そんなアリアを愛おしい顔で見つめるフレディに、スティングはニヤニヤしながら言った。
「奥さんが働く姿に何がそんなに嬉しいのか謎ですけど、局長が幸せそうなら良かったです」
「そうか、お前がいたな」
「あー、ひっど! 局長、一応仕事中ですからね? イチャつくのは無しですよ!!」
ニヤニヤと誂うように叫ぶスティングに、フレディは「はいはい」と返事をして執務机に戻る。
フレディは優秀な魔法使いだが、昔魔力を暴走させてしまった苦い思い出から、極力魔法を使わないようにしている。
フレディほどの魔法使いがもったいない、と昔はよく言われていた。しかし、フレディが研究して出来た魔法具がこの国に広く浸透するようになると、フレディに余計なことを言う者はいなくなった。
誰もが魔法を使える訳では無い。フレディのように才能ある者が魔法省に入り、国のためにその力を使う。
フレディの魔法具は魔法を使えない国民たちにとって無くてはならない物だった。
「う、うーん……」
机に集中していたフレディは、アリアのうめき声でハッとする。
「アリア、どうしたの?」
フレディは立ち上がり、アリアがいる本棚まで行く。
「あ、あのっ、本をあそこに戻したくて……っ」
アリアはもう少しで手が届きそうな一番上の棚に一生懸命本を差し入れようとしていた。
「可愛いなあ……」
「ふえっ?!」
思わず溢したフレディに、アリアはぴやっと飛び上がる。
「局長……」
自分の机で仕事をしていたスティングが顔だけ二人に向けて半目で見る。
「……アリア、これを使うと良いよ」
コホン、と咳払いをし、フレディは本棚の直ぐ側にあった物を指し示す。
「これは?」
丸い板に杖のような持ち手が付いている。アリアは何だろう?と首を傾げた。
「乗ってみて」
フレディに言われるがまま、アリアはその板に両足を乗せた。
「ここにしっかり掴まっていてね?」
フレディの説明にコクコクとアリアが頷き、杖にしっかりと掴まる。フレディはそれを確認すると、杖の脇にある石を握る。
「ひゃあ!」
瞬間、その板は本棚の一番上まで手が届く位置までと浮かび上がる。アリアは驚きで声を上げた。
目の前に戻そうとしていた棚が現れ、手にしていた本を戻す。
「じゃあアリア、さっき俺が触った場所に触れて見て。杖からは手を離さずにね!」
「は、はいっ!」
魔法具により浮かび上がったアリアの視線は、フレディと同じ位置にあった。
(う、うわわ!!)
キスだって何度かしたのに、改めて間近に顔を見ると恥ずかしくなる。
「アリア?」
「は、はいっ!!」
そんなアリアの様子に気付かないフレディが声をかけると、アリアは急いで石を握る。
「アリア!!」
「へっ……――――っっ!!」
慌てていたアリアは杖から手を離していて、板がゆっくりと下に下がるも、バランスを崩してしまった。
(お、落ちる――)
キュッと目をつぶったと同時にドスンと大きな音を立ててアリアは落ちた。
「だ、大丈夫ですか?!」
音に驚いたスティングが慌てて席を立って駆けつける。
(あれ、痛くない――)
高くないとはいえ、落ちたはずの身体が痛くなく、アリアはそろりと目を開いた。
「アリア、大丈夫?」
「フ、フレディ様っ!!」
フレディがアリアを受け止め、かつ庇っていてくれた。
「も、申し訳ございません!! 私――っ」
身体を起こし、泣きそうなアリアの頭をフレディの大きな手が覆う。
「アリアが何ともなくて良かった。君は俺の妻だからね。守るのは当然だよ」
「でも、それは……」
「アリア」
契約なのに、と言おうとしたアリアの言葉をフレディが遮る。
「これを使いこなせるようになるまで俺も一緒に片付けようかな?」
「へっ?!」
あどけない表情を見せたフレディにアリアの心臓が跳ね、涙が引っ込む。
「大丈夫そうですね? お二人とも」
「あ……」
すっかり二人の世界だったが、心配して駆けつけたスティングが半目でこちらを見下ろしていた。
「ああ。俺はアリアがこれを使いこなせるまで一緒に片付けるから、お前は休憩にでも行ってこい」
しっ、しっ、とフレディが手でスティングを追い払う。
「仕事はちゃんとしてくださいよ」
はー、と口から大きな息を吐き出すと、スティングはそれだけ言って局長室を出て行ってしまった。
「あの、フレディ様?」
恐る恐るアリアがフレディを見上げると、彼はにんまりと笑って言った。
「やっと二人きりだね、アリア」
「えっ、で、でもお屋敷でのお仕事は……」
抱き合っていた二人は、フレディの言葉で床から立ち上がる。
昼食を届けて屋敷に帰ると、メイドとしての雑事をする。アリアはそれがあまり悪役令嬢として活躍出来ない自分の仕事であると思いつつあった。
「アリア? 君の一番の仕事は?」
「……フレディ様の妻です……」
フレディが意地悪な表情で聞けば、アリアはうっ、となりながらも答えた。
「で、ではせめて何かお手伝いさせてください!」
「アリアはいてくれるだけで良いんだけどなあ……」
困った顔で訴えかけるアリアに、フレディはうーん、と考えながら呟く。
「まあ、アリアはそれじゃ納得しないよね。わかった、それじゃあ、この机の上の本をそこの本棚に片してくれる?」
「かしこまりました!!」
アリアは顔を輝かせると、いそいそと本を片付け始める。
そんなアリアを愛おしい顔で見つめるフレディに、スティングはニヤニヤしながら言った。
「奥さんが働く姿に何がそんなに嬉しいのか謎ですけど、局長が幸せそうなら良かったです」
「そうか、お前がいたな」
「あー、ひっど! 局長、一応仕事中ですからね? イチャつくのは無しですよ!!」
ニヤニヤと誂うように叫ぶスティングに、フレディは「はいはい」と返事をして執務机に戻る。
フレディは優秀な魔法使いだが、昔魔力を暴走させてしまった苦い思い出から、極力魔法を使わないようにしている。
フレディほどの魔法使いがもったいない、と昔はよく言われていた。しかし、フレディが研究して出来た魔法具がこの国に広く浸透するようになると、フレディに余計なことを言う者はいなくなった。
誰もが魔法を使える訳では無い。フレディのように才能ある者が魔法省に入り、国のためにその力を使う。
フレディの魔法具は魔法を使えない国民たちにとって無くてはならない物だった。
「う、うーん……」
机に集中していたフレディは、アリアのうめき声でハッとする。
「アリア、どうしたの?」
フレディは立ち上がり、アリアがいる本棚まで行く。
「あ、あのっ、本をあそこに戻したくて……っ」
アリアはもう少しで手が届きそうな一番上の棚に一生懸命本を差し入れようとしていた。
「可愛いなあ……」
「ふえっ?!」
思わず溢したフレディに、アリアはぴやっと飛び上がる。
「局長……」
自分の机で仕事をしていたスティングが顔だけ二人に向けて半目で見る。
「……アリア、これを使うと良いよ」
コホン、と咳払いをし、フレディは本棚の直ぐ側にあった物を指し示す。
「これは?」
丸い板に杖のような持ち手が付いている。アリアは何だろう?と首を傾げた。
「乗ってみて」
フレディに言われるがまま、アリアはその板に両足を乗せた。
「ここにしっかり掴まっていてね?」
フレディの説明にコクコクとアリアが頷き、杖にしっかりと掴まる。フレディはそれを確認すると、杖の脇にある石を握る。
「ひゃあ!」
瞬間、その板は本棚の一番上まで手が届く位置までと浮かび上がる。アリアは驚きで声を上げた。
目の前に戻そうとしていた棚が現れ、手にしていた本を戻す。
「じゃあアリア、さっき俺が触った場所に触れて見て。杖からは手を離さずにね!」
「は、はいっ!」
魔法具により浮かび上がったアリアの視線は、フレディと同じ位置にあった。
(う、うわわ!!)
キスだって何度かしたのに、改めて間近に顔を見ると恥ずかしくなる。
「アリア?」
「は、はいっ!!」
そんなアリアの様子に気付かないフレディが声をかけると、アリアは急いで石を握る。
「アリア!!」
「へっ……――――っっ!!」
慌てていたアリアは杖から手を離していて、板がゆっくりと下に下がるも、バランスを崩してしまった。
(お、落ちる――)
キュッと目をつぶったと同時にドスンと大きな音を立ててアリアは落ちた。
「だ、大丈夫ですか?!」
音に驚いたスティングが慌てて席を立って駆けつける。
(あれ、痛くない――)
高くないとはいえ、落ちたはずの身体が痛くなく、アリアはそろりと目を開いた。
「アリア、大丈夫?」
「フ、フレディ様っ!!」
フレディがアリアを受け止め、かつ庇っていてくれた。
「も、申し訳ございません!! 私――っ」
身体を起こし、泣きそうなアリアの頭をフレディの大きな手が覆う。
「アリアが何ともなくて良かった。君は俺の妻だからね。守るのは当然だよ」
「でも、それは……」
「アリア」
契約なのに、と言おうとしたアリアの言葉をフレディが遮る。
「これを使いこなせるようになるまで俺も一緒に片付けようかな?」
「へっ?!」
あどけない表情を見せたフレディにアリアの心臓が跳ね、涙が引っ込む。
「大丈夫そうですね? お二人とも」
「あ……」
すっかり二人の世界だったが、心配して駆けつけたスティングが半目でこちらを見下ろしていた。
「ああ。俺はアリアがこれを使いこなせるまで一緒に片付けるから、お前は休憩にでも行ってこい」
しっ、しっ、とフレディが手でスティングを追い払う。
「仕事はちゃんとしてくださいよ」
はー、と口から大きな息を吐き出すと、スティングはそれだけ言って局長室を出て行ってしまった。
「あの、フレディ様?」
恐る恐るアリアがフレディを見上げると、彼はにんまりと笑って言った。
「やっと二人きりだね、アリア」
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
642
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる