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15.フレディの過去
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「フレディ様? 昨日の今日ですよ……?」
フレディが帰宅すると、サーラが怖い顔で出迎えた。
「な、なな何のことだ?!」
職場で「リア姿」のアリアといちゃついていた自覚はある。しかし、その場にはスティングしかいなかった。
助手のスティングはフレディに忠実な部下で、他人に上司のプライベートをペラペラと話す人物ではなかった。
しかも、フレディを軽蔑して出て行ったはずのスティングは、フレディが説明するまでもなく、「あの方が真の大切な人だとわかりました」と何故か納得して帰って来た。
フレディはアリアとリアが同一人物なのだとスティングも気付いたんだろう、と思っていた。
「あれほど、人前ではお控えなさいと……」
今日のことを思い返すフレディに、サーラが怖い顔のまま続ける。
「いや……俺とアリアは局長室で二人きりだったけど……」
「じゃあ何でフレディ様が愛人を囲っていると噂になっているんです!!」
「はあ?!」
すごい剣幕で怒鳴るサーラに、フレディも声を荒げる。
「しかも! メイドとただならぬ関係などとっ……。あなたがリアをお仕着せのまま呼び、イチャつくから!」
「イチャ……」
サーラの言葉に頬を染めるフレディ。サーラはその顔を見て、更に怒りをあらわにした。
「いいですか?! あなたは、ローレン公爵家の名前に泥を塗られたのです! 潔癖の女嫌いならまだしも、悪女に骨抜き、愛人にうつつを抜かすなどと……」
サーラがそこまで言うと、フレディの目が仄暗くなる。
「俺は、ローレン公爵家なんてどうでもいい……そもそも爵位を返上しようとした身だ……」
フレディのそんな表情を見てサーラはハッとして、言ってはいけなかったことに気付くが、遅い。
光を失い、石のようになってしまったその瞳のまま、フレディは廊下を歩き出した。
「――っ、フレディ様……!」
サーラが呼びかけるも、返事はない。
フラフラと歩くフレディを見たサーラの脳裏に、十年前のことが思い出される。
姉のレイラと義兄のライアンのおかげで、魔法に没頭してやっと忘れられたと思っていたが、それはフレディの心の奥底に未だ鉛のように沈んでいるのだと、サーラは思った。
「あ、フレディ様、お帰りなさいませ!」
フラフラと歩いていた廊下の先でフレディはアリアと鉢合わせる。
やっぱりお仕着せ姿のアリアは、テーブルウェアを食堂に運ぶ途中だった。
「そろそろお帰りになる頃だと思っていました!」
無邪気に笑うアップルグリーンの瞳に、フレディは瞳に輝きが戻るのを感じる。
「アリア……」
手を伸ばしたかと思えば、瞬間、もうフレディはアリアを抱きしめていた。
「フレディ様……? どうかされたんですか?」
いつもの甘い包容ではなく、弱ったような、違う雰囲気のフレディに、アリアはおずおずと彼の背中に手を置いた。
「アリアっ……!!」
それを確かめるように、フレディは増々アリアを抱きしめる力を強め、縋るように名前を呟いた。
「――――っ……!」
フレディの背中に置かれたアリアの手が、上下に動き、撫でられているのがわかった。
何も言わず、背中を撫でてくれるアリアの手の温かさに、フレディは次第に正気を取り戻していく。
「君は……君の温かさは変わらないな」
「えっ?」
ぼそりと呟いたフレディの言葉をアリアが聞き返すと、フレディは身体を少し離して、弱ったままの顔でアリアを見た。
「アリア、キスしたい……」
「ふえっ?!」
突然のフレディの言葉にアリアは飛び上がる。
「お、おおおお仕事ですかっ?」
顔を赤くして動揺するアリアだが、フレディはいつもの意地悪な表情を見せず、ただアリアに縋った。
「アリア……」
ラピスラズリの瞳が細められ、アリアの返事を待っている。
うっ、とアリアは逡巡し、口を開こうとし、そして俯く。
ちらりと顔を上げれば、ただ真っ直ぐに懇願するフレディの顔がある。
「~~っっ!!」
顔を真っ赤にしたアリアは観念して、こくん、と頷いた。
そんなアリアを見たフレディは愛おしそうに顔を緩めると、アリアを抱きしめた。
「フレディ様……?」
今日のフレディは様子がおかしい。首を傾げるアリアはそれを確かめる隙もなく、唇を塞がれた。
「ふっ……――」
アリアを求めるように、いつもより情熱的に唇を貪られ、アリアは全身の熱が昇っていく感覚がした。
いつもはその熱に溶かされていく頭も、深い口付けに、心臓の鼓動がうるさくて破裂しそうだった。
「アリア、俺が触れられるのは君だけだ……っ!」
確かめるように、言い聞かせるように、切なくもどこか余裕の無いフレディ。
そんな彼の表情がアリアの胸をきゅう、と締め付ける。
「フレディ様?」
心配そうな表情でフレディを見上げれば、再び唇を塞がれてしまう。
「ふっ――んん……」
何かを埋めるようにアリアの唇を貪るフレディに、アリアはされるがまま、抗えなかった。
「アリア……アリア……アリアっ…――」
何度も自分の名前を呼んではキスを求めるフレディに、アリアは次第に溺れていく。
「フレディ様……」
「アリア、愛している」
アリアはこれは演技なのだ、と頭の片隅に思いつつも、フレディの口付けを受け入れている自分を自覚せざるを得なかった。
「……何てこと……メイドと公爵様が?!」
隅っことはいえ、廊下の途中でのやり取りに、通いのメイドが遭遇し、驚愕していた。
見られていたことに気付かない二人は、長くその場でキスをしていた。
フレディが帰宅すると、サーラが怖い顔で出迎えた。
「な、なな何のことだ?!」
職場で「リア姿」のアリアといちゃついていた自覚はある。しかし、その場にはスティングしかいなかった。
助手のスティングはフレディに忠実な部下で、他人に上司のプライベートをペラペラと話す人物ではなかった。
しかも、フレディを軽蔑して出て行ったはずのスティングは、フレディが説明するまでもなく、「あの方が真の大切な人だとわかりました」と何故か納得して帰って来た。
フレディはアリアとリアが同一人物なのだとスティングも気付いたんだろう、と思っていた。
「あれほど、人前ではお控えなさいと……」
今日のことを思い返すフレディに、サーラが怖い顔のまま続ける。
「いや……俺とアリアは局長室で二人きりだったけど……」
「じゃあ何でフレディ様が愛人を囲っていると噂になっているんです!!」
「はあ?!」
すごい剣幕で怒鳴るサーラに、フレディも声を荒げる。
「しかも! メイドとただならぬ関係などとっ……。あなたがリアをお仕着せのまま呼び、イチャつくから!」
「イチャ……」
サーラの言葉に頬を染めるフレディ。サーラはその顔を見て、更に怒りをあらわにした。
「いいですか?! あなたは、ローレン公爵家の名前に泥を塗られたのです! 潔癖の女嫌いならまだしも、悪女に骨抜き、愛人にうつつを抜かすなどと……」
サーラがそこまで言うと、フレディの目が仄暗くなる。
「俺は、ローレン公爵家なんてどうでもいい……そもそも爵位を返上しようとした身だ……」
フレディのそんな表情を見てサーラはハッとして、言ってはいけなかったことに気付くが、遅い。
光を失い、石のようになってしまったその瞳のまま、フレディは廊下を歩き出した。
「――っ、フレディ様……!」
サーラが呼びかけるも、返事はない。
フラフラと歩くフレディを見たサーラの脳裏に、十年前のことが思い出される。
姉のレイラと義兄のライアンのおかげで、魔法に没頭してやっと忘れられたと思っていたが、それはフレディの心の奥底に未だ鉛のように沈んでいるのだと、サーラは思った。
「あ、フレディ様、お帰りなさいませ!」
フラフラと歩いていた廊下の先でフレディはアリアと鉢合わせる。
やっぱりお仕着せ姿のアリアは、テーブルウェアを食堂に運ぶ途中だった。
「そろそろお帰りになる頃だと思っていました!」
無邪気に笑うアップルグリーンの瞳に、フレディは瞳に輝きが戻るのを感じる。
「アリア……」
手を伸ばしたかと思えば、瞬間、もうフレディはアリアを抱きしめていた。
「フレディ様……? どうかされたんですか?」
いつもの甘い包容ではなく、弱ったような、違う雰囲気のフレディに、アリアはおずおずと彼の背中に手を置いた。
「アリアっ……!!」
それを確かめるように、フレディは増々アリアを抱きしめる力を強め、縋るように名前を呟いた。
「――――っ……!」
フレディの背中に置かれたアリアの手が、上下に動き、撫でられているのがわかった。
何も言わず、背中を撫でてくれるアリアの手の温かさに、フレディは次第に正気を取り戻していく。
「君は……君の温かさは変わらないな」
「えっ?」
ぼそりと呟いたフレディの言葉をアリアが聞き返すと、フレディは身体を少し離して、弱ったままの顔でアリアを見た。
「アリア、キスしたい……」
「ふえっ?!」
突然のフレディの言葉にアリアは飛び上がる。
「お、おおおお仕事ですかっ?」
顔を赤くして動揺するアリアだが、フレディはいつもの意地悪な表情を見せず、ただアリアに縋った。
「アリア……」
ラピスラズリの瞳が細められ、アリアの返事を待っている。
うっ、とアリアは逡巡し、口を開こうとし、そして俯く。
ちらりと顔を上げれば、ただ真っ直ぐに懇願するフレディの顔がある。
「~~っっ!!」
顔を真っ赤にしたアリアは観念して、こくん、と頷いた。
そんなアリアを見たフレディは愛おしそうに顔を緩めると、アリアを抱きしめた。
「フレディ様……?」
今日のフレディは様子がおかしい。首を傾げるアリアはそれを確かめる隙もなく、唇を塞がれた。
「ふっ……――」
アリアを求めるように、いつもより情熱的に唇を貪られ、アリアは全身の熱が昇っていく感覚がした。
いつもはその熱に溶かされていく頭も、深い口付けに、心臓の鼓動がうるさくて破裂しそうだった。
「アリア、俺が触れられるのは君だけだ……っ!」
確かめるように、言い聞かせるように、切なくもどこか余裕の無いフレディ。
そんな彼の表情がアリアの胸をきゅう、と締め付ける。
「フレディ様?」
心配そうな表情でフレディを見上げれば、再び唇を塞がれてしまう。
「ふっ――んん……」
何かを埋めるようにアリアの唇を貪るフレディに、アリアはされるがまま、抗えなかった。
「アリア……アリア……アリアっ…――」
何度も自分の名前を呼んではキスを求めるフレディに、アリアは次第に溺れていく。
「フレディ様……」
「アリア、愛している」
アリアはこれは演技なのだ、と頭の片隅に思いつつも、フレディの口付けを受け入れている自分を自覚せざるを得なかった。
「……何てこと……メイドと公爵様が?!」
隅っことはいえ、廊下の途中でのやり取りに、通いのメイドが遭遇し、驚愕していた。
見られていたことに気付かない二人は、長くその場でキスをしていた。
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