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第二章 王都編

ルーカスの気持ち2

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「ユーグには……気持ちを伝えられましたが、私にはその気はありません」

 揺れる青い瞳に向かって、私ははっきりと告げた。

 ルーカス様はただ黙ったまま、視線を絡ませたままだった。

「生意気だとか、ませてる、とか言わないんですか?」

 何も言わないルーカス様に耐えきれなくなり、私が冗談めいて言うも、ルーカス様の表情は変わらない。

「私は……ルーカス様といたいんです」

 言ってしまった!

 ルーカス様の表情が一瞬変わった気がした。

「ルーカス様……?」

 お願い、何か言って…。そう思っていると、ルーカス様がようやく口を開いた。

「お前は……私のことが好きなのか?」
「!」

 突然のストレートな質問に、私の顔は一気に赤くなった。

 すると、ルーカス様は、ぱっと私から顔をそらしてしまった。耳が、少し赤い気がする。

「ルーカス様……?」

 不安でルーカス様を覗き込めば、ポツリ、ポツリとルーカス様が話し始めた。

「私は……お前に惹かれ始めていた」
「え……」

 ルーカス様の思いがけない言葉に、私は驚いた。

「子供相手に、おかしいと思われるかもしれないが、お前の、時折見せるリヴィアのような言動も、リヴィアとは似ても似つかない仕草や表情も……私を捕らえて、離さない」

 熱を帯びた真剣なルーカス様の表情に、私の胸がドキドキと煩い。でも。

「でも、私は、そんな自分が許せない! リヴィアを永遠に想う気持ちに嘘はないのに、お前に惹かれることで消えて無くなりそうで……」

 ルーカス様の苦しそうな声に、胸が押し潰されそうになる。

 ルーカス様はそんなことを思っていたの?

「だから、お前の気持ちに答えるつもりは無い。聖女と王族の婚姻というくだらない慣習も私が無くしてやる。」

「ルーカス様?」

 私に惹かれていると言ったその口で、ルーカス様は私を拒絶した。何もかも、自分の中で決めてしまった言い方。

「私がいなくなってもお前がいればこの国は大丈夫だろう。自由に生きろ、リリア」

 いつも『お前』呼ばわりなのに、初めて名前を呼ばれた。初めてがこんな時なんて、酷い人。

私がいなくても・・・・・・・?」
「……繰り返すな」

 私は、名前を呼ばれた衝撃と同時に、違和感を覚えたので、ルーカス様をじっと見た。

「まさか、まだ死にたいと思ってます?」
「そんなわけないだろう」

 私の問いに、ルーカス様は笑って一蹴した。

「ジェイルは今はあんなだが、本来はまともな奴だ。全てが片付いたら、ジェイルに全てを譲って、私はリヴィアと静かに暮らしていくつもりだ」
「……リヴィア様はもうこの世にいないですよ?」
「ここに、いる」

 ルーカス様はそっと自分の胸に手を当てて、微笑んだ。その綺麗な顔に見惚れてしまう。

 いやいや!何、その若さで隠居宣言しちゃってんの?!

「ルーカス様!! 私はルーカス様のことが好きです!」
「な、何だ突然……」

 私は自分の中に引きこもってしまっているルーカス様に腹が立って、勢いで告白をしてしまった。

「私は! ルーカス様とこれからも一緒に生きていきたいんです!」
「だから! 私は、リヴィアを裏切りたくないんだ……!」

 私の言葉はルーカス様には届かない。頑なに私を拒絶している。まるで、そうしなきゃいけないかのように。

「いい加減にして、ルーカス!」

 怒鳴り合っていた私たちの間に、シンとした空気が流れた。ルーカス様は驚いてこちらを見ていた。

 もう! こうなったら、なるがままよ!

「そんな生き方をして、私が喜ぶと思っているの?」
「何……を言っている…」

  ルーカス様の瞳は驚いたまま、こちらを見つめている。

「また私を好きになってくれたのなら、嬉しい。今度は一緒に生きていけるもの」
「な……」
「まだわからない?」
「な、に、を……」

 確かめるように、まさか、というように。ルーカス様が私を見つめる。

「私はリヴィアの生まれ変わりなんだよ、ルーカス」
「ふざ、けるな……」
「ふざけてなんかいない!」

 ルーカス様の表情は、驚いてはいない。もしかしたら、という思いが彼にもあったのかもしれない。

「そんなこと、あるわけ……」
「私は今、ルーカスの目の前にいる」

 困惑したルーカス様の瞳をしっかりと見つめ、私は言った。

「昔、ルーカスに王子じゃなかったら何をしたかったか聞いたけど、あなたにはやっぱり、王族として生きてもらわないとね」

 その言葉に、ルーカス様がピクリと反応した。

「リヴィア……? 本当に?」

 確かめるようにルーカス様の手が私に伸びてきた。

「また鴨のマフィン、作ってこようか?」
「リヴィア……!」

 戸惑っていたルーカス様の手は、しっかりと私を捕らえ、そのまま私は彼に抱きしめられた。

「そうじゃないかと思っては、打ち消していた……」

 そう言ったルーカス様の声は、泣いているような気がした。
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