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第二章 王都編
ルーカスの気持ち
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「お帰りなさい、お父様!」
その日の夜遅く。私はアレクが帰ってくるなり、玄関まで走って出迎えた。
「リリア…! まだ起きていたのかい? 身体は? 大丈夫なのか?」
「はい。あれから少し眠りましたから」
アレクは驚いたものの、すぐに私の身体を心配して、ヒョイ、と身体を抱きかかえてくれた。
身体は少しまだ重いけど、それよりも気になって眠れない。アレクはそんな私の気持ちに気付いたようだった。
「……ルーカスとユーグのことだね?」
「はい」
「お茶でも飲みながら話そうか」
アレクは諭すように笑うと、私を抱えたまま食堂へと向かった。
「ユーグにはきつく説教しておいたから」
メイドに用意してもらったお茶を飲み、一息つくと、アレクが口を開いた。
「ルーカス様は……」
「ルーカスのやつ、話にならなかった。今はリリアに変な噂が立つと困るのに、どうせ自由にしてやるんだ、の一点張りで……」
アレクは少し怒りながら、あの後のことを話してくれた。
ルーカス様は元々、私との婚約は形だけだと言った。だから、私が誰と仲良くしていても構わないのだろう。でも、ルーカス様に誤解されるのは嫌だ。
「とりあえず、ユーグには釘を刺しておいたから。もうリリアに変なことはさせないよ」
「そうですか」
アレクの言葉にホッとすると、父親の顔をした彼は、真剣な表情で私に言った。
「リリアの気持ちはどうなんだい?」
「私?」
「ユーグとは歳も近いし、その……本当に二人が思い合っているなら……」
「ええっ?! ない! ないです!!」
アレクったら突然何を言い出すの?!
「何だ、ユーグが真剣だったから、てっきり…そうか、完全にユーグの片思いで、暴走しただけか……」
「お父様?」
ブツブツ言うアレクに、私は怪訝な顔を向けると、フワッと抱きかかえられ、彼の膝に乗せられた。
「大人びたとは言え、リリアはまだ十歳だもんな。恋はまだ早い」
頬を寄せ、微笑むアレクに、私は頷くことしか出来なかった。
まさかルーカス様を好きになってしまったなんて、とてもじゃないけど言えない。
◇◇◇
次の日、私はトロワと一緒にリヴィアの治療院へと向かった。
ユーグはしばらく私の専属護衛を外されることになり、他の近衛隊員が代わる代わる来ることになった。
「俺が寝ている間に何か変なことになってるな」
トロワは面白がって言ったけど、笑い事じゃないと思う。
「こんにちは」
「リリア様!」
ひょこっと治療院の入口から顔を覗かせると、医師が笑顔で迎えてくれた。
「リリア様のポーションのおかげで、安心して治療が出来るようになりましたよ」
「それは良かったです!」
応接室までの短い廊下を歩きながら、笑顔で教えてくれた医師に、私も嬉しくて笑顔になる。
「丁度、ルーカス様にも報告していた所なんだよ」
「え!」
ガチャリ。
回れ右をしようとしたけど、時遅し。
「殿下、リリア様もいらっしゃいましたよ」
医師はルーカス様に声をかけると、笑顔で私を応接室に通してくれた。
「こんにちは……」
目を丸くして驚いていたルーカス様に挨拶をすると、「ああ」とだけ言って、彼は目線を外してしまった。
?何か、怒ってる?とても気まずい。
「いやー、リリア様は流石、ルーカス様のご婚約者ですな!」
私たちの気まずい空気とは逆に、医師は笑いながら私を褒め称えてくれる。
「そうだな、流石だな」
フ、と口の端だけ上げたルーカス様は、こちらを見ようともしない。
その後、医師に連れられて、私たちはポーションの備蓄や、患者の様子を見て回った。
その間、ルーカス様は私と会話どころか、目さえ合わせなかった。
一通り確認や打ち合わせが終わった後、医師と別れ、私たちは治療院の庭にいた。
誰もいなくて二人だけ。護衛も声が聞こえないほど離れた所にいる。
事情を知らない人しかいないここでは、婚約者として気を利かされたんだと思う。
ルーカス様は目を合わせようともしないし、沈黙が苦しい。
「アレクから聞いたと思うが、元々、お前は自由にさせる予定なんだから、他の男を想おうが何しようが、勝手にすると良い」
ルーカス様は、口を開いたかと思うと、突然そんなことを言った。言葉ではそう言いつつも、何だか怒っている。
「ルーカス様、あれは誤解です!」
慌てて弁明しようと、声を上げれば、ルーカス様に遮られてしまった。
「誤解だろうと何だろうと私には関係ない!」
「関係ないって、そんな言い方……じゃあ、何でそんなに怒っているんですか?」
「怒ってなどいない!」
ルーカス様に対抗するように、私の口調もどんどんヒートアップしていく。
ルーカス様は未だに目を合わせようとしない。
「じゃあ、こっち見てくださいよ!!」
私はそう言いながら、ルーカス様の腕を掴んだ。
バシッ。
すぐさま払われる、私の手。瞬間、ルーカス様の顔が、やっとこちらを見た。
「あ……」
ルーカス様の綺麗な青い瞳が、微かに揺れた。
その日の夜遅く。私はアレクが帰ってくるなり、玄関まで走って出迎えた。
「リリア…! まだ起きていたのかい? 身体は? 大丈夫なのか?」
「はい。あれから少し眠りましたから」
アレクは驚いたものの、すぐに私の身体を心配して、ヒョイ、と身体を抱きかかえてくれた。
身体は少しまだ重いけど、それよりも気になって眠れない。アレクはそんな私の気持ちに気付いたようだった。
「……ルーカスとユーグのことだね?」
「はい」
「お茶でも飲みながら話そうか」
アレクは諭すように笑うと、私を抱えたまま食堂へと向かった。
「ユーグにはきつく説教しておいたから」
メイドに用意してもらったお茶を飲み、一息つくと、アレクが口を開いた。
「ルーカス様は……」
「ルーカスのやつ、話にならなかった。今はリリアに変な噂が立つと困るのに、どうせ自由にしてやるんだ、の一点張りで……」
アレクは少し怒りながら、あの後のことを話してくれた。
ルーカス様は元々、私との婚約は形だけだと言った。だから、私が誰と仲良くしていても構わないのだろう。でも、ルーカス様に誤解されるのは嫌だ。
「とりあえず、ユーグには釘を刺しておいたから。もうリリアに変なことはさせないよ」
「そうですか」
アレクの言葉にホッとすると、父親の顔をした彼は、真剣な表情で私に言った。
「リリアの気持ちはどうなんだい?」
「私?」
「ユーグとは歳も近いし、その……本当に二人が思い合っているなら……」
「ええっ?! ない! ないです!!」
アレクったら突然何を言い出すの?!
「何だ、ユーグが真剣だったから、てっきり…そうか、完全にユーグの片思いで、暴走しただけか……」
「お父様?」
ブツブツ言うアレクに、私は怪訝な顔を向けると、フワッと抱きかかえられ、彼の膝に乗せられた。
「大人びたとは言え、リリアはまだ十歳だもんな。恋はまだ早い」
頬を寄せ、微笑むアレクに、私は頷くことしか出来なかった。
まさかルーカス様を好きになってしまったなんて、とてもじゃないけど言えない。
◇◇◇
次の日、私はトロワと一緒にリヴィアの治療院へと向かった。
ユーグはしばらく私の専属護衛を外されることになり、他の近衛隊員が代わる代わる来ることになった。
「俺が寝ている間に何か変なことになってるな」
トロワは面白がって言ったけど、笑い事じゃないと思う。
「こんにちは」
「リリア様!」
ひょこっと治療院の入口から顔を覗かせると、医師が笑顔で迎えてくれた。
「リリア様のポーションのおかげで、安心して治療が出来るようになりましたよ」
「それは良かったです!」
応接室までの短い廊下を歩きながら、笑顔で教えてくれた医師に、私も嬉しくて笑顔になる。
「丁度、ルーカス様にも報告していた所なんだよ」
「え!」
ガチャリ。
回れ右をしようとしたけど、時遅し。
「殿下、リリア様もいらっしゃいましたよ」
医師はルーカス様に声をかけると、笑顔で私を応接室に通してくれた。
「こんにちは……」
目を丸くして驚いていたルーカス様に挨拶をすると、「ああ」とだけ言って、彼は目線を外してしまった。
?何か、怒ってる?とても気まずい。
「いやー、リリア様は流石、ルーカス様のご婚約者ですな!」
私たちの気まずい空気とは逆に、医師は笑いながら私を褒め称えてくれる。
「そうだな、流石だな」
フ、と口の端だけ上げたルーカス様は、こちらを見ようともしない。
その後、医師に連れられて、私たちはポーションの備蓄や、患者の様子を見て回った。
その間、ルーカス様は私と会話どころか、目さえ合わせなかった。
一通り確認や打ち合わせが終わった後、医師と別れ、私たちは治療院の庭にいた。
誰もいなくて二人だけ。護衛も声が聞こえないほど離れた所にいる。
事情を知らない人しかいないここでは、婚約者として気を利かされたんだと思う。
ルーカス様は目を合わせようともしないし、沈黙が苦しい。
「アレクから聞いたと思うが、元々、お前は自由にさせる予定なんだから、他の男を想おうが何しようが、勝手にすると良い」
ルーカス様は、口を開いたかと思うと、突然そんなことを言った。言葉ではそう言いつつも、何だか怒っている。
「ルーカス様、あれは誤解です!」
慌てて弁明しようと、声を上げれば、ルーカス様に遮られてしまった。
「誤解だろうと何だろうと私には関係ない!」
「関係ないって、そんな言い方……じゃあ、何でそんなに怒っているんですか?」
「怒ってなどいない!」
ルーカス様に対抗するように、私の口調もどんどんヒートアップしていく。
ルーカス様は未だに目を合わせようとしない。
「じゃあ、こっち見てくださいよ!!」
私はそう言いながら、ルーカス様の腕を掴んだ。
バシッ。
すぐさま払われる、私の手。瞬間、ルーカス様の顔が、やっとこちらを見た。
「あ……」
ルーカス様の綺麗な青い瞳が、微かに揺れた。
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