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第二章 王都編

任務完了

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 あれから、解毒した騎士たちにもポーションを配り、みんな動けるくらいに回復した。

 解毒が遅れたイスランが一番の重症者だった。

 ポーションで解毒は済んだものの、少しふらつく彼を無理やり馬車に乗せ、ユーグと私、それからイスラン。三人馬車に乗って、治療院まで向かった。

 治療院までの途中、私はここぞとばかりにイスランにお説教をした。

 イスランも大人しく私のお説教を聞き入れていた。ユーグはそれを笑いを堪えながら見ていた。

「部下を第一に助けるのは褒めたことだけど、自分の命を蔑ろにするのはどうかと思うわ!」
「ああ」

 私の弾丸のようなお説教を、イスランはただ黙って受け入れた。その姿が、何だか可愛く思えてきた。

「自分の命を粗末にするなんて、ルーカス様と同じだわ!!」
「なっ……殿下と同じ…」

 私の言葉にイスランはショックを受けて、俯いてしまった。

 あらら、ルーカス様と同じなんて、よっぽど嫌だったみたい。最初に会った時も、ルーカス様には期待していないって言ってたっけ。

「リリア様、治療院に着きましたよ。もう勘弁してあげてください」

 さっきまで笑いを堪えていたユーグが、もう我慢出来ないとばかりに、言った。

 てか、もう笑ってるし。

「そうね。皆、念の為見てもらわないと」

 やっと私に開放されたイスランは、フラフラと無言で馬車を降りて行った。

「あんな副隊長、初めて見た」

 ユーグはまだ笑っていた。

「ちょっと言い過ぎたかしら」
「いやいや、あれくらい言ってやらないと」
「イスランはあなたの上司よね?」

 心配する私に、ユーグが面白がって言うので、私は彼をジト目で見た。

 そうして、日がすっかり暮れると、全員何ともな無いことがわかり、私は治療院の先生にポーションを絶賛された。

 そして宿に戻って、任務完了のお祝いと言う名のどんちゃん騒ぎになった。

「リリア様! ありがとうございました!」
「リリア様がいてくれて良かった!」

 私は騎士たちに囲まれて、沢山の感謝を受けた。

 皆はビール、私は果実水で乾杯すると、沢山の笑顔で溢れた。

 その笑顔を見ながら、私はそっと輪を離れた。

 皆無事で本当に良かった。トロワも今は、部屋でぐっすり眠っている。

「リリア様」

 騒がしい部屋の中、開け放たれた窓際で風に吹かれていると、イスランがやって来た。

「イスラン、あれから何ともない?」
「はい、お陰様で」
「そう良かった」

 私はイスランに微笑むと、窓の外に目を向けた。

「あのとき、リリア様に気付いてもらえなかったら、私は死んでいたでしょう」
「ほんとにね」
「ありがとうございました……」
「えっ!」

 私は思わず顔をぐりん、とイスランの方に向けた。

 彼を見ると、相変わらずの仏頂面だけど、耳を赤くさせていた。

「な、何だ」
「ううん、イスランに認められたなら嬉しいなあ、って!」

 目を合わせようとしないイスランに、私はとびっきりの笑顔で言った。すると。

「これまで失礼なことを言い、申し訳ございませんでした。この救ってもらった命、俺は今後、リリア様のために仕えます」

 イスランが突然頭を下げるので、私は驚いて、すぐに頭を上げさせる。

「命を大切にしてくれる?」
「リリア様の命とあれば」

 すっかり従順なイスランに違和感を感じてしまう。

「あなたの憎まれ口が無いと変な感じ」
「何だそれは」
「それそれ、変わらないでいてくれると嬉しいな?」

 いつもの口調でムッとするイスランに私は言った。すると彼はフッと笑って言った。

「何だ、それは」

 イスランが笑った!!!!

 そういう所、やっぱりルーカス様にも似ている。言ったら、また怒るかしら?

 そうしてどんちゃん騒ぎの夜は更けていった。

 イスランとの距離が縮まって嬉しいな。これからは結界の修復ももっと上手くいくだろう。

 私は色んな事が良い方向に進んで、浮かれていた。

 そして次の日、王都へと私たちは戻った。

 長距離の移動と、大きな魔力を使った私は疲れてしまって、馬車の中ですっかり眠ってしまったようだった。

 ガタン、と馬車が止まり、私の身体がフワリと浮く。ユーグが抱きかかえて馬車を降りてくれているようだった。

 起きなくちゃ、と思うのに、身体が重い。

「ユーグ……ごめんね」
「リリア様、目が覚めましたか? お疲れのようでしたので、このまま僕が家までお送りしますよ」
「ありがとう……」

 馬車は近衛隊の隊舎に到着しているようだった。皆、荷解きでガヤガヤとしている。

「リリア様」
「なあに?」

 身体が動かないので、ユーグの呼びかけに声だけで返事をする。すると、チュ、と額に柔らかい物が触れた。

「なっ………」

 すぐにユーグの口付けだと理解すると、私の顔は赤くなる。

 抗議しようにも、身体は動かない。

 顔だけユーグの方に向けて、睨みつけると、ユーグは真剣な瞳で私を見つめていた。

「動けないリリア様に卑怯だってわかってます。でも、どうしても愛おしくなってーー」

 ユーグの真剣な言葉に視線が絡んだまま、外せない。

「リリア?」

 見つめ合う形になってしまった私たちは、アレクの声にハッとした。

 そこには、アレクと一緒にルーカス様が立っていた。

 嘘……今の、見られてた?

「お前たち、何をしている」

 アレクの厳しい声に、先程の行為を見られたと悟る。

「この婚約は、破棄されるのが前提ですよね? なら、僕がリリア様を口説いても問題ありませんよね?」

 ユーグ、何を言っているの……。

 ユーグのルーカス様への突然の宣言に、私は彼に抱えられたまま、何も出来ずにいた。

「ユーグ、お前何を言っているのかわかっているのか?」

 アレクは怒っていた。ルーカス様の表情は、見えない。今、どんな顔をしているの?

「好きにしろ」
「ルーカス!!」

 ルーカス様は口を開いたかと思うと、それだけ言って、その場を去ってしまった。

「ユーグ、リリアを送ったら後で隊長室に来い」

 アレクもそう言い残すと、ルーカス様を追いかけて行った。

「殿下はやっぱりリリア様のことなんて考えていないんだ」

 ユーグはわざとルーカス様を挑発したようだった。

「リリア様、それでもまだ殿下を想うんですか?」

 私は泣きたい気持ちを我慢するので精一杯で、ユーグの問いに答えられなかった。
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