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第二章 王都編
ユーグの想い
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「そんな物を作っている暇があったら、聖女の仕事を一つでも多くやるんだな」
次の日。一緒に結界修復に向かう騎士たちに、差し入れにとマフィンを作ってきた。
そのマフィンを持った私に、イスランが開口一番言った台詞である。
「副隊長~、リリア様が作って来てくれなくなったらどうするんですか~? 自分たち、リリア様のマフィンを楽しみにしているのに」
ムスッとするイスランに、ユーグがヘラヘラと言うと、イスランは彼を無視して、その場を立ち去ってしまった。
あらら。私、嫌われてるのかな。
『リヴィア』だってマフィンをよく作っていたけど、あんな言い方はされなかった。『また作ってきたのか』と言いつつも、食べてくれるイスランを微笑ましく思っていたっけ。
まあ、聖女の仕事をきっちりこなせば認めてくれるだろう。彼の言動からそう取った私は、気にしないことにした。
「リリア様、寛大ですね。自分なら怒りますけど」
「イスランとは出会ったばかりだしね」
ユーグが過大に褒めてくれるので、少しくすぐったい。彼はいつも良い方に取ってくれる。
「また惚れ直しました!」
……そんな冗談はスルーしているけども。
そうしてイスラン率いる近衛隊たちと一緒に私は馬車に揺られて、目的地へと出発した。
「リリア様、自分の肩に寄っかかって寝ても良いですよ?」
護衛のため、同じ馬車に乗ったユーグが、またそんなことを言うのでスルーする。
「今日行くのは、ルッシャー領よね?」
「はい! 今日の夜には着いて、結界へは明日向かうことになります」
私のスルーにも動じず、隣のユーグはニコニコな顔で話している。メンタル強すぎる。
クローダー王国は小さく、遠い領でもそんなに時間をかけずに行ける。小さくても他国に引けを取らないのは、『聖女の結界』によるものが大きい。
クローダー王国は結界によって『魔の国』を封じ、優秀な騎士団によって魔物討伐がなされている。
特に国境にあるフォーカス領は重要な要で、魔物を隣国に行かせないことで、友好関係が保たれている。
『リヴィア』は行ったことが無いけど、先代の聖女は友好国に結界を張ったりもしていたらしい。
まあ、『リヴィア』の時は自国に手一杯だったんだけどね。
「リリア様?」
私が昔のことを懐かしく思い出していると、ユーグが首を傾げて顔を覗き込んだ。
「あっ! ルッシャー領の結界は二箇所だったわよね?」
慌てて話を戻す。
『リヴィア』が張った結界はよく知っているけど、私はユーグに知らないフリをして確認した。
「はい、そうです。明日一日で回れますね」
「ルッシャー領から、被害報告は無いのよね?」
「今の所は」
王都から離れた結界。最悪、フォーカス領のように穴が空いているかもしれない。
最悪の事態を想定して、難しい顔をしていると、ユーグがいきなりとんでもないことを言い出した。
「あ、リリア様。今日の宿は、自分と同じ部屋ですからね?」
「は??」
突然のことに何を言われたかわからなくなっていると、ユーグはニヤリと笑って言った。
「王都じゃないんですからね。護衛が同じ部屋になるのは当然ですよね?」
それはそうだけど………
意図を理解しつつも、私は顔が赤くなってしまう。
だって、男の人と同じ部屋なのよ?!
「リリア様…」
「何っ?!」
またふざけて何か言うのかと、私は怒った口調でユーグを見上げた。
でも、いつものふざけた顔のユーグはそこにいなくて。
「自分、リリア様に男として意識してもらっているってことですよね」
深い、緑のユーグの瞳が自分を捕らえて離さない。
「リリア様……」
ユーグの聞いたことのない甘い声に、思わず後ずさりをするも、馬車の中は狭い。すぐに背中が行き止まりに辿り着く。
「こ、子供だからってからかわないで!」
私は顔を赤くしなならも、ユーグに反抗してみせた。でもユーグは構わずに距離を詰めてしまう。
「自分はリリア様のこと、子供だと思っていません。自分……僕は、貴方のことを一人の女性として見ています」
嘘の無い、真剣な瞳に、私の顔は増々赤くなる。でも、それなら余計にーー
「わ、私はルーカス様の婚約者だよ?」
「婚約破棄前提のですよね?」
私の言葉にユーグは間髪入れずに答える。そして、私の右手をそっと取り、言った。
「僕は十六でリリア様とも歳が近い。きっと上手くいきます。僕がリリア様を幸せにします」
「こ、皇太子の婚約者を口説いて良いと思ってるの?!」
「だから、それは仮ですよね?」
「でも、私は聖女だから、どのみち……」
ユーグの真剣な表情に、何とかはぐらかそうとするも、彼は逃してくれない。
「ルーカス様が王になれば、きっとリリア様を自由にしてくれます。それがダメなら国外に連れ出してでもーー」
私の手を取るユーグの手に力が入るのがわかった。
ユーグは真剣に私のことをーー?
でも、私は。
ユーグの真剣な想いをここではぐらかしたらいけない。そう思った私は、自分の本当の気持ちを伝えることにした。
「ユーグ、気持ちは嬉しい。ありがとう」
「リリア様……!」
「でも、貴方の気持ちには応えられない」
明るくなったユーグの顔が、一瞬にして真剣なものになる。
私もユーグの目をしっかりと見つめる。
「なん…で……」
「私は、ルーカス様が好きなの」
ユーグの瞳が揺れた。
ルーカス様が好き。初めて言葉に出してみると、じわじわと自分の中に落とし込まれる感覚がした。
「嘘……ですよね? リリア様は優しいから、ルーカス様が心配なだけで……」
「嘘じゃない! ユーグに嘘なんてつかない」
「!」
私の言葉に、ユーグは目を大きく見開いた。そして、私からノロノロと距離を取ると、反対側の窓に顔をやってしまった。
ごめん、ユーグ。でも、私、やっぱりルーカス様が好きだ。この想いが叶わないと知っていても。
次の日。一緒に結界修復に向かう騎士たちに、差し入れにとマフィンを作ってきた。
そのマフィンを持った私に、イスランが開口一番言った台詞である。
「副隊長~、リリア様が作って来てくれなくなったらどうするんですか~? 自分たち、リリア様のマフィンを楽しみにしているのに」
ムスッとするイスランに、ユーグがヘラヘラと言うと、イスランは彼を無視して、その場を立ち去ってしまった。
あらら。私、嫌われてるのかな。
『リヴィア』だってマフィンをよく作っていたけど、あんな言い方はされなかった。『また作ってきたのか』と言いつつも、食べてくれるイスランを微笑ましく思っていたっけ。
まあ、聖女の仕事をきっちりこなせば認めてくれるだろう。彼の言動からそう取った私は、気にしないことにした。
「リリア様、寛大ですね。自分なら怒りますけど」
「イスランとは出会ったばかりだしね」
ユーグが過大に褒めてくれるので、少しくすぐったい。彼はいつも良い方に取ってくれる。
「また惚れ直しました!」
……そんな冗談はスルーしているけども。
そうしてイスラン率いる近衛隊たちと一緒に私は馬車に揺られて、目的地へと出発した。
「リリア様、自分の肩に寄っかかって寝ても良いですよ?」
護衛のため、同じ馬車に乗ったユーグが、またそんなことを言うのでスルーする。
「今日行くのは、ルッシャー領よね?」
「はい! 今日の夜には着いて、結界へは明日向かうことになります」
私のスルーにも動じず、隣のユーグはニコニコな顔で話している。メンタル強すぎる。
クローダー王国は小さく、遠い領でもそんなに時間をかけずに行ける。小さくても他国に引けを取らないのは、『聖女の結界』によるものが大きい。
クローダー王国は結界によって『魔の国』を封じ、優秀な騎士団によって魔物討伐がなされている。
特に国境にあるフォーカス領は重要な要で、魔物を隣国に行かせないことで、友好関係が保たれている。
『リヴィア』は行ったことが無いけど、先代の聖女は友好国に結界を張ったりもしていたらしい。
まあ、『リヴィア』の時は自国に手一杯だったんだけどね。
「リリア様?」
私が昔のことを懐かしく思い出していると、ユーグが首を傾げて顔を覗き込んだ。
「あっ! ルッシャー領の結界は二箇所だったわよね?」
慌てて話を戻す。
『リヴィア』が張った結界はよく知っているけど、私はユーグに知らないフリをして確認した。
「はい、そうです。明日一日で回れますね」
「ルッシャー領から、被害報告は無いのよね?」
「今の所は」
王都から離れた結界。最悪、フォーカス領のように穴が空いているかもしれない。
最悪の事態を想定して、難しい顔をしていると、ユーグがいきなりとんでもないことを言い出した。
「あ、リリア様。今日の宿は、自分と同じ部屋ですからね?」
「は??」
突然のことに何を言われたかわからなくなっていると、ユーグはニヤリと笑って言った。
「王都じゃないんですからね。護衛が同じ部屋になるのは当然ですよね?」
それはそうだけど………
意図を理解しつつも、私は顔が赤くなってしまう。
だって、男の人と同じ部屋なのよ?!
「リリア様…」
「何っ?!」
またふざけて何か言うのかと、私は怒った口調でユーグを見上げた。
でも、いつものふざけた顔のユーグはそこにいなくて。
「自分、リリア様に男として意識してもらっているってことですよね」
深い、緑のユーグの瞳が自分を捕らえて離さない。
「リリア様……」
ユーグの聞いたことのない甘い声に、思わず後ずさりをするも、馬車の中は狭い。すぐに背中が行き止まりに辿り着く。
「こ、子供だからってからかわないで!」
私は顔を赤くしなならも、ユーグに反抗してみせた。でもユーグは構わずに距離を詰めてしまう。
「自分はリリア様のこと、子供だと思っていません。自分……僕は、貴方のことを一人の女性として見ています」
嘘の無い、真剣な瞳に、私の顔は増々赤くなる。でも、それなら余計にーー
「わ、私はルーカス様の婚約者だよ?」
「婚約破棄前提のですよね?」
私の言葉にユーグは間髪入れずに答える。そして、私の右手をそっと取り、言った。
「僕は十六でリリア様とも歳が近い。きっと上手くいきます。僕がリリア様を幸せにします」
「こ、皇太子の婚約者を口説いて良いと思ってるの?!」
「だから、それは仮ですよね?」
「でも、私は聖女だから、どのみち……」
ユーグの真剣な表情に、何とかはぐらかそうとするも、彼は逃してくれない。
「ルーカス様が王になれば、きっとリリア様を自由にしてくれます。それがダメなら国外に連れ出してでもーー」
私の手を取るユーグの手に力が入るのがわかった。
ユーグは真剣に私のことをーー?
でも、私は。
ユーグの真剣な想いをここではぐらかしたらいけない。そう思った私は、自分の本当の気持ちを伝えることにした。
「ユーグ、気持ちは嬉しい。ありがとう」
「リリア様……!」
「でも、貴方の気持ちには応えられない」
明るくなったユーグの顔が、一瞬にして真剣なものになる。
私もユーグの目をしっかりと見つめる。
「なん…で……」
「私は、ルーカス様が好きなの」
ユーグの瞳が揺れた。
ルーカス様が好き。初めて言葉に出してみると、じわじわと自分の中に落とし込まれる感覚がした。
「嘘……ですよね? リリア様は優しいから、ルーカス様が心配なだけで……」
「嘘じゃない! ユーグに嘘なんてつかない」
「!」
私の言葉に、ユーグは目を大きく見開いた。そして、私からノロノロと距離を取ると、反対側の窓に顔をやってしまった。
ごめん、ユーグ。でも、私、やっぱりルーカス様が好きだ。この想いが叶わないと知っていても。
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