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第一章 フォークス領編
二人目の聖女
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ルーカス様。
あの頃よりも更に身長は伸び、まだ少しあどけなかった顔もすっかり大人びている。
そりゃそうだ。今、二十六歳だもんね?
突然入って来たルーカス様をぼんやりと眺めていると、彼はツカツカと私のベッドサイドまで歩いて来た。
私は慌てて起きて礼をしようとしたが、ルーカス様の手で制された。
「結界を張ったのはお前だな?」
ドキン、と胸が跳ねる。
穴を修復しただけならバレなかったかもしれない。でも私は、『リヴィア』の結界をより強固にして張り巡らせてしまった。それは力のあるものならすぐに気付いてしまうだろう。
言い逃れはできない。
そう思った私は、コクンと頷いた。
「はっ! まさか、十年に一人の聖女が二人も見つかるなんて。結界の危機に皮肉なものだな」
笑っているけど、目の奥が冷めている。そんなルーカス様を見て、私は怖くなった。
一体、この十年で何がルーカス様を変えたのだろう。あんなに優しく笑う人だったのに。
今、私を見下ろすルーカス様はとても冷たい目をしている。それが悲しい。
「お待ちください、殿下……! リリアはまだ十歳で……」
部屋の入口で控えていた伯父様が慌てて私の部屋に入って来た。
「リヴィアも十歳で聖女に選出され、役目を果たしていたぞ」
ルーカス様の言葉に伯父様は押し黙るも、続けた。
「しかし、すでに聖女様がいらっしゃるのに……。リリアはこれから、王立学院への入学が決まっておりまして……」
「それが何だ。王城で学びながら役目を果たすと良い。リヴィアのようにな」
さっきからルーカス様の口から『リヴィア』の名前が出るので、何だか落ち着かない。
そんな私にお構いなしに、ルーカス様は冷たく言い放つ。
「準備をしてすぐに王都に来い。今は一刻を争う状況だ。役目を果たせよ?」
そう言うとルーカス様は、「いいな?」と伯父様に言い、部屋を慌ただしく出て行った。
伯父様も「かしこまりました」と深く礼をしてルーカス様を見送った。
えっ?! 今のがルーカス様? 別人みたい。
命令だけ下したルーカス様が出て行った扉を、ぼんやりと見つめていると、伯父様が申し訳なさそうに言った。
「リリア、庇ってやれなくてごめんよ」
「いえ、良いんです」
「しかし、リリアに聖女の力があったなんて……」
申し訳なさそうな伯父様に笑顔で返すも、伯父様は考え込んでしまった。
「あの、殿下はどうしてフォークス領に?」
考え込んでしまった伯父様を引き戻すため、私は質問をした。
「ああ。リリアが修復したあそこの結界、前から亀裂の前兆があってね。殿下は丁度視察に来られる予定だったんだ。」
……そこをタイミング良く私が修復してしまったと。
聖女としての運命からは逃れられないってことか。
はは、と笑っていると、伯父様がまた心配そうな顔をして私を見つめていた。
「先代のリヴィア様のおかげで平和になったが、そのリヴィア様はこの国の犠牲になられてしまった……」
リヴィアを悼んでくれる伯父様に胸がキュウっとなる。
「リリア、これから君は聖女として人生が一変してしまう。まだ十歳なのに、そんな君を守れなくてすまない」
伯父様は私に頭を下げたので、慌てて頭を上げて欲しいと頼んだ。
「私は、この国を守る力がこの手にあるのなら、それを使いたいです」
リヴィアよりも強い力。この力を持ったのには意味があるのかもしれない。今度こそ、私も生き延びて国を守ってみせるんだ!
「リリア……」
私の強い決意に伯父様は私を抱きしめて涙ぐんだ。
「本当に大人になってしまって」
「今まで本当にありがとうございました」
学院に入るのとは違って、聖女の任に就いたら、夏休みに遊びに来る!なんて気楽なことも出来ないだろう。
私は今までの感謝を胸に、伯父様を抱きしめ返した。
それを見ていたトロワも、何だか涙ぐんでいた。私の周りは涙もろい人でいっぱいだ。
そんな感動の場面に突如として音を立てて入ってきたのはアレクだった。
「リリア!!」
「お父様?!」
王都にいるはずのアレクにびっくりしたけど、近衛隊長である彼は、ルーカス様のお供をしてきたのだと瞬時に理解する。
「アレク……娘の部屋とはいえ、ノックぐらいしたらどうだ?」
呆れ顔の伯父様をよそに、アレクまで何だか泣きそうな情けない顔をしている。
「兄上……! だって、やっとリリアと暮らせると楽しみにしていたのに……! ルーカスから聞きましたよ! 何故リリアを守ってくれなかったのです?!」
「私だって食い下がったさ。しかし、殿下の命を断れるわけないだろう」
もう半分泣いているアレクに、伯父様がやれやれ、と諭す。
アレクったら、随分親バカになったものね……。
『リヴィア』の部分である私も、呆れ顔で父を見てしまう。
「リリア…!! 見ないうちに大人っぽくなってしまって……!」
この呆れ顔を見て、そんな感想が出るなんて親バカ重症だ。
呆れた顔のまま固まった私を、アレクは抱きしめて泣いた。
あの頃よりも更に身長は伸び、まだ少しあどけなかった顔もすっかり大人びている。
そりゃそうだ。今、二十六歳だもんね?
突然入って来たルーカス様をぼんやりと眺めていると、彼はツカツカと私のベッドサイドまで歩いて来た。
私は慌てて起きて礼をしようとしたが、ルーカス様の手で制された。
「結界を張ったのはお前だな?」
ドキン、と胸が跳ねる。
穴を修復しただけならバレなかったかもしれない。でも私は、『リヴィア』の結界をより強固にして張り巡らせてしまった。それは力のあるものならすぐに気付いてしまうだろう。
言い逃れはできない。
そう思った私は、コクンと頷いた。
「はっ! まさか、十年に一人の聖女が二人も見つかるなんて。結界の危機に皮肉なものだな」
笑っているけど、目の奥が冷めている。そんなルーカス様を見て、私は怖くなった。
一体、この十年で何がルーカス様を変えたのだろう。あんなに優しく笑う人だったのに。
今、私を見下ろすルーカス様はとても冷たい目をしている。それが悲しい。
「お待ちください、殿下……! リリアはまだ十歳で……」
部屋の入口で控えていた伯父様が慌てて私の部屋に入って来た。
「リヴィアも十歳で聖女に選出され、役目を果たしていたぞ」
ルーカス様の言葉に伯父様は押し黙るも、続けた。
「しかし、すでに聖女様がいらっしゃるのに……。リリアはこれから、王立学院への入学が決まっておりまして……」
「それが何だ。王城で学びながら役目を果たすと良い。リヴィアのようにな」
さっきからルーカス様の口から『リヴィア』の名前が出るので、何だか落ち着かない。
そんな私にお構いなしに、ルーカス様は冷たく言い放つ。
「準備をしてすぐに王都に来い。今は一刻を争う状況だ。役目を果たせよ?」
そう言うとルーカス様は、「いいな?」と伯父様に言い、部屋を慌ただしく出て行った。
伯父様も「かしこまりました」と深く礼をしてルーカス様を見送った。
えっ?! 今のがルーカス様? 別人みたい。
命令だけ下したルーカス様が出て行った扉を、ぼんやりと見つめていると、伯父様が申し訳なさそうに言った。
「リリア、庇ってやれなくてごめんよ」
「いえ、良いんです」
「しかし、リリアに聖女の力があったなんて……」
申し訳なさそうな伯父様に笑顔で返すも、伯父様は考え込んでしまった。
「あの、殿下はどうしてフォークス領に?」
考え込んでしまった伯父様を引き戻すため、私は質問をした。
「ああ。リリアが修復したあそこの結界、前から亀裂の前兆があってね。殿下は丁度視察に来られる予定だったんだ。」
……そこをタイミング良く私が修復してしまったと。
聖女としての運命からは逃れられないってことか。
はは、と笑っていると、伯父様がまた心配そうな顔をして私を見つめていた。
「先代のリヴィア様のおかげで平和になったが、そのリヴィア様はこの国の犠牲になられてしまった……」
リヴィアを悼んでくれる伯父様に胸がキュウっとなる。
「リリア、これから君は聖女として人生が一変してしまう。まだ十歳なのに、そんな君を守れなくてすまない」
伯父様は私に頭を下げたので、慌てて頭を上げて欲しいと頼んだ。
「私は、この国を守る力がこの手にあるのなら、それを使いたいです」
リヴィアよりも強い力。この力を持ったのには意味があるのかもしれない。今度こそ、私も生き延びて国を守ってみせるんだ!
「リリア……」
私の強い決意に伯父様は私を抱きしめて涙ぐんだ。
「本当に大人になってしまって」
「今まで本当にありがとうございました」
学院に入るのとは違って、聖女の任に就いたら、夏休みに遊びに来る!なんて気楽なことも出来ないだろう。
私は今までの感謝を胸に、伯父様を抱きしめ返した。
それを見ていたトロワも、何だか涙ぐんでいた。私の周りは涙もろい人でいっぱいだ。
そんな感動の場面に突如として音を立てて入ってきたのはアレクだった。
「リリア!!」
「お父様?!」
王都にいるはずのアレクにびっくりしたけど、近衛隊長である彼は、ルーカス様のお供をしてきたのだと瞬時に理解する。
「アレク……娘の部屋とはいえ、ノックぐらいしたらどうだ?」
呆れ顔の伯父様をよそに、アレクまで何だか泣きそうな情けない顔をしている。
「兄上……! だって、やっとリリアと暮らせると楽しみにしていたのに……! ルーカスから聞きましたよ! 何故リリアを守ってくれなかったのです?!」
「私だって食い下がったさ。しかし、殿下の命を断れるわけないだろう」
もう半分泣いているアレクに、伯父様がやれやれ、と諭す。
アレクったら、随分親バカになったものね……。
『リヴィア』の部分である私も、呆れ顔で父を見てしまう。
「リリア…!! 見ないうちに大人っぽくなってしまって……!」
この呆れ顔を見て、そんな感想が出るなんて親バカ重症だ。
呆れた顔のまま固まった私を、アレクは抱きしめて泣いた。
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