烏と春の誓い

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最終章:因果は巡る

決着

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 一方の山野組屋敷では、源三を連れ出そうとしている所である。


 源三の口元にはガムテープ、体はロープで縛られ「ううっう~~~っ」と唸り声を出しながら芦屋組の組員たちに連れられて行くのを傍目に見ながら、阿良々木は電話を掛ける。

 お決まりの呼び出し音が何コールかした後にプツリとその音が消え、代わりに聞こえてきた声の主は、事の終わりを報告する相手である。

「あ、もしもし?例の件、無事に解決したんで、その報告~」

 
 瞬間、


「っ!―――うっ……っさいなあああもう!梵君のことならちゃんと保護したってば!電話口でいきなり怒り出すなよ」


「はいはい、わかってますって。ちゃんとそっち送るから、拷問でも殺すんでもバラすんでも好きにして」


「あ、そう言えば氷見からある写真が送られてきたんだけど欲しい?……あ?いらないの?へえー梵君の写真なのにいらねえの。わかったー!」


 梵『の』と言ったとたんにすぐに送れと言われたが、態々名古屋にきて面倒な案件クリアしたんだ。

 少しは労わってくれてもいいものだがそんなのが微塵も感じられない対応に悪戯心が爆発した阿良々木は相手が話してる途中でブツッと通話を切るためのボタンを押下した。

 これで少しは懲りろと思いながらあくどい顔をしている阿良々木に待っていたのは、連打されるライン通知と、東京へと戻ったあとに覚えていろと言う一文だった。

 そんなことが待ち受けているとはつゆ知らず、阿良々木は先ほど氷見から送られてきた写真を表示する。

「ふふ、あの子がこんな表情するの、いつ振りだろうね~」

 そこに写っていたのは、もう暫く梵を大事に思う人たちが見ていなかった、朗らかな笑みを浮かべた梵だった。


 ※


 港区倉庫での一件が終わったあと、日常は何も変わることなく戻ってきた。この世で誰がどうなろうと、結局赤の他人である限り人々の関心を呼ぶことはない。

 山野組の件は流石にテレビでニュースとして取り上げられていたが、楠尾に関しては新聞の隅っこに取り上げられもしなかった。

 再び楠尾を刑務所にぶち込むことが出来、円義の生きる目的は消失した。

 だが死ぬことは出来ない。生きて進むことが、春の遺言だから。

 これからも情報屋として変わらぬ日々を怠惰に過ごすしかないのだろう、そう考えると人生は本当につまらないものだと感じてしまう。

 この後の予定を考えながら、線路の下をくぐる為の地下道をゆらりと歩いている。


 カチャリ


 音と共に背中に何かをグッと押し付けられた。

 足を止め、前を向いたまま話し始めた。

「仮にも警察官が、善良なる一般市民に対して銃を向けるのはどうかと思うけど」

「善良?お前が?」

 円義は何も答えない。

「……山野組の組長を麻薬密売で捕まえようとしてたらどっかの誰かさんに横取りされて消えていた。これはお前の仕業か?誓」

 名前を呼ばれ始めて振り向く。そこにいるのは銃を構えた秋路だった。

「気にくわなかったからあのデブを潰すのに一枚噛んだだけ」

 ケラケラと笑いながら言う円義に、秋路は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「その顔は信じてないって顔だねえ。まあ仕方ないけど。元々手を組んでいたわけでもないし前の組長はそれなりにましだったけど、あいつはただクズなだけだしね」

「楠尾の件は……」

「あれも俺。……生かしておいてるだけ優しいと思わない?」

「……っ、そうだな。俺だったら殺していた」

「そうでしょう?ところで俺に何か用?」

「話に来た」

「……何で?何も話すことなんてないでしょ?だって、春の件は別に俺のせいじゃないもの」

「……」

「……あれはさあ、仕方のないことだったんだよ!運命ってやつ?」

 まるで春の死を悼んですらいないように話す口調に、秋路の持つ銃のトリガーにかけている指に力が込められる。

「俺を殺しなよ!さあ!あの時俺がもっと早く春の所へついていたら、死ななかったかもしれないのにねえ!」
  

 その言葉を最後に、バァンッと銃声が辺りに響く。



 しかしそれもガタンゴトンと電車の通る音に遮られ、誰も聞くものはいなかった。



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