烏と春の誓い

第五章：夕刻

烏の巣

　今日も営業時間が終わり、店の後片付けをしていた氷見に一件の電話が入った。

　相手は蘭からで、緊迫したような声で事の成り行きを告げられる。話の中にある名前が出てきたことで今まで落ち着いて聞いていた氷見も表情を変えた。

　用件だけ聞くと氷見はすぐにスマホからＬＩＮＥを立ち上げて不細工なカラスの顔のイラストアイコンをタップしてトークルームを開く。
　

ＬＩＮＥトークルーム　≪烏≫


　氷見『緊急案件：捜し人』

　芥　『写真』

　白　『パス一』

　氷見『パス一とかないから。ふざけてる場合じゃないの』

　色　『流石に特徴とか教えて貰わないと無理だよ～』

　―― 一枚の写真がアップロードされました。

　槐　『……隠し撮りか』

　宝　『あなた、そこまで落ちぶｒ』

　氷見『特徴言う前に皆がペラペラしゃべるからタイミング逃したんでしょうが。そんで隠し撮りとかじゃない。楠尾が絡んでて急いでる早急にお願い』

　芥　『それを早く言えよ毛むしるぞ』

　色　『その言い方だと氷見さんもう禿げてるやん超ウケる（笑）』

　夏島『春の二の前にしたいの？』

　
　夏島の一言でメンバーのチャットの流れが止まった。

　
　芥　『俺がやる。ちと待て』

　
　【芥(あくた)】の名で登録されている人物は≪烏≫の元メンバーで今は凄腕ハッカーとして名が通っている。誰かの居場所を探るのにはうってつけの特技を持った人物だった。

　必要情報を聞かれて氷見がそれを提供する。

　
　芥　『見つけた』

　色　『さっすが～』

　槐　『健闘を祈る』

　宝　『今度その子と会わせなさいよね』


　ものの数分で居場所を探し出した【芥】がすぐさまトーク画面に位置情報を送ってくる。その場所を確認した氷見は、スマホを握りしめる。

　そこは十年前の事件の現場近くだった。握っていたスマホが振動と共にピロンッと鳴った。見れば夏島からのＬＩＮＥが入っている。

　内容を見た氷見は、急ぎ仕事場から出てバイクに乗って、目的地へと向かった。