烏と春の誓い

第五章：夕刻

鬼ごっこと蘭の店

「流っどうしよう、このまままじゃ捕まるよね！？」

　あれから必死に走ること五分。空と流の二人は未だに逃げ回っていた。

「どこか隠れる場所、探さねえとっ」

「さっきの真ん中の男、梵君の名前出してた」

「俺等がエサだって言ってたな……」

「もしかして何か危ないことに巻き込まれてるんじゃ」

「くそっ、今は逃げることが先決だ、撒いたあと急いで梵に連絡しよう」

　真ん中の男が話してる最中だったから逃げられたものの、このあたりは人通りも少ないし警察署はここから走っても少し距離がある。どこか身を隠せる場所がないかとキョロキョロしながら周りを見て走っていると、二人の横にいきなりぬうっっと巨大な影が現れた。

「お困りですか？」

　同じ速さで走るそれ―――黄色いウサギの着ぐるみだった。

「うおおおっ、着ぐるみ……？着ぐるみ！？走ってるっ」

　パシャパシャパシャッ

「こんな時に写真撮るな馬鹿！」

　並走しながら器用にカメラボタンを連射する空の襟首をぐいっと掴み、自身の側に寄せる。

「このまま走ると右側に細い裏道があります。その奥に扉がひとつあるのでそこへ入れば助けて下さる方がいますよ」

　ファンシーな巨体からすらすらと逃げ道を教えられるが、味方かも敵かもわからぬ者に従うほど愚かじゃない。走る着ぐるみに目をキラキラさせている空をよそに、流がどちらなのかを聞く。
　
「敵か味方かどっちだ」

「それは今、必要ですか？ここで私が味方です、と言った所で信じられないでしょう？因みに私は嘘は言ってません。もし助かりたいのなら従うことをお勧めします。その裏道を通り過ぎればこの先暫く隠れる場所はありません」

　着ぐるみの言う裏道まではあと数メートルしかない。迷い逃げ道をふさいでしまうのならここは藁にも縋る思いで聞き入れるか……。もし違えば裏道の先が行き止まりでない限り活路はある。

　空の襟を放し、裏道の入り口まで辿り着きそのまま入る。後方からは「狭いので気を付けて下さい」と言いながら着ぐるみも付いてきていた。

　扉の前にたどり着き、ドンドンと流が拳で叩く。

「誰よもう！うるわいわねえ！ってあら？お子様たちが何の用？」

　出てきたのはスリットの入ったドレスを着た高身長の女性――にしては声が渋いが――だった。

「蘭さんすみません。訳アリのようで、匿ってあげて欲しいのです」

「あら！明々こんな所で奇遇じゃない。いいわ。貴方なら信用できるし。ほらいらっしゃい」

　蘭と言う人物から出るオーラに戸惑いを感じながらも、御礼を言いながら空と流、そして着ぐるみが中へと入る。

　まるでスタッフルームのような部屋を抜けて店の中に通されると、店の明かりは少し薄暗いが所々にあるスタンドライトが独特の雰囲気が漂う。更に高級感のあるソファやテーブル配置されている。その内の一角で数人の女性たちが一人の男の相手をしていた。

　辺りを興味深げに見渡していた空が、男の顔を見て驚き横にいる流の袖を引っ張る。

「流、あれ鈴木先輩じゃない？」

「ん？……まじだ、何でこんな所に」

「それより貴方たち、ここら辺はお子様には危ない所よ。近づかないほうがいいわ」

　鮮やかな内装の中でくっついている二人を、別のテーブルの方に呼び、注意してきた。

　心配してくれる蘭に対して先ほどまでに起こったことを軽く説明すると、蘭が顔を青褪める。

「あらいけない。その五月女って子、狙われてるのね？」

「俺等を追いかけてきた男はそう言ってた」

　証拠がないため、確信は出来ないが何かあってからでは遅いと考えた蘭は、ある相手に連絡を取ることにした。