19 / 43
第三章:五月女梵の冒険
追跡者とのんき者
しおりを挟む『すみません!対象を見失いました……』
手下からの第一声に、楠尾は苛立ち電話口に怒鳴り散らした。
「何やってんだよ!この前もその言葉聞いたけどよお、ガキの尾行すら出来ねえなんてどんだけ愚図なんだ!!あァ!?」
『すんません!本当にすんません!』
「チッ」
出所てから数日後、山野から連絡があった。内容は、市内の大学に通う【五月女梵】と言う男子学生を捕まえること。居場所に関しては、山野の部下の藤堂と言う男が情報屋から買っているらしく、楠尾たちはそれをもとに動いている。今の所百発百中で、言われた場所へと繰り出せば必ず見つけることが出来た。
街中では勿論拉致することはかなわない。そこで、家を突き止めてそこを襲撃することにした。
どこにいるかなどピンポイントで当てられる情報屋も家の場所は何故かわからないらしく、そこは自力で探せとのことだ。それでもなかなか出来る情報屋もいたもんだと感心ながらまずは手下に家を突き止めさせようと尾行をさせているのだが、結果は芳しくなかった。
たかが大学生のあとをつけるだけなのに、任せた手下どもは毎回見失ったと言ってくる。
だが金の為には諦めるわけにはいかなかった。この依頼を完遂させることが出来れば、山野は数百万と言う額の報酬を用意すると言ってきたのだ。
それなのに……、どうすればいいかとムシャクシャしていると、繋ぎっぱなしだった手下から別の情報が入ってきた。
『そ、っそういやあ鈴木サトシを見かけましたよ』
『……どこでだ』
『錦通り付近です!女が一緒でした』
( あそこらは歓楽街だ……女という事はキャバクラでも行ってんのか?暢気なもんだ…… )
サトシは楠尾が刑務所にいる間に山野が作った末端組織の下っ端だ。
荷物運びを主な仕事としていて、本人は小遣い稼ぎのアルバイトのような気持ちで入ったのだろが、運んでいるのは麻薬の類だ。誘われたから、と言う理由で始める、主に大学生が多いがその裏にいるのは正真正銘のヤクザだ。
軽い気持ちでやっていたが故に突然行方不明になってしまった者もいる。
そしてある日、一番やってはいけないミスをした奴がいた。
新田一志と言う学生が、あろうことか配達中に薬を紛失した。
事が判明したのは客である櫛田と言う男からの電話による苦情からだ。
電話があってからすぐに山野は部下たちに新田を探すように指示をした。
結果、何故か警察に保護去れていることが判明。薬を持ち逃げしたと判断され病院へと捕まえにいったが既にもぬけの殻で家にも帰っておらず大学にも休学届が出されていた。
焦りを感じた山野が紹介者であるサトシならば何か知っているかと追手を差し向けようとしたものの、近頃は別件で慌ただしく、今回丁度自由の身となった楠尾にそれを任せてきた。
そちらも手下を使って探させているのだが悪運のいい男らしく、未だ捕まえるに至っていなかった。それが思わぬ収穫だ。
『近くのキャバクラをあたって何としても探し出せ』
『わかりやした!』
※
「ヘクシッ」
キャバクラでお楽しみの最中に、いきなり出たくしゃみ。
「風邪ぇ?だいじょうぶ?」
指名していたミカちゃんと言う女の子がサトシにしな垂れかかりながら心配そうにしている。
「平気平気!」
もしかして誰かが自分の噂でもしてるのだろうか、なんて考えながら、サトシは今後の自分の身の振り方を考えていた。
「よかったあ!」
笑顔でほっとするミカちゃんの肩を抱きながら、同時に焦りも抱えていた。
キャバクラは楽しい。しかし通うには勿論お金がいる。偶然によって手に入った大金は少しずつ減り、あと何度通えるだろうと言うくらいまでになっていた。
また稼げるバイトをするか?留学してからはやめてしまったが、サトシにはその前までやっていたバイトがあった。ただ言われるがままに物を運び届ける仕事にも関わらず給料が滅茶苦茶よかったのだ。
サトシがそのバイトと出会ったのは、大学構内にある掲示板に張り紙がしてあったから。
紙に書いてあった連絡先に電話をしてみると場所日時を指定されてそこへ来るように言われた。
行ってみると、面接だったようで幾つかの質問をされてそのまますぐ採用となった。
すんなり行き過ぎていることに疑問は感じた者の提示された給与に口を噤んだ。
それから何か月か経ったあと、仲良くなった先輩に色々聞いてみた所、荷物運びの失敗は絶対にするなときつく言われ、サトシはそれを守った。しかしその数日後に先輩はいなくなった。
何かあったのかと思い他の先輩に聞いてみると、この運び屋の組織の裏にいるのがどこかのヤクザだという噂があると言われた。まさかと思ってその時は特に何も気にしなかったが、帰国後に同じバイトをしていた大学の友人に連絡を取ってみたものの音信不通が続いていた。
友人を誘ったのがサトシだけに、心配はしているし、何故だか急にいなくなってしまった先輩のことを思い出す。
もしかして裏にやばいのがいるかもしれない、と言うゾッとした感覚が背筋を這いあがる。
言い様のない一抹の不安が過るものの、大丈夫、自分は大丈夫と心の中で自己暗示をかけていると、ずっと無言でいるサトシを心配したミカの声が耳に入ってきた。
「大丈夫?」
「あ……大丈夫」
「そお?ならいいけど……。そうだ、近くにめっちゃ楽しいお店あるんだけど今度一緒に行こ!」
話し続けるミカの言葉に相槌を打ちながら、今はこの場を楽しむためにネガティブな思考を切って目の前にある娯楽に身を委ねた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる