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第一章:蔓延りまくりプロローグ
山野組
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「厄介な事をしてくれおって……」
キンキュウジタイ、この状況は非常にまずい。
裏社会に巣食うヤクザ。名古屋に拠点を置く山野組組長の山野源三(やまのげんぞう)は、苛立ちながら、ない脳みそを回転させて必死に頭を働かせていた。
一人の下っ端のしでかしたことの後始末をどうするかについて。
組員は兎も角として、末端のチンピラ連中はせっかちで気の荒いものが多く、窃盗に詐欺、傷害に、挙句の果てにはただムカついたからと歩いていた一般人相手に半殺しに近い殺傷事件まで起こすしまつ。源三が金の力で揉み消したりもしていたが、そんな彼等を煩わしく思いながらも切らずにいたのは単に使い勝手のいい駒だったからだ。つまりは蜥蜴の尻尾。組のメンバーが直々に手を出せば起こりそうな面倒ごとも、組とは『関係のない』チンピラどもが起こしたことならば山野組にまで被害が被ることはないと考えてのことだった。
それが今、裏目に出てしまうという事件が起こっていた。
山野組は三年前、先代の組長によって、東京を拠点とする指定暴力団芦屋組の傘下となった。構成員は五千を超え、義理と人情を信条としている芦屋組は掟に厳しく、破った者は問答無用で制裁を加えられる。その中には無関係の堅気に手を出してはならない、ということも含まれていた。それに関しては最悪の場合本人に責任を取らせればいいだけのこと。
しかし今回件(くだん)の下っ端のしでかしたことはその比ではなく、これが芦屋組に知られれば制裁を受けることは確実であった。この件で組内部を調べられれば、必ず自分へつけが回ってくる。つまりそれは、山野組の終わりを意味していた。
更に追い打ちをかけるような報告が先日、若頭である藤堂(とうどう)の口から発せられたのだ。
『名古屋に――あの阿良々木(あららぎ)がきているとの情報が』
阿良々木は、芦屋組組長の右腕とも呼ばれるほどの地位にいる男だ。
以前源三が組長に就任する際に東京で一度会った事があるが、七三分けの前髪に分厚い眼鏡。いかにもお堅い性格が見た目にまで反映されているような男で、そう言う部類の人間が嫌いな源三にとっては初対面から既にいけ好かない相手となった。
想像通り、掟や規律には厳しくかなりのやり手であると言う噂も耳に入っている。
そんな男がこの名古屋に来たとなれば何かしらの指示を受けているに違いない。今回は、その≪何か≫が重要なのだ。
芦屋組からは人を寄越すなどと言う通達は来ていない。つまりは極秘の用事という事になる。
報告を受けたとき、源三は冷や汗をかかずにはいられなかった。
既に阿良々木が名古屋に来ている以上、今下手に動くと目をつけられてしまう。
部下を蟻のように働かせて蓄えた金で贅沢三昧のお陰で肥えた腹をぶよぶよと揺らしながら、源三はこの一縷千鈞な状況を脱する方法を考えていた。
そして思いついた。此方が弱みを握られる状況になる前に、此方も弱みを握ってやればいいと言うことに。
脂ぎった顔を醜く歪めながら、口角を上げてにやあっと笑うと、源三は藤堂を呼びつける。藤堂は先代の時から若頭としてこの組に仕えている古株だ。現状、源三の指示に対しては首を振らない。そのため組の中で最も信用できる人物としていた。
一分も経たぬうちに藤堂が襖の前にやってきた。そのまま「入れ」と入室を許可すると、藤堂は襖を開けて静かにはいってくる。再び襖を閉めなおし、源三の前に硬く正座をする。
「楠尾を動かして芦屋の弱みを探せ」
「……あいつをですか?」
「数日のうちに刑期を終えて出所するはずだ。出たらすぐに接触して探させろ」
「……承知致しました」
相変わらずの藤堂の二つ返事の了承に満足した源三は気づかなかった。
頭を下げて任務を受ける藤堂がどんな表情をしているかなど。
キンキュウジタイ、この状況は非常にまずい。
裏社会に巣食うヤクザ。名古屋に拠点を置く山野組組長の山野源三(やまのげんぞう)は、苛立ちながら、ない脳みそを回転させて必死に頭を働かせていた。
一人の下っ端のしでかしたことの後始末をどうするかについて。
組員は兎も角として、末端のチンピラ連中はせっかちで気の荒いものが多く、窃盗に詐欺、傷害に、挙句の果てにはただムカついたからと歩いていた一般人相手に半殺しに近い殺傷事件まで起こすしまつ。源三が金の力で揉み消したりもしていたが、そんな彼等を煩わしく思いながらも切らずにいたのは単に使い勝手のいい駒だったからだ。つまりは蜥蜴の尻尾。組のメンバーが直々に手を出せば起こりそうな面倒ごとも、組とは『関係のない』チンピラどもが起こしたことならば山野組にまで被害が被ることはないと考えてのことだった。
それが今、裏目に出てしまうという事件が起こっていた。
山野組は三年前、先代の組長によって、東京を拠点とする指定暴力団芦屋組の傘下となった。構成員は五千を超え、義理と人情を信条としている芦屋組は掟に厳しく、破った者は問答無用で制裁を加えられる。その中には無関係の堅気に手を出してはならない、ということも含まれていた。それに関しては最悪の場合本人に責任を取らせればいいだけのこと。
しかし今回件(くだん)の下っ端のしでかしたことはその比ではなく、これが芦屋組に知られれば制裁を受けることは確実であった。この件で組内部を調べられれば、必ず自分へつけが回ってくる。つまりそれは、山野組の終わりを意味していた。
更に追い打ちをかけるような報告が先日、若頭である藤堂(とうどう)の口から発せられたのだ。
『名古屋に――あの阿良々木(あららぎ)がきているとの情報が』
阿良々木は、芦屋組組長の右腕とも呼ばれるほどの地位にいる男だ。
以前源三が組長に就任する際に東京で一度会った事があるが、七三分けの前髪に分厚い眼鏡。いかにもお堅い性格が見た目にまで反映されているような男で、そう言う部類の人間が嫌いな源三にとっては初対面から既にいけ好かない相手となった。
想像通り、掟や規律には厳しくかなりのやり手であると言う噂も耳に入っている。
そんな男がこの名古屋に来たとなれば何かしらの指示を受けているに違いない。今回は、その≪何か≫が重要なのだ。
芦屋組からは人を寄越すなどと言う通達は来ていない。つまりは極秘の用事という事になる。
報告を受けたとき、源三は冷や汗をかかずにはいられなかった。
既に阿良々木が名古屋に来ている以上、今下手に動くと目をつけられてしまう。
部下を蟻のように働かせて蓄えた金で贅沢三昧のお陰で肥えた腹をぶよぶよと揺らしながら、源三はこの一縷千鈞な状況を脱する方法を考えていた。
そして思いついた。此方が弱みを握られる状況になる前に、此方も弱みを握ってやればいいと言うことに。
脂ぎった顔を醜く歪めながら、口角を上げてにやあっと笑うと、源三は藤堂を呼びつける。藤堂は先代の時から若頭としてこの組に仕えている古株だ。現状、源三の指示に対しては首を振らない。そのため組の中で最も信用できる人物としていた。
一分も経たぬうちに藤堂が襖の前にやってきた。そのまま「入れ」と入室を許可すると、藤堂は襖を開けて静かにはいってくる。再び襖を閉めなおし、源三の前に硬く正座をする。
「楠尾を動かして芦屋の弱みを探せ」
「……あいつをですか?」
「数日のうちに刑期を終えて出所するはずだ。出たらすぐに接触して探させろ」
「……承知致しました」
相変わらずの藤堂の二つ返事の了承に満足した源三は気づかなかった。
頭を下げて任務を受ける藤堂がどんな表情をしているかなど。
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