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第四章

エピローグ : あの日の、一歩

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「美奈子~、はじまるよぉ」

「はぁい」

エプロンで手を拭きながら、美奈子がリビングに向かう。





ちょうど「プロフェッショナル・クローズアップ」の題字が大型テレビに

映し出されていた。





画面が切り替わり、アニメのシーンが流れる。

ファンタジー世界で、エルフらしき登場人物と、悪魔風の角を生やした

魔王風キャラクターのバトルシーンが流れる。

剣戟の末、エルフが大ピンチとなったところで、

そこに、聖女とおぼしき人物が、朗々と歌い上げ、逆襲が始まる……



そこでアニメシーンは終わり、ノートPCの画面に向き合う女性の、

真剣な表情を映し出す。



長門詠子、ファンタジー小説家。

今夏、「妖精王物語」が大ヒット。興行収入100億円突破。

小説はシリーズ累計5000万部!



などと、名前と共に景気のいい数字が並ぶ。



場面は、スタジオに切り替わり長門詠子先生とアナウンサーの対面と

なる。

「本日のプロアップは、劇場アニメ映画「妖精王物語」が大ヒット中の

長門詠子先生をお迎えしました。よろしくお願いします」

「よろしく、お願いします。緊張してます」

「こういう形でのインタビューは、これまでご経験は、なかったのですか ? 」

「はい、スポット的なものは、これまで受けたことはありましたが、

まさかプロアップになんて……こういうのに出るのはトップアスリートや

大監督だから……」

「だからこそ、長門先生なんです」

「えぇ~っ……わたしは、ただのファンタジー書きで、アニメは別物で……」





「いやぁ、堂々と受け答えしてるなぁ」

友介と美奈子はソファに並んで、長門詠子先生こと葛城詠子の

映るテレビ番組を見ていた。

友介の膝には、長女の南美がちょこんと、おとなしく座っている。



「凄いわねぇ、去年結婚式でお会いした時は、まさかこんなに

メジャーになるなんて。

あの頃は、友介さんも作家になった事、知らなかったものね」

「ああ、妖精王物語はもちろん読んでて、かなり好きだったけど、

それを書いたのが陸奥だなんてねぇ……

美奈子に教えてもらって驚いたよ」

「それが、こんなことになるんだから、アニメの力って凄いわね」

「あぁ、おかげでボクまで……」

「あっ、ほらほら」





「浜田先生は、高校時代の恩師かつファンタジーの導き手とお聞きしていますが」

「いやいやとんでもない。私が顧問をしていた高校時代は、

まだあまり書いてなくて、むしろ読む方に熱心でしたね。

ただ、日本文学中心でしたので、海外文学、特にファンタジーには

面白いものがあると紹介したわけです。

私がR物語をはじめ何作か紹介したら、むさぼるように読みだして……

いつの間にか原書に取り組んでるんで、驚きましたよ。」

「その高校時代のきっかけを与えたことが、導き手ということでしょうか」



画面は再び、スタジオに戻り。

「浜田先生には、海外ファンタジーだけでなく、日本の素晴らしいマンガや

アニメをたくさん教えてもらいました」

「その高校時代の蓄積が、今度は小説そしてアニメに花開いたわけですね……」



「むっちゃん、キレイになったなぁ……」

インタビューに答える詠子の姿は、キラキラし、時代の寵児に躍り出た輝きを見せていた。



「イタタタ !! 」

「なにつねってんだよぉ ! 」

「ここに美しい妻と、可愛い幼な子がいるのに、別な女性に見とれているからよ」

「いやいや、別な女性もなにも、だって親戚の晴れ舞台じゃないか。なんで……」

友介が、ブツブツとお腹をさする。



「むっちゃん、とか言った……」

「あの頃は、そう呼ばれてたの、彼女は。旧姓陸奥だから」

「それに、友介さんのこと、ちょっぴり好きだったって聞いたし。

友介さんも、まんざらでもなかったんでしょ」

「いやぁ、ダンスが終わった時の彼女の笑顔は眩しかったよ、確かに。

でも、そこまでだよ。その後は、しっちゃかめっちゃかだったし……

妬いてくれたの ? うれしいなぁ……」

「調子に乗らない ! 」

「あっ、っ痛い……最近暴力ヒロインはかげを潜めてたのに……」







(……あのとき、ダンスでわたしが飛び出さなければ、

おじい様がPTA会長に声をかけることもなく、

何事もなく運動会も審査も滞りなく終わり、普通に文芸部は表彰されたんじゃないかと思う。

盛り上がったまま、文芸部は存続する。

友介さんは顧問のまま、楽しい部活動が続いたことでしょう。



トラブルまでは、部長と副部長以上の関係はなかったと聞く

賢ちゃんと詠子さんとの仲は、きっと深まらない。

でも、詠子さんの友介さんへの感謝の念は変わらない。



小説家になった詠子さんは、OBとして文芸部に関わる。

そして、友介さんと再会して……先生と生徒じゃなくなった二人は……



な~んてことを想像して、いまの幸せが、

ここにいる友介さんと南美が、一瞬幻なんじゃないかと

想像したら、寒気がして……



幻じゃないことを確認するために、友介さんをつねっちゃった……バカなわたし



それだけ今のこの生活がしあわせ。

あの日の一歩は、友介さんの人生を狂わせ、犯罪にまで手を伸ばさせて

しまったけれど……しあわせにつながる一歩だったわ )



「あなたぁ~っ ! 」

ぎゅっと隣の友介の首に抱き着く。



「な、なんだよ急に。強すぎる。締まる締まる。ほらほら、南美が泣きそうだ。

それに、まだ安定期に入ってないんだから、急に激しく動くのは……」

「これくらい、いーのっ。だいじょぉぶっ !」

「甘えんぼうのママだなぁ……おぉ、南美も、よしよし ! 」



友介は、左手に美奈子・右手にぐずり始めた南美を優しく抱えて、

微笑んだ。



「ねえ、しあわせ?」

「あぁ、愛しい妻と可愛い娘に囲まれて、ぼくは、世界一のしあわせ者だ !」

「うんっ ! わたしも ! 」

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感想 4

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みんなの感想(4件)

漱石
2023.05.18 漱石
ネタバレ含む
小松 美堂
2023.05.18 小松 美堂

想像もしないご意見をありがとうございます。

そういうことがあったら幸せです。

解除
漱石
2023.05.15 漱石

とても気に入りました。ヒロインの女の子優しいですね。

小松 美堂
2023.05.15 小松 美堂

読んでいただき、ありがとうございます !
感想をいただけるとうれしいです。

解除
李在記
2022.05.14 李在記

一気に読ませていただきました、素晴らしい作品をありがとうございます。

小松 美堂
2022.05.14 小松 美堂

ありがとうございます!!

見つけていただいて、最後まで読んでいただいたようで、うれしいです。

解除

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