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第四章
真実
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メタボな中年男が、華奢でボブカットがキュートな美少女と、
古いマンションの一室で、後背位で交わっている。
まるで不似合いな二人だが、少女の持ち上げた小ぶりな
お尻の間に、黒々と野太いペニスが出入りしてるのが見える。
ゴムのピンクとペニスの黒さが生々しい。
パン、パン、パンという腰のぶつかり合う音にまじって、
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅと、水音が大きく響く。
結合部からは、白いものが混じった愛液が溢れていることからも
少女が相当に感じていることがわかる。
本来、真っ白であろう肌が紅潮し、うっすらと汗ばんでいる。
その後ろから、フッフッフッと懸命に腰を振る中年男は、だらだらと汗を流し、
弛んだ腹を揺らしている。
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅ、ぐっぽぐっぽ ピッチが上がってきたところで、男は覆いかぶさり、下に垂れて若干のボリュームは感じるが、本来は大きくなさそうな乳房を握り締める。
と、少女が顔を上げ、キスを求める表情になる。
メタボ中年は、遠慮なく唇を重ね、舌を絡ませ合う。やや下品に勢いよく、
ぴちゃぴちゃという音までたて、
ぐっちょぐっちょという接合音とシンフォニーを奏でる。
「友介さん……わたし……もぉ……」
「もう、何 ? 」
腰のスラストのピッチが更に上がる。じゅっ、じゅっ、じゅっ !
「あぁん、そういう……いぢめに……つきあって……られ……ない……のぉ……
一緒、一緒にぃ…… !!」
「よぉしっ ! 」
男の勢いが更に増し、ぐつちゅぐっちゅぐっちょ、ずぼっずぼっずぼっ !!
ひと際強く押し込み、ぐりぐりと腰が回った瞬間。
「あぁんっ ! あんっ、イク、イク、イっくぅ~~~っっっ、わたしイクのぉ !!」
「ボクも、で、出るよ ! 」
どぴゅっ、どぴっゅ、どくんどくんどくん…………
「ふぅっ」
ティッシュに白濁液が吐き出された。
画面上では、ごろりと横になった友介が、美奈子と、ちゅっちゅとキスを交わしている。
「はぁ~~~。これも何回観たかなぁ……」
その、画面と同じ古びたマンションの、こちらはリビングで4K画像に収録された
セックスシーンを観てオナニーするのが、友介の日課だ。
美奈子との約束通り、上条関連の動画・画像を消し、それ以外に自分のビデオカメラで
多数収録した映像も、消しにかかった……が、結局消しきれずに、こうした
コレクションが残った。
脅迫めいたシーンのある映像は、良心の呵責から削除したが、後半の一見すると
ラブラブなものは残した……
所詮は、美奈子への未練たらたらの友介だった。
「もう五月かぁ、美奈子は高校のことなんか、過去の事としてすっぱり忘れて、
大学生活をエンジョイしてるんだろーなー……
ボクも忘れないと……ハハ、こんなの毎日見てて、無理ムリ……」
G.W.に入ったが、特に予定もない友介は自室でゴロゴロし、暇があれば美奈子との
エッチシーンを観て、オナニーに耽るという、最低に非生産的な休みを過ごしていた……
そのG.W. 終盤の5月4日、葛城家では当主葛城勇作の、傘寿の祝いの会が開かれていた。
グループ傘下のホテルに、葛城家一族が一同に会するパーティーだ。
賑わうパーティー会場では、久しぶりの一族が揃うパーティーに、様々な再会があった。
これもその再会のひとコマ。
「賢ちゃん ! わあ、久しぶり」
「ミーナも、大きくなったね。っていうか綺麗になったね何年生?」
「一年生よ」
「え ? 高校一年 ?」
「もぅっ、大学一年に決まってるでしょ」
「え~ ! もう大学生なの ? 俺も歳を取るわけだ」
葛城賢一は美奈子の、はとこであり、こうした記念日や
新年・お盆など一族の集まる機会では、可愛がってもらった間柄だ。
年齢は10歳以上離れているが、幼少時は兄のように慕っていた。
「そんなことより、お隣にいらっしゃるのは、奥様でしょ。紹介してよ」
賢一は、美奈子に、隣にいる妻を紹介する
「妻の詠子だよ」
「はじめまして詠子です。今後とも、よろしくお願いします」
にっこりとお辞儀をする、メガネ美人だ。
「美奈子です ! 賢ちゃんをよろしくお願いします」
「わあ~、こんな美人の奥さん、賢ちゃんどこで知り合ったの ?」
「いやいや、高校の部活の先輩という腐れ縁」
「文芸部よ」
「えっ、聖愛学園の文芸部ですか?」
「そうだよ。詠子が部長で、俺が副部長だった。 」
「そうなんですか……もうないんですよねぇ、文芸部」
「あぁ、知ってる……」
「文芸部と言えば、ミーナ、オタ友先生、元気でいる ?」
「おた ? ……おだ先生とか、おおた先生という方は、今は学園にいらっしゃらないかな」
「だめよ、あなた。あだ名で呼んだりして。浜田先生よ」
「あっ、そうそう。あだ名以外で呼んだことなかったから。浜田先生か」
「えっ、浜田先生って、浜田友介先生ですか ? 」
「そうそう」
「………い、いらっしゃいますよ。 た、担任でした」
「そっか、お元気に勤務されてるならよかった。色々と迷惑かけたから」
「迷惑 ?」
「そうねぇ、こんな風に楽しくしてくれた恩人だし、キューピッドなのに」
詠子がスマホの写真を見せる。
「この写真は?」
「私たちの高校時代の運動会で出し物をやった記念写真を、スマホに入れてるの」
「楽しそうですね。青春って感じ」
「浜田先生も写ってるわ」
「…………もしかして、この端の ?」
「そうよ」
「えぇ~、若~い ! 全然違う~」
「あら、そうなの…… この頃は情熱的で人気者の青年教師よ ! 」
「いやいや、さすがに言いすぎ。ちょっとオタクっぽかったし。」
「それがよかったのだけれど、私には」
「だからオタクの友達先生で、友介とひっかけてオタ友先生って呼ばれて、愛されてたね」
「ファンタジー小説や、マンガやアニメの名作とかいっぱい紹介してくれて……」
「マンガの読書会なんてものを初めて体験して、高校は違うなぁと思ったよ」
「そうなんですね……あの、迷惑というのは ? 」
「運動会でオタク系アニメのダンスを、文芸部で踊ったら怒られちゃったのよ。
わたしがセンターで踊ったの」
「俺も参加して、うちの母親がPTA会長だったから、それでヒスってね。
そもそも学園内にオタクコンテンツを楽しめる環境にあることが、
教育に悪影響ガ―とか……
で、文芸部は活動停止で、先生も辛い状況に……」
「待って、それって賢ちゃんが踊ったとき ? じゃあ、わたし見たわ」
「ていうか、ミーナも乱入して一緒に踊ってくれたよね」
「あら、じゃあ、わたしたちもう会ってるのね」
「確かに。アハハ…」
「そう……踊りました……覚えてる ! あの日のこと……」
(そうよ。あの日、あのダンスがものすごく楽しくて、
こんな経験ができる聖愛学園に絶対入るって、あの日おじい様に宣言したんだわ。
おじい様も喜んでくれて……
その気持ちは、ずーっと変わらなかった。
小学校の先生から、陸上の強豪がたくさん誘ってくれてるのにもったいないと言われても、
絶対聖愛がいいって言ってたわ)
「でも、どうしてお母様は、ダンスくらいでそんなに怒られたんでしょうね」
「あーっ、そりゃあね。多分ミーナが嬉々として踊ってるのを見て、
うれしくなったじーさんが、母親に『賢一くんも、なかなかユニークな趣味を』
とか言ったらしいんだよ。
それをまた母は、バカだから、何か本家から嘲笑されたと思ったみたいで。
その後はPTA全体も巻き込んで大騒ぎ。図書室のラノベやアニメDVDは全撤去。
先生も、だいぶ絞られて、図書委員と文芸部の顧問をクビになっちゃって……
あの頃は、オタク趣味への風当たりは、今より強かったからねぇ……参ったよ」
「でもまあ、ダンスとその後の騒ぎのおかげで詠子とは接点が増えて、
大学に入って付き合いはじめたんだ」
「わあ、じゃあ結果的に先生がキューピッド?」
「まあね、ご迷惑をかけたけど、今も元気に奉職されてるならよかったよ」
「まさか、文芸部が今ないのは……」
「うん。公けには潰されたわけじゃないけど。俺は母の命令で即退部。
後輩たちは幽霊部員になって、そのまま自然消滅……だね、確か」
「 私は、三年生だったし」
「わたしの、せい……」
「いや、全然そんな。ミーナのせいなわけないよ。全部うちの母の被害妄想。
実際、じいさんは不思議がってたし。何を気にしてるんだ、楽しかったじゃないかと」
「あの……その写真、わたしにもいただいていいですか ? 」
「いいわよ、LIME ID教えて」
その後は、友介がどれだけ熱心にファンタジーやSF小説を図書委員や文芸部員に
紹介したかとか、
日本のポップカルチャーの象徴として、マンガがどれだけ大きな影響力を
持つか熱く語ってくれた事などを、詠子が話してくれた。
「おいおい、そんなにオタ友先生推さなくても……」
「だぁって、そのおかげで作家になれたし……ちょっぴり好きだったし……」
「うっ、またその話か……もう聞き飽きたよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください。奥様、作家さんなんですか ? 」
「まあ一応、しがないファンタジー書き」
「ファンタジーで……詠子先生って……もしかして長門詠子先生 ? 」
「そうよ。本名陸奥詠子で、ペンネーム長門詠子って、ひねりもない名前で」
「 きゃーっっ !!」
「ちょっ、ミーナ声が大きい」
「ごめんなさい。でもでも、『妖精王伝説』大ファンなんです」
「ありがとう、こんなところでファンに会えてうれしいわ。
葛城家の皆さんには、まだカミングアウトしてないから、内緒にしてね」
「うちの母が、何言い出すかわかんないからね」
「そうなんですか。でも、長門先生、作家になったことを、ゆ…浜田先生には ?」
「いやぁ、照れくさくて伝えてないのよ」
「教え子がファンタジー小説家と聞いたら、喜びますよぉ……」
など、たくさんの話の末、夫婦は別なテーブルへと移って行った。
美奈子は、庭園のベンチに出て、送ってもらった写真を眺めた……
そこには、セーラー服っぽい服装とアニメ的なリボンをつけた詠子が、
満足気な笑みを浮かべ、隣のピースサインする賢一をはじめ、部員は皆、
やり遂げたというイキイキとした顔をして並んでいる。
端に立つ友介先生は、少し照れた、しかし誇らしげな表情で軽くガッツポーズをつけている。
確かに、オタクたちをまとめる情熱の青年教師という面持ちだ。
(こんな時代があったんだ……オタ友先生って言葉は蔑称じゃなくて、愛称なのね……
こんなに溶け込んで。
それが、どうしてキモ友先生に………………
まさか、まさか、この事件がきっかけでオタ友先生は、糾弾されて閑職に追いやられ……
友介さんはやる気をなくして……
情熱的な青年教師がうらぶれた中年教師、キモ友に……
そんな、それじゃあ、やっぱりこのダンス事件がきっかけで、
先生は変わってしまったの ? ……
その原因となったのは、葛城家……きっかけは、わたしのダンス乱入……
なのに、なのに葛城家への恨みごとなんて、友介さんは一言も言わなかったわ……
…………………いっ
会いたいっ……、友介さんに会いたい……会ってこの事について話したい……)
あの日、あの卒業式の夜。マンションの前まで、いやエントランスまで美奈子は
入った。しかし、それ以上進めなかった。
そこから進むことの未来について、理性で躊躇してしまったからだ。
24歳も年上の男性の胸に飛び込むことを、"葛城家"という重石が押しとどめた。
葛城本家のひとり娘という立場から、許されないと。
(その葛城家という権威だか何だかわからないもモノの力で、賢ちゃんのお母さまが
振り回され、その圧力が友介先生を不幸にした。
それは間違いない。生徒に慕われる先生から、バカにされ軽蔑される中年教師へ。
恨むこともあったんじゃないかと思う。人間だもの。
それなのに、そんなことを全く意に介さず、葛城家直系のわたしに愛を告げてくれた。
なんて、なんて強い人なんだろう。
それなのに、わたしは…………自分の心はわかっているのに、ためらった。
葛城家の事なんて、気にしちゃダメなのに。
わたしは、わたし。自分の気持ちに正直に。友介さんのように )
「おじい様、申し訳ないんですけど、わたしこれで失礼させていただきます。
どうしても、行かなければならないことができてしまって」
「そうかい。それはきっと大事なことなんじゃな」
「はい、とっても」
「行ってきなさい。涼香には、わしから言っておこう。ぐたぐた言うからの」
「助かります。お願いします」
ぺこり、お辞儀をして小走りに、美奈子は、パーティー会場から抜け出して行った。
古いマンションの一室で、後背位で交わっている。
まるで不似合いな二人だが、少女の持ち上げた小ぶりな
お尻の間に、黒々と野太いペニスが出入りしてるのが見える。
ゴムのピンクとペニスの黒さが生々しい。
パン、パン、パンという腰のぶつかり合う音にまじって、
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅと、水音が大きく響く。
結合部からは、白いものが混じった愛液が溢れていることからも
少女が相当に感じていることがわかる。
本来、真っ白であろう肌が紅潮し、うっすらと汗ばんでいる。
その後ろから、フッフッフッと懸命に腰を振る中年男は、だらだらと汗を流し、
弛んだ腹を揺らしている。
ぐっちゅぐっちゅぐっちゅ、ぐっぽぐっぽ ピッチが上がってきたところで、男は覆いかぶさり、下に垂れて若干のボリュームは感じるが、本来は大きくなさそうな乳房を握り締める。
と、少女が顔を上げ、キスを求める表情になる。
メタボ中年は、遠慮なく唇を重ね、舌を絡ませ合う。やや下品に勢いよく、
ぴちゃぴちゃという音までたて、
ぐっちょぐっちょという接合音とシンフォニーを奏でる。
「友介さん……わたし……もぉ……」
「もう、何 ? 」
腰のスラストのピッチが更に上がる。じゅっ、じゅっ、じゅっ !
「あぁん、そういう……いぢめに……つきあって……られ……ない……のぉ……
一緒、一緒にぃ…… !!」
「よぉしっ ! 」
男の勢いが更に増し、ぐつちゅぐっちゅぐっちょ、ずぼっずぼっずぼっ !!
ひと際強く押し込み、ぐりぐりと腰が回った瞬間。
「あぁんっ ! あんっ、イク、イク、イっくぅ~~~っっっ、わたしイクのぉ !!」
「ボクも、で、出るよ ! 」
どぴゅっ、どぴっゅ、どくんどくんどくん…………
「ふぅっ」
ティッシュに白濁液が吐き出された。
画面上では、ごろりと横になった友介が、美奈子と、ちゅっちゅとキスを交わしている。
「はぁ~~~。これも何回観たかなぁ……」
その、画面と同じ古びたマンションの、こちらはリビングで4K画像に収録された
セックスシーンを観てオナニーするのが、友介の日課だ。
美奈子との約束通り、上条関連の動画・画像を消し、それ以外に自分のビデオカメラで
多数収録した映像も、消しにかかった……が、結局消しきれずに、こうした
コレクションが残った。
脅迫めいたシーンのある映像は、良心の呵責から削除したが、後半の一見すると
ラブラブなものは残した……
所詮は、美奈子への未練たらたらの友介だった。
「もう五月かぁ、美奈子は高校のことなんか、過去の事としてすっぱり忘れて、
大学生活をエンジョイしてるんだろーなー……
ボクも忘れないと……ハハ、こんなの毎日見てて、無理ムリ……」
G.W.に入ったが、特に予定もない友介は自室でゴロゴロし、暇があれば美奈子との
エッチシーンを観て、オナニーに耽るという、最低に非生産的な休みを過ごしていた……
そのG.W. 終盤の5月4日、葛城家では当主葛城勇作の、傘寿の祝いの会が開かれていた。
グループ傘下のホテルに、葛城家一族が一同に会するパーティーだ。
賑わうパーティー会場では、久しぶりの一族が揃うパーティーに、様々な再会があった。
これもその再会のひとコマ。
「賢ちゃん ! わあ、久しぶり」
「ミーナも、大きくなったね。っていうか綺麗になったね何年生?」
「一年生よ」
「え ? 高校一年 ?」
「もぅっ、大学一年に決まってるでしょ」
「え~ ! もう大学生なの ? 俺も歳を取るわけだ」
葛城賢一は美奈子の、はとこであり、こうした記念日や
新年・お盆など一族の集まる機会では、可愛がってもらった間柄だ。
年齢は10歳以上離れているが、幼少時は兄のように慕っていた。
「そんなことより、お隣にいらっしゃるのは、奥様でしょ。紹介してよ」
賢一は、美奈子に、隣にいる妻を紹介する
「妻の詠子だよ」
「はじめまして詠子です。今後とも、よろしくお願いします」
にっこりとお辞儀をする、メガネ美人だ。
「美奈子です ! 賢ちゃんをよろしくお願いします」
「わあ~、こんな美人の奥さん、賢ちゃんどこで知り合ったの ?」
「いやいや、高校の部活の先輩という腐れ縁」
「文芸部よ」
「えっ、聖愛学園の文芸部ですか?」
「そうだよ。詠子が部長で、俺が副部長だった。 」
「そうなんですか……もうないんですよねぇ、文芸部」
「あぁ、知ってる……」
「文芸部と言えば、ミーナ、オタ友先生、元気でいる ?」
「おた ? ……おだ先生とか、おおた先生という方は、今は学園にいらっしゃらないかな」
「だめよ、あなた。あだ名で呼んだりして。浜田先生よ」
「あっ、そうそう。あだ名以外で呼んだことなかったから。浜田先生か」
「えっ、浜田先生って、浜田友介先生ですか ? 」
「そうそう」
「………い、いらっしゃいますよ。 た、担任でした」
「そっか、お元気に勤務されてるならよかった。色々と迷惑かけたから」
「迷惑 ?」
「そうねぇ、こんな風に楽しくしてくれた恩人だし、キューピッドなのに」
詠子がスマホの写真を見せる。
「この写真は?」
「私たちの高校時代の運動会で出し物をやった記念写真を、スマホに入れてるの」
「楽しそうですね。青春って感じ」
「浜田先生も写ってるわ」
「…………もしかして、この端の ?」
「そうよ」
「えぇ~、若~い ! 全然違う~」
「あら、そうなの…… この頃は情熱的で人気者の青年教師よ ! 」
「いやいや、さすがに言いすぎ。ちょっとオタクっぽかったし。」
「それがよかったのだけれど、私には」
「だからオタクの友達先生で、友介とひっかけてオタ友先生って呼ばれて、愛されてたね」
「ファンタジー小説や、マンガやアニメの名作とかいっぱい紹介してくれて……」
「マンガの読書会なんてものを初めて体験して、高校は違うなぁと思ったよ」
「そうなんですね……あの、迷惑というのは ? 」
「運動会でオタク系アニメのダンスを、文芸部で踊ったら怒られちゃったのよ。
わたしがセンターで踊ったの」
「俺も参加して、うちの母親がPTA会長だったから、それでヒスってね。
そもそも学園内にオタクコンテンツを楽しめる環境にあることが、
教育に悪影響ガ―とか……
で、文芸部は活動停止で、先生も辛い状況に……」
「待って、それって賢ちゃんが踊ったとき ? じゃあ、わたし見たわ」
「ていうか、ミーナも乱入して一緒に踊ってくれたよね」
「あら、じゃあ、わたしたちもう会ってるのね」
「確かに。アハハ…」
「そう……踊りました……覚えてる ! あの日のこと……」
(そうよ。あの日、あのダンスがものすごく楽しくて、
こんな経験ができる聖愛学園に絶対入るって、あの日おじい様に宣言したんだわ。
おじい様も喜んでくれて……
その気持ちは、ずーっと変わらなかった。
小学校の先生から、陸上の強豪がたくさん誘ってくれてるのにもったいないと言われても、
絶対聖愛がいいって言ってたわ)
「でも、どうしてお母様は、ダンスくらいでそんなに怒られたんでしょうね」
「あーっ、そりゃあね。多分ミーナが嬉々として踊ってるのを見て、
うれしくなったじーさんが、母親に『賢一くんも、なかなかユニークな趣味を』
とか言ったらしいんだよ。
それをまた母は、バカだから、何か本家から嘲笑されたと思ったみたいで。
その後はPTA全体も巻き込んで大騒ぎ。図書室のラノベやアニメDVDは全撤去。
先生も、だいぶ絞られて、図書委員と文芸部の顧問をクビになっちゃって……
あの頃は、オタク趣味への風当たりは、今より強かったからねぇ……参ったよ」
「でもまあ、ダンスとその後の騒ぎのおかげで詠子とは接点が増えて、
大学に入って付き合いはじめたんだ」
「わあ、じゃあ結果的に先生がキューピッド?」
「まあね、ご迷惑をかけたけど、今も元気に奉職されてるならよかったよ」
「まさか、文芸部が今ないのは……」
「うん。公けには潰されたわけじゃないけど。俺は母の命令で即退部。
後輩たちは幽霊部員になって、そのまま自然消滅……だね、確か」
「 私は、三年生だったし」
「わたしの、せい……」
「いや、全然そんな。ミーナのせいなわけないよ。全部うちの母の被害妄想。
実際、じいさんは不思議がってたし。何を気にしてるんだ、楽しかったじゃないかと」
「あの……その写真、わたしにもいただいていいですか ? 」
「いいわよ、LIME ID教えて」
その後は、友介がどれだけ熱心にファンタジーやSF小説を図書委員や文芸部員に
紹介したかとか、
日本のポップカルチャーの象徴として、マンガがどれだけ大きな影響力を
持つか熱く語ってくれた事などを、詠子が話してくれた。
「おいおい、そんなにオタ友先生推さなくても……」
「だぁって、そのおかげで作家になれたし……ちょっぴり好きだったし……」
「うっ、またその話か……もう聞き飽きたよ」
「ちょっ、ちょっと待ってください。奥様、作家さんなんですか ? 」
「まあ一応、しがないファンタジー書き」
「ファンタジーで……詠子先生って……もしかして長門詠子先生 ? 」
「そうよ。本名陸奥詠子で、ペンネーム長門詠子って、ひねりもない名前で」
「 きゃーっっ !!」
「ちょっ、ミーナ声が大きい」
「ごめんなさい。でもでも、『妖精王伝説』大ファンなんです」
「ありがとう、こんなところでファンに会えてうれしいわ。
葛城家の皆さんには、まだカミングアウトしてないから、内緒にしてね」
「うちの母が、何言い出すかわかんないからね」
「そうなんですか。でも、長門先生、作家になったことを、ゆ…浜田先生には ?」
「いやぁ、照れくさくて伝えてないのよ」
「教え子がファンタジー小説家と聞いたら、喜びますよぉ……」
など、たくさんの話の末、夫婦は別なテーブルへと移って行った。
美奈子は、庭園のベンチに出て、送ってもらった写真を眺めた……
そこには、セーラー服っぽい服装とアニメ的なリボンをつけた詠子が、
満足気な笑みを浮かべ、隣のピースサインする賢一をはじめ、部員は皆、
やり遂げたというイキイキとした顔をして並んでいる。
端に立つ友介先生は、少し照れた、しかし誇らしげな表情で軽くガッツポーズをつけている。
確かに、オタクたちをまとめる情熱の青年教師という面持ちだ。
(こんな時代があったんだ……オタ友先生って言葉は蔑称じゃなくて、愛称なのね……
こんなに溶け込んで。
それが、どうしてキモ友先生に………………
まさか、まさか、この事件がきっかけでオタ友先生は、糾弾されて閑職に追いやられ……
友介さんはやる気をなくして……
情熱的な青年教師がうらぶれた中年教師、キモ友に……
そんな、それじゃあ、やっぱりこのダンス事件がきっかけで、
先生は変わってしまったの ? ……
その原因となったのは、葛城家……きっかけは、わたしのダンス乱入……
なのに、なのに葛城家への恨みごとなんて、友介さんは一言も言わなかったわ……
…………………いっ
会いたいっ……、友介さんに会いたい……会ってこの事について話したい……)
あの日、あの卒業式の夜。マンションの前まで、いやエントランスまで美奈子は
入った。しかし、それ以上進めなかった。
そこから進むことの未来について、理性で躊躇してしまったからだ。
24歳も年上の男性の胸に飛び込むことを、"葛城家"という重石が押しとどめた。
葛城本家のひとり娘という立場から、許されないと。
(その葛城家という権威だか何だかわからないもモノの力で、賢ちゃんのお母さまが
振り回され、その圧力が友介先生を不幸にした。
それは間違いない。生徒に慕われる先生から、バカにされ軽蔑される中年教師へ。
恨むこともあったんじゃないかと思う。人間だもの。
それなのに、そんなことを全く意に介さず、葛城家直系のわたしに愛を告げてくれた。
なんて、なんて強い人なんだろう。
それなのに、わたしは…………自分の心はわかっているのに、ためらった。
葛城家の事なんて、気にしちゃダメなのに。
わたしは、わたし。自分の気持ちに正直に。友介さんのように )
「おじい様、申し訳ないんですけど、わたしこれで失礼させていただきます。
どうしても、行かなければならないことができてしまって」
「そうかい。それはきっと大事なことなんじゃな」
「はい、とっても」
「行ってきなさい。涼香には、わしから言っておこう。ぐたぐた言うからの」
「助かります。お願いします」
ぺこり、お辞儀をして小走りに、美奈子は、パーティー会場から抜け出して行った。
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柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
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