美少女令嬢な元生徒会副会長を、キモオタな中年教師がNTRる話

小松 美堂

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第四章

卒業式

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バレンタイン後も、友介は淡々と教員生活を過ごし、

美奈子は、登校日以外も相変わらず、学校に通った。

但し、ポルトガル語教室にも通い始め、在校時間は短くなったが。



日本史の教材が完成した後は、図書館で本を読んだり、ポルトガル語の

予習をしたりで過ごしたが、それを旧文芸部室で行うこともあった。

それが、偶然の出会いを期待していないと言えば嘘になると、

本人は自覚していたが、幸か不幸かその偶然は実現しなかった。



正確には、一度だけまさに偶然実現したが、それかゆえ二度と起きることは

なくなった。



二月末のある日、友介が久しぶりに文芸部室に私物を取りに行くと、

そこにはヴィナースが午睡を取っていた。



あのソファーに、美奈子が横たわっていたのだ。



友介は、立ちすくみ見下ろすしかなかった……



天使の寝顔で、スゥスゥと寝息も聞こえるので、正しく眠っているようだ。

そのバラ色の頬と、軽く開いたピンクの唇。閉じた長いまつ毛を、暫し友介は

見つめた。上下する胸元には、何度も揉みしだいたちっぱいと、桜色のグミの

乳首が息づいている。

少し短くしたスカートの下は、珍しくストッキングに覆われて、またいつもと

違った魅力を醸し出していた。



(ゴクッ……黒ストッキングでのエッチは達成していないミッションだ……

もしや、襲ってくれってことかよ ! ならば…………



いやいやいや、眠っている生徒を教師が触れば、婦女暴行だ。

たとえ、二人の間に過去に何があろうとも。

調子に乗ってはいけない……



それにしても、なんで、こんなところにいるんだよぉ !

せっかく、諦め、忘れようとしているのに……)



もう少しだけ、ヴィーナスの寝姿を眺めた友介は、しまい込んであったタオルケットを

出して美奈子にそっとかぶせ、退出した。

後ろ髪をめちゃめちゃ引かれながら。

そして、卒業式迄は文芸部室には近づくまいと決めた。



暫くして目が覚めた美奈子は、すぐにタオルケットに気づいた。



(うたた寝しちっゃた。だらしないなぁ……最近、気が抜けて……

このタオルケット……友介さん……声をかけてくれれば………………

自分の心がよくわからない……)





こうして、偶然の邂逅は二度と起きないまま、

三月十日の卒業式を迎えた。





「ねえねえ美奈子、アキラくんと別れたって噂があるんだけど…… ?

そんなことないよね」



「本当よ」

「えぇっ !! 何それ、聞いてない ! 」

「だって、陽菜も含め、誰にも言ってないもの」

「そんなぁ……どうしてわかれたの ? 」



「………………フラレちっゃたの………」



「まさか、嘘でしょ。 美奈子を上条くんがフるなんて……ありえないわ

逆でしょ ? ホントは、美奈子がフったけど、彼の顔を立ててるとか……」

「…………わたしが、わるいのよ……」

「あたしが変なこと言ったから ? お正月に初詣に浜田先生と来てたって、

上条くんに言ってしまったの……」



「そのせいじゃないわ……いろいろあったの……もう、終わった話よ……

入りましょ。式が始まるわ」



卒業式では、卒業生代表として上条アキラが答辞を読み上げた。

遠目に見える髪が、茶色っぽくなっていたが、美奈子には興味のないことだった。



粛々と式は終わって、卒業生退場となり、体育館の外には、卒業生・在校生が

混じり合い、別れを惜しんだ。



「葛城副会長 ! 」

「あら、松田くん、久しぶり」

「ご無沙汰です。副会長、少しいいですか」

「もう副会長じゃないわ……少しなら」



松田は、体育館裏に向かった。

「今日、生徒会の送別会にいらっしゃらないと聞きました。

本当ですか ? 」

「ええ、用事があるのよ」

「これは、噂なのですが……上条会長と別れたからですか ? 」

「もぉ……みんなどこから聞いてくるのかしら……別に、それが理由じゃないわ」

「じゃあ、別れたというのは本当なんですね」

「ええ」



「来てくれないなんて、ショックです………………

だから、いま言います」





「葛城美奈子先輩 ! ずっと憧れてました。好きです。付き合ってください !!」



「フフ、もう卒業するわたしなんて追いかけなくても、校内にたくさん可愛い子いるじゃない」



「僕は、葛城先輩と付き合いたいんです !

中等部一年の頃から、アスリートの頃から、ずっとずっと好きなんです。

せっかく生徒会の一員になって、近づけたのに、上条会長と恋人同士と

聞いて落ち込みました。

それでも、ずっと好きでした。だから……」



「ありがとう。

松田くんの気持ちは、うれしいわ。

でも、おつきあいすることはできないわ。ごめんなさい」



「そんな……僕も必ずW大に入ります ! だから」



「当分、誰とも付き合うつもりはないのよ。ごめんね。 もう、行くわ」



「あっ………」



松田は、立ち尽くすだけだった……





美奈子は、一人の教師を探していた。

その目当ては、三年生の担任にも関わらず、誰も周囲におらず、

ひとり体育館脇に佇んでいた。



「浜田先生 ! 」

「か、葛城……」

あからさまに挙動不審になる友介。まさか、彼女から声をかけてくるとは

思っていなかったのだ。



「そ、卒業おめでとう」

俯いて呟く……



「先生 ! こちらを向いてください ! 」

ようやく友介は、大好きだった愛した美少女の顔を久しぶりに見た。



(うぉっ ! こんなに綺麗だったかな……美しさに磨きがかかってるんじゃないか。

ぱっちりした目も、吸い込まれそうな黒い瞳も、つややかな黒髪も、

そこにできる天使の輪も、バラ色の頬も、こぶりな鼻も、桜色の唇も、

ちっちゃなあごも、何もかも瑞々しい、美しい。)

茫然と見とれてしまった……



「センセイ ! 起きてますか ?」



ハッ、と我に返る。



「す、すまん……見惚れてた……」

そのまま正直に口に出てしまう。



「バッ……相変わらずバカ正直ね」

小さな声で、美奈子が呟く。



「先生、色々と本当にお世話になりました。

W大にも、無事入学手続きが終わっています。

ありがとうございました」



美奈子が、深々とお辞儀をする。

その華奢な肩から腰にかけての線が目に入り、また見惚れてしまう。



(あぁ、ボクはこの身体を…… 抱きしめたい)

思わず出かかった手を、必死の努力で下げる。



また、忘我の境地に入りそうなところで、美奈子のお辞儀が終わる。

「それでは、お世話になりました……失礼します」

会釈をして、美奈子が去って行く。



「あっ……」

立ち止まることもなく、彼女の姿が生徒たちの群れにまぎれて行った。



(これでおしまい。何を期待していたんだ。ボクは……

いつもの、毎年の、普通の卒業生の挨拶だ……)



(いいの、これで。先生、さようなら…………)







美奈子は、陽菜や明日香や、旧陸上競技部メンバーと別れを惜しんだ後、

呼ばれていた各種の集まり、打ち上げに参加することもなく、帰宅した。

上条アキラを見かけたが、声をかけることはなかった。



元副会長抜きで、新旧生徒会メンバーによる送別会は開かれていた。

生徒会の中心でキラキラ輝いていた美奈子不在で盛り上がらずに。



「なんで、美奈が来ていないんだ ? 」

「用事があって来られないそうです」

「えぇっ、普通来るだろ」



(謝ってやり直すなら、今日はチャンスだろ。なんで来ないんだ……

本当に終わりなのか ? クソっ )



「上条さんがいるからじゃないですか」

「なにぃ ! 」

「ちょっとやめなさいよ」

現生徒会長が、慌てて上条と松田の間に入って止める。





卒業式の夜、友介は早々に仕事を切り上げて帰宅した。

一昨日からの掃除の仕上げを行なうのだ。

荒れ果てていた室内は、ずいぶんマシになり、美奈子と一緒にやった時ほどではないが、

そこそこキレイになった。



あとは、美奈子の訪れを待つだけだ。



「来てくれないよな、絶対………

だけど、今日挨拶に来てくれたじゃないか……

ただのケジメだろ……

いや、でもこの前のバレンタインチョコは手作りだったし……

 文芸部室で寝てたのは、待ってたんじゃないのか……

今日のあれは、本当の別れの挨拶かもしれない……

あぁっ、もう……」



悶々と、万が一の可能性を期待して、七転八倒待ち続けた……





美奈子は、自宅で高坂家政婦の料理を温めて夕食を済ませた。

来週には、母が先行して帰国する。四月には、父も戻る予定だ。

今後とも、日本とブラジルの行ったり来たりだろうが、母は原則日本だ。

この数か月の様な、こうした独り暮らし生活は終わりを告げる。



風呂に入り、早めに床に就こうとしていた……

ベッドに潜り込み、眠ろうとして目を瞑っても、

なかなか寝付けない……



暫く後、やおら立ち上がり、着替えて、外に飛び出した。



夜中の街を、駆ける。



元アスリートらしい美しいフォームで



走る、走る。



近づくにつれ、思い出されるのは、友介との思い出



おうちデートで過去の名作アニメを楽しんだこと



友介の所蔵のラノベを読んで、新しいジャンルに目覚めたこと



映画館でボロボロ泣いてしまった友介の情けない顔



一緒にした大掃除



ストーキングの告白



大晦日の訪問に驚いた顔



そして、卒業式の夜に来て欲しいと言った必死な顔



走る



走る



走る。







ハァ、ハァ、ハァ……

古びたマンション前に着き、友介の部屋を見上げる。

まだ、明かりはついている。



「友介さん……本当に待っているの?  わたしを…………」
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