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第四章
それぞれの、その後
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友介の美奈子への想いはそう簡単に消えるものではなかったが、
そこはオトナなので、ある意味きっぱりと切り分け、灰色の教師生活に戻っていた。
とはいえ……
「はぁ~~っ ! 去年の秋までと同じはずなんだけど……
なんでこんなにつまらないんだ…… ?
やっぱりあれか……潤いがないからか。」
昨年の秋、葛城美奈子を脅迫する前でも、彼女のことは常に動静に気を配っていたし、
少しでも見かけたら心が和んだ。
それが、なくなったのはやはり大きい。
というのも、
もちろん、彼女は自由登校なのに毎日来ているらしいことは知っているが、
どうにも目を向けられないのだ。
あれほど好き放題したのだ。いつ告発されてもおかしくないし、
そもそも気後れする。
先週は、登校日に大学手続きで欠席していたが、今週はちゃんと来ていた。
ただ、不自然なまでに彼女の席のあたりに視線を向けられず、顔も見ていない……
当然、LIMEなどでのやり取りはない。できない。
他の、下級生女子でも潤いの対象にすれば、なんて考えにはとてもなれない。
美奈子以上、いや同等とか近しい存在すら、この学校には、いや日本中にいやしない。
明るくて可愛くて、可憐で恥ずかしがりで、それなのにエッチで、時に豹変して色っぽい。
そんな女の子とあれだけ素晴らしい経験をしたのだ。
自分が美奈子とシてみたいシチュエーションもあらかた実現させた。
これ以上、なにを望むというのか。
でも、もう彼女は側にはいない。
上条と楽しく過ごしているだろう。これからの大学生活もバラ色だ、きっと。
(ボクは、この二か月の経験と出来事を反芻して生きて行く。それでいい……
これからは、せいぜい清廉潔白にいくさ。)
そんな想いを抱いて過ごしていた二月のある日、中学入試関連のごたごたで
疲れ切った友介が、部屋に帰ると、いい匂いがする。
不審に感じて、
パチリと灯りをつけると、部屋がこざっぱりとキレイになっている。
慌てて入ると、ダイニングのテーブルの上に
綺麗なパッケージに包まれた何かと、書類、置き手紙があった。
「まさか、まさか……」
『先生、ご無沙汰です。
週一回同じ教室にはいますが、こちらを向かれないから、ご無沙汰です。
日本史の教材、依頼いただいていたものが出来上がりましたので、
お持ちしました。拙い内容ですが、ご査収ください。
ちょうどバレンタインなので、チョコです。
ほんの記しですので、どうぞ。
おすそ分けのビーフシチューが、お鍋に入っているから、
もしよろしければ、温めて食べてください。
お部屋があんまりだったので、勝手に掃除させてもらいました。
捨てたりしたものはないので、ご安心を。
せめて、一週間に一度はお掃除した方が、健康にもいいですよ。
それでは、寒いですが、お元気でお過ごしください。
美奈子 』
途中まで一緒に作っていた日本史教材を、あの後も美奈子は
コツコツと作って、完成させたのだ。
「み、美奈子ぉ~~~………………」
我慢していた想いが溢れ、友介は手紙を握りしめたまま、
ボロボロと涙を流した。
「ボクは、ボクは…………
こんな、こんなにも いい娘になんてことを……
ごめん、ごめんよぉ…… 」
美奈子は、友介宅を訪問した夜、お風呂に浸かりながら思いを
はせた。
(もう、帰って来て見てくれたかしら……教材の作成、途中で投げ出す
のも嫌だから、わかる限り最後まで作ったけど、あれでよかったのかな。
友介さんは、学校で絶対にわたしを避けているから、聞くことも
できないし……LIMEや電話するの……は、わたしがやだ……
なのに、
わざわざ14日に間に合うように頑張って作って、バカみたい。
チョコも、ビーフシチューまで用意したりして……
変な期待させたかなぁ……
でも、ダメ。
アキラくんにフラれたから、二度も断った友介さんに、なんて、そんな失礼な事。
わかってる……
それにしても、アキラくんも一方的に別れを告げて、それっきりね。
わたしが泣きついてくるとでも、思ってるのかな……
でも、ダメ。
絶対に傷ついた彼の心は、わたしを許せないと思う。
プライドの高い人だもの。
わたしも……事情を聞こうともしない彼への気持ちは、嘘みたいに消えちゃった……)
「いかがですか ? 」
「えっ、ええ。いいと思いますが、似合いますか ? 」
「よくお似合いで、カッコいいですよ」
「へへっ、ありがとう」
美容室を出たアキラは、久々のコンビニのバイトに向かった。
「ぁあっ ! 上条先輩 ! ご無沙汰です……って、茶髪になってるぅ !
どうしたんですか ? 」
「いや、気分転換と、青春を取り戻すため、かな」
「アッシュブラウンとか言うんですか、カッコいいですけど……先輩のイメージと違うよーな
それに、何を取り戻すんですか ? 」
「いや、ずっとバイトバイトだったからさ……青春とやらをね」
「へえ~っ。茶髪について彼女さんはなんて言ってるんですか ? 」
「彼女 ? いないよ」
「別れたんですか ? 」
「ああ……」
「ホントですか !? じゃあ、わたしにもチャンスありますか ? 」
「あるかもな」
「やたー !! アタックしますよぉ~ !!
最近、全然シフト入んないから、淋しかったんです」
(あれから、美奈子は何も言ってこないなぁ。
よく考えれば、キモ友を本当に好きになるはずはないから、
何かあるんだろう。
謝ってきたら、話しくらいは聞いてやるのに…………ちぇっ !)
そこはオトナなので、ある意味きっぱりと切り分け、灰色の教師生活に戻っていた。
とはいえ……
「はぁ~~っ ! 去年の秋までと同じはずなんだけど……
なんでこんなにつまらないんだ…… ?
やっぱりあれか……潤いがないからか。」
昨年の秋、葛城美奈子を脅迫する前でも、彼女のことは常に動静に気を配っていたし、
少しでも見かけたら心が和んだ。
それが、なくなったのはやはり大きい。
というのも、
もちろん、彼女は自由登校なのに毎日来ているらしいことは知っているが、
どうにも目を向けられないのだ。
あれほど好き放題したのだ。いつ告発されてもおかしくないし、
そもそも気後れする。
先週は、登校日に大学手続きで欠席していたが、今週はちゃんと来ていた。
ただ、不自然なまでに彼女の席のあたりに視線を向けられず、顔も見ていない……
当然、LIMEなどでのやり取りはない。できない。
他の、下級生女子でも潤いの対象にすれば、なんて考えにはとてもなれない。
美奈子以上、いや同等とか近しい存在すら、この学校には、いや日本中にいやしない。
明るくて可愛くて、可憐で恥ずかしがりで、それなのにエッチで、時に豹変して色っぽい。
そんな女の子とあれだけ素晴らしい経験をしたのだ。
自分が美奈子とシてみたいシチュエーションもあらかた実現させた。
これ以上、なにを望むというのか。
でも、もう彼女は側にはいない。
上条と楽しく過ごしているだろう。これからの大学生活もバラ色だ、きっと。
(ボクは、この二か月の経験と出来事を反芻して生きて行く。それでいい……
これからは、せいぜい清廉潔白にいくさ。)
そんな想いを抱いて過ごしていた二月のある日、中学入試関連のごたごたで
疲れ切った友介が、部屋に帰ると、いい匂いがする。
不審に感じて、
パチリと灯りをつけると、部屋がこざっぱりとキレイになっている。
慌てて入ると、ダイニングのテーブルの上に
綺麗なパッケージに包まれた何かと、書類、置き手紙があった。
「まさか、まさか……」
『先生、ご無沙汰です。
週一回同じ教室にはいますが、こちらを向かれないから、ご無沙汰です。
日本史の教材、依頼いただいていたものが出来上がりましたので、
お持ちしました。拙い内容ですが、ご査収ください。
ちょうどバレンタインなので、チョコです。
ほんの記しですので、どうぞ。
おすそ分けのビーフシチューが、お鍋に入っているから、
もしよろしければ、温めて食べてください。
お部屋があんまりだったので、勝手に掃除させてもらいました。
捨てたりしたものはないので、ご安心を。
せめて、一週間に一度はお掃除した方が、健康にもいいですよ。
それでは、寒いですが、お元気でお過ごしください。
美奈子 』
途中まで一緒に作っていた日本史教材を、あの後も美奈子は
コツコツと作って、完成させたのだ。
「み、美奈子ぉ~~~………………」
我慢していた想いが溢れ、友介は手紙を握りしめたまま、
ボロボロと涙を流した。
「ボクは、ボクは…………
こんな、こんなにも いい娘になんてことを……
ごめん、ごめんよぉ…… 」
美奈子は、友介宅を訪問した夜、お風呂に浸かりながら思いを
はせた。
(もう、帰って来て見てくれたかしら……教材の作成、途中で投げ出す
のも嫌だから、わかる限り最後まで作ったけど、あれでよかったのかな。
友介さんは、学校で絶対にわたしを避けているから、聞くことも
できないし……LIMEや電話するの……は、わたしがやだ……
なのに、
わざわざ14日に間に合うように頑張って作って、バカみたい。
チョコも、ビーフシチューまで用意したりして……
変な期待させたかなぁ……
でも、ダメ。
アキラくんにフラれたから、二度も断った友介さんに、なんて、そんな失礼な事。
わかってる……
それにしても、アキラくんも一方的に別れを告げて、それっきりね。
わたしが泣きついてくるとでも、思ってるのかな……
でも、ダメ。
絶対に傷ついた彼の心は、わたしを許せないと思う。
プライドの高い人だもの。
わたしも……事情を聞こうともしない彼への気持ちは、嘘みたいに消えちゃった……)
「いかがですか ? 」
「えっ、ええ。いいと思いますが、似合いますか ? 」
「よくお似合いで、カッコいいですよ」
「へへっ、ありがとう」
美容室を出たアキラは、久々のコンビニのバイトに向かった。
「ぁあっ ! 上条先輩 ! ご無沙汰です……って、茶髪になってるぅ !
どうしたんですか ? 」
「いや、気分転換と、青春を取り戻すため、かな」
「アッシュブラウンとか言うんですか、カッコいいですけど……先輩のイメージと違うよーな
それに、何を取り戻すんですか ? 」
「いや、ずっとバイトバイトだったからさ……青春とやらをね」
「へえ~っ。茶髪について彼女さんはなんて言ってるんですか ? 」
「彼女 ? いないよ」
「別れたんですか ? 」
「ああ……」
「ホントですか !? じゃあ、わたしにもチャンスありますか ? 」
「あるかもな」
「やたー !! アタックしますよぉ~ !!
最近、全然シフト入んないから、淋しかったんです」
(あれから、美奈子は何も言ってこないなぁ。
よく考えれば、キモ友を本当に好きになるはずはないから、
何かあるんだろう。
謝ってきたら、話しくらいは聞いてやるのに…………ちぇっ !)
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