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第二章
浜田友介 後編
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友介にとって、春は新年度に切り替わる新鮮な時期というのはわけではなく、
名簿登録の煩雑さがうっとおしい季節である。
特に平成の流行りであるキラキラネームと呼ばれる判読不能な名前の生徒が
増えて、セキュリティ担当だからということで押し付けられている
名簿管理は難儀な仕事だ。
ミスなく名簿登録が進むよう、毎年最も気を遣う時期だ。
学園の中学校入学式を控えて、ネットワーク上の名簿一覧を細かくチェックしていた。
特に入学式で読み上げられる生徒の氏名確認は重要だ。
そして、今年の新入生代表にふと目を止めた。
「葛城 美奈子」
忘れようとしても忘れられない、あの忌まわしいPTA会長と同じ苗字だ。
「この学園で葛城といえば...」
あの職員会議の後、さすがに同情してくれた一部教師が言うには、
葛城PTA会長は、この地域の名士である葛城の一族であった。
ただ、傍流で冷遇される立場であったとのこと。
そのため、息子の栄達に一族内での地位向上を託していようで、
教育に狂的に熱心で、息子のためにPTA活動にも懸命に取り組んで
会長の座を勝ち取ったらしい。
そして当日、来賓席には理事として葛城の当主が座っており、
「賢一くんも、なかなかユニークな趣味を持っているんだね」
と告げられて、逆上したらしい.....
彼は、踊る若者に本当に好感を持ったのか、上機嫌に語りかけたようだが、
葛城会長の方は、そうは受け取らなかったとのこと。
そんな、もはやどうでもよかった情報が、「葛城」と聞くと、
思い起こされ、昔の傷が疼くのは確かだ。
そして、ほんの興味本位で、個人情報管理担当の権限を使って
葛城美奈子のプロフィール情報を調べた。
どうやら葛城本家のひとり娘、つまりその当主の孫娘である事を確認した。
当主は現在も学園理事を務めている。
父親は、葛城グループの葛城建設の社長の様だ。
だからと言って、別にそれ以上彼女に興味は湧かなかった。
糾弾された事に対する激情は、もはやどこにもなかった。
葛城一族ではあるが、自分を追い込んだ元PTA会長の娘というわけでもないのだから。
しかし、
「新入生代表 答辞 葛城美奈子」
「はいっ ! 」
迎えた入学式で、
新入生代表として立つその姿を見た瞬間、異なる激情が友介を支配した。
ボソリと、思わず呟いた
「天使だ.....実在していたのか」
隣の男性教師が怪訝な顔をして友介をのぞき込んでも、気づく余地もなかった。
新入生席から、弾むようにに歩くその姿は、
躍動感に溢れ、まるでぴょんぴょんと飛んで来るように思えた。
生徒列から、演台に向かって来るその顔は、パッチリとした黒目がちな瞳で
吸い込まれるような魅力に満ち、艶やかな黒髪は、光沢を持ち
ショートボブの髪が揺れ動くと、光を振り撒くかのようだ。
身体は、まだ華奢で小学生から抜けきれない印象だが、
バネがありスカートから、チラチラとのぞく太ももが
まぶしい。健康的に日に焼けた肌も好ましい。
ひと目惚れであった。
別に友介はロリコンというわけではなく、これまで中学生、
それも小学校を卒業したばかりの一年生に魅力を感じることはなかった。
人並みに中学生時代に心惹かれる少女がおり、
ラブレターをしたためたこともある、古典的な詩集を参考にしながら。
本人にとってはロマンティックな内容のつもりで。
名前や、会って欲しいという希望も書き添えたが、
返事が来ることはなく無視された。
活発で、クラスの中心人物でもあった彼女が、昼休みの雑談の中で
「言葉遣いやセンスが合わない人とか、ちょっとね」
と会話していたのが耳に入り、遠回しに自分の事を揶揄されたのでは
ないかと感じて以来、自分から女性にアプローチすることは一切諦めた。
高校時代は勉強に打ち込み、大学でも女性と縁はなかった。
オタク仲間に女性はいたが、いわゆる二次元にのめりこんでいる子たちに
心が動くことはなかった。
実は、あのダンスで、文芸部部長陸奥詠子のやり遂げた後の潤んだ瞳には、
ドキッとなったが、騒ぎとなり何かが起きることはなかった。
もし、あのまま何事もなく過ぎていれば、そして卒業を迎えていれば、
という想いがよぎった瞬間はあったかもしれないが、
歳月に埋もれてしまった。
だからこそ、久々の胸の鼓動だった。
「可愛い、こんな子がいるなんて。でも、葛城家か……」
そう、忌まわしい思い出につながる葛城家の、しかも本家のひとり娘なのだ。
胸の高まりは、そう思うと一瞬のうちに萎んでしまった。
『柔らかく暖かな風に舞う桜とともに、私たちは、今日…』
葛城美奈子の答辞を聞きながら、
ときめきと絶望感を同時に味わうという稀有な体験を友介はしていた。
しかし、美奈子の顔と声を見つめるうちに、ときめきが大きく上回っていった。
そして、友介の行動は一変した。
表面上は、相変わらずの淡々とした仕事ぶりであったが、
自分の権限で閲覧できる限りの個人情報を収集し、
もはや時たま眺めるだけだった監視カメラチェックも定期的に行うようになった。
もちろん葛城美奈子の姿を追い求めて。
小学生陸上競技大会で、100mの全国準決勝に進んだことがあり、
さして強くない聖愛学園陸上競技部期待のホープ。
しかも、新入生代表を務めただけに、勉強も入試成績では1位だったようだ。
家族は葛城本家長女を母に持つ。父は、入り婿。
葛城グループの葛城建設の社長に今は就任しているが、もともとは総合商社に勤務。
そのため、実績を上げることにまい進していて、仕事熱心と有名なようだ。
最近は、商社時代にネットワークのあるブラジル進出を進めているらしい。
入学式以後、彼女は瞬く間に注目を集める存在となり、
学園のアイドル的存在へとなっていつた。
高校教員で、中学生と接点もない友介は、
唯一彼女を合法的に眺められる場としての陸上競技大会通いが恒例となった。
「なぜ浜田先生がこちらに? 陸上お好きなんですか?」
などと目立ってはたまらないので、変装し片隅で遠くに彼女の姿を探す日々だった。
美奈子の魅力的なユニフォーム姿を望遠レンズで撮影をしたかったが、
一度注意されたこともあり、
「女子陸上選手のきわどいシーンを撮っている変質者」
とか見られかねないので、それも自重。
ひたすら、その目に走る彼女の姿を焼き付けた。
アップの際にしなる身体。
スタート時のクラウチングスタイルに高くかかげる引き締まったお尻と、
張り詰めた太ももの筋肉。
走り出して、幼い胸の微かな揺れに目を凝らし、
トップでゴールした後に、同級生に向かって両手をあげて抱き着く際の、
両脇の窪みに視線を注ぐ。
汗で頬に絡みつく髪も見逃せない。
もちろん、歓喜の笑顔が一番だ。
その一瞬のために、友介はクルマを購入し、陸上競技場で
目立たない観戦ポイントに詳しくなった。
写真に残したい誘惑に、友介が耐えられたのは、
持っていたからだ
多数の美奈子の写真を。
監視カメラの静止画像のスクリーンショットが多数。
玄関先・廊下・教室・グラウンドなど様々なポイントに
映る美奈子の姿を丹念に見つけ出すのも日課になった。
残念ながら更衣室やトイレといった決定的映像が望める場所には、
カメラの設置許可がおりなかった。
それは、かえすがえすも残念だった。
こんなことなら、教頭と設置場所チェックをした際に、
せめて「防犯上」の観点から更衣室への設置を、
もっと強硬に勧めればばよかったと後悔した。
あの時は「出入口に設置すれば、不審な人物の入退室が確認できる」
という至極全うな教頭の意見に、ついスルーしてしまったのだ。
こんな思いを抱く日がくるとは露ほども思わず。
ただ、その更衣室出入口カメラは、実はこれはこれで威力抜群であつた。
おかげで、汗に濡れ、薄い陸上ユニフォームが身体に張り付いた
美奈子の画像が定期的に入手できる。
練習中に雨に降られ、完全に身体のラインが明瞭になった画像は友介の大好物だ。
もちろん、更衣室を出入りするわけだから、夏の水着姿もある。
プール前後の水着の使用前・使用後感を並べるのも楽しい。
水着チェックで、中学入学当初からしばらくはぺったんこだった美奈子の胸が
スローペースながらも成長している事が感じ取れた。
友介は、こうしたユニフォーム・水着姿の他、学校玄関先のショットなど、
定点ポイントを決めて画像をコレクションしていった。
陸上競技場通いと共に、大切な趣味となった。
一方で、カメラ映像をチェックしていると不愉快な映像にぶつかることもあった。
美奈子への告白シーンだ。
葛城一族のお姫様であり、学園中学ナンバーワンアイドルという
高嶺の花ながら、無謀にもアタックする男子が何人かいたのだ。
日常的に男子と一緒のシーンは、ほぼないだけに衝撃であったが、
ほとんどその場で頭を下げて断っていた(ように見えた)ため、何とか安心できた。
告白だけしてすぐ逃げ去る軟弱者も僅かにいたが、
そられは気にしなくてよいだろう。
もちろん、体育祭や文化祭などの各種イベントで男子と接触はしているようだったが、
一緒に下校するような姿は、少なくとも友介には観測できなかった。
こうして、彼女の成長を見つめる日々は時に彼氏ができるのではと
ハラハラすることはありながらも、
至福の時であり、それは仕事にも好影響をもたらした。
「何か、明るくなりましたね。いいことありました?(もしかして、彼女とかできたりして)」
「浜田くん、最近(珍しく)やる気が出てきたようだね」
いつしか浜田は、葛城美奈子が高校に上がってくる頃には、
学年副主任を任されることとなっていた。
美奈子に対して当初
「可愛いし、自分モノにしたい。でも、実物は難しいから、映像で代替だ」
という気持ちから接していたが、彼女の成長を見守る形になっていくうちに
「娘の成長を愛でる」様な気持ちが芽生えていった。
特に、陸上競技に打ち込む彼女の努力ぶりを日々知っているだけに、
競技会で記録が伸びていいくのは我がことのように嬉しかった。
中高一貫とはいえ教員配置は分かれ、友介が中学生に教えることはない。
高校への進級となると、それは彼女が身近な存在になること。
運が良ければ授業を受け持つこともあり得る。
会話をする機会もあるかもしれない。
そう、ここまで友介はまともに美奈子と会話したことがなかった。
精々、朝見かけた際に(できるだけさりげなく)「おはよう」と挨拶するくらいだ。
一度だけ、朝の持ち物検査で美奈子を受け持った際には、
動揺ぶりを出さないよう、ひと言も発することができず、
ぶっきらぼうに首を振って移動を促すことしかできなかった。
高校には、そうしたチャンスがある代わりに、
『卒業』という別れのカウントダウンが始まることにもなる。
「美奈子がいない教員生活」。
それは、もはや彼女を知る以前の日々を思い出せないくらい、
想像もつかない灰色の日々と思われる。
本当に、定年に向け老いていくのをただ待つだけの。
そして高校生となった美奈子は、益々その魅力はアップさせていた。
身長こそ小柄の部類なのは変わらないが、身体の各所は成長していた。
華奢ながら俊敏な印象はそのままに、女らしさが加わりしなやかさが増していた。
それらは、あまねく監視カメラ映像コレクションで確認できたが、
ナマで見かける機会が増えた。
映像には納まらない美奈子のキラキラとしたオーラと、
誰もが振り返らずにはいられないカリスマ性を再認識した。
そんな高校一年生を見守る時は、瞬く間に過ぎていった。
そして、一年生の三学期、寒風吹き荒ぶ二月の上旬に事故が起きた。
美奈子が筋肉断裂、いわゆる肉離れを起こしたのだ。
一年の夏から活躍していた美奈子は、秋の新人陸上競技大会で好記録を出し、
更なる飛躍を望まれていた。
しかし、冬を迎えると記録が伸び悩み、早朝・居残りと練習を日々重ねていた。
三月には校内陸上記録会があり、
それは四月に開かれる二年生の高校総体予選に直結する。
期待の高い美奈子だからこそ、校内記録会で復調ぶりを見せつけて、
周囲を安心させたかった。
そのために、日々の練習の気は抜けない。
それどころか、早出・居残り練習の激しさが増した。
友介は監視カメラチェックで当然把握していたが、
「よく頑張るなー」と見過ごしていた。
しかし、頑張り過ぎた。無理が祟った。
奇しくもバレンタインデーの2月14日、そんなことはどこ吹く風と練習に勤しみ、
一日の練習で疲れた身体で、更に居残り練習に入ったところで、
利き足の右足に筋肉断裂を起こした。
彼女が倒れたところを窓越しに見ていた友介は、
慌てて助けに向かったが、既に顧問教師に保健室に連れて行かれた後だった。
翌日、杖をついて通学する美奈子の姿があった。
職員室で聞いた限りでは、「中等症」とのことで
復帰には4週間程度かかるとのことだった。
校内記録会は、春休み直前の3月20日。間に合うか微妙な時期だ。
そして、校内記録会直前の三月の早朝、
復帰した美奈子は、ひとり練習に取り組んでいた。
旧文芸部室に朝から籠って、学年末試験の採点に追われる友介は、
同じく校舎の窓越しにそれを、見つめていた。
「美奈子ちゃん、頑張って欲しいけど、こんな寒い朝はやめた方がいい。
うん、やっぱり言おう ! 」
思い切って、そう言いに行こうとしたとき、
走り出した美奈子が急減速し、つんのめった。
友介は、思わず飛び出して行こうとしたが、
自分がただ行くよりはと、保健医や救急車への連絡を行なった。
程なく、救急車のサイレンが聞こえ、友介は車両の誘導に出向いた。
美奈子は、蹲り、痛みからか半分意識がないように見え、
華奢な体躯が、まるで小学生に見えるほどに丸まっていた。
右足筋肉断裂の再発と、左足アキレス腱断裂。
右足をかばった負荷で左足アキレス腱を痛めたのだ。
そのまま入院となった美奈子の姿がフィールドに戻ることは二度となかった。
再度の筋肉断裂で、選手としての活躍は望めないことからの断念と噂された。
友介の成長を見守る楽しみは消滅してしまった。
当然、彼女のいない陸上競技大会に向かうこともなくった。
2年生の新学期が始まった。
彼女は、上位ではあるがやや伸び悩んでいた学業成績に注力するようになり、
めきめきと頭角を現して、学年1,2位を争うまでになった。
争う相手は、上条アキラという生徒だ。
上条は、高校からの数少ない新入生枠を、ダントツのトップで通過した
学費免除の特待生でもあった。
家庭の貧しさゆえ、学費以外の学生生活の費用までも、ほぼ全て賄う
特等特待生を目指し、見事獲得していた。
その秀才と、美奈子はあっという間に対等なレベルとなったのだ。
友介は、この推移を(当然ながら)傍観しているだけだった。
美奈子の陸上ユニフォーム姿や、更衣室の行き来の姿をコレクションすることは
できなくなり、意気消沈していたのは間違いなかった。
そして、美奈子は突然生徒会長選挙に上条アキラ会長候補と供に副会長候補
として立候補、活発な選挙戦を繰り広げた。
聖愛学園においては、季節の風物詩として楽しむ風習があった。
その中で、上条・葛城ペアは話題の中心となり、ダントツの得票数で選挙を勝ち抜いた。
学園のアイドル的存在とイケメン特等特待生のカップリングであり、当然の結果だった。
二人は、相思相愛ではないかと噂されたが、トップスター同士のカップリングのためか、
それぞれのファンから妬みを買うこともなかった。
この後、友介は楽しそうに談笑する二人の姿を、各所で発見する羽目になった。
生徒会室にも、目立たないところに監視カメラがあり、そこでの光景でも、
二人がよいパートナーシップを結んでいることは確かであった。
ただ、友介が観察できる範囲では、二人が付き合ってるわけではない、
ように思えた。好意は抱いているかもしれないが、一定の距離間を保っていると……
希望的観測かもしれないと恐れながらも。
美奈子が高校に入ってからは、授業や学事にも力を入れていた友介は、
何と翌年には高校三年の担任クラスを持つことになった。
産休に入った教員の穴埋めの形ではあったが、
以前の無気力教員時代だったら、かなわなかった事態だ。
そして見事、葛城美奈子のクラスの担任を引き当てた。
担任としての友介は、しごく真面目に仕事をこなし、
全ての生徒の進路相談などに親身に対応した。
独身で数少ない趣味となっていた陸上競技会通いもなくなったため、
時間だけはあった。残業を厭わず対応したのだ。
美奈子との進路相談という至福の時間を滞りなく、一点の曇りもなく楽しむ、
もとい務めるために。
五月の三者面談では、葛城美奈子の母である葛城涼香とも顔を合わせ、
この美女の遺伝子が見事に受け継がれていることに感謝した。
そこで聞いた話によると、
涼香は、葛城家の長女だが、見聞を広めるためという名目の花嫁修業で、
大手商社に勤務し、そこで将来の夫となる良介と出会い社内結婚した。
結婚後、良介は葛城建設に移り将来の社長候補として帝王教育を受け、
涼香は美奈子を出産した。
葛城建設社長に昨年就任した良介は、古巣の商社とブラジルに
ジョイントベンチャーを設立し、新社長の一大プロジェクトとして取り組んでいる
真っ最中らしい。
いま、まさに正念場で、外国で慣れないブラジル料理に体調を崩しがちな
良介を支えるため、涼香もブラジル行きを決意したとのこと。
美奈子も、自分の受験時期にも関わらず、むしろ積極的に
母親のブラジル行きを勧めた。大好きな父親のために。
正直ひとり娘を残すことは心配ではあるが近くに自分の父親もおり、
最近決めたという話を担任教師として拝聴した。
二人の進学希望は、W大学の指定校推薦枠であった。
「美奈子さんの成績であれば、
いま確約ができるわけではありませんが、確度は高いでしょう」
「よかった」
美奈子の顔が花のように綻んだ。
(あぁ、この笑顔を見れただけでも、担任になった価値がある !
近くで見ると、こんなに可愛らしいんだ)
「それでは、この後はどういった手続きになりますか?」
涼香が早速畳みかける。
「ブラジル行きは、この秋から半年ほどを考えております。
できれば、それまでに確定をいただけると、
私どもとしては安心できるのですが」
「そうですね、学校長推薦の最終確定は11月末くらいになりますが、
10月には内定が出るのではないでしょうか」
「そうですか、それは助かります。ありがとうございます ! 」
「先生、よろしくお願い致します」
その後はクラスでの美奈子の様子や生徒会での活躍、成績の確認などで終了した。
(あと一年足らずで美奈子ちゃんは、卒業してしまうのか。
このまま送り出して、何年後かの同窓会に呼んでもらう事だけを
楽しみに俺は生きていかなきゃならないんだ。
いや、"キモ友"先生なんて呼ばなくていいと判断されるかもしれない)
友介は真面目に教師生活を送るようになったが、容姿が変化したわけでもなく、
相変わらず「キモ友」というあだ名で、生徒たちからの人気は皆無だった。
美奈子は真面目だから、顔には出さないが、自分をどう思っているかはわからない。
生徒の中には、三者面談だというのに、あからさまに嫌悪感や軽んじる姿勢を
垣間見せる者さえいるのだ。
三者面談がひと通り終わり、各生徒の進路希望が大枠出揃った。
友介注目のW大指定校推薦枠の希望者は多かったが、成績で言えば
葛城美奈子は2枠に十分入れることは明白だった。
そしてもう一人には上条アキラの名前があった。
「まあ、当然だな」
友介は、つまらなさそうに呟いた。
しかし、この組み合わせが、職員の進路分科会で議論となった。
「二つしかない指定校推薦の2枠を生徒会会長と副会長で
独占するというのは、どうでしょうか?」
突然学年主任が変な事を言い出した。
「どういうことですか?」
司会役の教頭が質問する。
「いや、W大の指定校推薦ともなれば、人気の的であることは
皆さん周知の事実です。
ただ、以前から、推薦枠獲得には学力以外のボランティアや
学事の協力度合いが吟味されているのではないか、という噂が
父兄の間で絶えません。
そこに"生徒会から二人で枠独占"となれば、
噂に確証を与えることになりかねません」
「場合によっては、今後推薦確保のために生徒会に立候補する、
などという者が現れないとも限りません。
この二人で確定は、避けた方がいいでしょう」
この発言に、友介は憤然と反論した。
「しかし、これまでもある程度ボランティア活動に熱心などの
実績が加味される事もあったと聞いています。
そんな噂に忖度して、生徒の希望を曲げるのはおかしいでしょう」
副担任は、譲らない
「お二人は美男美女ということで、校内で目立っているから、
影響は大きいです。私は、実際、面談で親御さんから聞かれることも
多いのです」
友介は呆気に取られ、更に反論した。
「なんですかそれ、容姿は関係ないでしょう純粋に学力で評価しましょうよ。
それに、仮に生徒会活動が有利、と考えられてもいいではないですか。
生徒会活動は多岐にわたり多忙で、学業にも影響しかねません。
それをこなしてかつ、トップクラスの成績を納めるという高いハードルを
クリアすることに、多くの生徒がトライするなら、それはそれで
よいではないですか」
普段、そんなに職員会議で発言するわけではない友介の熱弁に、主任がやや
押し黙ったところで、
教頭がひとつの提案を行った
「我々としては、噂云々ではなく優秀な生徒を推薦するのが責務なわけです。
ですが、主任のご意見も一理はあります。
W大の文系指定校推薦の希望は、
現在学年1位の葛城さん、2位の上条くんの他、3位の白坂さん、
5位の大久保くんも希望しています。
葛城さん・上条くんとはこれまでの評定平均で差がありますが、
二人が期末試験で急速な成績向上を見せるかもしれませんし、
その結果も考慮して、夏休み前にあらためて議論しましょう」
という、ことなかれ先送りで議論は持ち越しとなった。
(成り行きとはいえ、なんで美奈子ちゃんだけでなく、上条までフォロー
したんだろう。彼女と同じ大学……羨ましくも憎たらしい話なのに)
この会議を受け、友介は美奈子を進路指導室に呼んだ。
陸上をやめてから褐色の肌ではなくなり、生来の色白さが目立つようになった美奈子は
可愛らしさから、美しさに磨きがかかってきた。
夏服の白いブラウスとプリーツ姿がキュートで、半そでからのぞく
柔らかそうな二の腕と脇へのラインに目が吸い込まれそうになる。
「センセイ !」
自分を迎えても見つめるだけの友介に、美奈子の声が響く
「推薦のお話ですか?」
「そ、そうだ」
「決まったんでしょうか?」
美奈子がキラキラした笑顔を見せる。
その眩しさに目をそむけつつ
「そうではない。これは内密な話だ」
「内密?」
「まあ座れ。これは、本来、生徒に話すべきではないかもしれないが」
友介はもったいぶった。
そう、本来生徒に伝えるべきことではな、推薦審査経過の件だ。
しかも、所詮はテストの成績が一部加味されるというだけの。
主任の攻勢を教頭が一度冷やしたかっただけだ。
万が一、議論が白熱して、葛城美奈子の推薦をはずしたら、
有力な寄付主の葛城家の機嫌を損ねることになるという危惧があったはずだ。
友介は、単に揉めている事をネタに美奈子を呼び出して
二人の時間を過ごしたかったのだ。
「推薦枠で、ちょっともめている」
「えっ、それはどういう」
美奈子が突然の話に面食らう。
驚いた美奈子の瞳の大きさを友介は堪能する。
「ズバリ言おう。生徒会長の上条くんと進路について、話をしたことはあるか?」
友介としては、前振りのつもりの質問だった。
「えっ、アキラく、いっ、いえ上条会長とですか」
美奈子の顔が瞬時に朱に染まる。
耳まで真っ赤だ。
「会長とは、その…同じ大学に行けたらいいねと...ソノ」
か細い声で答える。
友介の顔は逆に蒼白になった。
まさかとは思った。考えないようにしようとしていた。
監視カメラで二人が会話している姿を見ても、
決定的なシーンはなかったし、会長と副会長の仲のよい同僚、
勉強ではライバル同士なのだと思っていた。
二人で連れ立って帰るシーンは何度も目撃した。
図書室のカメラは、二人が勉強している姿も映していた。
生徒会室で閉門ギリギリまで話していた。
あれは、生徒会活動の話だけをしていたのだろうか。
(ソンナコトハナイ)
とっくに気が付いていた。
二人が付き合っているかはどうかは不明ながらも、好感度がお互いに相当高いことは。
でもそれは、こんな形で知りたくなかった。せっかくの二人の時間に。
「そ、そうか」
真っ赤に俯く美奈子に、友介はやむなく声をかけて続きを話す。
「その、同じ大学に二人で行くというのが、マズイかもしれない」
「えっ?」
美奈子が顔をあげる。
「それ、どういう意味ですか?」
「うん、同じ大学の文系の指定校推薦枠を、生徒会で独占するというのがな」
「意味がわかりません。何がマズイんですか?」
「推薦枠を取るには、生徒会活動が近道なのかと邪推する者が現れるかもしれない、
と心配する人もいるんだ」
「そんな、そんな話ってないです。おかしいじゃないですか。
真面目に生徒会活動したことがマイナスになるなんて」
「でも、どうしても一人にしろと言うなら、上条会長に。私は一般入試でも」
「い、いやいや、まだどちらか一人という話になってるわけじゃないよ」
「とにかく、そういう雑音をシャットアウトするためにも、
期末テストを頑張って、文句を言わせない成績を取れという話さ」
「わかりました。頑張ります。上条会長にも伝えなくちゃ。」
「待ってくれ。これはあくまでも、私が個人的に伝えてしまっただけで、
おおっぴらにできる話じゃない」
「そうなんですか? でも、なぜ私だけ?」
友介は、ひやりとしながら
「自分のクラスの生徒のために、つい、な。よく考えたら結構マズイ。」
と、人の好い先生に見える様な態度を精一杯取り繕った。
「いえ、ありがとうございます。
じゃあ会長には、推薦決まるまでは気を抜けないから期末頑張ろうと言っておきます。
それなら、問題ないですよね?」
「ああ、いいだろう」
「センセイ、ありがとうございました。私の事心配してくれて」
勢いよく美奈子は立ち上がり、深々とお辞儀をした。
「ちょっと暴走気味だけど、担任として当然の仕事さ」
友介は、お辞儀で少し下がったブラウスから覗く胸元から
チラリと見えたブラジャーの端に目を奪われながら、心にもない事を言った。
「では、失礼します」
美奈子は去って行った。
(あぁ、そんなに不審に思われなくてよかった。
主任の話を材料に二人になれるとか、舞い上がって呼び出したはいいけど、
大した話ができるわけじゃなかったからな。
間近で可愛い顔が見られて、ブラちらの眼福まであってよかった)
そう独り言ちる友介だつたが、すぐに上条の話題で顔を真っ赤にする美奈子も思い出し、
あらためて絶望に沈んだ。
(そう、わかっていたことだ。二人の推薦が成立されるよう、反論して推したのも、
美奈子ちゃんの悲しむ顔を見たくなかったから…… それが、本人の口から明確に
なっただけさ……いいんだ。それで)
結局期末テストでは、文系クラスでは三位以下を大きく離して
同点1位を葛城美奈子と上条アキラが獲得し、9月には、推薦枠が内定した。
10月の再度の三者面談でそれを告げると、二人揃ってのキラキラした笑顔と
精一杯のお礼の言葉を残して、美奈子の母涼香はブラジルに旅立って行った。
このように、無事推薦枠の内定を得て、美奈子はアキラと共に、後継生徒会の
文化祭運営のサポートすることになる。
友介は、美奈子とアキラが楽しそうに活動しているのを複雑な思いは抱きつつ
横目に見ながらも、教師としての業務に勤しんでいた。
そして、文化祭最終日、後夜祭後にいつもの旧文芸部室で、映像チェックを行い
決定的な動画を発見してしまった。
生徒会室動画のチェックで、絡むふたりが美奈子とアキラだと確信した瞬間から、
友介にあまり記憶はない。
確かなのは
「これはマズイ !」
という衝動に突き動かされ、証拠隠滅を図ったこと。
なぜか動画を私物PCに残したことだ。
(さて、このダウンロード動画も消さないとな。そうすれば、一件落着だ)
そう思いながらも、なぜか友介は動画を再生しはじめた。
そして、唇を噛みしめながら、おもむろにキスシーンや、下着が映っている姿の
キャプチャーを取った。
「これも、ひとつの役得。コレクション。それだけだ……」
(美奈子ちゃんが、他の男のものになる……それは、彼女のしあわせだ。
それでいい、それでいいじゃないか…………くそっ !! どうして……)
友介は寒いクリスマスイブの夜のクルマの中で、
こうした過去の美奈子との交流を
走馬灯のように思い出しながら、マンションを監視し続けていた……
名簿登録の煩雑さがうっとおしい季節である。
特に平成の流行りであるキラキラネームと呼ばれる判読不能な名前の生徒が
増えて、セキュリティ担当だからということで押し付けられている
名簿管理は難儀な仕事だ。
ミスなく名簿登録が進むよう、毎年最も気を遣う時期だ。
学園の中学校入学式を控えて、ネットワーク上の名簿一覧を細かくチェックしていた。
特に入学式で読み上げられる生徒の氏名確認は重要だ。
そして、今年の新入生代表にふと目を止めた。
「葛城 美奈子」
忘れようとしても忘れられない、あの忌まわしいPTA会長と同じ苗字だ。
「この学園で葛城といえば...」
あの職員会議の後、さすがに同情してくれた一部教師が言うには、
葛城PTA会長は、この地域の名士である葛城の一族であった。
ただ、傍流で冷遇される立場であったとのこと。
そのため、息子の栄達に一族内での地位向上を託していようで、
教育に狂的に熱心で、息子のためにPTA活動にも懸命に取り組んで
会長の座を勝ち取ったらしい。
そして当日、来賓席には理事として葛城の当主が座っており、
「賢一くんも、なかなかユニークな趣味を持っているんだね」
と告げられて、逆上したらしい.....
彼は、踊る若者に本当に好感を持ったのか、上機嫌に語りかけたようだが、
葛城会長の方は、そうは受け取らなかったとのこと。
そんな、もはやどうでもよかった情報が、「葛城」と聞くと、
思い起こされ、昔の傷が疼くのは確かだ。
そして、ほんの興味本位で、個人情報管理担当の権限を使って
葛城美奈子のプロフィール情報を調べた。
どうやら葛城本家のひとり娘、つまりその当主の孫娘である事を確認した。
当主は現在も学園理事を務めている。
父親は、葛城グループの葛城建設の社長の様だ。
だからと言って、別にそれ以上彼女に興味は湧かなかった。
糾弾された事に対する激情は、もはやどこにもなかった。
葛城一族ではあるが、自分を追い込んだ元PTA会長の娘というわけでもないのだから。
しかし、
「新入生代表 答辞 葛城美奈子」
「はいっ ! 」
迎えた入学式で、
新入生代表として立つその姿を見た瞬間、異なる激情が友介を支配した。
ボソリと、思わず呟いた
「天使だ.....実在していたのか」
隣の男性教師が怪訝な顔をして友介をのぞき込んでも、気づく余地もなかった。
新入生席から、弾むようにに歩くその姿は、
躍動感に溢れ、まるでぴょんぴょんと飛んで来るように思えた。
生徒列から、演台に向かって来るその顔は、パッチリとした黒目がちな瞳で
吸い込まれるような魅力に満ち、艶やかな黒髪は、光沢を持ち
ショートボブの髪が揺れ動くと、光を振り撒くかのようだ。
身体は、まだ華奢で小学生から抜けきれない印象だが、
バネがありスカートから、チラチラとのぞく太ももが
まぶしい。健康的に日に焼けた肌も好ましい。
ひと目惚れであった。
別に友介はロリコンというわけではなく、これまで中学生、
それも小学校を卒業したばかりの一年生に魅力を感じることはなかった。
人並みに中学生時代に心惹かれる少女がおり、
ラブレターをしたためたこともある、古典的な詩集を参考にしながら。
本人にとってはロマンティックな内容のつもりで。
名前や、会って欲しいという希望も書き添えたが、
返事が来ることはなく無視された。
活発で、クラスの中心人物でもあった彼女が、昼休みの雑談の中で
「言葉遣いやセンスが合わない人とか、ちょっとね」
と会話していたのが耳に入り、遠回しに自分の事を揶揄されたのでは
ないかと感じて以来、自分から女性にアプローチすることは一切諦めた。
高校時代は勉強に打ち込み、大学でも女性と縁はなかった。
オタク仲間に女性はいたが、いわゆる二次元にのめりこんでいる子たちに
心が動くことはなかった。
実は、あのダンスで、文芸部部長陸奥詠子のやり遂げた後の潤んだ瞳には、
ドキッとなったが、騒ぎとなり何かが起きることはなかった。
もし、あのまま何事もなく過ぎていれば、そして卒業を迎えていれば、
という想いがよぎった瞬間はあったかもしれないが、
歳月に埋もれてしまった。
だからこそ、久々の胸の鼓動だった。
「可愛い、こんな子がいるなんて。でも、葛城家か……」
そう、忌まわしい思い出につながる葛城家の、しかも本家のひとり娘なのだ。
胸の高まりは、そう思うと一瞬のうちに萎んでしまった。
『柔らかく暖かな風に舞う桜とともに、私たちは、今日…』
葛城美奈子の答辞を聞きながら、
ときめきと絶望感を同時に味わうという稀有な体験を友介はしていた。
しかし、美奈子の顔と声を見つめるうちに、ときめきが大きく上回っていった。
そして、友介の行動は一変した。
表面上は、相変わらずの淡々とした仕事ぶりであったが、
自分の権限で閲覧できる限りの個人情報を収集し、
もはや時たま眺めるだけだった監視カメラチェックも定期的に行うようになった。
もちろん葛城美奈子の姿を追い求めて。
小学生陸上競技大会で、100mの全国準決勝に進んだことがあり、
さして強くない聖愛学園陸上競技部期待のホープ。
しかも、新入生代表を務めただけに、勉強も入試成績では1位だったようだ。
家族は葛城本家長女を母に持つ。父は、入り婿。
葛城グループの葛城建設の社長に今は就任しているが、もともとは総合商社に勤務。
そのため、実績を上げることにまい進していて、仕事熱心と有名なようだ。
最近は、商社時代にネットワークのあるブラジル進出を進めているらしい。
入学式以後、彼女は瞬く間に注目を集める存在となり、
学園のアイドル的存在へとなっていつた。
高校教員で、中学生と接点もない友介は、
唯一彼女を合法的に眺められる場としての陸上競技大会通いが恒例となった。
「なぜ浜田先生がこちらに? 陸上お好きなんですか?」
などと目立ってはたまらないので、変装し片隅で遠くに彼女の姿を探す日々だった。
美奈子の魅力的なユニフォーム姿を望遠レンズで撮影をしたかったが、
一度注意されたこともあり、
「女子陸上選手のきわどいシーンを撮っている変質者」
とか見られかねないので、それも自重。
ひたすら、その目に走る彼女の姿を焼き付けた。
アップの際にしなる身体。
スタート時のクラウチングスタイルに高くかかげる引き締まったお尻と、
張り詰めた太ももの筋肉。
走り出して、幼い胸の微かな揺れに目を凝らし、
トップでゴールした後に、同級生に向かって両手をあげて抱き着く際の、
両脇の窪みに視線を注ぐ。
汗で頬に絡みつく髪も見逃せない。
もちろん、歓喜の笑顔が一番だ。
その一瞬のために、友介はクルマを購入し、陸上競技場で
目立たない観戦ポイントに詳しくなった。
写真に残したい誘惑に、友介が耐えられたのは、
持っていたからだ
多数の美奈子の写真を。
監視カメラの静止画像のスクリーンショットが多数。
玄関先・廊下・教室・グラウンドなど様々なポイントに
映る美奈子の姿を丹念に見つけ出すのも日課になった。
残念ながら更衣室やトイレといった決定的映像が望める場所には、
カメラの設置許可がおりなかった。
それは、かえすがえすも残念だった。
こんなことなら、教頭と設置場所チェックをした際に、
せめて「防犯上」の観点から更衣室への設置を、
もっと強硬に勧めればばよかったと後悔した。
あの時は「出入口に設置すれば、不審な人物の入退室が確認できる」
という至極全うな教頭の意見に、ついスルーしてしまったのだ。
こんな思いを抱く日がくるとは露ほども思わず。
ただ、その更衣室出入口カメラは、実はこれはこれで威力抜群であつた。
おかげで、汗に濡れ、薄い陸上ユニフォームが身体に張り付いた
美奈子の画像が定期的に入手できる。
練習中に雨に降られ、完全に身体のラインが明瞭になった画像は友介の大好物だ。
もちろん、更衣室を出入りするわけだから、夏の水着姿もある。
プール前後の水着の使用前・使用後感を並べるのも楽しい。
水着チェックで、中学入学当初からしばらくはぺったんこだった美奈子の胸が
スローペースながらも成長している事が感じ取れた。
友介は、こうしたユニフォーム・水着姿の他、学校玄関先のショットなど、
定点ポイントを決めて画像をコレクションしていった。
陸上競技場通いと共に、大切な趣味となった。
一方で、カメラ映像をチェックしていると不愉快な映像にぶつかることもあった。
美奈子への告白シーンだ。
葛城一族のお姫様であり、学園中学ナンバーワンアイドルという
高嶺の花ながら、無謀にもアタックする男子が何人かいたのだ。
日常的に男子と一緒のシーンは、ほぼないだけに衝撃であったが、
ほとんどその場で頭を下げて断っていた(ように見えた)ため、何とか安心できた。
告白だけしてすぐ逃げ去る軟弱者も僅かにいたが、
そられは気にしなくてよいだろう。
もちろん、体育祭や文化祭などの各種イベントで男子と接触はしているようだったが、
一緒に下校するような姿は、少なくとも友介には観測できなかった。
こうして、彼女の成長を見つめる日々は時に彼氏ができるのではと
ハラハラすることはありながらも、
至福の時であり、それは仕事にも好影響をもたらした。
「何か、明るくなりましたね。いいことありました?(もしかして、彼女とかできたりして)」
「浜田くん、最近(珍しく)やる気が出てきたようだね」
いつしか浜田は、葛城美奈子が高校に上がってくる頃には、
学年副主任を任されることとなっていた。
美奈子に対して当初
「可愛いし、自分モノにしたい。でも、実物は難しいから、映像で代替だ」
という気持ちから接していたが、彼女の成長を見守る形になっていくうちに
「娘の成長を愛でる」様な気持ちが芽生えていった。
特に、陸上競技に打ち込む彼女の努力ぶりを日々知っているだけに、
競技会で記録が伸びていいくのは我がことのように嬉しかった。
中高一貫とはいえ教員配置は分かれ、友介が中学生に教えることはない。
高校への進級となると、それは彼女が身近な存在になること。
運が良ければ授業を受け持つこともあり得る。
会話をする機会もあるかもしれない。
そう、ここまで友介はまともに美奈子と会話したことがなかった。
精々、朝見かけた際に(できるだけさりげなく)「おはよう」と挨拶するくらいだ。
一度だけ、朝の持ち物検査で美奈子を受け持った際には、
動揺ぶりを出さないよう、ひと言も発することができず、
ぶっきらぼうに首を振って移動を促すことしかできなかった。
高校には、そうしたチャンスがある代わりに、
『卒業』という別れのカウントダウンが始まることにもなる。
「美奈子がいない教員生活」。
それは、もはや彼女を知る以前の日々を思い出せないくらい、
想像もつかない灰色の日々と思われる。
本当に、定年に向け老いていくのをただ待つだけの。
そして高校生となった美奈子は、益々その魅力はアップさせていた。
身長こそ小柄の部類なのは変わらないが、身体の各所は成長していた。
華奢ながら俊敏な印象はそのままに、女らしさが加わりしなやかさが増していた。
それらは、あまねく監視カメラ映像コレクションで確認できたが、
ナマで見かける機会が増えた。
映像には納まらない美奈子のキラキラとしたオーラと、
誰もが振り返らずにはいられないカリスマ性を再認識した。
そんな高校一年生を見守る時は、瞬く間に過ぎていった。
そして、一年生の三学期、寒風吹き荒ぶ二月の上旬に事故が起きた。
美奈子が筋肉断裂、いわゆる肉離れを起こしたのだ。
一年の夏から活躍していた美奈子は、秋の新人陸上競技大会で好記録を出し、
更なる飛躍を望まれていた。
しかし、冬を迎えると記録が伸び悩み、早朝・居残りと練習を日々重ねていた。
三月には校内陸上記録会があり、
それは四月に開かれる二年生の高校総体予選に直結する。
期待の高い美奈子だからこそ、校内記録会で復調ぶりを見せつけて、
周囲を安心させたかった。
そのために、日々の練習の気は抜けない。
それどころか、早出・居残り練習の激しさが増した。
友介は監視カメラチェックで当然把握していたが、
「よく頑張るなー」と見過ごしていた。
しかし、頑張り過ぎた。無理が祟った。
奇しくもバレンタインデーの2月14日、そんなことはどこ吹く風と練習に勤しみ、
一日の練習で疲れた身体で、更に居残り練習に入ったところで、
利き足の右足に筋肉断裂を起こした。
彼女が倒れたところを窓越しに見ていた友介は、
慌てて助けに向かったが、既に顧問教師に保健室に連れて行かれた後だった。
翌日、杖をついて通学する美奈子の姿があった。
職員室で聞いた限りでは、「中等症」とのことで
復帰には4週間程度かかるとのことだった。
校内記録会は、春休み直前の3月20日。間に合うか微妙な時期だ。
そして、校内記録会直前の三月の早朝、
復帰した美奈子は、ひとり練習に取り組んでいた。
旧文芸部室に朝から籠って、学年末試験の採点に追われる友介は、
同じく校舎の窓越しにそれを、見つめていた。
「美奈子ちゃん、頑張って欲しいけど、こんな寒い朝はやめた方がいい。
うん、やっぱり言おう ! 」
思い切って、そう言いに行こうとしたとき、
走り出した美奈子が急減速し、つんのめった。
友介は、思わず飛び出して行こうとしたが、
自分がただ行くよりはと、保健医や救急車への連絡を行なった。
程なく、救急車のサイレンが聞こえ、友介は車両の誘導に出向いた。
美奈子は、蹲り、痛みからか半分意識がないように見え、
華奢な体躯が、まるで小学生に見えるほどに丸まっていた。
右足筋肉断裂の再発と、左足アキレス腱断裂。
右足をかばった負荷で左足アキレス腱を痛めたのだ。
そのまま入院となった美奈子の姿がフィールドに戻ることは二度となかった。
再度の筋肉断裂で、選手としての活躍は望めないことからの断念と噂された。
友介の成長を見守る楽しみは消滅してしまった。
当然、彼女のいない陸上競技大会に向かうこともなくった。
2年生の新学期が始まった。
彼女は、上位ではあるがやや伸び悩んでいた学業成績に注力するようになり、
めきめきと頭角を現して、学年1,2位を争うまでになった。
争う相手は、上条アキラという生徒だ。
上条は、高校からの数少ない新入生枠を、ダントツのトップで通過した
学費免除の特待生でもあった。
家庭の貧しさゆえ、学費以外の学生生活の費用までも、ほぼ全て賄う
特等特待生を目指し、見事獲得していた。
その秀才と、美奈子はあっという間に対等なレベルとなったのだ。
友介は、この推移を(当然ながら)傍観しているだけだった。
美奈子の陸上ユニフォーム姿や、更衣室の行き来の姿をコレクションすることは
できなくなり、意気消沈していたのは間違いなかった。
そして、美奈子は突然生徒会長選挙に上条アキラ会長候補と供に副会長候補
として立候補、活発な選挙戦を繰り広げた。
聖愛学園においては、季節の風物詩として楽しむ風習があった。
その中で、上条・葛城ペアは話題の中心となり、ダントツの得票数で選挙を勝ち抜いた。
学園のアイドル的存在とイケメン特等特待生のカップリングであり、当然の結果だった。
二人は、相思相愛ではないかと噂されたが、トップスター同士のカップリングのためか、
それぞれのファンから妬みを買うこともなかった。
この後、友介は楽しそうに談笑する二人の姿を、各所で発見する羽目になった。
生徒会室にも、目立たないところに監視カメラがあり、そこでの光景でも、
二人がよいパートナーシップを結んでいることは確かであった。
ただ、友介が観察できる範囲では、二人が付き合ってるわけではない、
ように思えた。好意は抱いているかもしれないが、一定の距離間を保っていると……
希望的観測かもしれないと恐れながらも。
美奈子が高校に入ってからは、授業や学事にも力を入れていた友介は、
何と翌年には高校三年の担任クラスを持つことになった。
産休に入った教員の穴埋めの形ではあったが、
以前の無気力教員時代だったら、かなわなかった事態だ。
そして見事、葛城美奈子のクラスの担任を引き当てた。
担任としての友介は、しごく真面目に仕事をこなし、
全ての生徒の進路相談などに親身に対応した。
独身で数少ない趣味となっていた陸上競技会通いもなくなったため、
時間だけはあった。残業を厭わず対応したのだ。
美奈子との進路相談という至福の時間を滞りなく、一点の曇りもなく楽しむ、
もとい務めるために。
五月の三者面談では、葛城美奈子の母である葛城涼香とも顔を合わせ、
この美女の遺伝子が見事に受け継がれていることに感謝した。
そこで聞いた話によると、
涼香は、葛城家の長女だが、見聞を広めるためという名目の花嫁修業で、
大手商社に勤務し、そこで将来の夫となる良介と出会い社内結婚した。
結婚後、良介は葛城建設に移り将来の社長候補として帝王教育を受け、
涼香は美奈子を出産した。
葛城建設社長に昨年就任した良介は、古巣の商社とブラジルに
ジョイントベンチャーを設立し、新社長の一大プロジェクトとして取り組んでいる
真っ最中らしい。
いま、まさに正念場で、外国で慣れないブラジル料理に体調を崩しがちな
良介を支えるため、涼香もブラジル行きを決意したとのこと。
美奈子も、自分の受験時期にも関わらず、むしろ積極的に
母親のブラジル行きを勧めた。大好きな父親のために。
正直ひとり娘を残すことは心配ではあるが近くに自分の父親もおり、
最近決めたという話を担任教師として拝聴した。
二人の進学希望は、W大学の指定校推薦枠であった。
「美奈子さんの成績であれば、
いま確約ができるわけではありませんが、確度は高いでしょう」
「よかった」
美奈子の顔が花のように綻んだ。
(あぁ、この笑顔を見れただけでも、担任になった価値がある !
近くで見ると、こんなに可愛らしいんだ)
「それでは、この後はどういった手続きになりますか?」
涼香が早速畳みかける。
「ブラジル行きは、この秋から半年ほどを考えております。
できれば、それまでに確定をいただけると、
私どもとしては安心できるのですが」
「そうですね、学校長推薦の最終確定は11月末くらいになりますが、
10月には内定が出るのではないでしょうか」
「そうですか、それは助かります。ありがとうございます ! 」
「先生、よろしくお願い致します」
その後はクラスでの美奈子の様子や生徒会での活躍、成績の確認などで終了した。
(あと一年足らずで美奈子ちゃんは、卒業してしまうのか。
このまま送り出して、何年後かの同窓会に呼んでもらう事だけを
楽しみに俺は生きていかなきゃならないんだ。
いや、"キモ友"先生なんて呼ばなくていいと判断されるかもしれない)
友介は真面目に教師生活を送るようになったが、容姿が変化したわけでもなく、
相変わらず「キモ友」というあだ名で、生徒たちからの人気は皆無だった。
美奈子は真面目だから、顔には出さないが、自分をどう思っているかはわからない。
生徒の中には、三者面談だというのに、あからさまに嫌悪感や軽んじる姿勢を
垣間見せる者さえいるのだ。
三者面談がひと通り終わり、各生徒の進路希望が大枠出揃った。
友介注目のW大指定校推薦枠の希望者は多かったが、成績で言えば
葛城美奈子は2枠に十分入れることは明白だった。
そしてもう一人には上条アキラの名前があった。
「まあ、当然だな」
友介は、つまらなさそうに呟いた。
しかし、この組み合わせが、職員の進路分科会で議論となった。
「二つしかない指定校推薦の2枠を生徒会会長と副会長で
独占するというのは、どうでしょうか?」
突然学年主任が変な事を言い出した。
「どういうことですか?」
司会役の教頭が質問する。
「いや、W大の指定校推薦ともなれば、人気の的であることは
皆さん周知の事実です。
ただ、以前から、推薦枠獲得には学力以外のボランティアや
学事の協力度合いが吟味されているのではないか、という噂が
父兄の間で絶えません。
そこに"生徒会から二人で枠独占"となれば、
噂に確証を与えることになりかねません」
「場合によっては、今後推薦確保のために生徒会に立候補する、
などという者が現れないとも限りません。
この二人で確定は、避けた方がいいでしょう」
この発言に、友介は憤然と反論した。
「しかし、これまでもある程度ボランティア活動に熱心などの
実績が加味される事もあったと聞いています。
そんな噂に忖度して、生徒の希望を曲げるのはおかしいでしょう」
副担任は、譲らない
「お二人は美男美女ということで、校内で目立っているから、
影響は大きいです。私は、実際、面談で親御さんから聞かれることも
多いのです」
友介は呆気に取られ、更に反論した。
「なんですかそれ、容姿は関係ないでしょう純粋に学力で評価しましょうよ。
それに、仮に生徒会活動が有利、と考えられてもいいではないですか。
生徒会活動は多岐にわたり多忙で、学業にも影響しかねません。
それをこなしてかつ、トップクラスの成績を納めるという高いハードルを
クリアすることに、多くの生徒がトライするなら、それはそれで
よいではないですか」
普段、そんなに職員会議で発言するわけではない友介の熱弁に、主任がやや
押し黙ったところで、
教頭がひとつの提案を行った
「我々としては、噂云々ではなく優秀な生徒を推薦するのが責務なわけです。
ですが、主任のご意見も一理はあります。
W大の文系指定校推薦の希望は、
現在学年1位の葛城さん、2位の上条くんの他、3位の白坂さん、
5位の大久保くんも希望しています。
葛城さん・上条くんとはこれまでの評定平均で差がありますが、
二人が期末試験で急速な成績向上を見せるかもしれませんし、
その結果も考慮して、夏休み前にあらためて議論しましょう」
という、ことなかれ先送りで議論は持ち越しとなった。
(成り行きとはいえ、なんで美奈子ちゃんだけでなく、上条までフォロー
したんだろう。彼女と同じ大学……羨ましくも憎たらしい話なのに)
この会議を受け、友介は美奈子を進路指導室に呼んだ。
陸上をやめてから褐色の肌ではなくなり、生来の色白さが目立つようになった美奈子は
可愛らしさから、美しさに磨きがかかってきた。
夏服の白いブラウスとプリーツ姿がキュートで、半そでからのぞく
柔らかそうな二の腕と脇へのラインに目が吸い込まれそうになる。
「センセイ !」
自分を迎えても見つめるだけの友介に、美奈子の声が響く
「推薦のお話ですか?」
「そ、そうだ」
「決まったんでしょうか?」
美奈子がキラキラした笑顔を見せる。
その眩しさに目をそむけつつ
「そうではない。これは内密な話だ」
「内密?」
「まあ座れ。これは、本来、生徒に話すべきではないかもしれないが」
友介はもったいぶった。
そう、本来生徒に伝えるべきことではな、推薦審査経過の件だ。
しかも、所詮はテストの成績が一部加味されるというだけの。
主任の攻勢を教頭が一度冷やしたかっただけだ。
万が一、議論が白熱して、葛城美奈子の推薦をはずしたら、
有力な寄付主の葛城家の機嫌を損ねることになるという危惧があったはずだ。
友介は、単に揉めている事をネタに美奈子を呼び出して
二人の時間を過ごしたかったのだ。
「推薦枠で、ちょっともめている」
「えっ、それはどういう」
美奈子が突然の話に面食らう。
驚いた美奈子の瞳の大きさを友介は堪能する。
「ズバリ言おう。生徒会長の上条くんと進路について、話をしたことはあるか?」
友介としては、前振りのつもりの質問だった。
「えっ、アキラく、いっ、いえ上条会長とですか」
美奈子の顔が瞬時に朱に染まる。
耳まで真っ赤だ。
「会長とは、その…同じ大学に行けたらいいねと...ソノ」
か細い声で答える。
友介の顔は逆に蒼白になった。
まさかとは思った。考えないようにしようとしていた。
監視カメラで二人が会話している姿を見ても、
決定的なシーンはなかったし、会長と副会長の仲のよい同僚、
勉強ではライバル同士なのだと思っていた。
二人で連れ立って帰るシーンは何度も目撃した。
図書室のカメラは、二人が勉強している姿も映していた。
生徒会室で閉門ギリギリまで話していた。
あれは、生徒会活動の話だけをしていたのだろうか。
(ソンナコトハナイ)
とっくに気が付いていた。
二人が付き合っているかはどうかは不明ながらも、好感度がお互いに相当高いことは。
でもそれは、こんな形で知りたくなかった。せっかくの二人の時間に。
「そ、そうか」
真っ赤に俯く美奈子に、友介はやむなく声をかけて続きを話す。
「その、同じ大学に二人で行くというのが、マズイかもしれない」
「えっ?」
美奈子が顔をあげる。
「それ、どういう意味ですか?」
「うん、同じ大学の文系の指定校推薦枠を、生徒会で独占するというのがな」
「意味がわかりません。何がマズイんですか?」
「推薦枠を取るには、生徒会活動が近道なのかと邪推する者が現れるかもしれない、
と心配する人もいるんだ」
「そんな、そんな話ってないです。おかしいじゃないですか。
真面目に生徒会活動したことがマイナスになるなんて」
「でも、どうしても一人にしろと言うなら、上条会長に。私は一般入試でも」
「い、いやいや、まだどちらか一人という話になってるわけじゃないよ」
「とにかく、そういう雑音をシャットアウトするためにも、
期末テストを頑張って、文句を言わせない成績を取れという話さ」
「わかりました。頑張ります。上条会長にも伝えなくちゃ。」
「待ってくれ。これはあくまでも、私が個人的に伝えてしまっただけで、
おおっぴらにできる話じゃない」
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友介は、ひやりとしながら
「自分のクラスの生徒のために、つい、な。よく考えたら結構マズイ。」
と、人の好い先生に見える様な態度を精一杯取り繕った。
「いえ、ありがとうございます。
じゃあ会長には、推薦決まるまでは気を抜けないから期末頑張ろうと言っておきます。
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「ああ、いいだろう」
「センセイ、ありがとうございました。私の事心配してくれて」
勢いよく美奈子は立ち上がり、深々とお辞儀をした。
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友介は、お辞儀で少し下がったブラウスから覗く胸元から
チラリと見えたブラジャーの端に目を奪われながら、心にもない事を言った。
「では、失礼します」
美奈子は去って行った。
(あぁ、そんなに不審に思われなくてよかった。
主任の話を材料に二人になれるとか、舞い上がって呼び出したはいいけど、
大した話ができるわけじゃなかったからな。
間近で可愛い顔が見られて、ブラちらの眼福まであってよかった)
そう独り言ちる友介だつたが、すぐに上条の話題で顔を真っ赤にする美奈子も思い出し、
あらためて絶望に沈んだ。
(そう、わかっていたことだ。二人の推薦が成立されるよう、反論して推したのも、
美奈子ちゃんの悲しむ顔を見たくなかったから…… それが、本人の口から明確に
なっただけさ……いいんだ。それで)
結局期末テストでは、文系クラスでは三位以下を大きく離して
同点1位を葛城美奈子と上条アキラが獲得し、9月には、推薦枠が内定した。
10月の再度の三者面談でそれを告げると、二人揃ってのキラキラした笑顔と
精一杯のお礼の言葉を残して、美奈子の母涼香はブラジルに旅立って行った。
このように、無事推薦枠の内定を得て、美奈子はアキラと共に、後継生徒会の
文化祭運営のサポートすることになる。
友介は、美奈子とアキラが楽しそうに活動しているのを複雑な思いは抱きつつ
横目に見ながらも、教師としての業務に勤しんでいた。
そして、文化祭最終日、後夜祭後にいつもの旧文芸部室で、映像チェックを行い
決定的な動画を発見してしまった。
生徒会室動画のチェックで、絡むふたりが美奈子とアキラだと確信した瞬間から、
友介にあまり記憶はない。
確かなのは
「これはマズイ !」
という衝動に突き動かされ、証拠隠滅を図ったこと。
なぜか動画を私物PCに残したことだ。
(さて、このダウンロード動画も消さないとな。そうすれば、一件落着だ)
そう思いながらも、なぜか友介は動画を再生しはじめた。
そして、唇を噛みしめながら、おもむろにキスシーンや、下着が映っている姿の
キャプチャーを取った。
「これも、ひとつの役得。コレクション。それだけだ……」
(美奈子ちゃんが、他の男のものになる……それは、彼女のしあわせだ。
それでいい、それでいいじゃないか…………くそっ !! どうして……)
友介は寒いクリスマスイブの夜のクルマの中で、
こうした過去の美奈子との交流を
走馬灯のように思い出しながら、マンションを監視し続けていた……
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男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
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転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
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※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
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Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
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これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
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20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
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「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
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たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
男が少ない世界に転生して
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※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです!
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交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。
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