美少女令嬢な元生徒会副会長を、キモオタな中年教師がNTRる話

小松 美堂

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第一章

逡巡する想い

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「じゃあ、お別れのキスだよ」

急に、中年教師は美奈子のうなじと顎に手を添えて顔をのぞき込む。

ぶ厚い唇が迫って来る。



「ちっ、近い、近いです、先生。

 やめてください、キスなんて聞いてません」

「そりゃ言ってないからなぁ。でも、彼女ならキスくらい普通でしょ」

「とんでもない ! 絶対に嫌です、嫌 ! 」



美奈子は、顔をそむけ、教師の胸を何とか押し返そうと拒絶する。

(私の唇はアキラくんだけのもの。あのぽってりとした唇とキスなんて、絶対に考えられない)

「そうかぁ、そんなに嫌なんだ。うーん。

まあ僕は寛大な彼氏だからね、時には彼女のわがままを聞いてあげるよ。

これからのお楽しみにとっておこう」

この場では引いた友介だが、唇にキスしないと約束したわけではない。

「でもさ、唇でなきゃいいでしょ」

もちろん、唇以外も嫌に決まっているが、せっかく少なくとも今日は解放されそう流れを切らさないよう、美奈子は渋々承諾するしかなかった。

「はい……」

「じゃあ、今日はさようなら。また明日」

そう言いつつ、友介は美奈子のおデコにぶちゅっと唇を押し付けるキスをした。

そして、美奈子を解き放った。



「そ、それじゃ」

額にキスという紳士的な対応を少し意外に思いながらも、

美奈子は、脱兎のごとくドアに向かい、鍵をはずそうとノブに手をかけた。

「あっ、忘れ物だよ」

身一つで来て覚えのない投げかけに、美奈子が振り返ると、浜田先生が何か投げて寄越した。

鍵だ。



「それは、文芸部室のカギだよ。休部中だけど。

 明日からは、まず登校したら旧文芸部室に来てね。朝のデートをしよう。室内だけど。

 旧校舎の三階だから、間違えないようにね。

 僕は、毎朝そこでゆっくり授業の準備をしているんだ」

実際には、職員室や国語研究室といった他の教員が出入りする場所ではやりにくい、監視カメラの映像の確認や、キャプチャー画像の整理を行っている。監視カメラデータが保存されている校内イントラネットにアクセスするには、都合のよい場所なのだ。

「なんでそんな鍵持ってるかって? 僕はもともと文芸部の顧問だったからね、今は休部中だけど鍵は管理しているんだ。」

浜田先生は、なぜか少し投げやり気味に呟く。

そんな様子を気にも留めない美奈子だったが、

旧校舎、しかも現在は使われていない部室。そこに毎朝浜田先生と二人……

美奈子は、これからの暗澹とさせる未来が頭をよぎり、鍵を呆然と見つめるしかなかった。



「うん? どうした?

あぁ、僕がいなかったらどうするかって。毎朝8時には来るけど、そうだね8時半になって

来なければ朝のデートはなしでいいよ。

ミナちゃんは、遅刻ギリギリなんてないから大丈夫でしょ。

朝の登校チェックで見たことないもんね。

ボクは、風紀担当として、いつかミナちゃんの身体検査や持ち物チェックする日が来ないか、期待してたんだけど。

早い時間にやろうとしても、反対されてね」



(ダメだ、この男は)

美奈子は、またしても中年教師の自分へのストーキングを実感し、ゾクリとした。

(こんな男と、四か月間も……)

「失礼します」

美奈子は鍵を手に握りこんで、進路指導室のドアを開けた。

そして、キスで涎のついた額をハンカチできつく拭きながら、足早に教室に向かった。



「ふぅ」

美奈子が去り、友介はひと息ついた。

「いや、緊張したな~。でも、何とか付き合う事を承諾させたぞ!

これで、あの葛城美奈子が、ボクの、僕のカノジョなんだ!!」

友介は、万歳しながら、指導室のソファーで背を伸ばしした。

(それにしても、ミナちゃんの身体は想像以上にちっちゃくて柔らかかった。それでいて、太ももはやっばり引き締まっていて

 張りがあった。でもしっとりして、吸い付く感じ。もう、ずーっと抱きしめていたかったな。あぁ、でもこれから毎日できるんだ。フヘっ、それ以上のことも。

まずは、明日はどうしよう。おはよぅのハグして……」

友介は、偉そうな事を言った割には仕事もせずに、これから美奈子にどんな事をしようかと、あれこれ考え続けた。



美奈子は、教室に戻ってきた。

既に教室には誰もおらず、下校時間の18時も迫っている。

薄暗い教室からカバンを持ち出し、昇降口に向かう。

これまでなら、どんなに遅くなってもアキラと一緒に下校するのが常だった。

どちらかが用事があれば、図書室で勉強して待っていたのだ。

ここ最近は、新執行部が取り仕切る文化祭のサポートを、引継ぎの一環と称して、二人で手伝っていたが、それも終わり。

そして、アキラは推薦が決まったこともあり、アルバイトを始めた。今日も既にコンビニで働いているはずだ。

「はぁっ」

溜息をつきながら、美奈子は靴に履き替える。

「アキラくん……」

ポツリと呟きながら、家路を急いだ。



美奈子は誰もいない自宅に帰り着くと、すぐに熱いシャワーを浴びた。

そして道すがら考えていたことを繰り返した。



今日は、その場を逃れるためにああは言ったけど、浜田先生と付き合う?だなんて到底考えられない。今日、抱きすくめられて触られた事を思い出すだけで虫唾が走る。それに、なんとも言えないあの臭い。

あれは何だろう。タバコ?加齢臭?汗臭さ? 全部が入り混じったのか、とにかくクサい。耐えられない。



どうすればいいんだろう。

別に写真を他の教師に見られること自体は怖くない。私はアキラくんのことが好きだし、それを知られてもかまわない。キスシーンやスカートをまくり上げて触られているシーンは、正直恥ずかしいけれど、浜田先生と付き合う事と比べたら我慢できる。

推薦取り消しになっても、今から一般入試にトライするなら時間はあるし、頑張れる。

思い切って「どうぞ職員会議にかけください」と言おうか。



ただ、家族は、そうはいかない。おじい様は悲しむだろう。学園理事として、必ず耳に入る。

私を殊更に可愛がってくれているだけに、最近調子は良くないと聞くお身体にさわるかもしれない。

父と母も、私を信頼してひとり日本に残る事を許してくれただけに、失望は大きいだろう。母はおじい様と同様に悲しむだろう。母の性格だと、ブラジルに同行したせいだと自分自身を責めてしまいかねない。それも心配だ。

そして、父は怒り狂い、アキラくんを絶対に許さない気がする。まだアキラくんを合わせてもいないのに、印象は最悪だ。そして、私に対しても、自分が見ていられる手近なブラジルの大学への留学を、今度こそ決められてしまうかもしれない。もともと、私一人が日本に残る事を一番渋っていたのだ。



何より、私にとってはアキラくんの事が一番心配だ。

浜田先生の脅迫を、アキラくんには知られてはならない。

これを知ったら、正義感の強いアキラくんなら、「堂々と交際を認めて謝罪し推薦枠は辞退する」と言い出すだろう。

そして、二人で一般受験を頑張る事を提案してくるに違いない。

更に、返す刀で浜田先生の行動も平等に裁かれるべきだと糾弾もするはずだ。

それは、頼もしくもうれしい行動だ。それが、私にとっては一番いいし、何よりやましい事じゃない、好き合っているんだと胸も張れる。家族にも言い訳が立つ。



でも……それではダメなのだ。

(だって、それじゃあアキラくんのこれまで積み重ねてきた努力がボロボロになっちゃう。もしかしたら、大学進学を諦めて働くと言い出すかもしれない。

 アキラくんのことだから「暫く働いて、お金を貯めて、それから大学を目指すよ。人生は長いんだ」とか気休めを言うだろう。

 ダメよ、それは。それだけは。お父様が亡くなられてから、これまで彼が苦労して特待生、大学推薦と頑張ってきたことが、全部なくなっちゃう。病弱らしいお母様が、無理することになるかもしれない。彼の弟さん妹さんの進路まで変わっちゃう。

双子のサトルくんもクルミちゃんもまだ小学生で、お兄ちゃんが大好き。アキラくんも、こちらが嫉妬するくらい可愛がっていた。)



(それなら、私が、私だけが、たった四ヶ月我慢すれば、いい。

そうすれば

浜田先生は、嫌いなタイプだし、嫌で仕方ない。ただ、知らない人ではないし。乱暴なことはしない気もする。

でも、我慢できるかな……



あの日、後夜祭をそのままグラウンドで見物していればよかった。高校生活最後という感傷に駆られて、

新生徒会メンバーが多忙でいない隙に、誰もいない生徒会室から二人で見下ろしたいなんて言わなければよかった。

そうすれば、アキラくんが盛り上がってあそこまですることはなかったのに。

これまで、校内では絶対キスやハグはしないよう、気を付けていたのに。

たった一回だったのに。)



("付き合う"って、どこまでなんだろう。唇へのキスは今日は逃れられたけど、明日からはどうなるんだろう。

スキンシップとか曖昧な事言ってた。もし、もしもセックスを求められたら?

ダメ、それだけは。初めては、絶対アキラくんて決めてるから。この前クリスマスの約束もしたし。

その時は、その時は絶対拒否しよう。もう、アキラくんに正直に打ち明けよう。)



美奈子は、盛り上がってペッティング以上のことを求めてきたアキラをなだめるために、

「クリスマスに、私の家に来て」という約束をしたのだ。

その日に向けて覚悟も決めた。

それなのに……



シャワーをつけっ放しにしたまま、想いは堂々巡りして、悩んだ。



翌朝、美奈子はいつものように起床して学校に向かった。決意を秘めて。



昨夜、アキラとは普通にLIMEで会話し、浜田先生呼び出しの件は、推薦も決まったので、少し先生の仕事をサポートして欲しいと頼まれたと言い訳をしておいた。

アキラは、自分がバイトで放課後淋しくさせることを気に病んでいたから

「そういう体験もいいね。大学では研究室で教授の仕事をサポートすることもあると聞くよ」

などと、あっさり納得していた。

自分で嘘をついておきながらその能天気ぶりが、少しだけ残念だった。
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